ゼロの使い魔の奇妙な冒険   作:不知火新夜

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城下町にてデルフリンガーを購入した才人達。さあこれから学院に戻ろう、という時に鉢合わせたキュルケとタバサ。彼女たちは、一体…?※キュルケ救済(?)回です。


9話

「用があるならさっさとしなさいよね、ツェルプストー。私達は馬で来たから早く帰らないといけないんだけど」

「…」

 

ルイズの棘のある催促にも黙りこくったままのキュルケ、その顔は何処か思い詰めた様子が伺える。

…やれやれだ、てっきりあんなボロクソに言われて可愛さ余って憎さ百倍、ではないが反感募らせて襲撃を企てて来るかと思ったが、やけにしおらしい。

何時もの彼女を知る奴がいたら目を疑いそうだ、俺も少し戸惑っている。

 

「…私、貴方達に謝らないといけないわ」

「は、はぁ!?どういう風の吹き回しよ、アンタ?」

 

そしてその末に今の様な謝罪の言葉が出たら絶対に驚愕するに違いない…実際にルイズは素っ頓狂な声を上げている。

だがそれを意に介す事無くキュルケは言葉を繋げる。

 

「昨日の決闘での姿でサイトに一目惚れして、彼をその気にさせようと、帰って来た所を狙って誘惑していたの。けど余りにつれない態度に想いがヒートアップして、何が何でも気を引きたいってアプローチを激しくして、思わずルイズへの悪口が出たわ…そしたらサイトは、物凄い怒りを見せて私を罵倒したの…『女として最低』『ツェルプストー家は糞貴族』ってね…凄いショックだったわ。今まで恋敵の女に罵倒されたり、襲撃されて返り討ちにしたり、公の場で裸に剥かれたりした事はあったわ…けれど、惚れた男にあそこまで罵倒されるのは初めてだった。原因は直ぐに思い当ったわ…私がルイズの悪口を言って、それでサイトの怒りを買った…私がアプローチしても常に使い魔としての役目しか口に出さなかったし、ギーシュが『ゼロのルイズ』と言った瞬間に怒鳴り散らしていたし、そこに辿り着くのも簡単だったわ。簡単だったけど…納得は出来なかった。そもそもあの時『男っ気が無い』と言っただけで『ゼロのルイズ』とは一言も言ってなかった。それに他の連中は絶対に侮辱の意味を込めて言うだろうけれど、私は口にするにしてもそんなつもりは微塵も無かったわ。ただちょっとからかいたかっただけ。あそこまで怒らせるとは全く想像してなかったわ。考えているうちに訳が分からなくなって、朝になったら問い詰めようと思ったけど、もう夜明けには用事で学院を出た後だった。案外、タバサならアドバイスくれるかなと思って、朝食の後に昨日の事を話して聞いてみたの。私の何がいけないのって。そしたら言われたわ…皆が皆、そう受け止めるとは限らない。彼は典型的なその『受け止めない、受け止められない』タイプ…てね。タバサから聞いたわ…昨日の爆発の後片付けの時、ルイズを激励していたのよね。タバサも微かにしか聞こえていなかったけど、ルイズには『黄金の精神』があるとか何とか言っていたじゃない。よく分からないけど、それこそサイトがルイズを慕う理由かも知れなくて、それを侮辱される事を、例えそんなつもりじゃなくても何より嫌っているみたいだって、指摘されたわ。そしたら私は何て最低な女なんだって…あそこまで罵倒されても仕方がないって思い知らされたわ。そして、どうしても謝りたくて、もしかしたら城下町にも来るんじゃないかって思い当って、ずっと待っていたの」

 

…やれやれだ、余程甘やかされて育ってきた様だな…俺にあそこまでボロクソに罵倒されるまでそれに気が付かないとはな…尤も、この社会ではそれも仕方の無い事かもな。

 

「御免なさい…私、貴方達の気も知らないで今まで酷い事をしてきたわ。今更謝って許される事じゃないのは分かっているわ。特にルイズは、両家の因縁もあるし。でも、それでも謝らせて欲しいわ。本当に、御免なさい」

「…ルイズ、こう言っているみたいだが、どうする?」

「…」

 

今まで、といっても俺がキュルケに会ったのは昨日だ。

俺がコイツへ抱く反感は、ルイズを自覚が無いまま傷つけた事、それに尽きる。

つまり俺に謝られても、ルイズが嫌だと言えば許し様が無い。

…逆に言えば、ルイズがうんと言えば俺も許すつもりである訳だが。

 

「…謝るなんて、アンタらしくないわね、ツェルプストー。明日はウィンディ・アイシクルでも振って来るんじゃないかしら?分かったなら何時も通りにしてなさい、良いわね」

 

…ルイズの返答は皮肉だらけであったが、遠回しに、彼女を許すと言っている様だ。

なら俺も彼女をとかく言うつもりはない。

 

「…分かったわ、ルイズ。それとサイト…1つ聞かせてくれるかしら?貴方が言っていた『黄金の精神』って、一体何?ルイズが持っていて、貴方を引き付けるそれって、一体何なの?」

 

