ガンダム ビルドダイバーズレムナント   作:みくろん

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七話 発起

 ブレイクデカール。

 

 それはGBNの一部で流通している、デカール(シール)状の非公式パーツ。このブレイクデカールをガンプラのどこかに表面に張り付けることで、通常のGBNでは不可能な挙動、現象を引き起こす事を可能とする。

 

 その結果として、圧倒的な性能、戦闘能力を獲得することができるため、強さを求める下位ランカーを中心に徐々に広まっている。という話だ。

 

 「そんなので勝ったって……ズルじゃないか!」

 

「それでも勝ちたいんだろうよ」

 

「でも!」

 

イツキとレイジロウは、ロビーの外……仮想空間の星空が見える場所で。二人だけで語らっていた。

 

 昨日の、ブレイクデカールを使用したダイバー……マスダイバーに三人がかりで敗北した事実。イツキはそれが上手く受け入れられず、苛立ちを隠せないままでいた。

 

 それは、やはり新たな姿を手に入れたレムナントガンダムが。圧倒的な強さを見せてくれたはずの愛機が、一方的に敗北したという事も大きな理由となっているのだろう。

 

 しかも、正々堂々ではなく。ブレイクデカールという力によって圧倒されたのだ。

 

 対するレイジロウは、幾度もの勝利と敗北を重ねてきた。勝負をしているのだから、勝つ者がいれば、当然誰かが負ける。たとえそれがマスダイバー相手でも、当然と割り切っている。だが。

 

 「反則だよ。ブレイクデカールなんて……マスダイバーなんて……!」

 

「そりゃ、そうだけどよ……」

 

実際、問題視されている。最近増えつつあるバグも、ブレイクデカールの影響ではないか。マスダイバーのマナー違反行為も目立つ。そもそも、ブレイクデカールを使うこと自体がマナー違反ではないか。

 

 しかし運営は手をこまねいているばかりで、マスダイバーは増える一方だ。このままいけば、GBNのマナーの崩壊は避けられないだろうともいわれる。

 

 「なぁ、イツキ」

 

そんな世論よりも、今最も気になるのは。

 

「お前、何に怒ってるんだ?」

 

「え?」

 

レイジロウが最も気にするのは、イツキの心情。

 

 普段は穏やかだが、負けず嫌いだと知っている。

 

 優しすぎる程だが、曲がった事が嫌いなのも知っている。

 

 だから。

 

 「そんなの、マスダイバーに……」

 

「違う」

 

それは、即断できる。断言できる。親友は伊達ではない。

 

 「負けた事だろうが」

 

「っ!!」

 

イツキは一瞬、泣きそうな顔をして。そしてそれを隠すように、そっぽを向く。

 

 「頑張ったもんな。レムナントの強化。あーでもない。こうでもないってよ」

 

「……」

 

思い起こされるのは、レイジロウと二人で語り合い、そして作り上げた、レムナントガンダムの姿。

 

 燃え盛る炎を模した、放熱板を展開したレムナントブレイズ発動形態。その圧倒的なパワーは、イツキにとって初めての体験だった。

 

 自分の作り上げた初めてのガンプラが強く、格好よく思えた。

 

 「で、勝って」

 

格上を相手に、その出力で圧倒し、勝利した瞬間を思い浮かべ。

 

 「負けて」

 

そして。マスダイバー相手に一方的に敗北し。

 

 「それは……相手がマスダイバーで……!」

 

「ちーがーう。ほれ、コレ」

 

悔しさに表情を歪めるイツキの肩を、レイジロウが抱き寄せ。そして表示された動画を見せる。

 

 それは、紫色のオーラを纏ったブレイクデカールを使用したらしきグリモアが、一機のガンプラを狙う映像。ハルートの改造機らしきそのガンプラは、射撃を高速機動で易々と回避し。

 

 『GBNは……この瞬間が、素晴らしい!』

 

変形を繰り返し、グリモアの視界から消え。

 

 直後。グリモアの腕が切断され、マスダイバーが悪態をつくと。

 

 動画は、そこで終了した。

 

 「すげーだろ。マスダイバーを圧倒してんぜ? ブレイクデカールなしで」

 

「何が、言いたいのさ……」

 

イツキの真っ直ぐな問いかけを。その瞳を真っ直ぐに見つめ返し、レイジロウは、言う。

 

 「俺たちが弱いから負けたんだよ」

 

「!!」

 

それは、イツキが無意識に否定し、逃げていた答え。

 

 相手がマスダイバーだから負けた。ブレイクデカールを使った相手だから負けた。ズルだから負けた。

 

 自分の、愛機の弱さを直視できず。

 

 「だったら……」

 

「だったら。お前はどうする? どうしたい?」

 

イツキは拳を強く握り、勢いよく立ち上がる。

 

 どうする。どうしたい。決まっている。

 

 夜風が吹く。仮想現実の風が、イツキの頬をなでる。そして、何かを決心したかのような顔つきで。

 

「強くなる。強くなりたい」

 

「おう」

 

イツキの答えに、レイジロウはにやりと不敵な笑みを浮かべ。

 

 何となしに、二人は同時に月へと手を伸ばす。どこまで手を伸ばしても届かない、高みへと。

 

