ガンダム ビルドダイバーズレムナント   作:みくろん

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第一話 残滓

 「出来た……」

 

ある日の深夜。少年……田堂イツキは一人、自室で感慨深げに声を漏らした。

 

 「初めての、ガンプラ」

 

塗料やプラスチックの削りカスに汚れた手で。まるで宝物を慈しむかのように。それを、手にする。

 

「僕の。僕だけのガンプラ。……レムナント、ガンダム」

 

今日、この日。この場所で。残滓の物語が、幕を開けた。

 

 

 

 その翌日。妙に長く感じられてしまう授業の時間がすべて終わった。放課後となると、クラスメイト達は部活へ向かう、家路を急ぐ、友人と遊びに出向く等と、思い思いに過ごし始める。そんな中。

 

「ふあ、あぁ~」

 

 

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イツキは眠気に抗うように、大きなあくびをしていた。昨夜は夜中までガンプラ作りに励み、そして無事完成にたどり着いた興奮で、結局一睡もしていなかった。しかし根がまじめなイツキは授業中の居眠りを良しとせず、眠気に抗いながら今日一日を乗り切ったのだった。出来ることならば、今すぐこの場で眠ってしまいたい程だった。

 

 「よーイツキ。大丈夫か?」

 

そんなイツキに対し、どこかからかうような口調で話しかける一人の男子生徒がいた。

 

「あ、ジロウ」

 

阿礼ジロウ。イツキのクラスメイトであり、同じくガンダムを趣味とすることから意気投合した友人。わずかに緑がかって見える、毛質の固い黒髪の少年だ。

 

 

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 「ちょっと夜更かし……ていうか、徹夜しちゃって」

 

「珍しいな。大丈夫か?」

 

「うん。今日はダイバーギア買ったら寝るつもり……」

 

途端。バン!と机を叩く音が響く。その音に驚いた数人の生徒が二人に目を向けるが、机を叩いた当の本人、ジロウは目を輝かせ、イツキに詰め寄る。

 

 「ってことは作ったのかよガンプラ! よし行こうすぐ行こう! ダイバーギア買うぞ! ログインするぞ!」

 

「うん。でもログインは少し寝てからぁぁぁぁぁあ!」

 

イツキの悲鳴はテンションが最高潮に達したジロウには届かず。体が浮くのではないかという勢いで手を引かれ、教室を、学校を後にすることになった。

 目指すは、地元唯一のホビーショップ「くらっしゅ」。

 

 

 

 「というわけでおっちゃん! ダイバーギア一つ! 持ち合わせ無いからツケで!」

 

「プラモ屋でツケなんてきかないよ!?」

 

「いらっしゃい。良いですよツケで」

 

「居酒屋じゃないんだから!?」

 

カウンター越しにのんびりと笑みかけるのは、灰色の髪をした、やや肥満体系の中年男性だった。随分とおおらかな性格をした彼が、このホビーショップ「くらっしゅ」の店長らしい。

 

 「さすが店長! 話が分かるぜ!」

 

こうして無事に? ダイバーギアを手に入れたイツキは、眠気に抗いながら帰路につくのだった。

 

 

 

 ジロウから「今夜9時、ロビー集合な!」と約束を交わしたイツキは、自室の端末の前で準備を進めていた。あらから少しだけ眠り、シャワーを浴びた事で頭は多少すっきりしていた。

 

 「よし、機器は兄さんのお下がりがあって助かった」

 

離れた地で大学に通う兄、田堂マサルは浪費家というか。物を次々に買い替えるという癖があった。そのため、このGBNにログインするための機器も、最新ではないものの、充分な性能を持つものが一式揃っていた。

 

 GBN、ガンプラバトルネクサスオンライン。それは自分のガンプラをデータとして読み込み、オンライン上でバトルするという、画期的なゲームだ。

 

