21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
「とりあえず、日を跨いでゲームを配信していったとしても、芋煮会までには全部終わらせたいところでな……」
ゲスト出演を無事に終えて幾日か経ったある日、俺は新たに何かゲームを配信しようと、ヒスイさんと話し合っていた。
「それでしたら、予定を変えてこちらのゲームはいかがですか? 一日で終わりますよ」
ヒスイさんが提示してきたゲームは、『僕らの地球を守れ! 20世紀地球防衛軍』だ。
「インケットで手に入れたゲームだな。じゃあ、これでいこうか。ちょっと楽しみにしていたんだ」
そういえば、この前、俺達は打ち合わせをしたことがないとか言ったが、どのゲームを配信するかどうかの打ち合わせは普通にやってきていたな。ただ、配信の最後までの流れを決めていないだけで。
『-TOUMA-』でのヒスイさんラストアタック事件以降、ヒスイさんが事前にゲームを隅々までプレイし配信に耐えられるかチェックし、俺が事前情報を入れずにプレイするというスタイルで配信をやるようになった。さすがヒスイさんです。
つまり、俺は初見プレイになるので、「こういうゲームなのでこういう流れで」というやり方にはならないわけだ。
その代わり、配信の最初にどんなことをするかはきっちり話す。リアルの部屋を紹介するかとか、歌を歌うかとか、そういうのだな。
「それでは、ライブ配信の告知をしておきます。さて、お茶が冷めたようなので淹れ直してきます」
そう言って、ヒスイさんが席を立つ。
食卓で、朝食後のお茶を飲みながら話し合っていたのだ。わざわざ淹れ直してくれるとは、気が利くな。
ぼんやりと待っていると、ヒスイさんがティーポットとシュガーポットを両手に持って戻ってきた。
「ヨシムネ様、こちら、先日話題に上がっておりましたモッコスです」
「ん? ああ、惑星ヘルバで採れるとかいうお茶の仲間か」
ヒスイさんが、食後のお茶を飲んだ湯飲みに、モッコスなるお茶を注いでいく。うーん、湯の色は、茶色だな。
「私も試すのは初めてですが、はたしてどのような味か……」
「ブリタニア人が愛飲しているっていうんだから、外れってことはないだろう。どれ、いただきます」
湯気を立てる湯飲みに息を吹きかけ冷まし、ひとくち口に含み、飲み込む。
むうっ、これはっ……。
「すごいうま味。なにこれ、もはやスープじゃね?」
「しかし、塩味はありませんね」
「凝縮されたきのこ汁って感じが……」
「砂糖を入れても美味しいらしいですよ」
本当にー……?
俺は、シュガーポットから角砂糖を取り出し、湯飲みに入れて食卓の上に用意されているティースプーンでかき混ぜてみた。
そして、また一口。
「う、美味え……なんだろう、飲む茶碗蒸し、甘味バージョンみたいな……」
「慣れればやみつきになりそうですね」
「こんだけ強いうま味、そりゃあやみつきにもなるわな」
そんな会話をしていると、ぬあー、とイノウエさんの鳴き声が聞こえ、イノウエさんが食卓に近づいてきた。
よく見ると、なんと背中にマンドレイクのレイクを乗せている。
「なんぞ……?」
レイクがすごくわっさわっさと葉っぱを動かしている。
「惑星ヘルバ原産のモッコスの香りに反応しましたかね?」
「同じ惑星の植物だからか。でも、反応したとは言え、何を伝えたいんだ」
「さあ? そもそもレイクには、高度な知性があるわけでもないですからね」
「うーん、なんなんだ」
我が家のメンバーの中で、レイクが一番得体の知れない存在だな、と感じるのであった。
◆◇◆◇◆
「どうもー、21世紀おじさん少女だよー。先日はグリーンウッド閣下の配信にお邪魔したけど、みんなチェックしていたかな?」
「助手のヒスイです。コラボ配信では、ヨシムネ様もなかなかの活躍でしたね」
『わこつ』『うわー、ヨシちゃんだー!』『わこつ。見たよー』『スーパーエース様じゃー! 道を空けろー!』『どうなるかと思ってたけど、相性よかったですね』
うむうむ、しっかり向こうの配信も見にいったようで何よりだ。
「それじゃあ、今日もだらだらゲーム配信していくぞー」
『だらだら』『あんまりヨシちゃんには合わない言葉だな、だらだら』『全力でゲームにぶつかっていくスタイル』『くっ、このゲームもヨシムネゴリラに制圧された! って感じ』
「お前ら、俺が何も言わないからって、ゴリラ定着させようとしてない? 断固拒否するぞ」
『気のせいウホ』『ウホウホ。ヨシちゃん可愛いウホ』『か弱いガール過ぎて困っちゃうウホ』『バナナ食うウホ?』
「うるせー! バナナスムージー飲んで、オシャレなゆるふわガールごっこすんぞこら!」
過剰なイジりはダメ、絶対!
