21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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87.グリーンウッド家

 ゲスト出演を了承する旨を閣下に返信したところ、すぐさまさらなる返信が返ってきた。

 配信の打ち合わせをしたいので、朝9時から早速SCホームに来てほしいとのことだ。

 

「打ち合わせ、打ち合わせかー。台本とか作るのかな。俺、今まで配信でそんな代物、用意したことないぞ」

 

 来た返信に、そんな感想を俺は持った。

 

「全体の流れをあらかじめ決めておいた方が、スムーズな進行になるでしょうからね」

 

 ごもっともなことをヒスイさんが言ってくる。

 

「まあ、明日の朝になってからだな。今日はこのままサナエと一緒にゲームだ」

 

「ああ、朝とは言っても、指定されている時刻は明日ではなく、本日の朝9時ですね。ブリタニア国区のアーコロジーに在住だそうなので、ニホン国区とは8時間の時差があります。あちらの朝9時はこちらの17時です」

 

 あー、そういえば、時差なんて概念があったな。宇宙暦に入って宇宙に人類が進出したこの時代でも、惑星テラでは標準時による現地時間が使われているのである。

 

「となると、サナエと遊び終わった後に打ち合わせだな。ん? 8時間差ということは、向こうは今、朝の4時で、そんな時間にライブ配信していたってことか」

 

「グリーンウッド卿は一級市民ですから、普段、日中は仕事をしているのかもしれません。今回は日中の打ち合わせですが」

 

「兼業配信者なのか」

 

「ブリタニア国区のウェンブリー・アーコロジーにある、巨大なアミューズメントパークを経営していらっしゃいます。自然と一体化したアミューズメントパークで、アーコロジーの外へと観光するのと比べて、はるかに安値で惑星テラの自然と触れあえるのが特長です」

 

「経営者かー。そういえば、一級市民は研究者と経営者が多いって前、誰かに聞いたな」

 

 実際には研究者と経営者の仕事も、AIがやってしまえるんだろうけどな。

 

 その後、俺はサナエと遊んで午後を過ごし、打ち合わせの時間を迎えた。

 ヒスイさんに案内を任せてグリーンウッド氏のSCホームへと接続する。何気に、他人のSCホーム初来訪だ。チャンプの超電脳空手道場はSCホームじゃないからな。

 

 接続が終わると、西洋風の大きな屋敷が目の前に建っていた。

 

「うわー、いかにも伝統ある貴族の屋敷って感じ」

 

「SCホームの説明文によると、かつてブリタニア教国に存在したグリーンウッド家の屋敷を再現した建物だそうです」

 

「公爵家ってすごいなぁ。24世紀に貴族制度があったというのも驚きだが」

 

 屋敷の建物の前に出現したため、俺達はすでに柵で囲まれた敷地の中に入っていた。そして、ここから見える前庭の低木は見事に剪定されていて、管理された自然の美しさを演出している。

 そうやって振り返り前庭を眺めていると、背後から扉の開く音が聞こえてきた。

 俺は慌てて屋敷へと向き直る。

 

「ようこそいらっしゃいましたー。閣下のもとへとご案内しますねー」

 

 な、なに……! メイドだと!?

 なんとそこに居たのは、クラシカルなメイド服に身を包んだ褐色肌のガイノイドだった。

 これはおそらく、俺がヒスイさんにさせられるような、なんちゃってコスプレメイドじゃないぞ!

 

 ちなみに今日の俺の格好は、和ゴスである。外国の人と会うとあって、ヒスイさんが和風でと言いだしたのだ。和風ならゴシック要素をなぜ入れる。

 

 俺達はメイドさんに案内されて屋敷の中へと入り、エントランスホールへ。

 すると、そこには耳にアンテナをつけてメイド服を着たガイノイドの集団が列を成していて、一斉にこちらに向けて「いらっしゃいませ」と告げてきた。

 うおお、メイドさんの群れ! これまさか全員、高度有機AIか!?

 

「ふふふ、驚いたかの?」

 

 俺が本場イギリスのメイドさん集団を見た感動に打ち震えていると、年若い声でそんな言葉が投げかけられた。

 エントランスホールに、スタイリッシュな女児服を着た、十歳ほどの金髪少女がゆっくりと歩いて入ってきた。その後ろには、執事服らしき服装に身を包んだ壮年の男性がついてきている。今度は執事だと……!

 俺がさらに驚いていると、少女が続けて口を開く。

 

「ようこそ、グリーンウッド家へ。21世紀の日本人はメイドが好きと聞き及んでおったので、こうして一同を集めて歓迎させてもらった。私は、この家の家主、ウィリアム・グリーンウッドなのじゃ。よろしくお願いする」

 

「の、のじゃロリだと……!」

 

 彼女が閣下だって? 元公爵家の当主と聞いて想像していた人物と、全然イメージが違う!

