21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
閣下と共にチーム対戦モードのランクマッチを繰り返すこと二時間あまり。勝率はここまで十割。二対五の戦いだというのに、これほど勝ち続けられるとは思ってもいなかった。
だが、閣下はこの勝利を当然といった感じで受け止めている。
曰く、自分はマスターエースランクの中でも最上位なので、簡易AIの決めた暫定チームランクは適正ではないと。
八面六臂の活躍をする閣下だが、俺も負けてはいられない。
今の自分より明らかに上のランクの相手でも、それなりに食いついていこうと頑張っていた。まあ、うっかり撃墜されることも結構あるんだが。それでも俺達のチームが負けないあたり、閣下の強さがどれだけか解るというものだ。
今も、五人チーム相手に勝利して格納庫に戻ったところだ。よく見ると、格納庫の照明がなにやら赤く点滅している。
すると、視聴者コメントでこんな台詞が流れた。
『閣下! 緊急ミッション来た!』『マジか』『やったぜ』『なんてタイミングのいい』『ちょうど飽きてきたところなんだ』
「むっ、緊急ミッションじゃと?」
「わあー、私、頑張っちゃいますよ」
なにやら視聴者と閣下、ラットリーさん達が盛り上がっている。なんだ? 打ち合わせにこんな流れはなかったぞ。
「なあ、緊急ミッションってなんだ?」
俺がそう、一人何もせず待機していたトーマスさんに尋ねる。
「おや、ヨシムネ様は緊急ミッションをご存じないと。閣下、閣下!」
トーマスさんが、視聴者と話していた閣下を呼ぶ。
「なんじゃ、セバスチャン」
「誰がセバスチャンですか。それよりも閣下、ヨシムネ様が緊急ミッションをご存じないそうです。解説をお願いしてよろしいですか?」
「おお、そうじゃったか。ふむ。まず、オンラインモードには対戦だけでなく、ミッションという項目があることを知っておるか?」
閣下の問いに、俺はうなずく。
「ああ、ゲーム内マネーを稼ぐ手段だよな?」
「そうじゃ。ミッションでは、変わった形式での対戦をしたり、NPCを相手に任務をこなしたりするのじゃ。ミッションは基本、無条件で受けることができるのじゃが……」
閣下はそこで言葉を溜めて、目の前にとある画像を投影させた。
そこには、宇宙戦艦を背景に『緊急ミッション! 大規模宇宙戦に勝利せよ!』と文字が大きく書かれている。
「緊急ミッションは、普段は受けることができぬ、ランダム発生のミッションじゃ。報酬がよく、内容も風変わりなので配信映えするのじゃ」
ふむふむ。配信的に美味しいので、それに参加しようってことだな。
「今月の緊急ミッションは、プレイヤーが二つの軍に分かれて戦う、1000対1000の大規模宇宙戦じゃ。NPCの操作する宇宙艦隊も参加するので、派手でいいぞい」
「ということは、先着2000人じゃないのか? のんびりしていていいのか?」
「先着ではないのう。何万人でも何億人でも参加できて、それぞれ2000人ずつに分かれるのじゃ」
「ああ、そういう」
「これで緊急ミッションのことは理解したな? では、ヨシムネとチームを組んでエントリーしておくので、開始まで20分間、休憩タイムじゃ!」
閣下がそう視聴者に宣言すると、格納庫の赤いランプが消え、照明が正常に戻る。
そして、トーマスさんに案内されて俺達は格納庫の隅にある休憩スペースへと移動した。
休憩スペースにはテーブルと椅子が用意されており、そこに各々が座る。
さらにトーマスさんが指パッチンをすると、テーブルの上にティーセットと菓子が用意された。
トーマスさんがティーセットで紅茶を入れて、皆に配る。
「こういうのって、メイドさんの仕事じゃないのか?」
俺がそうラットリーさんに尋ねると、彼女は「ふふん」と言って答えた。
「私は今までオペレーターとして働いていたからいいんですー。トーマスさんは何もしていないんですから、お茶くらいやらせましょう」
「お茶の用意くらいでしたら、いくらでもしますよ」
老紳士なトーマスさんが、ラットリーさんの言葉に続いてそう言った。