謝罪から間髪置かずに俺に問いかけるキュルケ、その目はさっきの憔悴が嘘の様にキラキラという擬音が聞こえてきそうな、真剣な物だった。

…話すべきかな、俺が異世界の人間だって事を、俺を此処まで育ててくれた『ジョジョ』を。

ルイズに目線で指示を仰ぐが、彼女もまた気になっていたのか、同じくキラキラな目だった。

…まあ、良いか。

 

「まず、ルイズやヴァリエール家の人達には伝えてあるが…俺はこのハルケギニアの人間ではない」

「ハルケギニアの…?どういう事?」

「…遥か東方…ロバ・アル・カイリエの人間という事?」

「いや、遥か遠く…という意味とは少し違う。月がたった1つ、白い物しか無かったり、魔法の存在自体が現実に無かったり…ハルケギニアとは全然違う、所謂異世界から俺はルイズによって召喚されたんだ」

「月が1つだけで、魔法の存在自体無い…!?嘘でしょ…?」

「あたしも最初聞いた時には信じられなかったわよ。でも(スタンドについての)話を聞いて納得したわ」

「…それに彼の服装は、ハルケギニアではまず見られない…その考えに至るのも可笑しくは無い」

「元いた世界では俺はルイズ達の様に学生だったんだが、まあその話は後な。で、その世界には、俺にとって恩師といえる存在がいた。『ジョジョ』という渾名で呼ばれた、何人もの戦士達だ」

 

といっても現実の話では無い、漫画の中の存在だ(だから間接的・現実的に言えば俺の恩師はジョジョの作者である荒木比呂彦先生なのだが)。

だがジョジョの単行本の数々は、俺にとっては下手な道徳の教科書よりも為になり、いつしか俺にとって人生のバイブルになっていた。

そしてその主人公であるジョナサン・ジョースター、その孫のジョセフ・ジョースター、更にその孫の空条承太郎、ジョセフの年の離れた息子の東方仗助、ジョナサンの身体を乗っ取ったディオの息子のジョルノ・ジョバァーナ、承太郎の娘の空条徐倫、パラレルの世界のジョナサンであるジョニィ・ジョースターといった『ジョジョ』達や、彼らと共に冒険し、戦いを繰り広げた仲間達に憧れ、名言の一つ一つに感銘を受けた…良くTVに出ている政治家とか起業家とかが、好きな歴史上の人物を答えたりそれに関するエピソードを答えたりするが、俺にとってのジョジョは、正にそれだ。

今思えば俺、平賀才人を平賀才人たらしめる物の9割はジョジョだと思う。

前いた世界では俺の性格を『ジョナサンの純粋さ、ジョセフのコミカルさ、承太郎のクールさ、仗助の熱さを合わせた感じ』と、同じくジョジョ好きのクラスメートが言っていた事も、それを裏付けていると考えている。

 

「ジョジョ達は常に、大切な存在を想い、周囲を想い、どんな苦難にも逃げずに向き合い、真正面から立ち向かった…これこそが『黄金の精神』だと、俺は思っている。そしてルイズ達ヴァリエール家の皆からも、それを感じ取れた…これこそ俺がルイズを主人として慕う訳であり…ルイズが侮辱されれば我慢ならなくなる最大の理由だ」

「『黄金の精神』…それが、私に…?」

「良く…分からないわ…でも、ルイズをそこまで慕う理由だけなら分かるわ」

「我慢ならなくなる訳も。彼女への侮辱は恩師への侮辱も同じ、という事」

 

恩師を敬う事の大切さ、これもその恩師の1人である仗助から学んだ事だ。

幼い頃、ディオ(ジョナサンの身体を乗っ取っていた)のスタンド覚醒に伴う体調不良の際に助けてくれたリーゼントの学生…その出会いこそが仗助を仗助たらしめている物だ。

その象徴であるリーゼントを侮辱する事は仗助にとって恩師を侮辱すると同じで、自らの人格否定、人生の否定でもある。

今の俺なら、ルイズを侮辱するのはジョジョを侮辱するのと同じ…という事だ。

 

「…私、貴方が言う『黄金の精神』がどんな物かは良く分からないけど…いつかは分かりたい、私の物としたいわ!そして何時かは貴方の気を引かせるに相応しい女になって見せる!それまで待っていて!」

「は、はぁ!?立ち直った途端、結局はそうなるのこの色ボケツェルプストー!」

「ルイズ…サイトを此処まで慕わせる貴方をもう下に見るのは止めるわ。これからはこの恋における最大のライバルと見なすわよ!覚悟しなさい!」

「こ、恋って、だから何を言っているのよアンタはぁ!」

 

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

俺は俺の思いを全て打ち明けたら、何時の間にか修羅場になっていた。

な…何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何が起こったのか分からなかった…

頭がどうにかなりそうだった…

SchoolDaysだとかShuffleだとか、そんなチャチなもんじゃ、断じて(ry

 

------------

 

そんな修羅場もあって、俺達が学院へと戻れたのはもう日が暮れてしまった後だった…が、

 

ドォォォォォォォォン!

 

「今の音…何だ?」

 

ハルケギニアに来て最初の虚無の曜日は、まだ終わって無かった。


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