21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
ついにやってきた誕生日。この日、俺は33歳を迎えた。
次元の狭間に飲み込まれたりしたので、正確な日数計算ではないのだろう。だが、21世紀の12月に次元の狭間送りになり、27世紀の1月にサルベージされたので、今日歳を取ったと主張してもほぼ問題ないだろう。次元の狭間の中は、時間が止まっているというからな。
朝起きて朝食を取ると、不意にヒスイさんに「お誕生日おめでとうございます」と言われる。「ありがとう」と返した。
そして現在朝の9時。俺は、芋煮会参加者達との待ち合わせ場所に向かうため、部屋を出ることにした。
「集合は10時半ですよ。早くありませんか?」
そうヒスイさんに言われるが、このアーコロジーの外から来る人も多い。なので、早めに行って迎えてあげようと思っているのだ。リアルで会ったことのない人もいるしな。
「それじゃあ、今日は遅くなるかもしれないから、ホムくん留守を頼むぞ」
『お任せください』
留守番役の男アンドロイド(AIはロボット用)のホムくんにイノウエさんとレイクの世話を任せ、俺とヒスイさんはカメラのキューブくんをともなって部屋を出た。
今日の服装はおしゃれな婦人服だ。27世紀の女性が普段着る服である。ヒスイさんは誕生日と言うことで俺にドレスを着せたがったのだが、芋煮を料理する必要があるので断固拒否した。
ちなみに調理器具や食材などは全部ニホンタナカインダストリに手配してもらったので、手ぶらでの移動だ。
参加者達にはあらかじめ、誕生日プレゼントは食べ物以外いらないと言ってあるので、何かを持ち帰るということもないだろう。
俺とヒスイさんはキャリアーという公共の輸送機に乗り、待ち合わせ場所に向かった。
ちなみにキャリアーの乗車賃は無料だ。
アーコロジーの中を行く乗り物はすべて自動運転なので、移動速度はすこぶる速い。
さほど待つこともなく、俺達は目的地に到着した。
「はー、いつ見てもすごいな」
俺は、アーコロジーの天井を見上げながらそう言った。
アーコロジーの天井は他の場所とは違い透明になっており、空が見える。
そして、空を突っ切って視界のど真ん中に巨大な塔が伸びている。
「軌道エレベーター前に来るのは、『ヨコハマ・サンポ』以来か。すごいよな」
あまりの迫力に語彙力が低下してすごいしか言えない。
「ヨコハマ・スペースエレベーターは、ニホン国区で唯一の軌道エレベーターです。ここから運び入れられた資源はヨコハマ港に輸送され、惑星テラの各地に送られます」
「軌道エレベーターは、赤道に建設しないと実現は難しいと21世紀では言われていた気がするんだけど、まさか日本に建つとはなぁ」
「技術の進歩のたまものですね」
そんな会話をして軌道エレベーターの入口付近に移動すると、何やら見覚えのある姿が見えた。
「あっ、ヨシムネさん、ヒスイさん! おはようございます!」
行政区の制服を着た赤髪のガイノイド。ヨコハマ・アーコロジーの観光大使、ハマコちゃんである。先に来ていたのか。
「おはようございます」
「おはよう、ハマコちゃん。会うのは花火大会以来かな?」
「そうですね! あ、でも、配信はいつも見させてもらっていますよ?」
ハマコちゃんは今日も元気である。しかし、配信見てくれているのか。嬉しいじゃないか。
俺は、そんなハマコちゃんとさらに会話を続ける。
「ありがとう。それにしてもずいぶん早いね」
「今日は、お仕事お休みしたので、朝から暇だったんです。誘ってくださって嬉しいです!」
「ハマコちゃんにはずいぶんお世話になっているからね」
「楽しみですねー、21世紀の日本文化!」
まだ時刻は9時半にもなっていない。俺とヒスイさん、ハマコちゃんは世間話をして暇を潰した。
そして、10時近くになって、次の待ち人が到着した。
キャリアー乗り場から、最近知り合った三人組がこちらに歩み寄ってくる。
「やあやあ、リアルでは初めましてじゃの。ウィリアム・グリーンウッドなのじゃ」
「おはよう、閣下。リアルでもロリ少女のガイノイドボディなんだな」
グリーンウッド閣下と、家令のトーマスさん、メイド長のラットリーがロボットに荷物を運ばせながら到着した。
「私はアミューズメント施設でも、客に顔を見せることが多いからの。配信と外見は統一しているのじゃ」
「以前の男アンドロイド時代も、美形で人気あったんですけどねー」
閣下の言葉に、ラットリーさんが続けてそう言った。ふーむ、いくらでも見た目をいじれるこの時代でも、美形は人気出るんだな。面白い話だ。
そして、俺とヒスイさんは、トーマスさんとラットリーさんとも挨拶を交わした。