『ゆるふわはヨシちゃんから一番遠い言葉だわ』『なぜバナナスムージーがオシャレ』『スムージーに何か秘密が……』『いやきっとバナナに脳筋成分を中和する何かが』
「あ、いや、単に俺のいた時代の日本で、スムージーがそんな感じの女性向けオシャレアイテムだっただけです……」
冷静に返されると辛い!
「それでは今日プレイするゲームを見ていきましょうか」
ヒスイさん、まさかのスルー!
「くっ、今回はヒスイさんに免じて勘弁してやろう……」
『何この流れ』『謎』『不条理ギャグ漫画かな?』『こんな混沌とした流れを作り出せるとは、ヨシちゃん成長したなぁ』『混沌系配信者ヨシ』
もう突っ込まんぞ!
「さてさて、今回やるゲームは、またもやインディーズゲーム。これも、インケットで入手したゲームだ。タイトルは、こちら!」
俺がそう言うと、謎の効果音と共に、ヒスイさんが腕の中にゲームアイコンを出現させた。
「『僕らの地球を守れ! 20世紀地球防衛軍』!」
『おー』『20世紀』『ヨシちゃんと1世紀ニアミス』『宇宙人とでも戦うのかな?』
「俺は20世紀生まれでもあるから、20世紀ネタも終盤ならカバーしているぞ。このゲームもおそらくカバー範囲のネタだな」
俺が視聴者コメントにそう答えると、続いてヒスイさんがゲーム説明を始めた。
「この作品は、地球に飛来する計四体の宇宙怪獣を地球防衛軍所属の主人公が撃退するゲームとなっております」
「四体か。少ないな」
「インディーズですからね。予定では、本日の配信中にゲームクリアとなります」
『それくらいの長さの方が、見る側としてはスナック感覚で楽しめるわ』『長編ゲームは一回見逃しちゃうと付いていきにくくなるからね』『怪獣ってことはでかいのか』『宇宙人じゃなくて宇宙怪獣だったかー』
ふむふむ、長期シリーズになる配信にも問題はあるのか。選ぶゲームは今後も考えていかないと行けないな。
頭の片隅に入れつつ、俺は配信を先に進めることにした。
「それじゃあ、『20世紀地球防衛軍』、開始だ!」
俺がそう言うと、ヒスイさんがいつも通りにゲームアイコンを掲げ、SCホームの背景が崩れていった。
『僕らの地球を守れ! 20世紀ぃー、地球防衛軍!』
謎の声によりタイトルコールがなされ、タイトル画面に周囲が変わった。
タイトル画面は宇宙で、一匹の怪獣が地球に向けてゆっくりと飛行している姿が映っている。怪獣のモチーフはおそらく亀で、つるりとした甲羅に手足を引っ込め、頭だけ出して甲羅から火を噴きながら地球を真っ直ぐに目指している。
「いきなり怪獣が来たなぁ」
「亀型怪獣のタトラですね」
「タートルにラでタトラか? 安直だが、こういうのは安直なくらいがいいのか。それよりも、亀の怪獣って、俺の中では正義の味方なんだけど」
「このゲームでは、ただの文明の破壊者です。倒しましょう」
「はいよー。じゃあ、はじめからでゲームスタートだ!」
はじめからを選ぶと、『ステージ1 タトラ襲来!』とテロップが表示された。さらに、背景にあった地球にカメラがフォーカスされ、地球が急速度で近づいてくる。
そして、ヨーロッパのイギリスにどんどんと近づいていき、イギリス本土からややそれて海上へ。海上には一つの島があり、その島に建つ巨大な建物の近くでカメラの動きが止まった。
建物の前で、テロップが流れる。
『地球防衛軍本部』
すると、視界が暗転し、今度は建物の内部が映った。
『キャラクターの性別を選択しよう!』
視界の中に、いかにもな青い隊員服を着た男女二人のキャラクターが現れた。
操作キャラの選択か。とりあえず女っと。
目の前に出てきたメニューから性別を決定すると、俺の意識が女性キャラクターに乗り移るのを感じる。
『あなたの名前はモロボシ・アンヌです』
モロボシって、巨大ヒーローにでも変身するのかよ。
『うわっ、ヨシちゃんずいぶんグラマラスになって』『いつもの美少女路線とはまた違う美女だわ』『悩殺!』『ぴっちりした服だなぁ』
服装は、まあ伝統だからね?
