数分後。いつものハンガーには、三人の姿と三機のガンプラの姿があった。
あれから結局、マギアからのフレンド申請を受諾し、三人で連戦ミッションへと挑戦することになったのだった。レイジロウ曰く「人数は多いほうが楽」とのことだ。
マギアのランクはCランク。これなら、連戦ミッションで足手まといにはならないだろう、という判断もレイジロウにはあった。
あったのだが。
「マギアさん?」
「……うそでしょ」
「?」
何故か、ハンガーに来てから……というか、イツキのレムナントガンダムを見てから、マギアの様子がおかしかった。二人には聞き取れないような小声で「バレた?」「大丈夫」「でもなんで……」などとつぶやき、頭を抱えて歩き回っている。
「ま、マギアさんのガンプラ、すごいね!」
「もはやファンタジーロボだな。何ベースだ? これ」
対するイツキ、レイジロウはといえば。ハンガーに鎮座する、純白の翼を持つガンプラに興味津々であった。
翼だけでなく、機体色も純白。そして施されたパールコートにより、角度によって煌めいて見える。更には各所に施された装飾により、それは「モビルスーツ」というよりは、魔法で動くロボットのように見えた。
「え? あぁ。グレイズベースよ。レイジロウ君と同じね」
「……は? え、どこが!?」
武骨でいかにも兵器然としたレイズグレイズとの差異に、レイジロウは目と耳を疑った。
「ほら、フロントスカートとか、脚なんてそのままよ」
「ほんとだ。すごい……」
そうこぼしたのは、イツキだった。ガンプラはベースが同じでも、人によってここまで変わる物なのか。改めて、ガンプラの奥深さを見せつけられた気持ちだった。
「それじゃあそろそろ、連戦ミッション出撃しよう!」
「おうよ!」
「ええ、行きましょ!」
そして三人は、各自のガンプラへと搭乗し、カタパルトから出撃する。
「で、今回のミッションは三連続で雑魚の掃討。休憩挟んでボス戦な!」
「難易度はノーマルよね?」
「足引っ張らないように頑張るね!」
今回のミッションエリアとなる荒野。そこにイツキのレムナントガンダム。レイジロウのレイズグレイズ。そしてマギアのマギアグレイズが、それぞれの武器を携え、佇んでいた。
「マギアさんのグレイズ、近接特化型なの?」
見れば、マギアグレイズは装飾の施された実体剣しか武器らしいものを持っていない。
「この子は近、中距離が得意よ。魔法剣士だから」
そう言うなり、マギアグレイズが剣を軽く振るう。そして剣筋に沿って発生した炎が、少し離れた位置にあった岩に直撃。小さくない焦げ跡を付ける。
「なんかSDみてーな戦い方で格好いいな! それ!」
レイジロウは底抜けに明るい様子で、賞賛の言葉を贈る。
「へ、変じゃないかしら? よりによって鉄血の……」
「そんなモン自由だろ! なぁ、イツキ」
「うん! マギアさんのガンプラ、綺麗で格好いいし!」
「その……ありがとう」
「何で礼?」
「?」
イツキとレイジロウは心底不思議そうに首を傾げるだけだった。が、マギアはその様子が何やら面白おかしく見え、笑みをこぼす。
「なんでもないわ! さ、ミッション行きましょう!」
「よく分かんねーけど、おうよ!」
「うん!」
そして三機のガンプラは、荒野を駆ける。
まず現れたのは、デスビースト。機動武闘伝Gガンダムに登場するやられメカ、デスアーミーのバリエーション機体だ。ずんぐりむっくりした上半身に比べ、ほっそりとした四本の脚が特徴の機体だ。
まずはレイジロウが牽制射撃として、ライフルとレールガンによる弾幕を展開する。そして足の止まった敵機を、イツキがビームライフルで仕留める。
「やるわね二人とも!」
「マギアさんも!」
そしてマギアはといえば、空中で華麗に回避運動をとりつつ、電撃や炎による攻撃、剣先から放つ氷での足止めなど、多彩な手札を披露していた。
「俺は牽制に徹してたほうが良いかもな!」
「別に倒してくれてもいいのよ!?」
「ならいただき!!」
レイズグレイズの放つレールガンが、デスビーストの胴体を貫通。イツキたちは一切の被害無しに、初戦を突破した。
そして続く二戦目。ここでもデスアーミーのバリエーション機が登場したが、今度は水中型のデスネービーだった。先ほどの四脚から、下半身が武骨な魚のような形状になっている。
「任せて!」
マギアグレイズが荒野を流れる濁流の上空で剣を構え、何やら力を……魔力を高めていく。するとその機体の周囲には、無数の岩塊が形成される。
「いけぇ!」
その掛け声を合図に、濁った急流めがけて岩塊が一斉に落下……否、射出される。それは周囲の崖を巻き込んで水中へと殺到し、デスネービーを水底へと生き埋めにする。