「しかし、ニホン国区への旅行は久しぶりなのじゃ。今日は地方の古い食文化が味わえるとあって、楽しみでしかたがなかったぞい」
「それよりも閣下、まずはお祝いを申しあげませんと。ヨシムネ様、誕生日おめでとうございます」
閣下の後ろから、トーマスさんが俺を祝ってくれた。
「ありがとう。33歳になったぞ」
閣下やトーマスさん達は、ゲスト出演の後もうちのSCホームに幾度かプライベートでやってきたので、彼女達とはすでにタメ口で話す仲だ。いや、トーマスさんとラットリーさんからは敬語のままなんだけどな。
「ヨシムネはまだ若いおじさんじゃの。50歳を越えると誕生日とかどうでもよくなるのじゃ」
「いやあ、俺も30歳越えたあたりからどうでもよくなっていたぞ。ただ、今回は芋煮会をする口実に誕生日を使っただけだ」
正直、歳取るのが嬉しいのって20歳までじゃないか?
アンチエイジング技術が進んだ未来の世界では、そのあたり違うのだろうか。
そうして会話しているうちに、さらなるメンバーが到着する。
「ヨシムネさん、本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「ああ、チャンプ。これはどうもご丁寧に」
チャンプことクルマ・ムジンゾウ率いる、来馬流超電脳空手の先生達だ。
三日に一度のVR空手教室で見知った、師範や師範代達の姿が見える。数は全部で10人。軌道エレベーターの中から出てきたので、惑星テラ外から来た人もいるのだろう。
そして、その中にちょっと意外な人物が見てとれた。リアルで会ったことのない人だが……このでかい乳は見覚えがある!
「ミズキさん、来たんだ」
「ええ、クルマに誘われたので。ちなみに本名はミューズです」
『St-Knight』の現チャンピオン、ミズキさんだ。彼女は確か惑星マルス近くのスペースコロニー在住だったはずだ。わざわざ来てくれたのか。しかし、リアルの姿も胸がでかいな……。虚乳じゃなかったとは驚きだ。
「ミューズさんだったのか。でも、今日は配信するから本名は止めておくか。ミズキさんって呼ぶぞ」
「かまいません」
「お友達をお誘い合わせの上、ご参加くださいと言われたので、誘ってみました」
俺とミズキさんの横から、チャンプが微笑してそう言った。
「今回は、道場の下見も兼ねています」
ミズキさんが、そうどこかつんけんとした様子で言う。
「道場の下見?」
俺が疑問を投げると、ミズキさんが答える。
「現実世界にある空手道場の門下生に誘われているのです。正直、門下生になる程度のことで惑星テラへの二級市民の移住申請が通るとは思わないのですが……」
「通るんですよね、これが。ミズキさんは指導員候補だから、将来の準一級市民として扱ってもらえるんですよね」
そうチャンプが言葉を被せてくる。そうかー、道場にゆるゆる通っている俺とは違い、ミズキさんは本格的なんだな。
「惑星テラへの憧れなどありませんが、全ては強くなるためです。移住が必要なら移住します」
うーん、ストイック。ミズキさん、若いなりに引き締まった身体をしているようだから、リアルでも運動の経験があるんだろうな。
しかし、来馬流超電脳空手、顔ぶれがなかなかに混沌としているな。
人種はバラバラだし、アンドロイドもいるし、胸が異様にでかい人もいるし、なぜだかメイドさんの格好をした人までいる。チャンプだって、背も筋肉もすごいのなんの。これが全員、日本の芋煮を食べるのか……。ワールドワイドになったもんだな、芋煮も。
ちなみに今回は、リアルで食事を食べられるメンバーだけ呼んだとのことだ。でかい道場だよなぁ。
さて、残るはニホンタナカインダストリのメンバーと、ミドリさん、サナエだ。
「お姉様ー!」
おっと、サナエが来た。今日は行政区の制服ではなく、落ち着いた婦人服を着ている。ヒスイさんは制服なのにこの意識の差よ。
サナエは小走りで走り寄ってきて、こちらに抱きつこうと両腕を広げる。
「断固阻止!」
だが、その後ろから勢いよく追いすがったミドリさんが、俺とサナエの間に割って入り、そして俺に抱きついてきた。
「あーん、久しぶりの生妹!」
「おお、ミドリさん、リアルじゃ久しぶりだな」
俺も軽く抱擁を返した。やわらけえ。
「ちょっとミドリ!? 感動の再会になにしちゃってくれているんですか!?」
ミドリさんの背後でサナエが
まあまあ、落ち着け落ち着け。
俺はミドリさんから離れると、あらためてサナエの前に立った。
「サナエ、この間ぶりだな」
「お姉様ー!」
サナエが勢いよく飛びついてきた。俺は腰に力を入れてそれを抱き留める。ちょっとこれ、未来視なかったら押し倒されていたんですけど!?