 すると、少女は面白おかしそうに表情を崩して言った。

 

「ふふふ、のじゃロリか。私の格式あるクイーンズ・イングリッシュは、日本語ネイティブにはそういった風に訳されて聞こえるのじゃな。確かに、私が生身でいたころの古い喋り方じゃが」

 

「あ、いや。これは失礼」

 

 配信慣れしすぎて、思わず声に出してしまった。

 

「よいよい。それに、そなたもなかなか古風で雅な言葉遣いよの」

 

「あー、そういえば俺の日本語、この時代の人には古めかしく聞こえるんだっけ」

 

 自動翻訳機能、ずいぶんとユニークな動きをしやがるな。

 リアルでのじゃ言葉とか聞くことになるとは思わなかったぞ。

 

「あらためまして、配信者をしている瓜畑吉宗(うりばたけよしむね)です。よろしくお願いします」

 

「うむ。ヨシムネと呼ばせてもらおう」

 

「では、俺は皆にならって閣下と呼びますね」

 

「今は無位無冠なのじゃがな。まあ、それでよい」

 

 そう言葉を交わすと、閣下の後ろに居た執事服の男性が前に出てきて、俺とヒスイさんに向けて言った。

 

「それでは、応接室へと案内します」

 

 彼が指パッチンをすると、周囲の景色が切り替わり、俺達はどこかの部屋へと移動していた。

 お高そうな内装の広めの部屋である。部屋の中央には、ソファーとテーブルが置かれている。

 

「ご苦労じゃの、セバスチャン」

 

 と、満足そうに閣下がうなずく。

 

「えっ、執事さんの名前、セバスチャンなんです?」

 

 俺は驚いて、思わず聞いてしまっていた。

 だが、執事さんは首を横に振る。

 

「いいえ、私の名前はトーマスですよ。閣下、なんですかセバスチャンとは」

 

「ニホン国区の文化では、執事と言えばセバスチャンなのじゃ。ヨシムネに夢のブリタニア貴族体験をしてもらうのじゃ」

 

「ああ、玄関にメイド服を着た人が居たの、サービスなんですか。別に普段はメイドさんではないと」

 

 俺はそう言って、思わぬ事実に溜息をついてしまった。

 

「いや、メイド達やトーマスは皆、普段からこの格好なのじゃ」

 

「マジで!」

 

 やるじゃん、イギリス貴族あらためブリタニア貴族。

 俺がテンションを再び上げていると、執事のトーマスさんが手でソファーの方を示し着席をうながしてきた。

 

「どうぞおかけになってください」

 

「あ、ありがとうございます。トーマスさんでよろしかったですか?」

 

 俺は、着席しながらトーマスさんに話しかけた。ちなみにヒスイさんも俺の隣に着席している。

 

「はい。家令のトーマスともうします」

 

「家令……執事と何か違うんですか?」

 

「過去の時代には職務がいろいろと違ったらしいですが、この家ではさして違いはありませんね。グリーンウッド家の男性使用人の中で、私が一番上の立場を任せていただいているので、閣下に家令を名乗れと言われています」

 

 そもそも今の時代には貴族なんていないから、執事だの家令だのといった職業の細かい定義もあってないようなものなのかもしれないな。

 

「さて、私のことはここまでとしまして、後は閣下にお任せします」

 

 トーマスさんはそう言い、座らずにテーブルの横で指パッチン。するとティーセットが現れ、茶を淹れ始めた。

 貴族の家で紅茶か。リアルで味わいたかったな。

 

「それでは、打ち合わせを始めるぞい」

 

 おっと、よそ見していちゃ駄目だな。俺は対面に座った閣下の方へと頭を向けた。

 

「まず大前提として、配信は私の方が主体になるがよいか?」

 

 そう閣下が聞いてくる。主体?

 

「む。ゲスト出演は初めてと返信にあったが、配信の取り決めは理解しておるか?」

 

「実はあまり……」

 

「ふむ、そちらのヒスイとかいうガイノイドに任せておるのかの」

 

「はい、ご挨拶が遅れました。わたくし、配信の助手をしておりますヒスイともうします」

 

 ヒスイさんが閣下に頭を下げてそう言った。

 

「うむ。……さて、そうじゃの。簡単に配信方法を述べると、今回は私の配信チャンネルのみでライブ配信を行なうのじゃ。SCホームも私の方を使い、司会進行も私が行なう。そこに、そなたら二人がゲスト出演するというわけだの」

 

「私も出演するのですか?」

 

 閣下の説明に、ヒスイさんがそう疑問の言葉を返した。

 

「そうじゃの。先ほど使用人から『宇宙暦299年上半期 ゲーム配信大百科』という本を借りたのじゃが、それによるとそなたらはコンビで配信を行なっているようではないか」

 

「そうですね。視聴者のみんなも、俺とヒスイさんはセットで考えていると思います。ぜひ、二人の出演でお願いします」

 

 ヒスイさんが遠慮しないうちに、俺もそう言っておく。

 しかし、ゲーム配信大百科か。インケットで売っていた同人誌の類だが、こんなところで名前を聞くとは……。

 

