ゼロの使い魔の奇妙な冒険   作:不知火新夜

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ルイズの家族のスタンド使いとしての覚醒、デルフリンガーとの出会い、キュルケの突然の謝罪と決意表明等、才人の最初の『虚無の曜日』はイベント続きだった。しかし、まだ終わっていない…!


10話

「ルイズ、あれもゴーレムかっ!?ていうかデカ過ぎるんですけどぉ!?」

「あの大きすぎる土で出来たゴーレム…まさか、土くれのフーケ!?」

 

本塔の裏手側にある中庭で俺達が目にしたのは、その本塔に匹敵するデカさの土製のゴーレムだった。

先程俺が微かに聞いた轟音は、このゴーレムが塔の壁をぶん殴る音みたいだ。

だがこんな夜更けに何でこんな大掛かりな騒ぎを…!

 

「ルイズ、確か土くれのフーケって、最近トリスティンを荒らしまわっている泥棒の事かっ!?」

「え、ええ、そうよ!でも何で堂々と此処に…!まさかっ!?」

 

土くれのフーケ。

このトリスティンの貴族の屋敷等を襲う神出鬼没の大泥棒らしい。

どんなに強固な防壁も錬金によって脆く崩れ去り、固定化が掛かっていようと30メートルものデカさを誇る土のゴーレムによる力技で押し通す。

そして潜入したら真っ先に価値の高いマジックアイテムを盗み、「○○、確かに頂戴いたしました 土くれのフーケ」というメッセージを残して去っていく。

その手口から土のメイジ、そしてスクウェアにも匹敵するんじゃあないかっ!?という位の実力を誇る手練れだと推測できる。

さっきあのボロい大剣(デルフリンガーとかいう名前らしい)を買った際にも、盗賊が出没するとか言っていたが十中八九、土くれのフーケの事だろう…メイジ、それもスクウェア相当の手練れ相手に普通の剣で対抗するというのは甘く考え抜き過ぎじゃあないか?

ともかく、そんな大泥棒がこの学院に大胆にも力技で押し入ろうとしているという事は…!

 

「ルイズっ!あのゴーレムがぶん殴っている所に何かあるのかっ!?」

「あそこは宝物庫よ!あそこには沢山のマジックアイテムや歴史的な文化財が入っているの!きっとフーケはそれを狙っているんだわ!止めないとっ!」

「マジかっ!て、お、おいルイズっ!?」

 

言うが早いか、ルイズは杖を手にフーケのゴーレムへと突っ走って行った…おい、無謀過ぎるだろっ!

 

「な、何を考えているんだルイズ!危ないだろっ!」

「迷っている暇は無いわ!土くれのフーケはあたし達が捕まえて見せるっ!」

「無茶が過ぎるだろ!相手はスクウェア相当じゃあないかっ!?ていう程の手練れだぞっ!少なくとも人を連れてこないと返り討ちにされるっ!」

「人を呼んでいる間に逃げられるわ!私達2人で捕まえて見せるのよ!」

 

言うと同時に俺を振り切り、ルイズは再び突っ走って行く…あぁ、仕方無いな全くっ!

ルイズを放っておけず、俺も向かう事にしたが…どうする、噂によればフーケのゴーレムは30メートル位で、今目にしているのも同じ程度、更にそれを操るフーケらしき人物は肩に乗っかっている。

此処からじゃあシルバーチャリオッツでは明らかに届かない…一応とっておき(ラストショット)はあるが、まだ1回も試していないし、おまけに夜中では狙いが定まらない…ゴーレムの腕伝いに斬りかかるか?

いや、それは危険度が高すぎる、いくらルーンによる身体強化の恩恵があれど腕に飛び乗れる位のジャンプ力までは期待出来ないし、そもそも警戒されて腕に乗れないだろう。

どうする、どうする俺…!

 

「ファイヤー・ボール!」

 

ぼごぉん!

 

ゴーレムの近くに到着した俺が最初に見たのは…魔法を詠唱する『フリ』をして、キラークイーンにドロップキックをさせているルイズの姿だった。

流石にパワーは十分だったキラークイーン、ゴーレムの左太腿に当たる部分にデカい風穴を開けたのは良かったのだが、直ぐに散った土が集まって修復されてしまう…回復力も尋常じゃあないのかっ!

