21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
夏の八月も終わり、暦は九月に。
だが、アーコロジーの中にいる限りでは季節を感じることはない。いや、それはちょっと違うか。一応、先月は海水浴とかもリアルで行ったからな。
季節を感じることがないのは、VR空間での話だ。
俺のSCホームである日本家屋には、一応、季節に応じた気候を適用させている。しかし、気温は常に快適な温度を保つようにしてあるのだ。わざわざ自分から暑い環境になんて身を置きたいとは思わないからな。
そんな俺のSCホームには、本日一人の来客があった。
いつものミドリシリーズ達ではない。グリーンウッド閣下である。ミドリシリーズ達はもう勝手に入ってきて勝手に出ていくからお客カウントしていない。
「ぬああ、負けたのじゃ……パズルゲームは難しいのう」
「ロボットゲーム以外に関しては、凄腕ゲーマーってわけではないんですね……」
現在、特に配信をしているわけではない。15時頃、仕事を部下に奪われて今日は暇になったと、閣下がSCホームへ訪ねてきた。そして、配信をせずに気楽な姿勢で一緒にゲームをやろうと持ちかけられたのだ。
別に一緒に遊ぶことに否やはないのだが、互いに8時間の時差があるとどうしても本腰を入れて遊ぶというわけにもいかない。
なので、SCホーム上に出現させたモニターで、非VRのパズルゲームの対戦プレイをしていたのだ。
「ロボットと言えば、そなた先日、面白そうなロボットゲームを配信していたのう。ライブ配信は見なかったが、編集動画の方を見たぞい」
「ああ、『20世紀地球防衛軍』? 合体ロボも趣味なんですか?」
「うむ、合体はよいものじゃ。戦時中、合体ロボの開発を行なえなかったことが、今でも悔やまれる」
公爵にして中将閣下は言うことのスケールが違うな……。
そして閣下は、パズルゲームは飽きたと言って、コントローラーをそこらに投げ捨てた。VRなのでコントローラーを乱雑に扱っても壊れるということがないのがいいな。
「次はレースゲームでもやりたいのう」
「もうしわけないですが、そろそろリアルに戻る時間になりました」
閣下の提案を俺はそう断った。今は17時。閣下が来てから2時間も遊んだのか。
「なんじゃ? 夕食の時間にしては早いではないか」
SCホームの畳の上に寝転がりながら、閣下は言う。そして、バーチャル煎餅を口にしながら「んあー」と伸びをした。この300うん歳児、自由すぎる……。
だが、今日はこれ以上この人には構っていられないのだ。
「これから外食の予定がありましてね」
「ほう、さすがそなたも一級市民よの。贅沢しておるではないか」
「いや、今日はそういうのじゃないです」
俺は手元に出現させた緑茶を飲みながら、これからの予定を閣下に告げた。
「今夜は、他人のおごりで焼肉だ!」
人の金で焼肉を食べる。なんと心が躍るワードだろうか。
クレジットを腐るほど持っていても、おごりで焼肉は抗えない魅力があるのだ。
「なんじゃ、自前のクレジットは十分あるだろうにそんなに嬉しそうにして……男と逢い引きか?」
「ちげーよ!? いや、おごってくれるのは男ですけど、そうじゃなくて焼肉をおごってもらうというのは一種の娯楽であるわけで……」
「よく解らんのう」
貴族の人には理解できないかもしれないな。
「仕方ないのう。暇そうなミドリシリーズでも捕まえて、一緒に遊んでおるかの」
閣下は、SCホームでだらだらくつろいでいるミドリシリーズ達の方を見て、そんなことを言った。家主不在の家でゲームを遊ぶとか、自由だなぁ。
ともあれ、これからリアルの焼肉屋へゴーだ!