 数年前はGPデュエルという、ガンプラを直接動かしてバトルするものもあった。しかし実際にガンプラを持ち寄るという手間、大掛かりな機器、バトルの結果でガンプラが破損するといった問題があった。

 それを解決したのが、GBNであった。オンライン上であるため、ログインすれば国内はおろか、海外のプレイヤーとも交流できる。ログインには専用の機器を用いるか、設備を備えた店舗からいつでもログイン可能。そしてガンプラはデータ上でバトルするため、実際に破損することはない。

 こういった点から、GBNは瞬く間に普及、流行していった。

 

 ダイバーギアに置かれた自分のガンプラ……レムナントガンダムの姿を見る。

 ベースはガンダムDXと、ガンダムウイングゼロ。しかしその姿はごくシンプルで、特徴的な背部のウイングやサテライトキャノン、手持ちのバスターライフルも見当たらない。

 だがその立ち姿は、今のイツキにとって、何よりも愛しく、何よりも心強いものだった。

 

 (行こう、レムナント。どこまでも。どこへでも!)

 

心の中で告げると、イツキはバイザーを装着し、GBNの世界にログインする。

 

 『DIVE START NOW!!』

 

電子音声が伝える。意識がダイブする。初めての感覚に、胸が高鳴る。

 

(これがGBN……!)

 

一瞬の後。イツキは先ほどまでとは異なる姿……アバターでGBNの世界に降り立った。

 顔や髪形を特に変更することなく、服装は青を基調とした、どこか民族衣装のようなものを選んだ。モデルはZZガンダムに登場するものだったか。

 

 瞳を開けば、目に映るのは白を基調とした未来的で広大なロビー。中央にあるのがミッションカウンターだろうか。そこから視線を上げれば、様々なイベントの告知やバトルの様子が映し出されるモニターが。

 そこでは一つとして同じ物のないガンプラが。景色が。世界が見えた。

 

 「うわ、うわぁ……!」

 

イツキは瞳を輝かせ、ただその光景に魅入っていた。そんな時。

 

 「よぉ! 見たところ初心者だろ?」

 

「うぇ?」

 

突然声を掛けられ、反射的に振り向く。

 

 「いいクエスト情報売るぜ? 今なら限定アイテムも……」

 

(だ、誰!?)

 

そこにいたのは、くすんだ金髪の、どこか軽薄で粗野な印象を受ける男……見知らぬダイバーだった。

 

 「なぁ、買わねぇか? 安くしとくぜ?」

 

にやり、と笑いながら詰め寄ってくる男に、イツキは戸惑いながら一歩後ずさる。その時。

 

 「ヤスさーん。マギーさん呼ばれてぇのかよ?」

 

聞こえてきたのは、どこか聞き覚えのある声だった。

 

 「てめぇ……レイジロウ!」

 

そこに立っていたのは、軍服のような服装に身を包んだ少年だった。モデルは鉄血のオルフェンズに登場する、ギャラルホルンの制服だろうか。

 

「もしかして、ジロウ?」

 

その顔と声には、確かに覚えがあった。級友であるジロウ、まさにそのものだったからだ。

 

 「今はレイジロウ、な。やっぱイツキだったかよ」

 

にやり、と笑うレイジロウ。その笑顔は間違いなく、友人である阿礼ジロウのものだった。

 

 「商売の邪魔しやがって! 覚えてろ!?」

 

「ヤスさんも、マギーさんの忠告ちゃんと覚えとけよー?」

 

捨て台詞とともに去り行く背中に告げると、さて。と改めてイツキへと向き直るジロウ。

 

 「改めて、レイジロウだ。よろしくな、えっと……」

 

「あ。僕はイツキ。イツキのままだよ」

 

GBNのプレイヤーであるダイバーには、ダイバーネームというものが設定される。それはガンダム世界のキャラクター名を模したものだったり、実名を捩ったり。まったく関係のないものだったりと様々だ。

 

 「実名かよ。ま、別に問題もないか」

 