「むー、私の妹になにするかー!」
「はい、落ち着いてください」
またもや割って入ろうとしたミドリさんをヒスイさんが止めてくれた。
うーん、しかし抱擁長いな。俺はサナエから離れようとするが、サナエは俺の腰に抱きついて頭を俺の胸にぐりぐりとこすりつけている。子供かお前は。
サナエの抱きつきは一分ほど続き、ようやく解放された。周囲の俺達を見る目が温かい。なんだってんだ畜生め。
そんなやりとりをしているうちに、時刻は10時半に。
すると、車道に二階建てバスに似た車輌が一台止まった。
その車輌から、一人の男性が降りてくる。タナカさんだ。この人、休みの日まで白衣なのな。
「やあ、おはよう。全員来ているかな?」
「おはよう。ニホンタナカインダストリのメンバーがあれに乗っているなら、全員だな」
タナカさんの挨拶に俺が答えると、タナカさんは周囲を見回して、大声で言った。
「それじゃあ、芋煮会参加メンバーは、あのバスに乗ってくれるかな。挨拶はあらためて車中で行なおう」
タナカさんに促されて、俺達はバスへと乗り込んでいった。
「ヨシムネくんは主役なのだから、一番前でね」
タナカさんにそう言われて、俺は本来ならば運転席のある場所に座らされた。自動運転なので、ここも座席だ。
と、前の席には先客がいたようだ。見覚えのあるようなないようなそんな顔の男女が二人。
「えーと、第一アンドロイド開発室の人ですか? 今日はよろしく」
「いえいえー、私、開発室違いますよ」
「えっ」
まさか部外者? タナカさん、何連れてきているの。
「失われた地球の文化の復興、その場面に私が顔を見せない理由があるでしょうか? いえ、ない!」
……えーと。
「あらためまして、お久しぶりです。スフィアですよ」
「えっ、マザー!? なんでいるんですか!?」
かつてVR内で会った幼い少女の姿とは違う、20歳ほどの姿をしたマザーが、座席に座っていた。
「いけませんか?」
「いやあ、いけなくはないですけど、普通呼ばれていない誕生会には来ないでしょう」
俺はちょっと呆れて、そう言葉を返した。
「お友達をお誘い合わせの上、ご参加くださいー。はい、実は私、ゲンゴロウとはお友達なんです」
ゲンゴロウとは、タナカさんの名前だ。なるほど、そういうことなら納得だ。
「で、そちらの見覚えのある気がする人は……」
白衣を着た浅黒い肌の青年だ。
「やあ、顔を合わせるのは初めてかな? マクシミリアン・スノーフィールドだ」
マックスじゃん! スノーフィールド博士じゃん! なんでここにいるの!?
「もしや博士もタナカさんの友達とかいう……」
「いや、違うなぁ。彼の祖先とは親友だけど」
え、じゃあどういう経緯でここにいるの?
「お友達をお誘い合わせの上、ご参加くださいー。私のお友達なので呼びました。ヨシムネさんの配信にも、視聴者として参加したことがある人ですよ」
「友達の友達は想定していなかったなぁ……」
それやると、際限なくなるぞ。
「だよな。俺も、無茶言うなよってスフィアに言ったんだけど。……
スノーフィールド博士がそう言うと、後部座席から「別に呼んでないのじゃー」と閣下の声が上がった。
そんな突然の乱入者に、俺の下した判断はと言うと。
「うーん、まあ、現地での配信が面白くなりそうなので、よしとします!」
「やりましたー。勝ち取りましたよ、マックス」
「すまないね。あらためまして、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます……」
大物二人の登場に、ちょっとびっくり。
だが、芋煮の材料は十分にある。是非とも楽しい芋煮会にしたいものだな。