「うむ。私はそなたらの配信は、まだ『MARS』回しか見ておらぬが、よいコンビだと思うぞ」

 

「あ、見てくださったんですね。俺は閣下の配信まだ見ていないのに……」

 

「ふふ、よいよい。そうじゃ、私の配信をまだ見ておらぬなら、ゲスト配信当日まで見るのは禁止ということでどうじゃ。私の配信に慣れていない方が、自然体でゲストをやってもらえるかもしれぬ」

 

「あー、それでいいなら」

 

 ゲスト出演するのに相手のことを知らないって、ちょっと失礼な気もするけど。

 ああ、そうだ。

 

「俺のスタンスなのですが、配信中は敬語を使わないことにしています。閣下と視聴者の方は許してくださいますかね」

 

「ん? ああ、かまわぬかまわぬ。そもそも多様な言語が自動翻訳されるこの時代、敬語の存在価値が薄れておるからの。言語によってはろくに敬語がなかったりするのう」

 

「そうなんですか」

 

「うむ。私も日本語は使えるが、敬語の使い分けが面倒でいかんな。素のそなたを見せるのじゃ」

 

「了解しました」

 

「それでは、具体的な配信内容に入っていくかの。プレイするゲームは、『MARS』じゃ。これはもう決定事項なのでくつがえらぬ」

 

「問題ないです。俺は初心者ですが」

 

「こちらの視聴者は皆、私の操縦ばかり見て飽きてきているので、初々しい姿を見せつけてやってほしいの」

 

 初々しい姿か。動画ガチ勢にののしられたりしないだろうな。

 閣下の視聴者のマナーがいいことを祈ろう。

 

 と、ここで紅茶が目の前に置かれたので、用意されていたシュガーポットから角砂糖を一つ紅茶に入れて一口飲む。うーん、かぐわしい。普段、紅茶をあまり飲まないが、これは美味しいんじゃないか? さすが公爵家、バーチャルな紅茶にもこだわっているのか。

 

「セバス、茶菓子も用意するのじゃ」

 

「誰がセバスですか」

 

 閣下の呼びかけに呆れた声を上げたトーマスさんが、また指パッチンをするとテーブルの上にマカロンが現れた。

 閣下はそれを嬉しそうに口にしながら、話題を元に戻した。

 

「それで、『MARS』を始める前に、ヨシムネと二人で歌を歌いたいのじゃ。そなたの配信で『英傑の絆』を歌っておったな。あれを私の配信でもやろうと思っての」

 

『英傑の絆』とは、『MARS~英傑の絆~』の主題歌だ。英語歌詞なので、なかなか歌うのに苦労した覚えがある。

 

「閣下、正気ですか。あなた音痴ではないですか」

 

 閣下のソファーの後ろに移動していたトーマスさんが、そんなことを言ってくる。

 閣下は後ろに振り返らずに反論をする。

 

「そんなもの、システムアシストを入れてやればいいのじゃ」

 

「ヨシムネ様は歌う際にシステムアシストをお使いになりませんよ」

 

 ヒスイさんが突然、そんなことを言いだした。なに、ヒスイさん。閣下にマウントでも取りに行っているの?

 

「むぬぬ、そうじゃったのか。どうりで英語の発音が少し微妙だと思ったのじゃ」

 

 音痴が直ってから英語の歌を人前で歌うの、あの曲が最初だったからな。練習は一応していたのだが。

 

「しかし、我が下僕どもに無様な姿は見せられぬ……」

 

 しょんぼりとする閣下に、俺は自分の体験を話すことにした。

 

「ちなみに俺も、少し前まで音痴でしたよ。『アイドルスター伝説』という音楽アイドルシミュレーションゲームを時間加速でプレイして、鍛え上げたんです」

 

「なぬ、そのようなゲームがあるのか。普段ロボットゲームばかりやっておるから、そういったゲームとは無縁だったのう。よし、私もそなたのゲスト出演回までに音痴を直してみせるのじゃ!」

 

「あー、俺がやった時間加速は相当高い倍率で、ガイノイドだからできたものだそうですけど。短期間ではシステムアシストなしクリアは、きついかもしれませんよ」

 

「ふふふ、そなた、私を何歳だと思っておる。我が身は、とうの昔に機械の身に変わっておる。しかも今は、最新式のガイノイドじゃよ」

 

 そりゃそうか。300年前から生きていて、リアルで一級市民をやっているんだ。とっくに生身の肉体は失って機械の身体を手に入れているか。

 

「では、開幕の歌はそういうことでいくのじゃ。次に、ゲームのプレイじゃが……」

 

 そうして俺達は配信の大まかな流れを確認し合い、ゲスト配信当日が訪れるのを待つこととなった。

 初々しい姿を見せてくれと言われたが、それでも無様な姿を見せられないと、俺は連日『MARS』のオンラインモードで対戦をして過ごすのだった。

 

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