21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
バスがアーコロジーの外を進む。無秩序に生い茂った草木に対し、バスはタイヤを使うのではなく浮遊することで乗り越えていった。
「ちなみに、ちゃんと事前にヒスイちゃんとゲンゴロウには、参加の許可を得ていたんですよ」
隣の席に座るマザーがそんなことを言ってきた。
「それをなんで俺が知らないんです?」
「ふふふー、サプラーイズ」
「サプライズは俺が喜ぶ方向でやってほしいですねぇ……」
「あれあれ、スフィアちゃんの参加嬉しくないですか?」
「嬉しいとか嬉しくないとか、そういうことが言えるほど交流ないでしょう、俺達……」
「ああー、好感度が足りていません! 今日の芋煮会でヨシムネさんルートを攻略しなければ」
「俺はギャルゲーのヒロインでも、乙女ゲーのヒーローでもないですからね?」
そんな会話をマザーと繰り広げている間に、バスは無事に目的地へと到着した。
多摩川沿いの河川敷。砂利が敷き詰められている格好の芋煮ポイントだ。ここ数日は雨も降っていないし、突然の増水もないだろう。
バスの後方を付いてきていた貨物車も河川敷に到着し、中から出てきた作業ロボットが仮設のキッチン等を用意していく。
それを眺めながら、俺はバスから降りて河原に足を踏み入れる。周囲を見回すと、何やらバスから降りた幾人かの人達が怯えているようだ。
その人達の共通点を見ると……耳にアンテナが付いていない。アンドロイドではなく人間だってことだな。
俺は、怯えている人の代表格であるミズキさんに事情を聞いてみた。
「どうした、みんな腰が引けているっぽいけど」
「ヨシムネは平気なのですか!? あんなに大量の水が流れています!」
「ああー、そういう……」
未来人に植え付けられた危険物への恐怖シリーズ。
刃物、火、流れる水(NEW!)。
「ヨコハマ・アーコロジーの海水浴場では、普通に客が入っていたんだけどなぁ」
「海水浴場は管理されていて流される心配がないでしょう。自然の川はもし流されたら、死体が海まで運ばれて、魂がサルベージされないかもしれません!」
「ああー、そりゃ怖いわ。じゃあ、川からは極力離れてやろうか」
「それでも近くに川があるという事実に、根源的恐怖を感じます……」
うーん、何者も恐れないって感じのミズキさんも、未来人の標準的感性を持っていたのだなぁ。
一方で、チャンプは平然として、手荷物をバスから運び出している。
「チャンプは川、平気そうだな?」
俺がそう聞くと、チャンプはにっこりと笑って答えた。
「来馬流の後継者として、幼い頃から自然の中で鍛えてきましたからね。山ごもりとかもしました」
「なにそのお金のかかりそうな修行」
「そうなんですよねぇ。アーコロジーの外で修行するのは費用の関係上、後継者しかできないんです。もっと、多くの指導員にさせたいのですが」
「私は絶対にやりません!」
心底恐ろしい、といった様子でミズキさんが叫んだ。ミズキさん、典型的コロニーっ子だろうから、観光目的以外で自然の中に放り込まれるのは恐怖でしかないだろうな。この時代は、自然の中に野生動物とかわんさかいるし。
「みなさん、安心してください!」
俺がチャンプ達と話をしていると、マザーが突然大声を上げた。
「今日は特別に、川にエナジーバリアを張ってありますので、流される心配はゼロですよ。安心して芋煮してくださいね」
マザーがそう言うと、川と河原の境界線上に、半透明の障壁が出現した。
その障壁は高さ5メートルほどもある。あれならば、川にうっかり落ちることもないだろう。
それはそれで、料理中に炎上しても川の水で消火とかできないってことだが。まあ、消火くらい、ニホンタナカインダストリが用意した作業ロボットがやってくれるだろう、多分。
障壁は、10秒ほどでまた見えなくなった。見えないがそこには存在しているのだろう。わざわざマザーは川に近づいて、見えない障壁をぺちぺちと叩いて見せた。
それを確認した人間達は、安心したように胸をなで下ろした。