まあ、彼がそう言うならいいんだが。
それにしても、紅茶か。
「ブリタニア国区の人って、やっぱり紅茶が好きなのか? 21世紀のイギリスといえば紅茶のイメージがあったんだが」
「そうでもないぞい」
俺の疑問に、茶菓子を優雅に口にしていた閣下が答える。
「紅茶もコーヒーもモッコスも等しく好まれているのじゃ」
「モッコス……?」
なんだその邪神みたいな単語は。
「おお、モッコスを知らぬのか。宇宙暦が始まってから惑星ヘルバで発見された植物で、煎じて飲むと美味なのじゃ」
「惑星ヘルバか……太陽系外の惑星だったか」
うちのガーデニングスペースで元気にやっている、マンドレイクのレイクの出身惑星だ。
「うむ、宇宙は未知に溢れておる。発見されている宇宙人とも、そのうちコンタクトが始まるじゃろうて」
そんな雑談を10分強ほど繰り広げ、俺達はあらためて自分の機体に乗り込んだ。
『ミッションを開始します』
視界が暗転し、俺達の機体はいつもの格納庫ではない、どこかの宇宙船の内部に移動した。
船外に射出するためのカタパルトに配置されたようで、いつでも飛び立てる準備は万端って感じだった。
『やりました! 最前線の宇宙空母配属ですよ! 思う存分戦ってくださいね! あ、私達は赤軍です。敵は青軍ですね』
テレパシー通信で、ラットリーさんからそのような言葉が届く。
ふむ、全機一律で同じ場所から出撃というわけでもないのだな。まあ、1000対1000で、NPCの軍艦も入り混じるというからな。
『こちらも配置に付きました。どうやら、私は今、ヨシムネ様がいる空母の中にいるようです』
ヒスイさんからも通信が届く。
そこで、俺はふと気づいた。
「あっ、もしかしてこの空母が落とされたら、ヒスイさんもやられるってこと?」
『そうでしょうね。そうなると、混戦の中でオペレーターのサポートなしで戦うことになります』
「うわっ、ただ闇雲に戦うだけじゃ駄目だな」
そんな会話をしているうちに、ミッション開始のカウントダウンが始まった。
すると、今度は閣下から通信が入る。
『敵を倒すことは考えなくてよい! とにかく死なぬことを考えるのじゃ。FPSでよくあるような、死亡後復活はせぬぞ!』
「マジかよ。シビアだな」
『チーム組んで開幕即撃墜なんてされた日には、一人虚しく格納庫で待つはめになる』『このミッション、三十分もあるからなぁ』『ヨシちゃんは、はたしてこの先生きのこれるのか!?』『艦隊砲に気をつけて!』
そうこうしている間に、カウントが終わる。
『ミッションスタート』
すると、空母の隔壁が開き、カタパルトが点火する。
マーズマシーナリーの慣性制御では抑えきれないGが、俺の身体を襲った。
「くっ、ヨシムネ、行きまーす!」
船外へと飛び出した俺の機体、ギンカイ。宇宙の無重力空間に身を任せると共に、俺は千里眼を発動した。
って、近い! 敵の戦艦が視認範囲にいる! 本当に最前線だな!
『ヨシムネ、敵軍の中に飛び出したいじゃろうが、じっと待つのじゃ。向こうから目立ちたがり屋がすぐにやってくる』
閣下の通信を聞いて、俺は機体を制御して空母との距離を保った。
さらに閣下の言葉は続く。
『私達は今、ライブ配信をしておるな? つまり、この戦いには配信に映ることを了承した目立ちたがり屋しかおらぬ』
そうだ、ゲームのオプションには『動画撮影・配信に応じる』みたいな項目があって、それをチェックした者でないと配信者とマッチングできないようになっているのだ。
『しかし、ただの目立ちたがり屋は弱いが、訓練された目立ちたがり屋はやっかいじゃぞ。なにせ、マスターエースランクの下、スーパーエースランクは配信者だらけじゃ。けっして侮るではないぞ』
「ああ、俺は初心者だからな」
と、答えるや否や、ヒスイさんから警告の言葉が飛び出す。
『敵戦艦の主砲発射兆候あり。狙いは……この空母です。逃げてください!』
『ぬ、ぬおお! ヨシムネ、逃げるのじゃー!』
咄嗟に俺はスラスターを噴かし、空母から距離を取る。
すると、次の瞬間、空母に向けて光の柱が突き刺さった。
空母は……無事だ!
