21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
対戦の前に、機体バランスがおかしくないか確認するためにプラクティスモードを起動する。
約二ヶ月ぶりとなるマーズマシーナリーの操縦だ。
「これは……操作感が前と違う!」
『当然ですよー。機体はベニキキョウではないですし、サンダーバード博士とお姉様では、機体を動かすために必要なサイコキネシス適性も違いますから』
「……うーん、でも特に機体バランスがおかしな感じはしないな。よし、あとは実戦で慣れろ、だ!」
俺は適当に練習用の標的をなぎ倒すと、プラクティスモードを終了した。
「さて、対戦だ。相手の強さはどんなものかな」
シングル対戦モードのランクマッチを選ぶと、格納庫で機体に乗り込むことになり、コックピットの中で対戦相手とマッチングされるのを待つことになる。
とはいっても、すぐにマッチングが終わり、ステージ等が決定されていく。対戦相手のニックネームは、『ホビロン』だ。
こういうネット対戦では、レートやランクといった制度があり、同じ力量の者同士でマッチングするよう作られている。今、俺は初期段階のランク:ビギナー1である。
『ビギナー1とは言っても、ストーリーモードをクリアしてきた相手でしょうから、お姉様と腕はさほど変わらないかと。いえ、むしろ一周目のアルフレッド・サンダーバード編しかクリアしていないお姉様は、かなり不利でしょうか』
「あー、一周目クリアしてから触ってなかったからな」
そう通信越しにサナエと話していると、対戦の準備が全て整い、試合開始のカウントが始まった。
さて、どこまでいけるかな。今までのVRゲームでの経験は、ほとんどが役に立たないはずだ。自分の肉体を動かすのとはわけがちがう。なにせ、ロボットを操縦するわけだからな。
『レディ……ゴー!』
開始を知らせるシステム音声が鳴り、俺は、スラスターを噴かし敵機に近づいていく。
今回のステージは惑星マルスの荒野。重力があり遮蔽物のない、初心者向けのステージだ。
敵機は、ベニキキョウとほぼ変わらない見た目の機体。カラーリングだけは青に変えているようだ。
まあ、ビギナー1ならゲーム内通貨が少なくてカスタムもそれほどできないか。いきなりクレジットを投入してフルカスタムしている俺が例外なのだ。
『お姉様、敵機が銃を構えました。二丁のマシンガンです。弾幕注意!』
「うお、うおお!」
俺は敵に直進していた機動を変え、上方向に大きく回避した。
『お姉様落ち着いて! 未来視で軌道確認です!』
「んなこと言われたって弾幕厚くて……ぬおおおお!」
とにかく大きく回避を続ける。機体性能のおかげで被弾はしていないが、敵はしっかり偏差射撃をしているようで、機体スレスレを赤い弾丸がかすめていく。
「くっ、これがストーリーモードを乗り越えた猛者か」
ビギナー1でもこれだけ隙がないとか、めげそうになるぞ。
『敵のマシンガンはパイロキネシスを使った高熱弾のようです。サイコバリアを耐熱性能に切り替えてください』
「了解!」
核融合炉のエネルギー弾じゃなくてパイロキネシスを使っているなら、逃げに徹すれば機体のソウルエネルギー切れも狙えるかもしれない。だが、それは面白くない。こちらもライフルで反撃するか?
俺はスラスターを噴かして荒野を駆けながら、機体の左腕にマウントしたライフルを構える。
まずは牽制用に備え付けていた頭部エネルギーバルカンを発射して緊急回避をうながす。
敵の数秒後の位置を視て……スラスターで緊急回避をし終わった位置を狙い、ここだ!
『惜しい! 外れました。回避後の隙を狙うのはよかったのですが、エイムが微妙でしたね』
「ま、未来が見えるって言っても、俺の今の腕で正確に撃ち抜けるかというと、そうでもないわけだな」
自動照準を外して偏差射撃をするから、純粋に射撃の腕が求められる。
そして、偏差射撃を補助してくれるような高度な電子機器は、マーズマシーナリーには載せられない。戦場に散布されたナノマシンが電子機器を狂わせるって設定があるからな。
さらに、自分の手に持った銃を撃つのではなく、機体が持つライフルを撃っているわけだから、今までプレイしたガンシューティングゲームの感覚も通用しない。ストーリーモードの弱い敵NPCと違って、相手は常に複雑な動きを続けているしな。
『要するにクソエイムってやつですね!』
「この妹、辛辣!」
エイムとは、ゲーム用語で『相手に弾を命中させる能力』を指す。つまり今、俺はサナエに「ド下手くそ」と言われたわけだ。
まあ仕方ない。ストーリーモード一周目のカカシどもしか撃ってきていないわけだし。それに、ストーリーモードのベニキキョウでは、ブレードとエレクトロキネシスを多用して、銃はあまり使っていなかったからな。
俺は、スラスターを噴かしながら敵弾を回避し、そしてライフルを反撃に撃っていく。
『ライフルは核融合炉に直結していますから、射撃の瞬間はスラスターの性能が下がることにご注意ください』
「高速移動中は撃たないから問題なし!」
移動しながら命中させる熟練の突撃スナイパーみたいなまねは、俺にはできん!