 

「だったらそこよっ!ファイヤー・ボール!」

 

キラークイーンのパワーを以てしても効果が薄いと分かるや否や、今度は『本当に』詠唱しつつ、左手を突き出していた…!

そうか、あの爆発魔法でフーケの周囲に『熱源』を作り、そこにシアーハートアタックをぶち込むって算段かっ!

流石だぜルイズ、ほぼ無謀に近い状況下でも逃げず、勝つ為の道を見つけ出す…正に『黄金の精神』を体現しているぜっ!

 

ドォォォォォォォォン!

 

「行っけぇぇぇぇぇ!」

 

ヒュン!

 

爆発魔法の発動から間髪置かずにシアーハートアタックを発射するルイズだった…が、

 

「ファイヤー・ボール!」

 

ドォォォォォォォォン!

 

「「え…?」」

 

突如現れた第三者が放った火の玉と、それに釣られたシアーハートアタックが相殺してしまった。

 

ドゴォン!

 

悪い事は続く。

殴打の嵐に耐えきれなくなったのか、宝物庫の壁がとうとう壊れてしまい、フーケの侵入を許してしまった。

これは、まずいな…

 

「きゅ、キュルケ!?それにミス・タバサも!?」

「貴方達の戻りが遅いから様子を見て来たけど…まさかフーケが学院に…」

「狙いは宝物庫のマジックアイテム。出て来る所を狙い撃t」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

 

「く、崩れるぞっ!離れろ!」

「なっ!?きゃぁ!」

 

どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!

 

更に続く。

先程の火の玉を放った主であるキュルケとタバサと合流したのもつかの間、フーケのゴーレムが突如崩れたのだ。

 

「けほっけほっ!だ、大丈夫か、皆?」

「え、ええ…寸での所で逃がすなんて…」

 

土煙が晴れると、ルイズが言った通りそこにはフーケの姿は無かった…逃げられたか…!

 

------------

 

土くれのフーケが学院の宝物庫に侵入し『破壊の杖』というマジックアイテムを盗み出した。

そのニュースは瞬く間に学院中に伝わり、翌朝には大変な騒ぎになっていた。

で、その様子を目撃していた俺達4人が事情聴取の為に学院長室に呼ばれた訳だが…入って来た時には教師陣による責任の擦り付け合いが繰り広げられていた。

やり玉に上がっていたのが一昨日の授業の担当だった教師シュヴルーズで、どうやら昨日の当直だったらしいが…その様子を見るに殆どの教師が当直をサボるのが当たり前だった様だ。

その場はオールド・オスマンと呼ばれた学院長…長い白鬚と白髪で、所謂賢者と言える見た目をしたじいさんだった…によって一喝されて治まったが、物凄く見苦しい…こんな連中がヴァリエール家の方達と同じ貴族だというのが信じられない…養豚場の豚の騒ぎの方がまだ聞くに堪えられるという物だ。

 

「で、犯行の現場を見ていたのは誰だね?」

「この『3人』です」

 

…俺は入っていない訳ね、まあ良いが。

教師コルベールの紹介に促される様に、ルイズはその時の様子を説明した。

まあ多少は掻い摘んで(主にスタンドで攻撃した部分)の物だったが、十分伝わっただろう。

 

「そういえばミス・ロングビルの姿が見当たらないのう。一体どうした事じゃ」

「そ、そういえば朝から姿が見えませんな…」

「失礼します!」

「ミス・ロングビル!何をしていたのだね!この緊急事態に!」

 

ふと学院長の秘書らしいミス・ロングビルと呼ばれた存在の姿が無い事が話題になるも、それを見越したかの様に1人の女性…緑色のセミロング、黒いスーツを身に纏ったキツめの美人といった容貌だった…が入って来る。

 

「申し訳ありません。その件について独自に調査していたもので」

「調査をしていた?仕事が早いのう。それで結果は?」

「はい、フーケの居場所が分かりました」

 

!…トリスティン中の貴族の屋敷を荒らしまわる稀代の大盗賊をあっさり見つけ出した、だと?…本当なら只者どころの話じゃあねぇな、『本当』なら。

 

「本当かの、それは?どうやって突き止めたのかね?」

「近くに住んでいる農民から聞き取りを行った所、近くにある森の廃屋に入って行った黒ずくめのローブの男を見たそうです。恐らく彼こそがフーケで、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと」

