ヤンデレのキャラの人数や各々の特性と段階をどうするかをじっくり悩んでいたためです。
『スクウェア王国・貴族街 ライトが指名手配された日』
私が父に頼むとすぐに、傲慢な貴族たちの中でも変わり者と呼ばれるこの家に、珍しく王国軍の伝令が来ていた。
「忙しいところ急に呼び出してすまないね。茶を淹れた。飲んでくれ」
所作が少しだけ乱れた。丁寧な対応に慣れていないようだ。。
他の貴族たちは連合軍の凄腕の護衛をたくさん用意して、犯罪行為を堂々としながら傲慢にふるまうことで嫌われているが、私たちの先祖は基本的に、根暗な引きこもりだったから、もともとそういうことは好まなかった。悪行三昧のやり方をしらない純粋な先々代の当主が紳士的にふるまい、あとから出身がばれたときに、好意を持たれたようだ。おかげで今では出不精の父よりも、よくでかける私の方が良い貴族の象徴だ。
「お気持ちだけ頂戴いたします。法令違反となりますので」
「そうだったかな?やりづらいルールだ。申し訳ないね」
「いえいえ、お呼び頂けたならいつでも参ります。本日はどのようなご用件でしょうか」
「頼みがあるのは娘のほうなんだ」
「これは珍しいですね。まさか、お嬢様からの依頼とは」
彼の写真と特徴が書かれたメモを渡す。
「この方を絶対にここまで連れてきてください」
自分を地獄から救ってくれた人が、まだこの街にいることを確認した私は、彼に関する簡単な情報を王国軍の兵士たちに伝え、目の前に連れてくるようにお願いした。
「突然変異、分かりました。ところで名目についてお伺いしてもよろしいでしょうか」
「お礼をしたいのです。ちゃんと貴族として」
父と伝令が怪訝な顔をした。父は二度目だ。
「申し訳ございませんが、この街へただの民間人を連れてくることはできません。できたとしても、すぐに追い出されて、指名手配されます」
「どうしてでしょうか、貴族は法律に縛られないはずでは?」
他のやつらは、奴隷に殺人に暴行に無銭飲食に好き放題やっているのに、私のお願いだけが許されないのか。
「他の貴族の方が黙っていないでしょう。貴族同志の諍いは我々ではどうにもなりません」
「そんな...」
「お言葉を届けるというかたちで如何でしょうか」
譲らない落としどころと言いたいかのような口ぶりだ。
「お願いします!どうしても、直接お礼をしたいのです」
もういいだろうと父が言うが、あの人がこの街を出て行ってしまう前にお礼を言いたい。伝えたいこともあるのだ引き下がれない。
「気持ちはわかるが、どうしようもないこともあるのだ。あまり、この人を困らせるんじゃない」
お願いしますと懇願し続ける。なぜか囚われていた時に似ている気がした。
「では、貴族として私が彼のもとへ行きます」
不本意ではあるが、お礼の後のお願いはそこですることにしよう。
「それはだめだ!次は何があるかわかったもんじゃないし、今の街には賞金稼ぎが山ほどいる。貴族が簡単に出歩ける状況ではない!」
「な、なら連合軍戦士を護衛にしてください!それなら安全です!」
「馬鹿言え、突然変異自体がそもそも危険なんだ!革命軍や犯罪者ギルドとつながっていたらどうする!?お前を助けてくれたときは自分が何者か言っていなかったんだろ!?」
正論だ。論で崩すのはもう無理だろう。それでも止まれるわけではないが。
「彼はそんな人じゃない!」
「お前に奴の何がわかる?」
私は知らなかった。
「奴の目的はなんだ?」
私も知りたかった。
「奴の能力はなんだ?」
「能力なんてなかった」
「...なんだと?」
反射的に言ってしまった。これは悪手だった。
「あの人数を倒せる人間が無能力なわけあるか!?仮に、それが本当なら一番危険じゃないか!」
父の爆発は心配からのものだった。嬉しかったが、うざったくもあった。
何も言い返せない私を見た父は、深い溜息をついた。それが私の爆発のきっかけだった。
「じゃあ、もう貴族なんてやめる!」
その言葉を聞いて、父が激怒した。
「いい加減にしろ!貴族をやめることなどは不可能だ!どんなに事自称したところで、出生は変わらん!それとも、助かった命を無駄に捨てるのか!?」
