バグによって異常強化されたグランドガンダムに勝利した三人は、その日は精魂尽き果てた様子で再会を約束し、それぞれにログアウトしていった。
そして現実世界に戻ったイツキは、レムナントガンダムを真剣な眼差しで見つめる。そして何かを決心した様子で端末を操作し、ジロウに連絡を取った。
翌日。休日である今日、イツキとジロウの二人はプラモ屋「くらっしゅ」を訪れていた。尚、ツケはきちんと支払っておいた事を明記しておく。
「で。まだ開店前、と」
「まさか昼過ぎからなんて……」
そう。既に正午を過ぎているというのに、くらっしゅは営業開始していなかった。
店の扉には「私用のため午後二時より営業します」という手書きの張り紙。本当に、急な用事だったのだろうと分かる殴り書きだった。
営業前ではどうしようもないので、二人は手近な店で昼食を取ろうと決めた。
「ねぇ、ジロウ。ザインって誰?」
「なんか浮気を問い詰める彼女みたいな切り出し方だな」
十数分後。二人は有名なハンバーガーチェーン店で思い思いのメニューを注文していた。注文内容としては、全体的にジロウのほうがボリュームのあるメニューを選んでいた。というよりは、イツキが少食なのかも知れないが。
「ザインってのは……まぁ、コイツだな」
そう言ってジロウがポーチから取り出したのは、愛機であるガンプラ、レイズグレイズだった。
鉄血のオルフェンズに登場するグレイズをベースに、頭部の大型アンテナ。両腕に装備されたシールドバインダーに、増設された背部サブアーム。そして腰部のブーストバインダー。成形色を活かしたグリーンのガンプラだ。
「GBNでCランク以上になると、必殺技を覚えられるようになるのは知ってるよな? 俺のはザインがソレなんだよ」
必殺技。それはGBN内での戦闘データの傾向を基に、ダイバーごとに習得する自分だけのスキルだ。
「話し相手が必殺技? ジロウ……もしかしてフレンドが」
「いや居るから! ロンメル隊にも大勢いるから!?」
「え。前のフォースって……第七機甲師団!?」
第七機甲師団。GBNナンバー2の戦績を誇るフォースであり、リーダーのダイバーネームから「ロンメル隊」とも呼ばれる、ジオン系ガンプラを愛用するダイバーを中心に構成されたフォースだ。
そして、現在ジロウはフォースに所属していない。それはつまり、何らかの理由で第七機甲師団を脱退したという事実に繋がる。
「それはいいんだよ! 今はザインの話な?」
「あ、うん」
はぁ。とため息をつき、そして紙コップに入ったコーラを一口。
「俺のグレイズな。サブアーム付けたはいいけど、操作が複雑すぎてよ。オート操作にしてたんだよ」
そう言いながら、ジロウはレイズグレイズの背中のサブアームを展開させて見せる。上下左右、自在に動くサブアームだ。
「で、気づいたらサブアームだけじゃなくて機体の補助までするようになってよ。こわいなー。変だなー。って。そしたらですね。出たんですよ。必殺技って」
「何で最後辺りホラー調なの?」
「それでね、名付けたんですよ。ザイン……そこにいる、って」
「それで通すんだね……」
そして気づけば、レイズグレイズは頭部の装甲を展開し、センサーをイツキに向けていた。
「……え?」
「ん? どした?」
まさか。そう思い、イツキは再びレイズグレイズを見る。
そこには、ジロウが取り出した時から変わらず、正面を向いたままのレイズグレイズの姿があった。
「ごめん。気のせい」
「ん? そっか」
そう言うと、ジロウは残ったハンバーガーを口に収め、コーラで一気に流し込んだ。
「で、聞かせてくれよ。レムナントの改造プラン!」
「あ、うん」
そしてイツキは、愛機であるガンプラ、レムナントガンダムを取り出す。
ウイングガンダムプロトゼロと、ガンダムダブルエックスをミキシングしたガンプラだ。ただし二機の最大の特徴であるウイングバインダーやツインバスターライフル、ツインサテライトキャノンやリフレクターは搭載されていない。武装はビームライフルと大出力のビームソードのみと、極端にシンプルな構成だ。
「昨日の戦いで、出力を上げると放熱が間に合わないって良く分かったから」
「あぁ。火吹いてたしな」
そう、先日の戦いでレムナントガンダムはその全力を発揮し、一バグで異常強化されたグランドガンダムの突進を一瞬とはいえ押し留めて見せた。その代償として、処理しきれなかった熱とダメージにより四肢は粉砕した。
「だったら、一定時間でも熱を処理して、最大出力で戦えるようにしようかなって」
「なるほど、スーパーモード的な」
