21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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85.MARS~英傑の絆~ 熱帯編<1>

「お姉様ー! おはようございます!」

 

 実験区で超能力特性を検査してから明くる日、俺は朝からVRに接続していた。

 というのも、昨夜サナエが俺のSCホームまでやってきて一緒に遊ぼうとねだってきたので、時間も残り少ないため明日に改めようと、遊ぶ約束を先延ばしにしたからだった。

 サナエはそれをこころよく了承。そして、こうして朝から一緒にゲームをすることになったのだった。

 

 ちなみに、それを聞いたヒスイさんはというと……。

 

「製造番号が新しいので本来サナエの順番はまだ後ろなのですが……約束したのなら仕方がないですね」

 

 と、仕方がないというにはちょっと冷たい感じの声で言っていた。ミドリシリーズの序列とかあったりしたら怖いな。関わらんとこ。

 

「おはよう、サナエ。調子はどうだい?」

 

「良好です! 今日も実験区の人達のお世話を頑張りますよー」

 

「それはよかった。こっちに接続していても大丈夫かい?」

 

「そこはもう、優秀なミドリシリーズの最新式ですから、並行作業など朝飯前ってやつです。ヒスイみたいなロートルAIとは違いますよ!」

 

「そっかー。ちなみに録画中だから、あとで今の台詞もヒスイさんがチェックするぞ」

 

「ひえっ! い、いえ、ロットナンバー一桁台、何するものぞ……」

 

 サナエと一緒に遊ぶということで、今日ヒスイさんはVR空間に来ていない。リアルでイノウエさんとたわむれていることだろう。

 ただし、俺が遊んでいる様子は動画に撮って配信するとのことで、現在録画中だ。

 

「それでお姉様、今日はどんなことをして遊びますか?」

 

「そうだな。超能力特性も判ったし、『MARS』の対戦モードでもやろうかと思う」

 

「『MARS』ということは……私はオペレーター役ですね!」

 

「ああ、頼りにしているぞ」

 

「お任せください!」

 

 というわけで、本格的に撮影開始と行くか。

 

「みんなー。21世紀おじさん少女だよー。今日はゲストがいるぞ。ミドリシリーズの仲間、サナエに来てもらっている」

 

 録画で今閲覧している視聴者はいないが、後で動画になるので口上はしっかり述べておく。

 サナエに目配せすると、彼女も上手く乗ってきた。

 

「どうもみなさま初めまして。とは言っても『Space Colony of the Dead』のときにはエキストラに混ざっていましたが。ミドリシリーズのサナエです。ヨシムネお姉様の妹です!」

 

「俺がこの時代にやってきて、ガイノイドにソウルインストールされた後に製造された子だ。ヒスイさんが実験区から俺の世話役に抜擢されたので、代わりに実験区に新規配属されたってわけだな」

 

「そうですねー。お姉様と同じヨコハマ・アーコロジーに住んでいます。とは言っても、リアルでお目にかかったのは昨日が初めてですけど」

 

「昨日は実験区に、俺の超能力特性を調べに行ったんだ。せっかくだから数値を公開するぞ。これだー!」

 

 と、俺はヒスイさんに用意してもらっていた検査結果のデータ表示を行なった。

 

「いやあ、何度見てもふざけた時間適性ですね」

 

 数値を眺めて、サナエが楽しそうにそう言う。

 

「すごいらしいな。他にこれくらいの人いないのか?」

 

「いますよ。各地に時間停止の力を送る仕事をしている、一級市民の方ですね」

 

「そんな仕事があるんだ」

 

「主に食品の鮮度を保つために、食料庫家電に力を送っています。後は、食料の配送サービスの箱にも能力を使っていますねー。大活躍です」

 

「忙しそうな仕事だな」

 

「いえいえ、本人は忙しいわけではなく、能力を勝手に引き出す装置を身につけて生活なさっているだけですよ。テレポーテーション通信やテレパシー通信に使われる能力も、同じように引き出されています」

 

「600年後の未来に来たのに、文明の動力が人力に退化している……」

 

「こういった能力行使やソウルエネルギー抽出は、二級市民の方でもアルバイトとして行なえますから、よい副収入になっているらしいですよ。実質働くことなくこなせますしね!」

 

