酒がとんで、飯がとんで、食器がとんで、椅子がとんで、人がとんできた。
頭の悪そうなチンピラが殴りかかってきて、そいつにあたることもためらわず銃を撃つものや刃物を投げつけるものもいた。バトルロワイヤルを隠すつもりもないらしい。
2時間ほど前まで追ってきていた軍隊の連中は丁重に捕えようとしてくれていたのに、元仕事仲間に対して、随分ひどい扱いだ。
「こいつは所詮のところ、無能力者だ!」
その通り。
残念なことに、俺は魔法も超能力も使えないが、それはここにいるやつも同じのはずだ。この時点で生きていられるならば、こいつらに殺されることはないだろう。一応警戒していたが杞憂だったようだ。
「死ね!」
これも躱す。その直後のものも躱す。銃弾を躱すのは大変だ。一瞬の気のゆるみもできない。
「平和主義者はいないのか!?」
アクロバティックに、机から机に移動しながら躱す。どんどん店が破壊されていく。俺もあのようになったかもしれない。
親方は一連の流れに興味がないようで、冷静に損害の計算をしていた。
「自首を希望するなら、自分の手に手錠でもかけたら?」
「君は、攻撃してこないのか?」
「足止めして、時間がたてばこちらの勝ちだもの」
かわいらしい裏切り者を盾にしようとするが、すぐに軽い身のこなしで逃げられる。一瞬だけモノが飛んでこなくなり、銃撃もやんだ。しかし、女が射程から消えると、連中はまた攻撃を仕掛けてくる。
「お嬢ちゃん。そんなところにいちゃあ、危ないよ!」
「あなたのそばにいるよりはまし」
振られた。
そろそろ時間を気にしないといけない段階に入ったので武器を手に取る。手のひらサイズの青いボールだ。
「ボール?なめてんのかこいつ!」
いらだったチンピラが殴りかかってくる。こぶしには凶器が仕込まれており、ぶつかる直前に姿を現した。それをボールで受け止める。衝撃を受けて、少しだけボールが膨れる。
「ふざけてなんかいないよ。これは、そんじょそこらのドリンクよりもよっぽどすごいドーピングだ」
ボールを強く握ると、そこから非常識なほどのエネルギーが体に入ってくる。原理はわからないがすごいからくりだ。感覚が研ぎ澄まされていく。
「気を付けて、魔道具の類に違いない」
それぞれが身構える。
「もう、遅いよ」
既に3人くらいは倒した。重症で戦闘不能だろう。しかし、懸念があった。
「素手でここまでやるんだ。すごいね」
こいつだ。事務しかできないはずなのに余裕たっぷりだ。
「躱しといてよく言うよ」
通常の人間では対応できない速度のはずだ。
次いで、銃弾が飛んでくる。今度は連射式のようだ。ほとんどかわしたところで、持ち主を殴り倒す。
「人間やめたの?」
「まさか、まだまだ現役さ」
銃弾で空いたいくつかの穴を指さされたが、笑みを崩さない。大丈夫、まだ痛くない。
ふと、穴の開いた足の近くに酒が入った瓶が落ちていた。せっかくだから一気に飲んだ。ちょっと強かったようで、寒気が少しだけ収まった気がした。嬉しくなって、瓶を敵に投げつける。
酔っていたせいで当たらなかったようだが、壁に当たって破裂した。まるで爆発したようで、破片が近くにいた二人と、倒れていた一人に突き刺さった。
もう残っている連中のほとんどに、戦う意思がないのは明白だった。
「もういいよな?」
武器は構え続けているようだが、ポーズだけだ。
「お前が今持っている賞金首たちの書類をすべて貰おうか」
「私のカバンの中、もうどこにあるのかわからないけど」
ダメ元で頼んでみたらあっさり教えてもらえた。そういえば、さっき机を倒して隠れていたときに、いつもあいつが持っているミルク色のカバンを見かけたかもしれない。
書類の類をすべて引き抜き、適当に丸めて出ていくことにしよう。
目当ての書類を大雑把に確認しながら引き抜いていく。どうやら、小物カタログのようだ。こいつは、コツコツ稼ぐタイプのやつだからある程度はわかっていたが。こいつらと備忘の欄を足掛かりに格上を探すしかない。
高額賞金首も直接めぼしいものは無い、連合軍への手配書にはホーンテッドマンションの魔女、マッチポンプで稼ごうとした行方不明の医者、薬物の王、犯罪者ギルドからの手配書には科学者の女、ゲリラ治療の医者、奇跡の手の超能力者など、手を組めそうにないやつか行方不明かのどっちかだ。
「...っぐ!?」
急に痛みが体を流れた。鋭い針の群れが体を内側から食い破ろうとしているかのようだ。
「く、くそ!ま、魔法を使えたのか!?」
余裕はこれだったのか。
それしてもすごい出力だ。童顔で地味ながらもかわいらしい顔つきも凶暴になっている。まあ、それでも多少はかわいい。
「5億あれば、必要なものが手に入るの。それももう終わり。そうすればもう二度とこんな商売しなくて済むから」
書類を落としてしまった。身体強化しているもののなかなか苦しい。
どうやら、あの女はただの情報屋だったわけじゃないらしい。そういえば、彼女の通り名はエリック。エレキとかけたのか。
しかし、エネルギー源が有限な魔法には限界がある。ダメージは強く動きずらくなっていたが、魔法を使うために動けなくなった女相手だったら問題あるまい。所詮は表で活躍できない程度の魔法使い。
「ぐああああああああああああ!」
徐々に、対象に近づいていくにつれ、向こうも出力を上げていく。逃げれない以上、こちらの意識が途切れるか、向こうのエネルギーが切れるかの争いだ。周りのものに火が付き始めた。さすがに逃げた親方は、向こうの部屋で消火準備しているらしい。
「ありがとう!懸賞金まで突然変異な元相棒!」
「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああ!しし、ぬ、ぬぬ、ぬぅ、しぃ、死ぬぅ!」
こんなもん、数千万級の犯罪者の出す出力だぞ!道連れ覚悟か!?
早く止めなければ、次目覚めたときは縛り首直前か目覚めることはないかもしれない。
それでも悲鳴とともに近づいていく。
「くたばって!ライト!」
いつもの「がんばって」は「くたばって」にあっさりと変わってしまったようだ。至近距離でそう言われるとちょっとショックだ。
「ダメだった。...ごめんねミナ」
あと、一歩で女の首に手を当たられるところで、向こうが倒れた。
象徴的な痛みからは解放されたが息が苦しい。
気づけば、周りの連中も少しながら電流を浴びていたようで倒れていた。焦げて浮き出た血管が、ちょっとかっこよかった。
書類はまだ、いくつか大丈夫なようだ。あるだけでもかまわない。
「じゃあな」
磔になっていた男をドアから外そうとしたとき、ドアが勝手に開いた。
新参者の男と目が合う。魑魅魍魎の行列の前に店を出ていった男だ。
「あれ?噂の人じゃん。確か、名前はライトだっけ?」
「お前は...ギータか」
連合軍所属の超能力者がいた。通称は刻み音。
静まった街の数少ない不夜城は落ちたが、まだまだ終わらなさそうだ。