◆◇◆◇◆
「やっほー、タナカさん。お久しぶり」
部屋を出た俺とヒスイさんは、今日のお財布役と合流した。ニホンタナカインダストリのタナカさんだ。
なんでも、俺の誕生日が近いので、お祝いとして以前話に上がっていた焼肉をごちそうしてくれるというのだ。
ありがたい。扱いに困るプレゼントとかよりも、こうして腹に消える食事を祝いとしてくれる方が、気が楽だからな。
「やあ、六月のシブヤ・アーコロジーで会って以来かな? 今日はよろしくね」
「よろしくはこちらの方だ。なにせ、焼肉をおごってもらうんだからな!」
「はは、喜んでもらえたようで何よりだよ。ヒスイくんも調子はどうだい? ないと思うけどボディの不調などは……」
「調子は良好です。本日はごちそうになります」
そうやって挨拶を交わし、俺達は産業区の飲食店街に向かった。
『焼肉 浜肉小僧』、そんな店に俺達は入る。予約していたので個室だ。今日はキューブくんも連れて来ており、撮影をするからな。個室はありがたい。
席に座ったところで、ガイノイドの店員さんからクリップのようなものを渡される。
なんだろうと尋ねてみたら、これはエナジーエプロンだという。
クリップを襟元に挟んで、スイッチを押すと……。
「おお、半透明のエプロンが出た!」
「どうぞ、ごゆっくり。注文はそちらのロボットにお願いします」
そう言って、店員さんは退室していった。
さて、焼肉だ! 食うぞ食うぞ。
「実は焼き肉店って初めて入るんだ。どういう順番で食べればいいんだい?」
俺が空間投影画面でメニューを見ていると、タナカさんがそんなことを言いだした。
「おや、意外だな。いい寿司屋を知っているんだから、いい焼肉屋にも通っていると思ったんだけど」
俺がそう言うと、タナカさんは苦笑して答えた。
「寿司屋みたいなお行儀のいい店しか知らないんだ。残念なことにね」
「焼肉屋がお行儀悪い店とは思えないが……」
「お行儀が悪いというか、焼肉って自分で料理して食べるだろう? 大胆かつ高尚すぎるんだ」
「網で焼いて食うだけで料理扱いかよ!」
この時代の人達にとって、料理はハードルの高い行為だった。
でも言われてみれば、料理にあまりにも慣れていないと、火に近づくのは恐怖を感じるかもしれないな。
まあ、焼肉初心者となると、俺が導いてやらねばならないだろう。ヒスイさんも焼肉なんてしたことないだろうしな。
「美味しく焼肉を食べるコツは、そうだな……。うん、好きな物を好きなタイミングで焼く!」
俺は、そうタナカさんとヒスイさんに宣言した。
そしてさらに言葉を続ける。
「よく、焼く順番にこだわって、タレ物は網が汚れるから後回しだのなんだの言う人が居るが、そういうのは無視! 網を交換できる店なら、迷惑にならない程度になら交換してもらえばいいから、好きなように食べてハッピーになろう!」
脂の多いものを先に食べるとさっぱり系の肉を美味しく食べられないとかも聞くが、知らん! 食いたい物を食いたい順で食うのだ!
「網はその場でナノマシン洗浄が行なえるようですね。交換の必要はありません」
そうヒスイさんが解説を入れてくれる。おおう、未来志向だな焼肉屋。
「というわけで俺はいきなり牛カルビを行くぞー」
俺は空間投影メニューの中から、今まさに食べたい肉を選んで、テーブルの横に鎮座しているロボットに向けて注文した。
「では私は、このタン塩という品を」
「おっ、ヒスイさん攻めるねー。タンは牛の舌だね」
「はい、味が気になります」
ヒスイさんがそう注文を決めると、タナカさんは無言で目をしばたたかせた。ちょっと驚いた様な顔だ。
「攻めていいのか……じゃあ僕はハチノスを」
「内臓肉! いいねえ、じゃ、店員ロボ、まずはその三品を一皿ずつ頼むよ」
ハチノスは牛の第二の胃袋だ。しょっぱなからこれを選ぶとは、タナカさんなかなかやりおる。
『肉の種類は、オーガニックと培養肉の二種類からお選びいただけます』
注文を決めると、ロボットからそのような答えが返ってきた。
ロボットが言っているのは、飼育された動物肉か、工場で培養された肉かの選択だ。
「今日のスポンサーはタナカさんだから、タナカさんが決めてくれ」
俺は返答をタナカさんに丸投げした。
「僕かい? そうだね。せっかくだから、今日の注文は全部オーガニックでお願いするよ」
「おお、太っ腹! 御曹司は違うねー」
「ははは、御曹司って、誰から聞いたんだい。残念ながら、もらっているクレジットは一級市民の標準額だよ」
というわけで、未来の世界では高級品であるオーガニックの肉で焼肉である。
「あっと、忘れるところだった。ライスもお願い」
『かしこまりました』
「ライス……ご飯も食べるのですか?」
俺の注文に、ヒスイさんがそう尋ねてくる。
「ああ、肉とご飯の組み合わせは最高だぞ。太るけどな!」
「では、私もライスを」
「僕もライスをお願いするよ。大丈夫、この時代では人類は肥満を克服しているよ。簡単に痩せられるんだ」
「そもそも俺、ガイノイドだから太らないんだった」
「ははは、そうだったね」
そういうわけで最初の注文が終わり、ロボットが壁際にアームを伸ばすと、壁の一部がスライドして開いた。
スライドして開いた空間には、注文した肉とライスが置かれている。そして、ロボットがアームでそれらをテーブルの上に並べていく。