「なるほどなー。さて、そんな俺の超能力特性だが、調べた以上、ゲームに活用していこうと思う。始めるぞー」

 

 と、そこでいつもはヒスイさんがやっているゲームアイコンの可視化を俺が行ない、バスケットボールサイズになったアイコンを両手に抱える。

 SCホームの背景が消え、宇宙を背景にしたタイトル画面に変わった。

 

「『MARS~英傑の絆~』、熱帯やっていくぞー」

 

 俺がそう言うと、隣で宇宙を漂うサナエが不思議そうな顔をした。

 

「熱帯、ですか?」

 

「ネット対戦を略した21世紀のネットスラングだな」

 

「なるほどー」

 

 テレポーテーション通信とかあるから、この時代は熱帯での通信遅延とかもないんだろうなぁ。

 無線LAN環境に向かって怨嗟(えんさ)の声をあげる人とかもいないのだろう。

 

「それじゃあ、オンラインモードを選択っと」

 

 モードを選択すると、背景が宇宙から、どこかの格納庫のような場所に切り替わった。

 オンラインモードを利用するうえでの利用規約が表示されるが、即同意して次だ。

 

『パイロットを作成します』

 

 と、キャラメイクか。いつもの通り現実準拠、と。

 サナエの方を見ると、こちらも自分と同じ姿のオペレーターを作成しているようだ。

 

『プレイヤーの超能力特性を照会します。しばらくお待ちください』

 

「おっ、照会? 何をどうしているんだ?」

 

「えーと、市民データベースへのアクセスですね。計測した超能力特性を引っ張ってきて、ゲームに支障がある超能力強度だった場合、リミッターをかけたりするそうですよ」

 

「ゲームに支障か。どんなの?」

 

「テレパシー強度が高くて、ゲームに関係ない相手パイロットの思考を読み取ってしまうとかですね。お姉様の場合ですと、過去視の能力で対戦相手の過去を覗けたりしてしまいます。そういったことを規制するのです」

 

 なるほどなー。

 まあ、俺は今回、未来視以外の時間系超能力を使うつもりはないが。自分の時間を加速させて擬似的な高速思考をするのは、まだ慣れていないしな。高速で飛来する実弾を見極めて時間停止させるとかは、さすがに無理だし。

 

『照会が終了しました。時間特性に一部リミッターがかかります』

 

「やっぱり規制されましたねー」

 

「ま、しゃーなし。一対一の対戦じゃ過去視もそんな役立たないだろうから、問題なしだ」

 

 そして次に、プレイヤーのニックネームの入力を求められたので、ヨシムネとしておく。名前の重複チェックはないようだ。まあ、ニックネームとは別にプレイヤーIDがあるみたいだし、個人識別はIDでやるんだろう。

 さて、次はパイロットスーツの選択か。

 リアルの戦場じゃないからか、いろんな服が揃っているな。課金アイテムが並ぶクレジットショップもある。ただし、パイロットの性能が上がる類の服はないようだ。

 

「サナエ、どんな服がいいと思う?」

 

「私が決めていいんですか?」

 

「いつもは大体ヒスイさんが決めているしな」

 

「それじゃあー、お姉様っぽいので!」

 

「どういうのだ……」

 

 俺っぽいってことか? それとも姉っぽいってことか?

 

「黒のセーラー服です! それで、お姉様が『タイが曲がっていてよ』とか言うんです!」

 

「そのお姉様かよ! ミドリシリーズに21世紀ネタを振られるとは思っていなかったぞ……」

 

 厳密に言うと、セーラー服の色は黒じゃなかった気がするけど、カラーエディットできるだろうか。

 とりあえず俺達はクレジットショップから長袖のセーラー服を買い、色を調整してそれっぽい見た目になった。

 

「こうコスプレするとなると、銀髪が違和感あるな。配信者としてのアイデンティティーだから変えないけど」

 

「お姉様、素敵です!」

 

 サナエも同じセーラー服にして、髪型を短いツインテールにしている。ううむ、茶髪だからそれっぽいな。

 とりあえず、パイロットとオペレーターの設定はこれでよしと。

 

『機体設定に移ります』

 

 一体のマーズマシーナリーが、運搬車輌に牽引されて格納庫へ運ばれてくる。

 ふむ、ベースの機体はベニキキョウか。

 

『ペクニア、またはクレジットを使ってパーツを購入し、機体をカスタマイズできます』

 

 そんな案内音声が流れる。ペクニア?