あとは、身動きの出来ない敵機を狙い撃つだけの作業だった。
そして被害を受けないまま到達した、三戦目。今度もやはりデスアーミーのバリエーション機。巨大な翼を備える、デスバーディだ。
これにはイツキとレイジロウは、多少手を焼くことになった。二人のガンプラも飛行スキルによって、空中戦は可能になっている。しかし、やはり根っからの空戦機に比べれば運動性などに差が出てしまう。
さらに、周囲は隠れる場所の少ない荒野。二人のガンプラは一方的な爆撃を受ける事になった、が。
そこに、雷鳴と共に白い閃光が奔る。マギアグレイズはその純白の翼を羽ばたかせ、縦横無尽に空中戦を行っていた。
もはや独壇場。そう思えたその時だった。
デスアーミー本体を両断するはずだった剣線をわずかに逸らされ、巨大な翼へと刀身が食い込む。そして飛行ユニットから分離したデスアーミーが、マギアグレイズの胴体にしがみついた。
「しまった!?」
いかに空戦型のガンプラとはいえ、急にしがみつかれたのでは失速、墜落は免れない。マギアは必死に上昇を試みるも、翼の根本をデスアーミーに押さえ付けられ、飛行すらままならず落下する。
墜ちる。そう思った瞬間に、一条のビームがデスアーミーの頭部を撃ち抜く。そしてマギアが拘束から抜け出すと同時に、無数の弾丸がデスアーミーを粉砕した。
「マギアさん! 大丈夫!?」
「頑張りすぎだぜ?」
「あ、ありがとう……!」
こうして、三戦目も無事突破し、ひとまずの休息となった。
「いやー。思った以上に楽勝だな」
「マギアさんのお陰だね」
オアシスに隣接した工業施設を模したこの休息エリアでは、ダイバーの休息だけでなく、ガンプラの簡易的な修復も可能となっていた。三機ともこれまでの戦闘では大したダメージも受けておらず、簡易修復でもほぼ完璧な状態となっていた。
「二人がいなきゃ、私なんてさっきやられてたわ」
そして三人はオアシスのほとりで、つかの間の休息を過ごしていた。イツキは煌めくオアシスの湖面をスクリーンショットに収めると、満足そうに「よし」と呟く。
「イツキ君は、なんでGBNを?」
「んー。世界一周の予行練習、かな?」
「素敵な理由ね」
いろんな景色を、世界を見て回りたい。イツキは自分でも思い出せないほど幼いころから、世界一周という夢を抱いてきた。
「そういうマギアは? あ、俺は単にガンプラ好きだから」
「らしい理由ね。私は……気晴らしかな?」
「お、なんか意外と豪快な理由」
「そうかしら?」
そして三人は何となく笑い合い、誰からともなく立ち上がる。
「じゃ、ボス戦行こうか」
「おうよ」
「ええ」
そして三人は修復を終えたガンプラに搭乗し、ボスの登場するフィールドに到着した。だが、そこにあるのはどこまでも続く荒野と、巨大な岩山だけだった。
「何もいないね?」
「待て! レーダーに反応……正面!」
レイジロウが叫ぶのと同時。突如として岩山が砕け散り、このミッションのボスが姿を現す。圧倒的な巨体。天に向かって伸びる巨大な角。人型というより、まるで四足歩行の獣のようなシルエット。それは。
「グランドガンダム!?」
「大物ね!」
ボス……グランドガンダムはその巨大な角から電撃を迸らせながら、三人のガンプラを粉砕する勢いで突進を繰り出す。
「迂闊に近づくと粉砕される……けど!」
「射撃も強力ね……!」
グランドガンダムは伸縮自在の四本の腕に備わったマニュピレーターからもビームを放ち、弾幕で圧倒してくる。遠近共に隙がなく、その圧倒的な装甲の前に、レムナントガンダムのライフルも、マギアグレイズの魔法も通用しない。
そして違和感に気づいたのは、最も経験豊富なレイジロウだった。
「気をつけろ! バグだ!」
「F91の!?」
「そっちじゃねぇ! このボス、バグで強化されてる!」
「嘘でしょう!?」
確認の意味も込めて、レイジロウは最大出力のレールガンをグランドガンダムに向けて放つ。並の機体であれば粉砕する程の威力を持つ銃弾は、しかしグランドガンダムの装甲に傷を付ける事すら無く弾かれる。
「やっぱり……ノーマルのボスなら、今のでノーダメージはありえねぇ!」
「そんな!?」
レイジロウの射撃に苛立ったかのように、グランドガンダムは広範囲に電撃をばら撒きながら突進を始める。三人は完全な防戦一方に追い込まれてしまった。
「リタイア……するしか」
「そうしたいのか?」
「え?」
マギアが諦めと共にこぼした言葉を、レイジロウが遮り。
「したくない!!」
「だよな!」
イツキが否定する。
だが、どうするのか。相手の圧倒的な攻撃をかいくぐり、無敵とも思える装甲を、どう貫く?
