ガンダム ビルドダイバーズレムナント   作:みくろん

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六話 烈火

 灰色一色の廃ビル群。かつては多くの人々が暮らしていたであろう事をうかがわせる痕跡がいくつも見受けられるが、それらは全て過去の物だ。

 

 今この場所は、二人の戦場でしかない。

 

 「ははは! すばしっこいガンダム! だが……」

 

砂色で染め上げられたグリモアの改造機だろうか。そのガンプラの腰に装備されたミサイルが発射され、紅蓮の爆発がビルを砕き、倒壊させる。

 

 「逃げてばかりでは勝てんよ!?」

 

「知ってる……!」

 

相対するのは、イツキのレムナントガンダムだ。今日はその傍らにレイジロウと愛機のレイズグレイズの姿は無い。ただレイジロウもログインはしており、中継でそのバトルの様子を見守っていた。

 

 迫るミサイルをかわし、ビームライフルを連射して反撃を試みる。しかし敵は市街戦に慣れているのか、巧みにビルの陰に隠れては、ライフルを回避する。

 

 「……なら!」

 

レムナントガンダムがビームライフルを持つ右腕の放熱フィンを展開させ、最大出力でビームライフルを放つ。その威力は易々とビルを貫通し、グリモアに迫るが……

 

 「甘いわ!」

 

グリモアはその両手に持った巨大な斧でビームを防御する。いくらビルで威力が減衰していたとはいえ、かなりの強度だと言えた。

 

 「その程度でワシのグリモアオークは落とせんよ!」

 

 

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そう言うとグリモアオークを操る豚頭のダイバーは、ビルを粉砕しながらレムナントガンダムに迫る。

 

 そしてそれは、イツキにとっては好機だった。

 

「やるよ、レムナント」

 

ライフルを手放し、両腰のビームソードを両方構える。しかし、まだ刃は展開していない。

 

 「不具合化かの!? 作りこみが甘いわ!」

 

それを好機と見たか、グリモアオークは斧を振り上げ、レムナントガンダムに迫る。

 

 直後。

 

 「ブレイジングレムナント!!」

 

その言葉を合図に、レムナントガンダムの姿が視界から消え去る。

 

「何が……トランザムか!? だが太陽炉は……!」

 

「これが……」

 

その声は、上空から聞こえた。

 

 そこには二振りのビームソードを構え、空中に佇むレムナントガンダムの新たな姿があった。

 

 各部の放熱フィンを展開し、放熱板を燃え盛る炎のように逆立てた姿は、先ほどまでとは比較にならない威圧感と、熱量を周囲に放つ。

 

 

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 「スーパーモードかの!?」

 

「ブレイジングレムナントです!」

 

「長いわ!」

 

グリモアオークは脚部装甲を展開。ガトリング砲を露わにすると、爆発的な推力で上空のレムナントガンダムに迫る。

 

 「どれだけ性能が向上しようが!」

 

牽制として放たれたガトリング砲は、左右に大きく加速し、回避される。しかし、それでいい。相手の動きを封じるための牽制なのだから。

 

 「パワーでは負けん!!」

 

グリモアオークはその巨大な斧を同時にレムナントガンダムに叩き付けんとする。いくら機動性が向上していようと、パワーで圧倒してしまえばいい。そう考えての攻撃だった、が。

 

 「レムナントだって!」

 

イツキが選んだのは、回避ではなく真っ向からの迎撃。巨大斧とビームソードが一瞬つばぜり合い……

 

 「何と!?」

 

あろうことか、斧の刃を溶断。そのまま振り抜かれる斬撃を何とか回避し、グリモアオークは両腰から巨大な鉈のような武器を二振り取り出す。

 

 「接近戦で圧倒されるとは! ならばこうよ!」

 

グリモアオークは腰のミサイルと両脚のガトリング砲で相手を近づけまいとする。しかしその弾幕を加速で強引に振り切り、レムナントガンダムは陽炎の尾を引きながら再び肉薄してくる。

 

 「馬鹿な……! これほどか!!」

 

「ブレイジングレムナントの力は!! 伊達じゃない!!」

 

そして加速を乗せた強烈な斬撃がグリモアオークを捉えると、その武器ごと両断し、爆散。

 

 レムナントガンダムのモニター。イツキの瞳には、「WIN]の三文字。

 

 イツキと新たなレムナントガンダムのデビュー戦は、圧倒的ともいえる勝利で幕を閉じた。

 

 

 

 「おま……何あの、何?」

 

「な、何?」

 

「何なのよ本当……」

 

「マギアさんまで……」

 

イツキはハンガーに戻るなり、二人の呆れた視線に晒された。

 

 「いや、あの豚さん格上だってのに。何圧倒してんだよお前」

 