初めて声を荒げるところを見た。少しの反感と嬉しさを覚えた。
「...どうしても、彼をここへ連れてきたいんだな?」
「はい。どうしても」
「思い描いていた再会とはいかないかもしれないが、それでもか?」
激怒しても娘の我儘には弱いようだ。
「...わかった。彼をここに連れてくることに関しては、最善を尽くそう。お前は部屋に戻っていなさい」
「ありがとうございます!」
話がこれ以上変わらないように私は席を立った。その後、残された二人は話をした後どこかへ向かった。おそらく他の貴族たちとの交渉だろう。
「今すぐ、この男を指名手配してくれ。聖女からの依頼で生け捕り限定、連合軍ギルドへは10億、通常ギルドへは5億だそう。ただし、殺害したものには殺害限定で同じ額をかけるとも書いておいてくれ」
「本当によろしいのですか?いくら凄腕の男とは言え、無事じゃ済みませんよ」
「あの娘の考えていることなんかお見通しだ。大方、少しずつこの家に馴染めていきつつ結婚に向けて俺とあの男を懐柔しようってつもりだろう」
「相手は平民で特殊な職業ですから、そうもいかないと?」
「いや、職業は問題ない。娘の話が事実ならば人格も破綻はしていないはずだ。あの娘の相手は身体的にも精神的にも強くないといけない。それだけ考えたら素晴らしい相手かもしれない。ここまでで同じ条件の男がいたら問題ないが、あいつはだめだ」
「どういうことですか?」
「あいつの金の使い方を簡単に調べた。明らかに消えている金がある」
「なるほど、そういうことですか」
「なんのために連合軍への推薦を蹴って賞金稼ぎをしているか、稼いだ金を一体何に使っているか、なぜ、無能力で戦えるか、これだけ並べば自ずと結論は見えてくる。あいつの後ろにはあいつを手懐けることのできる化け物がいる。あいつは所詮のところ雇われか、どちらかと言えば囚われだ」
『スクウェア王国・地下』
スクウェア王国は特殊形状の国だ。国境の枠が四角形なのだ。なぜ、この形状かというと、お告げによって、その方が良いらしいからだそうだ。国境の森に巨大な穴を掘り、刻まれた地面の形で天の神にこの国を知らせる必要があるとか。宗教関係の偉い人が位を禅譲した際のお告げだそうだ。
ちなみに、実際は宗教的な意味合いはほとんどなく、密入国や密出国のためにつくったそうだ。私としてはその辺の事情はどうでもよい。これのおかげでお忍びで出かけることができるのだ。
聖女と呼ばれて慕われているものの、軟禁されているような現状の自分にとって、お忍びで出かけることと、愛しの彼に会うことだけがたのしみなのだ。もうそろそろ、彼は見つかるはずだ。
「たまたまあの人と会えたらどうしよう」
想い人の顔が浮かんで嬉しくなる。ここのところ彼の妄想ばかりしている。
以前、お忍びでお出かけしたときに人攫いにあった。魔法の力はつよかったため問題ないと思っていたが、初めて窮地に陥ってしまう。敵に魔法を封じ込める超能力者がいたのだ。貴族の中で高いレベルの魔法を使える聖女だが、封じられてしまったらただの小娘だった。大多数のならず者の前に為す術のない女は凌辱されるしかない。しまいには、自分が貴族であることを伝え解放を迫ったが、むしろ興奮させてしまうだけで、挙句の果てに、使いつぶした後に、殺してしまうという話も聞こえてきた。
実際には、他の奴隷たちは使われたり、殺されたりしたものの、なぜか自分の番だけは回ってこなかった。後に、捕縛された彼らは、革命軍に売りつけることを考えていて、偶然ながら隣国での取引を設定されていた。
後から聞いたが、貴族の中でも国中に愛されている貴族なので大掛かりな捜索作成が起きた。連合軍の連中や賞金稼ぎが国内の街をうろちょろしていたのはこのためである。連合軍の戦士たちはスクウェア王国国内で捕えた指名手配犯の懸賞金が急に十倍になったのだ。賞金稼ぎは、手柄さえくれれば三倍の金を出すという通達を受け取ったため、今がチャンスとふるまった。しかし、それはうまくいかなかった。情報を受け取っていたならず者たちはそれらを推測して隣国の港に潜むことにしたのだ。