だが、敵位置を未来視で見ているうちに、だんだんと敵の弾丸も未来視で余裕を持って避けることができるようになってきた。
「よし、近づくぞ」
『まあ、それが一番よいでしょうね。でも、気をつけてください。相手は二丁マシンガンの他にも、右腕にパイルバンカーをマウントしています』
「ビギナー機なのにずいぶんピーキーなの載せてるな!?」
とにかく、突撃だ。直線移動ではなく、ジグザグとした動きで相手に近づく。こういう動きができるよう、サナエと一緒に頭を悩ませてパーツを組んだのだ。
俺の超能力適性は、未来視の時間適性だけでなく、空間適性もそれなりに高い。これは空間把握能力にも直結し、未来視で〝視た〟最適ルートへ、正確に機体を動かしていくことが可能となっている。
かわして、かわして、かわして、そして懐へと飛び込んだ。
俺は、機体右手のブレードを振りかぶって、無防備な相手機体へと斬りつけようとする。
しかし――
「!? 腕が動かん!」
振り下ろしたブレードが途中で止まり、俺は敵前で逆に無防備な姿を晒す。
そこに、相手の右腕が添えられて……。
『ゲームセット!』
パイルバンカーが直撃し、対戦終了のシステム音声が流れる。
そして視界が暗転し、俺は機体ごと格納庫に戻されていた。目の前に、対戦成績が載った空間投影画面が表示される。
「ううーん、なんだったんだあれは」
コックピットの中で、俺はそう独りごちた。そこに、サナエが答えを告げてくる。
『サイコキネシスですね。腕の動きを止めたんです。あれは、なかなかの超能力強度ですよ!』
「パイロキネシス使いじゃなかったのか……やられたなぁ。サイコキネシスは透明な力だから、未来視じゃ観測できん」
『お姉様自身の未来も視ておくべきでしたね。そうすれば、腕が途中で止まる様子も見えたはずです』
「そんな未来が見えたからって、とっさにどう動けばいいかなんて判断つかないだろうけどな……」
『そこは、慣れでしょうね。たくさん対戦するしかありません!』
そうだよなー。結局は場数だよな。
と、反省会をしているところで、聞き覚えのない効果音が突如流れた。
『あっ、お姉様。対戦相手からメッセージが届いたようですよ』
「ん、どれどれ……」
メニューからメッセージを見ると、そこには『gg』と短くつづられていた。たった二文字のメッセージだ。
「ははっ、サナエ、俺からも『gg』って返しておいてくれ」
『はい、お姉様、グッドゲームでしたよ!』
ggとは、good gameを略したゲーム用語で、対戦ゲーム終了後に勝ち負けに関係なく健闘をたたえ合う言葉だ。この言葉が、宇宙3世紀の未来にも残っているとは。
俺は思わぬ言葉との出会いに楽しくなってきて、テンションを上げたまま次の対戦を始めるのであった。
◆◇◆◇◆
対戦を重ねること2時間ばかり。勝率は8割となかなか高く、俺はビギナー5までランクを上げていた。ビギナー10まで行ってさらに勝ちを重ねれば、アマチュア1にランクが昇格するようになっている。
対戦のたびに相手からはよい試合だったという旨のメッセージが届き、俺も接戦や負け試合では『gg』、圧勝したときは『対戦ありがとうございました』と返し続けていた。『gg』って圧勝した側が使うと、皮肉に取られそうなんだよね。俺が繊細なだけか?