しかし、スペースコロニーやアーコロジーには生活圏に流れる水なんてないはずなのに、自然の水への恐怖が植え付けられているとか、どういう状況を想定しているんだろうな。自然界への観光時に危険があるとかだろうか。
さて、そんなことをしている間に、ロボット達の作業が終わったようだ。
俺は、設営の終わった仮設キッチン等を一通り見て回り、問題ないことを確認してから、キューブくんを近くに呼んで周囲に大声で言った。
「それじゃあ、予定時間が近いので、そろそろライブ配信始めるぞー!」
「おー!」
元気よく返事を返してくれたのは閣下である。さすが同じ配信者、ノリがよい。
ヒスイさんが近づいてきて、「開始三分前です」と知らせてくれる。
そして、何事もなく三分が過ぎ……。
「どうもー、今日はリアルからお届け、21世紀おじさん少女のヨシムネだよー」
「ヨコハマ・アーコロジー近くの多摩川沿いからお送りしています。助手のヒスイです」
『わこつ』『ヒャッハー! 新鮮なわこつだぁー!』『んん!? そこ自然の河原か』『すごいところにいますね』『背景の人達平気なのか』
うん、今日も元気なわこつで大変よろしい。
俺は、コメントを拾って川沿いにいることに言及した。
「今日は芋煮会! 別に芋煮会は河川敷でやるというルールはないんだが、野外料理は河川敷の方が雰囲気出るから、わざわざアーコロジーを出て多摩川までやってきたぞ。ちなみに、川にはマザーがエナジーバリアを張ったので、安心安全だ」
『マザーおるの!?』『アーコロジーの外で配信とか、めっちゃお金かかっているなぁ』『おお、それなら安心して自然の風景を楽しめる』『惑星テラの貴重な野外シーン!』
「本日の芋煮会の費用は、全てスポンサーのニホンタナカインダストリが出してくれている。ありがとうタナカさん!」
俺がそう言うと、後ろの方から「どういたしまして」と声が聞こえてくる。
『あっ、飯屋の人もいるんだ』『焼肉回で今日来るって言っていたやん』『大企業の御曹司が飯屋の人扱い』『他にどんな人が来ているの?』
「今日の参加者は、マザー・スフィアにタナカさん達ニホンタナカインダストリの第一アンドロイド開発室室長の人達、チャンプ率いる超電脳空手教官陣プラスミズキさん、グリーンウッド閣下とその家令とメイド長、お馴染みハマコちゃん、ミドリシリーズ代表でミドリさんとサナエ、それとなぜかマクシミリアン・スノーフィールド博士だ!」
『オールスターすぎる……』『マックスいるのかよ! お前ただの視聴者だろ!』『配信でリアルのマザー見るのは初めてかもしれない……』『リアルのマザーって養育施設以外にも出没するものなんですね』『大丈夫? これ最終回だったりしない?』
「最終回じゃないぞ。もうちっとだけ続くんじゃ。こんなにメンバー豪勢なのは、それだけ俺の誕生日を祝ってくれる人が多い……わけじゃなくて、こっちから招待しまくったからだな。あ、スノーフィールド博士は、さすがに俺は呼んでいないぞ! マザーが呼んだ」
『誕生日おめでとう、ヨシちゃん』『おめでとう』『おめでとう!』『おめでとー!』
「ありがとう。まあ、この歳になって今更歳を取ること自体は嬉しくはないんだけど、祝ってくれるのは嬉しいぞ。さて、挨拶はここまでにして、芋煮の準備、始めていくぞー!」
俺は気合いを入れてそう言った。すると、こちらに閣下が近づいてくる。荷物を持った作業ロボットを引き連れてだ。
「おっと、料理に入る前に見せる物があるのじゃ。皆の者、ウィリアム・グリーンウッドじゃ。ヨシムネと同じゲーム配信者をしておる」
『閣下だ』『うおー! 閣下! 閣下!』『あなたの下僕です! ブヒィ!』『ヨシちゃんがゲスト出演しにいったところの人か』
「うむ、よろしくの。それでの、ヨシムネ。今日は誕生日プレゼントを持ってきてあるのじゃ。トーマス、頼む」
閣下が背後のトーマスさんに目配せをした。誕生日プレゼントか。なんだろう。食い物以外はいらないと言ったから、食い物なのだろうが……。
「こちら、オーガニックの豚で作った、生ハムでございます。是非芋煮に合わせて皆様でご賞味ください」
トーマスさんが鞄の中から、透明なフィルムに包まれた生ハムを取りだして、こちらに見せてきた。生ハム、しかも原木である。