「イツキ! 足止めを頼む! マギアも!」
「わ、私も!?」
「チームだろうが!」
レイジロウの発破に、マギアも覚悟を決める。それに応えるように、マギアグレイズは大きく羽ばたき、グランドガンダムに挑みかかる。
「凍らせて足を止めるわ! イツキ君は攻撃を引き付けて!」
「わかった!」
イツキは出来るだけグランドガンダムの注意を引くよう、頭部へとライフルを連射する。狙い通り、グランドガンダムの狙いはイツキに絞られた。
「十秒待て! 行くぞザイン!」
『了解。射撃補正を開始します』
「誰!?」
レイズグレイズから聞こえた、無機質な女性の声。しかし今はそちらに気を取られている場合ではなかった。
「ライフルが!」
不規則な電撃がレムナントガンダムのライフルに被弾し、誘爆する。
「凍りなさい!!」
マギアグレイズが剣を盾に一閃。巨大な冷気の斬撃がグランドガンダムに直撃すると、その巨体が氷に包まれていく。だが、その氷にも一瞬で亀裂が走り始める。
「なんてパワー……!? きゃぁ!」
「マギアさん!」
粉砕された氷のつぶてが、マギアグレイズに襲い掛かる。マギアは咄嗟に防御するも、その質量に耐えられずにバランスを崩し、地面へと墜落してしまう。
そしてグランドガンダムは何かを感じ取ったのか、レイズグレイズを視界に収め、全力の突進を開始する。
「まず……!?」
だが、その二機の間に飛び込む機体があった。
「さ、せ、る、かぁぁぁぁぁ!!」
イツキのレムナントガンダムだ。だが圧倒的な巨体を誇るグランドガンダムの突進。レムナントガンダムの細身では、到底止められるはずも無い。辛うじて両腕で受け止め、両足で荒野を踏みしめるも、突進は止まらない。
このまま、レイズグレイズもろともにひき潰されるだろう。
かと、思われた。その時。
「レムナントぉぉぉぉぉぉ!!」
イツキの叫びに呼応するように、レムナントガンダムの両手足に備えられた放熱フィンが展開。
それは、レムナントガンダムが全ての出力を解放した証だった。
機体が吼える。負けるものかと。
炎が猛る。それは、放熱フィンですら処理しきれなかった圧倒的出力による発熱。
そして、ついに。
レムナントガンダムの両腕が、両足が。熱に、衝撃に、圧に耐え切れず、粉砕する。
「よく耐えたぁ!!」
『照準補正。ダインスレイヴ、撃てます』
見れば、レイズグレイズのレールガンが展開し、その長砲身を更に延長していた。更にその先端に備わった、巨大な鉄杭。
ダインスレイヴ。巨大な希少金属製の杭を、音速の数倍で電磁投射するという、鉄血のオルフェンズに登場する禁断の兵器。その威力は、地形を変えるほど言われる。
その暴力が、今。
「放てぇ!!」
グランドガンダムに向け、発射された。まるで金属同士が衝突したような独特の音が響き渡り。
そして、静寂。
『対象、撃破を確認』
グランドガンダムは首関節部から胸元までを、ダインスレイヴの圧倒的破壊力によって蹂躙、粉砕されていた。そして数秒。上空から頭部が地面に落下するのを皮切りに、その巨体を荒野に沈めるのだった。