「Cランクって絶対嘘よね」

 

先の対戦相手は、Bランク中位の実力者だ。急激なパワーアップ機能という、ある意味初見殺しのような勝ち方ではあったとしても、Cランクに上がったばかりのイツキがBランカーを圧倒するというのは、ちょっと普通ではなかった。

 

 

 レイジロウもマギアも、もし自分があのレムナントガンダムと戦う事になったらどう戦うかを考えるが。

 

「なんか、何やっても力業で突破してきそうだな」

 

「弱点とかないのかしら……」

 

「えっと。一応、時間制限は。あと再使用までの冷却時間?」

 

実は先の試合でも、イツキが強引に攻めた理由がそれだった。ブレイジングレムナントには、制限時間が存在する。それは多くのパワーアップ機能に共通するリスクといえる。

 

 「ねぇ。ブレイジングレムナント? ってどういう仕組みなの?」

 

「あー。確かに。トランザムみたいな感じってのは分かるけど」

 

「えっと、どっちかって言うと、リミッターを外す感じかな」

 

 レムナントガンダムのベースとなったキットは二つ。ウイングガンダムプロトゼロと、ガンダムダブルエックスだ。

 

 この二機の共通点として、大出力のビーム兵器を搭載している、という点が挙げられる。しかしレムナントガンダムにはそのどちらも装備されていない。結果として、出力が大いに余る事となった。

 

 しかし、その大出力を常に発揮していては機体がもたない。そのためビームソードの使用時など、限定的な状況下でのみ、しかも部分を限定して出力を解放していた。

 

 そして新たに放熱システムを搭載したことにより、大出力をすべて開放、運用することが可能になった。それが、ブレイジングレムナントというシステムの正体だ。

 

 「って事は、多少無茶すれば発動時間延長出来るし……」

 

「任意で発動、解除出来るのかしら?」

 

「かな? やってみないと何ともだけど」

 

三人はたまたま同時に、レムナントガンダムの姿を見上げる。真紅の放熱板がX字に配置され、大きくシルエットが変わっている。

 

 「なんか、小改造で大幅強化だな」

 

「どっちかと言うと、本性現した感じかしら」

 

「なんかひどくない?」

 

 

 

 

 そして三人はハンガーからロビーに戻ると、いつものようにミッションを受諾する。マギアも今は手が空いているらしく、同行を申し出てきた。

 

 今回のミッションは、シンプルに廃棄都市での敵機のせん滅。何ら難しい事もないが、油断できるミッションでもない。そこそこのビルドコインとダイバーポイントの入るミッションだ。

 

 「ふと思ったけどよ。ブレイジングって雑魚相手には使いにくいよな?」

 

レイジロウがレールガンで敵機を撃墜しながら、イツキに尋ねる。

 

「そうね。大振りというか」

 

マギアも魔法剣で敵を貫きながら、同意する。

 

 「う~ん。必殺技に近いから、ね」

 

イツキもライフルで敵機を攻撃し、三人は次々と敵機を撃破。ミッションを順調に進めていた。

 

 そして、ついに最後の一機。イツキがビームソードで敵を両断しようとした、その時。

 

 「イツキ君! 逃げて!」

 

「え……!?」

 

急なマギアの叫びと、頭上を覆う影。

 

 頭上。イツキは一瞬で判断を下すと、機体を急加速させ、影の範囲から脱出する。

 

 直後、真っ黒な、それこそ闇の塊としか表現できない何かが敵機を押しつぶし、それでミッションは終了となった。

 

 「横槍……! どこのどいつだ!」

 

ミッションはクリアとなったが、クリア条件を満たし、報酬の大半を手に入れたのは、先の闇の塊を放ったダイバー。それは。

 

 「あぁ? うるせぇな」

 

それは赤と黒で彩られたガンプラだった。頭部の大型アンテナは翼のようになっており、背中からは推進器らしきパーツが突き出す。そして何より目を引いたのが、両手、両足に装備された四色の実体剣だった。

 

大幅な改造が加えられたそのガンプラは、胸部のクリアパーツから辛うじて、ガンダムOOのエクシア系列であることがうかがえた。

 

 

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 「ミッションクリアしてやったんだ、礼も言えねぇのか?」

 

その声色には、こちらを見下して……侮蔑していることがハッキリと感じ取れた。

 

 「ふざけんなよ、てめぇ!」

 

レイジロウがレイズグレイズを加速させ、謎のガンプラに迫る。そして、それに対して謎のガンプラがとった行動は、ただ青色の剣を、その切っ先を向け。

 

 「凍れ」

 

そう呟くのみ。だが、その行動が引き起こした現象は。

 

 「機体が……!?」

 