『地球に宇宙怪獣が接近! 対宇宙怪獣特務隊は速やかに所定の配置に付け!』
と、突如そんなアナウンスが建物内に響く。
すると身体が勝手に動いて、俺はどこかに駆けていく。
自動移動で十数秒ほど経つと、なにやら多数のメカが置かれた格納庫に着いていた。
『操作する秘密兵器を選ぼう!』
「ふむ? メカを選べばいいのか?」
『ヨシムネ様、聞こえますか?』
「あ、ヒスイさん。ああ、今、秘密兵器を選べって出たところ」
『このゲームでは、地球防衛軍所属の対宇宙怪獣特務隊隊員となり、地球防衛軍が作りだしたメカに乗って怪獣と戦います。怪獣の特性とメカの特徴により有利不利がありますが、一体目はどのメカに乗っても難易度は変わりません』
「なるほどなー。メカに乗るのか。EDFじゃなくてウルトラ警備隊か。そうだな、20世紀だもんな」
俺は地球防衛軍になって歩兵として宇宙からの侵略者と戦うゲームを想像していたが、20世紀の防衛軍ならテレビの特撮の方が普通だよな。
「さて、どんなメカがあるかな」
俺がそう言うと、目の前に機体一覧のメニュー画面が開いた。
ふむ、機体の外観とスペック、そして概要が書いてある。
オーソドックスな流線形の戦闘機に装甲戦車、ドリル付き装甲車、円盤状の戦闘機なんかもあるな。
「いろいろあるな。あ、潜航艇は今回選べないようだ。水辺が舞台じゃないんだろうな。亀の怪獣なのに」
そう言ったら、宇宙怪獣の特徴を示す画面もポップアップしてきた。
ふむふむ、タトラ。惑星タトに生息する怪獣。惑星タトは水が存在しない灼熱の星で、タトラは岩を好んで食べていた。
「岩石食とか、おとなしい怪獣じゃねえの?」
『コンクリ食うなら20世紀の建物が危ない』『金属も食いそう』『人類の天敵じゃん』『駆逐しないと』
物騒だなぁ。
まだ続きがあるな。タトラは様々な岩石や鉱物を片っ端から食い尽くしてきた。そしてあるとき、宇宙の彼方から匂ってきた新種の金属の香りに魅了され、その匂いを辿り地球へとやってきた。
「まあ、地球人はいろんな金属を精錬しているからな。自然には存在しない配合とかもあるだろうし」
その金属の名は、ウルトラ合金。地球防衛軍の秘密兵器に用いられる新種の合金である。
「って、怪獣の地球来襲の原因、地球防衛軍じゃねーか!」
『知ってた』『因果応報』『何が『僕らの地球を守れ!』だよ!』『大丈夫? 終盤になって防衛軍で反乱起きない?』
このあたりの説明はフレーバー要素だと思うから、大丈夫だろう多分……。
ともあれ、俺は乗り物の中から円盤状の戦闘機を選び、乗り込んだ。
すると、通信越しに男の声が聞こえる。
『地球防衛軍特務隊、発進!』
今の声は誰だろう。
『地球防衛軍の総司令だそうです』
ヒスイさん解説サンキュー!
と、操縦桿を握ると視界が暗転し、BGMが切り替わり第三者視点へと変わる。
そこは、建物の外だった。
ヤシの木が周囲に植えられた屋外プール。そのプールが横にゆっくりとずれていく。ずれた元の場所にはぽっかりと穴が空いており、奥に人工的な広い空間が見える。
すると次の瞬間、穴の中から円盤状戦闘機が、勢いよく飛びだしてきた!
そこで、タイミングよく新たなBGMが鳴り響く。
って、このBGM……。
「ワンダバじゃねーか! 『サンダーバード』かと思ったら今度はこれとか、本当に20世紀の特撮いいとこ取りだな!」
『うーん、ネタが解らん』『好き者が作っているのは解る』『ザ・インディーズゲームって感じの趣味の詰め込みっぷりを感じる』『ヨシちゃん嬉しそうだなぁ』
特撮は別に好きじゃないが、こう、趣味全開の物を見せられるとつられて笑顔になっちゃうところがあるな。
そうして第三者視点のカメラは、しばらく飛行する円盤状戦闘機を映していたが、やがて視界は戦闘機内部のアバターへと戻った。
アバターであるモロボシ・アンヌは操縦桿を握り続けており、まだ冷たい操縦桿の金属の感触が手の平から伝わってくる。
操縦のチュートリアルもなしにぶっつけ本番で怪獣とバトルとか大丈夫だろうか、と思ったが、頭の中に操縦の仕方が流れ込んでくる。
「むむっ、操縦の仕方がなぜか解るぞ。どういうことだ?」
『SC式学習装置の応用やね』『ゲーム時間の短縮になっちゃうから採用するゲームは少なめだけど、たまにある』『プレイ時間の短さなんて知ったこっちゃねえという気概を感じる』『まあ楽ですよね』
そういうことか。それなら問題なしだ。
と、そんなやりとりをしている間に、戦闘機内部のモニターにタトラの存在が映った。
「よっしゃ、いっちょう、地球を守ってやるとしますかね!」
戦いが今、始まる!