 そしてその月を、ガンダムAGE‐2の改造機と、二機のクランシェカスタムが横切る。

 

 「あ、チャンプ」

 

「え!? どこ? どこ!?」

 

 

 

 「で、夜更けまでGBNでバト……遊んでたから、学校では寝てました、って?」

 

「はい……」

 

「失敗を認めて、次の糧にします」

 

翌日。イツキとジロウの二人は授業時間の半分以上を居眠りで過ごした。結果、こうやって委員長であるアイに教室で説教を受けている。

 

 「それは大人! じゃなくて……」

 

「あれ? 委員長ガンダム知ってんの?」

 

「い、今はどうでもいいの! それより、居眠りが続くような事があれば……」

 

ずい。としかめっ面を二人に近づけると、やけにドスの利いた声で。

 

 「保護者に連絡させていただきます」

 

「ごめんなさい」

 

「もうしません」

 

二人はただ、土下座する他無かった。

 

 

 

 「はぁ。怒られて当然よ」

 

「ごもっともで」

 

その夜。イツキとレイジロウはいつものようにマギアと合流すると、ハンガーで屯っていた。どうやら学校で受けたお叱りについて話していたらしい。

 

 「学生の本分は勉強でしょう? GBNは遊び。息抜き。ちゃんと割り切りなさい?」

 

「委員長みたいなこと言うね、マギアさん」

 

「自称美少女アイドルダイバーとは思えねーお言葉」

 

「……ふ、普段はもっとアイドルらしくしてるわよ」

 

ふいっ。とそっぽを向くマギア。ひらひらとしたアイドル衣装のフリルがふわっと揺れる。

 

 「悪い悪い。ていうか、普段何してんだ? GBNで」

 

「あ、僕も気になる」

 

そう。イツキもレイジロウも、マギアについて知っていることは少ない。が、何故か妙に親しみやすく、またマギアもこの二人に対しては、常に自然体で接していた。だがしかし、リアルの事はもちろん、GBNでどのようなプレイをしているのかも知らなかった。

 

 「そうね。主に動画配信よ。マギア☆ちゃんねる、ていう、可愛い系のミッションとか紹介するチャンネルね」

 

そう言うと、マギアはメニューを操作し、ある動画を表示する。それをイツキとレイジロウの二人に見せると、得意げな表情を浮かべる。

 

 画面の中では、いかにもアイドルらしい声音と仕草で、プチッガイと戯れるマギアの姿。

 

 「おぉ。アイドルしてんな」

 

「だからアイドルダイバーだってば」

 

再生数やチャンネル登録者も、決して少なくはない。なるほど、これは「自称」アイドルではないな、とレイジロウは認識を改める。

 

 「っていうか、いいのかよ? アイドル様が俺たちみたいな一般市民ダイバーと組んでて。スキャンダルにならねーの?」

 

「そこまでアイドルに縛られるつもりはないわよ。気晴らしって言ったでしょ? 私は、この世界ではなりたい自分で、やりたい事をやるのよ」

 

 キラッ☆という効果音でも付きそうなポーズで言い切るマギア。

 

 「いいね、格好いいじゃねーか」

 

「うん、うん!」

 

「ありがと!」

 

そしてこの日。マギアのチャンネル登録者が、更に二人増えた。

 

 

 

 その日はイツキもレイジロウも、昨夜の疲れから早々にログアウトした。しかしまだ眠るには早く。イツキはレムナントガンダムを手に、考え事をしていた。

 

 強くなるには。

 

 バトルの腕を磨く。ガンプラの完成度を高める。

 

 腕を磨くなら、強敵とのバトルを、経験を積むしかない。

 

 完成度を高めるなら、ガンプラをどこまでも作りこみ、磨き上げるしかない。

 

 「でも」

 

足りない。それだけでは足りない、隔絶した強さ。

 

 あの日の敗北を思う。レムナントガンダムの最大出力、ブレイジングレムナントのパワーが、相手にもならなかった。パワーも、スピードも足りない。

 

 「なら、どうする」

 

今まで以上のパワー? 強力な武器? それとも……

 

 「あ。そうだ」

 

イツキはレムナントガンダムのベースキットを思い出す。ガンダムダブルエックスと、ウイングガンダムプロトゼロ。ならば。

 

「兄さんに聞いてみなきゃ」

 

この時間ならまだ寝ていないハズ。そう考えたイツキは自分の兄……田堂マサルへと、携帯端末で連絡を取る。

 

 「兄さん? 夜にごめん。今大丈夫かな?」

 

『おぉ、イツキか。何だ?』

 

端末の向こうから聞こえてきたのは、やや軽薄そうな声色だった。が、間違いなくイツキの実の兄である、マサルの声だった。大学進学を機に、遠方へと引っ越したのだ。

 

 「ちょっとガンプラで、聞きたいことがあってさ……のパーツなんだけど、使ってる?」

 

『あー? いや。ってそんなこと聞くって事はお前。GBN始めたのか?』

 

「うん。ジロウに色々教わりながらね」

 

『そうかそうか! なら話は早ぇわ!』

 

「え?」

 

 『俺と戦え。そしたらくれてやるよ』

 

そしてもったいぶるように、一拍の間を置き。

 

 『ウイングゼロのシールド』

 

端末の向こうで、兄がにやりと笑ったのを感じた。

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