『スクウェア王国・6番街』
どうやら、今日の僕は運が向いているようだ。
今回のターゲットは元賞金稼ぎのライト。通称、突然変異。無能力のくせに、かなり上質な仕事をするようで、情報収集の段階ではとても危険な仕事になると思っていた。表だけでも初手でオンリーアライブで5億、連合軍専門の手配書では初手10億の額がついたからだ。不思議なのは、なるべく傷つけないことと、殺してしまった場合、その人間に同じ額をかけるという注意書きだ。
「討伐自体は問題ないだろうが、競争率がなぁ」
不参加の連中は、手薄になった数千万の中堅の首を狙いに行った。
僕が、酒場を出た後に出没情報のリークがあったと知ったときは出遅れたと思った。今日はもう飲んでから寝よう。それで、奴が明日まで生き残っていたら参加しよう、所詮は無能力だからあの軍勢相手には無理だろうが。
そう思って酒場を訪れたら煙が出ていた。もしかして、近くにいるのだろうかと中に入って連中に行き先を聞こうとしたとき。ちょうど出てくるやつと目が合った。
こいつだ。しかも、満身創痍。
向こうもこっちを知っていたようで、話が終わるのは早かった。なぜか、ドアに磔になっていた男をこちらに投げてきて、それを受け止めたらそいつごと蹴ってきた。どちらもあり得ないほどの怪力だった。その隙に10億があり得ない速度で逃げていく。
「手負いのくせに、すごいパワーと速度だこいつ」
こちらも能力を使って風を身にまとい全速力で追いかける。こちらのほうが少しだけ早いようで、射程圏内に入るのは時間の問題だが、向こうもそれを知ってるからか、見失わせるために寝静まった街をジグザグと気ままに全力疾走している。
「なかなか、当たらないなぁ」
次々と斬撃を飛ばしていたが、なかなか当たらない。たまに当たるのだが、何事もないかのようだ。
見れば、体のいたるところにダメージがあるようで、ちょろい仕事だと思ったが、肩から腰に掛けて一直線の斬撃を綺麗に受けたのに怯みすらしなかった男におどろいた。正直、ドン引きだ。人間じゃないに違いない。
「もう虫の息みたいだからつかまってよ」
全速力で追っているし、斬撃も飛ばす。街が壊れることなんか関係ない。あの額の手負を逃す手はない。
「全力で行くから死なないでよ!」
しょうがないから、技の段階を一段階あげる。これ以上の斬撃は大型の獣を狩るときのやつだ。
奴が逃げるルートに沿って、地面に深く刻まれた跡がついていき、建物が壊れる。刻まれる音に崩壊の音がついてくる。
「ふざけるな!ほんとに刻んでくるやつがいるか!」
不思議なことを言う男だ。特徴が通称になるのに。
「そっちも突然変異すればいいじゃん」
「あんなのはどっかの誰かに勝手につけられただけだ!」
いいかげんに特殊な反撃をしない当たり、本当に能力の類はなくて、ただの化け物のだけのようだ。似ているなと思ったのは身代わり人形の昔話だ。いや、憑依された義務付けられたヒーローか?
「その傷で普通に動けるのならば十分化け物だと思うよ」
「うるせえ、傷つくから言うな、そして、やるな」
本心だ。頑丈な無能力者は一騎打ちにおいて最強格になりうる。
「早いうちにあきらめてよ、連合国の貴族に指名手配された以上は国際指名手配犯だ。逃げ場は無法地帯くらいで、君はやつらに嫌われている」
息を僅かも乱さない化け物に対して、少しずつ心を乱そうとするが、あまり効果はないだろう。斬撃は飛ばし続ける。
その後、しばらく追い続けたところで向こうの速度が落ちてきた。ダメージが通り始めたのだろう。それとも走り続けているのに、街を脱出できないことにでも気づいたかもしれない。
「ここがどこだかわかるかい?君が逃げる方向を斬撃で誘導していたんだ。そろそろ騙されたみんながすぐそこの酒場に戻ってくるだろう」
こんがり焼けた酒場と、だいぶ前に解放された磔男が転がっていた。傍には連絡の入った通信機器。どうやら、謎の通信障害はどうにかなったらしい。
「逃げ続けるほど、君を狙う人間は増える。生き延びることがつらいことだってあるでしょ」
「だから、あきらめろと?」
思ったよりも早くに反応があった。
「つらくなかったことなんて、今までで一度もない。...なかった」
止まった男の体がぐるりと180度回転し、こちらへ突っ込んできた。落ちた速度はフェイントだったのかもしれない。それくらいの動きだった。
急にもう2段階ほど奴の速度があがる。まずい、ダメージは避けきれないか!?
!?
胸倉を掴まれた!?な、なんで!?
「お前は馬鹿か!普通に殴ればこちらもただでは済まなかっただろうに」
咄嗟に斬撃を飛ばし、間抜けな奴の間抜けな腕を刻む。とっても痛いようだ。どうやらダメージ無効の時間が過ぎたらしい。ここからは刻んだ音に悲鳴がのっかるわけだ。
こっちは体中から斬撃を飛ばせるというのに。こいつ、ただただ頭が悪いのか?それともドーピングの影響で思考回路が滅んだか?
「今の一手に賭けたんだよ」
賭け方がおかしい、7の目を狙って賽を振るようなものだ。
「うまくいったかい?」
「ああ、あとは処刑だけだ」
降伏は考えていないらしい。
「僕から逃げないくらいには、何か重い決断をしたみたいだけど、あきらめるかい?」
「逆だ。お前を土産に無法地帯に向かう。だから、お前から逃げ切るのをやめた」
こいつ、超能力者に勝つつもりらしい。
「秘策はあるのかな?」
「実はさっきまで、準備をしていたんだ」
素直に教えてくれるなんて余程自信があるようだ。警戒のレベルを1つあげる。いつ、何が来ても対処できるように。
「それで?」
やつはポケットから手のひらサイズの青いボールを取り出した。
「それが秘策かな、魔道具とか?」
「お前の斬撃はとても強いエネルギーだ。すべてこれで吸収しようと思ったが、膨らみすぎるととても重くなるし、それを一気に吸収すると俺の身がもたない。だから、逃げることを考えたら頼れなかった。だから、これはおまけだ」
それを強く握る素振りとともにボールがしぼんだ。これが突然変異のからくりならば、警戒しておくに越したことはない。
「多少回復したところで超能力者の無限の風から逃げ切れるとでも思っているのかい?」
「たしかに、突風とともに迫ってきて、風の塊を斬撃にする化け物なんて普通は勝てない」
やつは、謎のスイッチをボロボロの服の内ポケットから取り出す。
爆弾でも仕掛けているのか?
「でも、超能力者も魔法使いも。能力がなければただの人間だ」
「当たり前だよね。でも、超能力者は魔法使いと違って無限に能力を使える。僕はもちろん超能力者だ。君と違って時間切れは無いよ」
「そうでもないさ、」
スイッチを押して、すぐに握りつぶした。
「...何も起こらないじゃないか」
「失敗したかもしれないな」
「ふん、切り札は使えなかったようだね。じゃあ、これで終わりだ」
気絶させるために、風を集めて圧縮する。
「あははははは、さすがにこれはどうにもならないだろう。それともボールで吸収できるかい?」
最大級まで集めたこれを奴に放てばただでは済まないはずだ。
「10億はいただいた!」
更新料から余った金で何をしようか。