『わたくしが肉を焼くことも可能ですが、お客様が焼かれますか?』
そう気の利いたことをロボットが言ってくる。そういえば、店員が肉を焼いてくれる焼肉屋がある国も、前の時代では存在していたな。
「ああ、自分達で焼くよ」
『では、熱源をおつけします。網に手を近づけすぎないよう、ご注意下さい』
ロボットがそう宣言すると、網の奥が赤く光った。予想と違って火はつかない。未来の市民にとって、火は恐怖の対象だからかな。熱のみをいい感じで出しているのだろう。
よし、焼いていこう。
三枚の肉皿の上から、無秩序に網へと肉を載せていく。
タナカさんも、おそるおそるとハチノスを網へと載せていた。
さて、焼けるまでは雑談タイムだ。
「タナカさん、芋煮会の件、ありがとうございます」
俺はそうタナカさんに話しかけた。
「ん? ああ、スポンサーの件か。いいよいいよ。今まで僕ら、スポンサーらしいことできていなかったしね。安いものだよ」
「俺個人にとっては安くはないからな。……ああ、配信を見ている人には解らないだろうから、説明するぞ」
俺は、宙に浮いて焼肉の様子を撮影しているキューブくんに向けて言った。
「俺の誕生日会は、アーコロジーの外で開催することにしたんだ。自然の中で秋の芋煮会だ」
前々から、秋になったら芋煮会を開きたいと思っていたんだ。
その日取りをヒスイさんから俺の誕生日にしてはどうだと提案されて、誕生日の9月8日に開催日を決めた。
「でも、アーコロジーの外に滞在するにはすごくクレジットがかかる。そこで、俺の配信のスポンサーである、ニホンタナカインダストリに相談したわけだ」
「相談されたときは驚いたけどね。なにせ、ゲーム配信チャンネルのはずが、外で料理を食べたいって言うんだ」
タナカさんは笑いながらそう言った。
「そういうわけで、芋煮会の費用を出すことをタナカさんに了承してもらったわけだ。ありがたいことだ」
「個人的に僕も行きたかったからね。通しておいたよ」
「ひゅー、タナカさん、やるう」
芋煮会には閣下の他、タナカさん達、第一アンドロイド開発室のメンバーも参加が決まっている。人が増えれば増えるほど必要なクレジットは増えるが、そこは太陽系屈指の大企業パワーでなんとかしてもらう。
と、そこまで会話したところで肉が焼けてきたので、各々網から肉を取って食べ始める。
俺は、ライスの上にしっかり焼けたカルビ肉を載せて、箸でライスと一緒に肉を口へとかっこんだ。
うーん、美味え! こってりこってり。
カルビってどうしてこんなにライスと合うのか。魔性の組み合わせすぎる。
ライスの上にタレの付いた肉を載せるのは、白米が汚れると言って嫌う人もいるらしいが……俺は汚すの大好きだ! ライスの上にタン塩もハチノスも載せちゃう。
「うん、美味しい。自分で焼いて食べるお肉ってこんなに美味しいんだね」
タナカさんは笑顔でハチノスをぱくついている。
俺がカルビも食べていいよと言うと、タナカさんは俺の真似をしてライスの上にカルビを載せて、行儀のよい箸さばきで肉とライスを口に入れた。
ヒスイさんは……うん、満足そうですね。
そうして網の上の肉は全てなくなり、再び網に肉を載せていく。
「晴れるといいね、芋煮会」
焼けるまでの間、そうタナカさんに話しかけられる。
俺は、ロボットにウーロン茶を頼みながら、それに答えた。
「大丈夫。俺の予知では晴天だ」
「そうか。それはよかった」
この未来の時代だとさぞかし完璧な天気予報がされているのだろうと思ったのだが、民間人に天気予報は公表されていなかった。
まあ、アーコロジーに居たらいらない情報だからな。一応、観光局に行けば教えてもらえるらしいのだが、予知で晴れると解っているから聞いていない。
もし何かまずいことがあれば、ヒスイさんがフォローしてくれるだろう。
そして再び肉を口にして、新たな肉をロボットに注文していく。
豚トロ、ホルモン、リブロース、砂肝等と、食べに食べた。配信中なのでビールを控えたのは、ちょっと惜しかったかな。
「ふう、満腹だ。僕もバイオ動力炉が欲しくなるよ」
お腹を押さえて、タナカさんがそう言った。
俺とヒスイさんはバイオ動力炉で食物をエネルギーに変えられる高性能ガイノイドなので、お腹いっぱいすぎて苦しいという状況にはならない。太らないし、ガイノイドボディ様々だ。簡単に痩せられるとはいえども、そもそも太らないことが重要なのだ。
俺達は少し食休みした後、焼肉屋を後にした。支払いはもちろんタナカさんだ。
「今日はごちそうさま!」
「ごちそうさまでした」
「ああ、僕も楽しかったよ。芋煮会も楽しみにしているね」
俺、ヒスイさん、タナカさんが順番にそう口にする。
「今日の録画は、編集して店側の確認を取った後、いつも通りに上げておきますね」
「また僕が配信に出演かぁ。不思議な気分になるね」
タナカさんの出番は二回とも料理店。次に出るのも芋煮会だし、視聴者に飯を食う人として覚えられそうだ。
「では、また」
「またなー」
「またお会いしましょう」
そう言い合って俺達は別れ、俺とヒスイさんは夕刻のアーコロジーを移動し、家路に就いた。
本日は9月2日。誕生日までもう少し。それまで、あと一回くらいはゲーム配信もできそうかな。