 

「オンラインモードで対戦やミッションをすることで手に入る、ゲーム内通貨ですね。こつこつ貯めてこつこつ強くなりましょうってことです!」

 

「初期値だからあんまりパーツを買えそうにないな。クレジットで買うか」

 

「そんなに散財していいんですか……?」

 

「一級市民だから、毎月すごい額が貯まっていくんだよ。とても使い切れん」

 

 わざわざ自分の遺体を研究機関に献体してまで手に入れた市民階級だから、もらえる物は全てもらっておくがな。

 

「まず、機体のコンセプトを決めよう。アセンブルってやつだな」

 

「お姉様の超能力特性に合った構成がいいでしょうね」

 

「未来視か。回避重視ってことだから、ガチタンは無しだな」

 

 ガチタンとは、ガチガチに装甲を固めたタンクの略で、とにかく装甲を厚くし、火力を高め、機動力を投げ捨てる構成のことだ。耐えて耐えて反撃で重い一撃を入れる。そんな機体だ。

 未来視を有効活用するには、その逆、軽量で高機動がよいだろう。「当たらなければどうということはない」というやつだ。

 

「それと、先日お姉様の配信を見ていたのですが、お姉様射撃が苦手ですよね?」

 

「苦手じゃないぞ。これでも『-TOUMA-』で和弓はそれなりに練習してだな……」

 

「苦手ですよね?」

 

「……そうだね」

 

 いや、偏差射撃とかは銃でもできるようになったんだよ。しかし、『-TOUMA-』でもずっと一人で戦っていたからフレンドリーファイヤしてしまうのと、ちまちま撃っていると近づきたくなるのとでだな……。

 

「近接武器メインがいいでしょうねー。オーソドックスにブレードですか?」

 

「ブレオンか? 軽量化には確かにいいが」

 

 ブレオンとは、ブレードオンリーの略で、武器に刀剣(ブレード)の類しか持たない構成のことだ。

 

「高機動逃げ撃ちタイプに当たったら一方的に狙われるので、高威力のライフルも持ちましょうよ。未来視で遠距離からびしっと命中させるんです。そうしたら、相手はあまり距離を取りたがらなくなるはずです」

 

「お、いいね」

 

「あとは高機動を実現させるためにも、核融合炉は大きめのを積んでブースターをたくさんつけて――」

 

「直線移動だけ速くなっても重くなっては細かい回避が――」

 

 と、その後も三十分ほどかけてコンセプトを語り合い、そしてさらに三十分かけてパーツを購入して機体を組んでいった。

 そして、格納庫に新たな機体ができあがった。

 カラーリングは髪の毛の色に合わせてシルバーで、ミドリシリーズということでアクセントに緑色を差し入れている。

 

「機体名は、そうだな……サナエ、色の和名一覧みたいなのを出せるか?」

 

「おっ、色の名前をつけるニホンタナカインダストリ風の命名ですか? はい、一覧です」

 

「銀色系の名前は――銀灰色(ぎんかいしょく)なんて格好いいのがあるな。よし、こいつはギンカイだ」

 

『機体の設定が終了しました。オンラインモードをお楽しみください』

 

 そんな音声が流れると、目の前にメニュー画面が開く。

 シングル対戦モード、チーム対戦モード、ミッション、プラクティスモード、ロビー、などいくつかの項目がある。

 対戦モードとミッション、練習(プラクティス)モードは想像がつくが、ロビーとはなんだろうか。

 

「ロビーは、プレイヤー同士の交流の場ですね。ここでフレンドを作って、チーム対戦モードのチームを組んだり、オペレーターをやりたがっている高度有機AIをスカウトしたりするそうです」

 

「そっか。とりあえず今回はロビーに行く必要は無いかなー」

 

「もし行くなら、配信専用のチャンネルがありますので、そこを選ぶ必要がありますね。あ、配信に映ることを了承している人のみ対戦でマッチングするよう、オプション変更しておきます!」

 

 サナエの設定を待ち、俺は早速、シングル対戦モードを始めていくことにした。

 練習なしのぶっつけ本番。どこまで行けるか楽しみだ!

 

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