左半身を一瞬で氷漬けにされたレイズグレイズの姿だった。機体のバランスを崩し、あらぬ方向へと飛ばされたレイズグレイズは、頭からビルに突っ込む事となった。

 

 「レイジロウ! こいつ……よくも!!」

 

それを見たイツキは、すぐさまブレイジングレムナントを起動。謎のガンプラへと高速で突進を開始する。

 

 「燃え尽きろ」

 

やはり、謎のガンプラは剣先を向け、ただ一言呟くのみ。すると赤の剣から大量の炎が噴き出し、レムナントガンダムを飲み込まんとする。

 

 「くっ!!」

 

かわし切れなかった炎が右脚をかすめ、融解させる。ありえない超高温。だが、レムナントガンダムは速度を落とす事なく、謎のガンプラに迫る!

 

 「へぇ」

 

渾身の力で叩き付けられたビームソードは、呆気なく青い剣によって遮られ。

 

 「そんな!? ビームが凍る!?」

 

あり得ない現象。プラズマ化したメガ粒子の刃があらゆる法則を捻じ曲げ、凍り付くという異常事態に、イツキの反応が遅れる。更にはビームソードの発振器、マニュピレータ、放熱フィン、肘関節と順に凍り付き。

 

 「吹き飛べ」

 

「うあぁぁぁぁ!?」

 

突如、暴風のような謎の力によってレムナントガンダムが吹き飛ばされ、砕け散った氷の尾を引きつつ、そのまま瓦礫の山へと叩き込まれる。

 

 「お前は? 来ねぇの?」

 

「っ……!」

 

マギアは一人、そのガンプラと対峙する。そして、彼女は観察し、考察する。

 

 ありえない、魔法でさえ引き起こせない現象を易々と引き起こす力。圧倒的過ぎる機体性能。そして、そのガンプラが纏う奇妙な威圧感。

 

 「あなた……!」

 

マギアが一つの結論にたどり着いたその時。金属同士が衝突するような、破壊の音が響き渡り。

 

 そして、謎のガンプラの後方に立っていたビルが倒壊する。

 

 「……外した」

 

『いえ、軌道を捻じ曲げられました』

 

それはやはり、レイジロウのレイズグレイズが放った必殺の一撃、ダインスレイヴだった。

 

 『敵機の右足を起点に、重力異常が発生。それによって弾道が逸らされました』

 

「……普通じゃねぇな」

 

ゆらり。と謎のガンプラが、左半身を失ったレイズグレイズの姿を捉える。

 

 『マスダイバーと推測』

 

「やっぱり……!」

 

謎のガンプラの周囲に、禍々しい紫色の光……オーラが揺らめく。

 

 マスダイバー。それは、未だGBNの運営でも実態を把握しきれていない、非公式ツール「ブレイクデカール」によってガンプラを異常強化させ戦うダイバーたちの総称。その力は圧倒的な力に魅せられ、低ランカーを中心にその数を増やしているらしいが。

 

 しかし、眼前のガンプラは、とても低ランクのガンプラとは思えない。その上でブレイクデカールによる強化を施されているとすれば。

 

 「バレた?」

 

にやり、と嗤う様子さえ想像できそうな程に。

 

 相変わらず、圧倒的な余裕と侮蔑を込めた声色で。

 

 「消えろよ」

 

炎の剣をレイズグレイズに向けた瞬間。

 

 「氷よ!!」

 

「あぁ!?」

 

無数の氷のつぶてが謎のガンプラに襲い掛かる。灼熱を宿す剣に、氷がぶつかればどうなるか。

 

 氷は一瞬で蒸発し、瞬時に発生した大量の蒸気は水蒸気爆発となる。結果、周囲の瓦礫までも吹き飛ばし、蒸気と砂塵による、二重の煙幕を発生させる。

 

 「私はイツキ君を! 逃げるわよ!」

 

「くそったれ!」

 

レーダーでイツキが健在であることは確認済み。そして勝ち目がないのであれば。

 

 謎のガンプラの周囲で豪風が巻き起こり、水蒸気と砂塵を散らす。そこに立っていたのは、傷一つない謎のガンプラの姿。

 

 「……逃げた」

 

イツキたちは何とか、その場から離脱する事に成功していた。

 

 

 

 「何なのさ……」

 

ハンガーに戻った三人は、ボロボロに破壊されたレムナントガンダムの前で佇んでいた。

 

 「何なんだよ、マスダイバーって……!」

 

イツキはその場で膝をつき、涙を流す。

 

 「ちくしょう……!」

 

それを、ただ、レイジロウも、マギアも。レムナントガンダムも、見ていることしか出来なかった。

 

 こうして、新たなレムナントガンダムは。

 

 圧倒的な勝利と、圧倒的な敗北を。同日に身に刻む事となった。


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