「お礼をして、それから...」
妄想がとまらない。すべてが思い通りにうまくいけば、欲しいものが手に入る。
『鳥島・パーラ号 4日前』
ここに囚われてもう3日目だそうだ。衛生的に最悪なこの場所に一緒にいた人たちは売られたり、死んでしまったり、自殺してしまった。とても悲しくて悔しい。私だけが無傷なことに安堵するものや恨みの視線受けるものもいる。「お前分も俺たちけているんだぞ」と言われているようだ。心が苦しい。
みんなが心配だ。人質が暴行されるときも見ていられなくなって、自分が変わりに受けると申し出たりした。答えはノーしか返ってこなかったが、自分の心が救われるためだけに身代わりを申し出た。打算は全くなかったが自分でも病気だと思った。初日から泣き続けてもう涙は出てこなかった。
大人たちの抵抗する意識が完全になくなったあたりで、今度は子供が呼ばれた。
「来い」
「もうやめて!子供にまでそんなことしないで!」
周りの人間は、もう無関心だった。私の申し出が無駄だということを悟り、醒めていたいたからかわざとらしい溜息までついていた。その子供の目だけが期待が残る。
「私が代わりに受けますから!」
また、身代わりを申し出た。その時だけいつもと対応が違っていた。
「そんなに言うなら、お前が代わりにやれ」
「え?」
意味が分からなかった。私が人を、子供を殴る?
「しつこいから代わりにやれ、ちゃんとやらなければ即刻こいつを殺す」
私にはそんなことできない。
「お願いします。子供たちだけでも助けてください」
こいつらが頼みを聞いてくれたことなどない。私にもわかっている。懇願はやめなかったが、次第に声は小さくなっていく。
「うるさい!やるのか?やらないのか?どっちだ!?」
「お願いします。助けてください」
もはや、このセットしか喋れなくなっていた。
「よし、こいつを殺す」
目の前の醜い男は手際よく少年の首に手をかけた。次第に顔から血の気が失せていく。希望が目から引いていく
「お願いします。助けてください」
「本当に助けたいなら、こいつを拷問しろ。なんならお前が代わりにころしてしまってもいいぞ」
金属だろうか、とても固い、なんか棒のようなものが目の前に放られる。
子供を凶器で殴ることなどできない。しかし、このままではこの子は殺される。二律背反事項の両側拒否による相互遷移は何もできずに時間を失うというかたちだった。
「やれよ、偽善者」
誰かが言った。人質の中でずっと一緒だった人だ。衝撃だった。
「生き残る道はそれしかないんだろ。ここで、それやらないってことはお前が殺すってことだぞ」
当然のように淡々という。
「死なせたくはないんですが、手が動かないんです」
する、しないの前に できないのだ。
「どっちかはやることになる。ましな方を選べ」
できない!
「選べません!」
「どちらも選ばないのは殺すほうを選ぶということだぞ、お前は殺す覚悟があるのか」
「そんなつもりは...」
「ならば、さっさとやれ!そいつが死んだら次は他の子どもが標的にされるぞ、お前がやるまで死体が増えるぞ!」
「そんな...」
正論だ。やるしかないのだ。震える腕を必死に動かした。拷問を受ける子供よりも震えていた。せめて痛みが少ないようにするしかない。
「やっとやる気になったか」
しかし、どうやればそれができるかがわからない。
「ごめんなさい」
それだけ言って私は凶器を振り下ろした。鈍い音がする。
「ぎゃああああああああ」
悲鳴が聞こえる。
「ごめんなさい」
また鈍い音がする。
「ぎゃあああああああああああああああ!」
悲鳴はさっきよりも遠くに聞こえたような気がする。
「ご、ごめんなさい」
さっきよりも大きな音がしたような気がする。
「っぐ、がああ」
「ごめんなさい」
バキッという音はわかったが、もうよくわからなくなってきた。
「あ、あのね。ご、ごめんなさい」
その後、しばらくの間凶器を振り続けた。あまり詳しくは覚えていない。
気づいたときには、あの子はもういなかった。死んでしまったらしい。もう、よくわからないけど、とりあえずお風呂に入りたかった。