ガンダム世界において、一定時間機体性能を向上させるシステムは多数存在する。イツキはレムナントガンダムにもそういった機能を持たせようと考えたのだった。
「出力を持て余してるんだよな。だったら武器を……」
「スラスターも増やして……」
そして二人は、くらっしゅの開店時間が訪れるまで改造プランを話し合い続けた。
「やー、すいませんね。お待たせしたみたいで」
くらっしゅに入店すると、店長はその灰色の頭髪を掻きながら謝罪の言葉を述べてきた。
「あれ? 待ってたの知ってたんだ?」
「ええ。さっきハンバーガーショップで見かけまして」
「何だ。声かけてくれりゃ良かったのに」
「熱心な様子でしたからね」
ジロウと店長のやり取りは気軽で、店員と客というよりは友人に近いものを感じられた。やはり、常連だからこその関係だろうか、と。イツキは少し、そういった二人の関係に憧れのようなものを抱いた。
「と、今日は射出成型機貸してくれよ」
「はいはい。そっちの奥ね」
店長が指し示す方には、ガンプラだけでなく様々なプラモデルの箱が陳列されていた。中には何のシリーズなのかも分からないような物や、地味に貴重な品まで所狭しと置かれている。
そういった物に興味を引かれながらも、二人は店の奥にある、射出成型機へとたどり着く。
これはGBN内で入手したビルドコインという仮想通貨と、パーツデータを利用する事で様々なパーツをその場で作り出すという機会だ。
「で、何作るんだ?」
「んー。ちょっと待ってて……」
イツキは機械にダイバーギアをセットすると、おっかなびっくりといった様子で操作を始める。途中何度かジロウに質問をしながら、五分程度で操作を終える。すると、機械が一枚のランナーを吐き出した。
「ん? 大型制御アンテナ?」
「これを放熱板にして、熱を制御しようかなって」
「おぉ、なるほど」
あとは、レムナントガンダムのどこにこのパーツを取り付けるか、だ。
「どうする? 工作室借りるか?」
レイジロウが指し示す先には「工作室」と書かれたドア。そこでは一通りの工具や塗装用具が揃っており、ガンプラを購入、そのまま組み立てる客もいるそうだ。
「今日は帰って、ゆっくりレムナントを改造しようかなって。ジロウ、久々にウチ来る?」
「いいね。飯作ってくれよ」
「了解」
去り際にジロウはガンプラを一つ購入し、二人はくらっしゅを後にするのだった。
「で、レムナントをどうするんだ?」
「うん……どうしよう?」
「いやお前な……ん?」
イツキの部屋で、二人はレムナントガンダムを挟んで向かい合い、頭を抱えていた。レムナントガンダムがあまりにシンプル過ぎて、逆に改造箇所が少ないのだ。せいぜい、バックパックに何か追加するくらいか。
「なあイツキ。あの箱……」
「え? あ。レムナント作った余りだね」
ジロウが見つけたのは、HGウイングガンダムプロトゼロ、HGガンダムダブルエックスの箱だった。この二機をミキシングして誕生したのが、レムナントガンダムだ。
「……なぁ。余剰パーツ使えるの無いかな?」
「……それだ!」
そして、日が暮れるまで二人は改造に没頭したのだった。
「出来た、な……」
「出来た、ね……」
二人の表情には疲れもあったが、それ以上に、やり遂げた喜びがあふれていた。
そして机の上には、生まれ変わったレムナントガンダムの姿が。
新規パーツの放熱板は、肩とバックパックに。そして更に、追加のスラスターとしてウイングガンダムプロトゼロの肩パーツが装備されていた。
「名前はどうすんだ?」
「レムナントガンダムのまま、かな。僕のレムナントは、これが完成形ってことで」
「そっか。良いと思うぜ」
イツキは満足そうに微笑み、新たな姿となったレムナントガンダムを見る。そして子のガンプラを駆って、GBNの空を、大地を、海を、宇宙を。まだ見ぬ景色を駆け巡る事を想った。
そして不意に、獣の唸り声のような音がジロウの腹部から響く。
「……ご飯にしよっか」
「悪ぃな。メニューは?」
「早く食べたいだろうし、チャーハンでいい?」
「決定!」
イツキは丁寧な手つきでレムナントガンダムを棚に置くと、ジロウを伴ってリビングへと向かう。
食後の片付けも終え、外もすっかり暗くなった頃。GBNで会う約束を取り付けると、ジロウは足早に帰宅した。それと入れ替わりで帰宅してきた両親にもお手製のチャーハンを出すと、母親から「いいお嫁さんになる」などと冷やかされる一幕もあった。
そして、やるべき事を終えたイツキは、いつものようにGBNの世界へとダイブする。
新たな姿を手に入れた、相棒と共に。