『空母のサイコバリア損傷。空母を狙って敵マーズマシーナリー隊が来ます。前方注意』
バリアが消し飛んだ空母へ、砂糖菓子に群がるアリのごとく敵機が殺到してくる。
『ぬおお、ヨシムネ、まずい、まずいのじゃ。ラットリーとヒスイがピンチじゃ』
「……よし、やってやらぁ!」
『初めからクライマックス!』『何この配信熱いんだけど』『熱いなー心臓熱くなるなー』『待つなんて言わず、全力で抗え!』
俺はライフルを構え、向かってくる敵機に片っ端から弾丸をぶち込むことから始めた。
長い、長い戦いが始まった。
◆◇◆◇◆
「ふう、緊急ミッションでは大活躍じゃったの」
ライブ配信が終わり、お疲れ様会。閣下のSCホームの食堂で、俺は閣下達と一緒に本日の振り返りをしていた。
いやあ、緊急ミッションは大変だったな。
「撃ち落とされることなく8機も撃墜とは、実際の戦争だったらエースを名乗ってもよいほどじゃな、ヨシムネ」
閣下がビールのジョッキを手に持ちながらそう言ってくる。
そう、俺はあの混乱する状況の中、最後まで生き残ったのだ。
「ヨシムネ様が視聴者の皆様に褒め称えられていて、私も自分のことのように誇らしいです」
ヒスイさんの乗っていた空母も、最後まで守り切った。初めての緊急ミッションにしては、上出来過ぎるほどの結果だろう。
「まあ、閣下は50機も撃墜して、撃墜王になっていましたけどね」
俺はそう閣下に言葉を返す。
緊急ミッションでは、終了後、活躍度合いに応じてリザルト画面で称号が送られるのだが、閣下は最多撃墜数で与えられる撃墜王になっていた。ちなみに、パイロットを全員一律で順位付けする総合ランキングはない。撃墜数以外にも、戦争で貢献できる要素は多いからな。
オペレーターであるヒスイさんとラットリーさんにも、それぞれ貢献に応じた称号が送られたようだ。
「うむうむ、ヨシムネは死なず、私も活躍でき、よき配信となった。またヨシムネとはコラボをしたいものじゃな」
あー、確かに、ゲスト出演するのは面白かったな。誰かと一緒にゲームをやるというのは、やっぱりよいものだ。ヒスイさんはどうしても裏方に徹したがるしな。
しかし、コラボか。
「閣下、来月の9月8日は予定空いていますか?」
そう俺は閣下に尋ねる。
「ふむ? トーマス、どうじゃったか」
「これといった火急の用はありませんね」
仕事はあるがどうとでもできる、といったニュアンスだな、これは。
ならば、俺は遠慮することないと、閣下に誘いの言葉を投げた。
「実はその日、俺の誕生日でしてね。リアルで芋煮会を開催しようとしていて、もし来られそうならヨコハマ・アーコロジーまで来て誕生日配信にゲストとして出ませんか?」
「ほう、誕生日会じゃな! 招かれようではないか。で、芋煮会とはなんじゃ?」
「鍋で芋を煮て食う。他にもいろいろと食う。そんな感じの俺の元いた時代にあった、日本の地方文化ですね」
「食事会か。よかろう、手土産を持って向かうのじゃ」
「トーマスさんとラットリーさんも、来られるようでしたらぜひ」
俺はそう言って、お付きの二人も招待することにした。
使用人全員連れてくるとかはさすがに困るが、二人くらいの追加ならなんてことはない。
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
「私も行きますよー。芋煮会、楽しみです。でも、今日はうちのソウルコネクト料理、楽しんでくださいね?」
ラットリーさんに勧められ、俺は次から次へと料理を口へと運んでいった。
貴族らしい上品な料理が出るとばかり思っていたが、その料理メニューは多彩だ。そういえば、ブリタニア国区の昔の国であるイギリスは、世界各地の料理が集まる場所でもあったな。
そうして俺とヒスイさんは料理に酒にと楽しみ、ゲスト出演の成功を祝うのだった。
うーん、この様子も配信した方が面白そうだと感じるのは、配信者に染まった証拠なのかね。