「ジロ……レイジロウだって。ほとんど実名じゃないか」

 

「違いねぇ」

 

互いに顔を見合わせて、くっくっく、と笑いあう二人。ひとしきり笑いあうと、さて、とレイジロウが切り出す。

 

 「じゃあどうする? 初心者用のチュートリアルミッションでも請けるか?」

 

「うん。じゃあお願い」

 

「ならカウンターだな」

 

広大なロビーの中央にあるカウンターでは、受付の女性NPD……ノンプレイヤーダイバーと呼ばれる存在が、微笑みを浮かべて待機していた。このNPDはある程度の自由度を持つ対応が可能であるものの、一定の反応を返し続ける。いわばゲームの「村人」のような存在だ。

 

 レイジロウは慣れた様子でミッションを選択し、イツキと共に受注する。内容はチュートリアルバトル。リーオー三機の撃破が目標となっている。

「よし、じゃあハンガーに移動な」

 

「あ、うん。歩いて行くの?」

 

その言葉に、レイジロウはにやりと笑みを浮かべ、手元のパネルを操作する。すると、途端に周囲の景色が移り変わり、無機質で、ガンダム世界のモビルスーツデッキを思わせる景色となる。

 

そしてそこは、モビルスーツデッキを思わせる、などという物では無かった。

 

「あ! 僕のレムナント!」

 

そこに立っていたのは、ガンプラサイズから実際のモビルスーツサイズまで巨大化したイツキのガンプラ。レムナントガンダムの姿があった。

 

 

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 「すげーな。ウイングゼロとダブルエックスのミキシングか? 火力ヤバそうだな!」

 

「あ、あはは。初めてだから、上手く出来たか分からないけど……」

 

レイジロウは真剣な目つきでレムナントガンダムを眺め、不意に快活な笑みを浮かべる。

 

 「いいんじゃね? 綺麗にできてるよ」

 

「……! ありがとう! レイジロウのガンプラは……」

 

レムナントガンダムの隣。そこには歴戦の兵を思わせる、一体のガンプラが佇んでいた。

 

 

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 それは、グレイズをベースに改造が施されたガンプラだった。増設された多数のバインダーと、何より巨大なブレードアンテナが目を引く機体。

 

「おう! 俺のレイズグレイズだ!」

 

誇るように胸を反らし、レイジロウは告げる。

 

 「すごいなぁ。やっぱり、レイジロウはフォースとか所属してるの?

 

フォース。それは同じ趣味や思想などを持ったダイバーが集まって作り上げるチームのことだ。フォースでしか受けられないミッションや、他フォースとの同盟など。メリットは多数ある。

 

「あー。まぁ。とりあえず今はミッションだ!」

 

 レイジロウには珍しい、誤魔化すような反応を訝しみながらも、イツキはうん、と頷いた。

 

 

 

 どのガンダム作品とも違う、独特なコクピット。電子的な計器や表示に囲まれ、光球から生えた二本の操縦桿を握りしめ、イツキは胸を高鳴らせる。

 

 ハンガーからカタパルトへ。両足が固定されるわずかな振動を感じると、眼前に「READY」という表示が現れる。それを目にした瞬間、イツキはほぼ無意識に叫んだ。

 

 「イツキ! レムナントガンダム。行きます!」

 

機体が加速し、カタパルトの景色が高速で後方へと流れていく。そしてイツキのレムナントガンダムは、光の中へと飛び込んだ。

 

 「ノリノリだな、イツキのヤツ!」

 

次いでカタパルトに現れたのは、両手にライフルを携えたレイジロウのレイズグレイズ。

 

 「じゃ、俺も。レイジロウ! レイズグレイズ! 出る!」

 

バインダーのブースターを吹かし、一気に加速するレイズグレイズ。そしてその機影もまた、光の中へと飛び込んだ。

 

 こうして、残滓の物語は加速する。その結末がどうなるのか。

 

 せめて、光で満ちているように。

 

 

 

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