「おっ、このメッセージは……」
対戦相手から、ちょっと長めのメッセージが届いたぞ。むむむ。
と、どうやら相手は俺の配信視聴者で、俺が配信者のヨシムネかどうかを尋ねるメッセージだったようだ。『もしかして21世紀おじさん少女のヨシちゃんですか?』という文から始まる、俺への思いをつづった文章だ。
俺は少し考え、『グッドゲームでした。この対戦は配信するかもしれないのでご了承ください。これからも21世紀おじさん少女をよろしく!』と返信しておく。
「長文が来たから、一瞬、暴言メッセージの類が来たのかと思ったぞ」
俺がそう言うと、通信越しにサナエが呆れたような声で返してきた。俺の現在位置は格納庫に置かれた機体のコックピットである。
『暴言なんて書く人がいるわけないじゃないですか。お姉様、オンラインモードを立ち上げた時に表示された利用規約、ちゃんと読んでいませんね?』
「俺、ゲームの利用規約の類は読まない主義なんだ」
いや、主義ってほどじゃないけど、面倒くさい。
『結構、大事なこと書いてありますから読みましょうね……。ゲーム内のメッセージは常にAIが監視していて、他者への暴言やハラスメント行為が確認された場合、ゲームアカウントの一定期間停止や、ゲームアカウント剥奪等の処分もありえますよ』
「ひえー、垢BANは勘弁。……しかし、そうなるとお行儀いいなこのゲームは。21世紀のコンシューマー機の熱帯だと、暴言メールがよくネットで晒されていたぞ。俺自身は、そういうのにお目にかかったことはないけど」
『無法地帯で暴言が横行するゲームも存在するみたいですけれど、そういうのはお姉様の配信に相応しくないですね』
「あまりはっちゃけるのもなぁ……」
と、サナエとのんびり言葉を交わしていたところで、新たなメッセージが届いた効果音が鳴る。
先ほどのメッセージのさらなる返信のようだ。
「どれどれ……また長いな。内容はまっとうなファンメールと……ん? 『閣下にヨシちゃんがいることをお知らせしました。勝手な宣伝お許しください』とあるな」
『え、閣下ですか』
「うん? 何か知っているのか?」
と、そこでさらなるメッセージが届く。差出人は……『ウィリアム・グリーンウッド』? 知らない人だ。
中身は……。
『はじめまして。ゲーム配信者のグリーンウッドです。ただいまライブ配信中なのですが、シングル対戦のプライベートマッチをしませんか? 早めのお返事をお待ちしています』
礼儀正しい文面だ。自動翻訳される前の使用言語は……英語か。
「プライベートマッチってなんだ?」
そう疑問に思ったことをサナエに聞いてみると、すぐさま答えが返ってきた。
『ランクに関わらず特定の個人と戦える対戦方式みたいですねー。相手のIDを知っていれば行なえます。メッセージが届いたと言うことは、向こうもこちらのIDを知っているようなので、戦えますよ。しかし、閣下ですかー』
「閣下って誰?」
悪魔のミュージシャンか何かか?
『元ブリタニア教国の公爵様で、太陽系統一戦争当時から生きていらっしゃる、マーズマシーナリーフリークの方です。元ブリタニア教国宇宙軍中将ということから、閣下の名で親しまれている有名配信者ですね』
「おお、有名配信者! 名前を売るチャンスじゃねえの。よし、返信だ」
メッセージの返信機能でぽちぽちと。よし。
書いた内容はというと。
『申し訳ありませんが、これからお昼ご飯なので遠慮しておきます。また機会があればお誘いください』
以上だ。
「じゃあ、昼飯の時間なので、午前のゲームタイムは以上で終了だ!」
『い、いいんですかねー。閣下のお誘いを蹴っちゃって』
「飯に遅れるとヒスイさんが、すねるかもしれん!」
『まあ、お姉様がそれでよいのなら、私はこれ以上何も言いませんが』
「おう。そうだ、サナエもオペレーターばかりするのはあれだし、午後は一緒にパズルゲームで遊ぼうか」
『うーん、この、とことん閣下とはご縁がなさそうな感じ。あ、いえ、嬉しいです!』
そうして俺はゲームを終了し、SCホームから退出しリアルへと戻ってきた。
ソウルコネクトチェアのある遊戯室ではヒスイさんが待ち構えていて、俺の意識が戻るとすぐに「昼食にしましょう」と言葉を投げかけてきた。
俺はナノマシン洗浄で手を洗い、食卓につく。
自動調理器で作った料理をヒスイさんが食卓に並べていき、そしてイノウエさんにも餌をやったヒスイさんの着席と共に、昼食が開始された。
「ヨシムネ様、配信について少しお話が」
「うん? どうかした?」
あらたまって、なんだろうか。俺は箸を一旦置き、ヒスイさんの方を向いた。
「実は、他の配信者の方からゲスト出演のお誘いが来ています。ウィリアム・グリーンウッド様という有名な配信者なのですが……」
「マジかよ、諦めてなかったのか!」
「? ヨシムネ様、グリーンウッド卿と何か関わりが?」
「ああ、実はな……」
俺はヒスイさんに、同名の人物からプライベートマッチのお誘いがあったが、断ったことを説明した。
「昼食を理由に拒否ですか……またお誘いくださいと言った以上、ゲスト出演のお話は受けた方がよさそうですが」
「うん、まあ、いいんじゃないか。段取りとか判らないけど」
「そこは助手の私にお任せください」
というわけで、配信者ヨシムネ、初めてよその配信に参加します。