「生ハムの原木とか初めて見たぞ……」
「これをつまみにワインを飲むのが最高に美味なのじゃ」
驚く俺に、閣下がそう嬉しそうに言う。そして、メイド長のラットリーさんが、さらに鞄の中から瓶を一つ取りだした。
「閣下のアミューズメント施設でも人気のブリタニアワインを今日は20本持ってきましたよー! ロボットに預けておきますので、みんなで飲みましょうー」
「これは……ありがたい。飲み物は適当にお茶とかジュースは用意していたが、騒ぐなら酒類も必要だったな。よーし、今日は配信中のアルコールを解禁しちゃうぞー!」
俺がそう喜んでいると、今度はチャンプ達が近づいてきた。
「ワインもいいですが、ぜひとも実家が経営している酒蔵の日本酒を味わってください。純米大吟醸の『覇王来馬』です。貴重な酒なので少ないですが、樽で一つ持ってきました」
「なにっ、純米大吟醸とな!? ありがとう。でも、俺は結構日本酒の味には厳しいぞ」
『今から酒でぐだぐだする未来が見えるぜ』『日本酒という酒は聞いたことないなぁ』『『覇王来馬』の意味を調べてみたら、武の王のクルマとか出てきたんだけど……』『チャンプのことやん!』
あー、固有名詞は自動翻訳されないっぽいからな。わざわざ調べたのか。
そしてさらにチャンプは言う。
「野外で気軽に食べられる品として、焼き鳥の材料も持ってきました。料理は親に仕込まれていますので、こちらで作っておきます」
「おー、チャンプ料理できるのかー。すごいなー」
「それと、ミズキさんから」
チャンプがそう言うと、ミズキさんが荷物を作業ロボットに持たせて前に出てくる。
「以前、『Stella』の登山でヒスイに食べさせてもらったチーズフォンデュが美味しかったので、材料を持ってきました」
ああ、ミズキさん、あのときちゃっかり食べていたんだ。
「私は料理ができないので、ロボットに作らせます」
「ミズキさん、そこは料理に挑戦してみようぜ」
俺がそう言うと、ミズキさんは「えっ」という顔になった。
「俺は芋煮に忙しいから、空手道場の人達に見てもらいなよ。レシピは控えているか?」
「レシピは一応ありますが……」
「頑張れ頑張れ」
そうして、超電脳空手道場の面々は仮設キッチンの方へと向かっていった。
次に来たのは、ハマコちゃんだ。というか、順番待ちが起きているな。みんな食べ物をプレゼントとして持ってきたのか? 律儀だなぁ。
「私からは、ヨコハマ・アーコロジー銘菓、『
『120年とかすげー数字が出てきたぞ』『ハマコちゃんいったい何歳なんだ……』『うーん、銘菓よりハマコちゃん本人の方が気になる』『もしかしてずっと観光大使を……?』
「私の製造年ですか? 西暦の2312年です!」
「ええっ……?」
「太陽系統一戦争の最中ですね……」
俺が驚きの声を上げると、ヒスイさんが横で驚きながらそう教えてくれた。視聴者コメントも一様に驚きの声で埋まる。
今は宇宙暦299年の西暦2630年だったはずだから、318歳……?
「『浜の梨心』、ワインに合いますので、グリーンウッド閣下のワインと一緒にお楽しみください!」
「あ、うん。うーん……」
ハマコちゃんは銘菓の紙箱をキューブくんの方に一通り見せびらかすと満足したのか、下がっていく。
そして、その後も食べ物の提供は続き、タナカさんからはシブヤ・アーコロジーの料理店に作らせたというオードブル、サナエからは今朝握ってきたというおにぎり、そしてミドリさんは大量のビールと一緒にバーベキューの用意をしてきたとか言いだした。
最後のマザーとスノーフィールド博士は、惑星マルスでしか採れない野菜を持ってきたというので、これまた持ち込んだマルス牛の肉と一緒に鉄板焼きにするのだとか。
以上で、誕生日プレゼントという名の本日のサイドメニュー紹介が終わった。
ここで、俺からコメントを。
「みんなありがとう。でも、料理多すぎてサイドメニューの域を通り越してないか? これじゃ芋煮が主役じゃなくなりそうだぞ。お前らちゃんと芋煮食えよ?」
俺のその言葉に、みんなは笑って仮設キッチンの方へと向かっていく。
くっ、いや、大丈夫だ。山形の芋煮は他の料理に負けない!