「黒ずくめのローブ?それこそフーケです!間違いありません!」

 

…随分とまあ突っ込み所満載だな、秘書ロングビルの情報も、それに簡単に釣られる教師陣も。

だが『平民』扱いの俺が突っ込んでも誰も聞きゃあしないだろうし、下手に口出しして睨まれれば、とばっちりを食うのは主人であるルイズだ…黙っておくか。

 

「そこは近いのかね?」

「はい。馬を飛ばせば大体4時間といった所です」

「直ぐにでも王宮に報告を!」

「ミスタ・コルベール、王宮に知らせる時間は無い。その間にフーケに逃げられれば事じゃ。故にこの件は我々魔法学院の者だけで解決する!」

 

…こりゃあまた物凄くストレートに事が運ぶな、まるでパーマンみたいな子供向けのヒーロー漫画だ。

此処まで筋書通り過ぎる上に誰も突っ込まないとか…此処の教師は貴族として持つべき誇りも締めるべき頭のネジすらも無いのか、それとも…

 

「それでは捜索隊を結成する。我こそはと思う者は、杖を掲げよ!」

 

…と思ったが、最低限は締められていたのか、オールド・オスマンの志願を募る一声にノリと勢いで杖を掲げるのは誰一人いなかった…いや、この場合は腰抜けなだけ、か?

 

「おや、どうした?おらんのか!?我こそがフーケを捕まえ、名を上げようと思わんのか!?」

 

煽る様な一喝にも杖を掲げるのは誰1人…いた、それも俺の中で一番上げるだろうなと思った存在が。

 

「ミス・ヴァリエール!貴方は生徒ではありませんか!」

「誰も掲げないではありませんか!」

 

ルイズだ。

それに反応した教師シュヴルーズが諌めようと声を荒げるが、毅然とした様子で放たれたルイズの反論に只々押し黙るだけだった…そんなKYな突っ込みする位なら最初から立候補しろよ。

とはいえルイズが上げたのなら、といったドミノ倒しの様に、

 

「ミス・ツェルプストー!君まで!」

「ヴァリエールには負けてられませんわ!」

 

キュルケも掲げた…昨日の凛としたルイズへの宣戦布告は一時の物では無い様だな…その切っ掛けが俺なのは複雑な気分だが。

そして更に、

 

「タバサ?貴方は良いのよ?関係ないのだから」

「心配」

 

タバサもまた、杖を掲げた…心配なのは恐らくキュルケの事だろう、2人は親友らしいからな。

 

「オールド・オスマン!彼女達は生徒です!学院として生徒を危険な目に晒す訳にはいきません!」

「では君達が行くかね?」

「い、いえ、体調が優れないので…」

 

尚も食って掛かる教師陣だが、オールド・オスマンの突っ込みに直ぐ尻込みしてしまった…やっぱり、腰抜けだったか、はぁ…

 

「彼女達は敵を、フーケを見ている。それにミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いておるが?」

「本当なの、タバサ?何で今まで黙っていたの?」

「騒がしくなる」

 

シュヴァリエというのは王室から与えられる称号の1つで、一言で言えばメイジとしての実力を評価されると与えられる物らしい。

学生で既に持っているのは極めて珍しいのか、教師陣やキュルケの驚き振りが相当な物だった。

…ルイズよりも年下に見える(けれど同学年)身で、既に国から一目置かれている実力…人は見かけによらないとは、正にこの事だな。

 

「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法も強力だと聞いているが?」

 

…余り気分の良い話では無いが、トリスティン王家とも繋がるヴァリエール家と先祖代々(色んな意味で)ドンパチし合う家柄なのだ、並外れた名門で無ければ今頃は既にお家断絶している筈である。

 

「ミス・ヴァリエールは…トリスティン王家にも繋がるヴァリエール公爵家の息女で、将来有望なメイジと聞いておる。その使い魔は、平民でありながらもグラモン元帥の息子であるギーシュ・ド・グラモンと決闘し、素手だけで圧倒したという噂だが」

 

あァんまりだァァ!HEEEYYYY!るるルイズゥゥゥのォォォォ紹介がァァァァァ!

 

「そうですぞ!何せ彼はガンd」

「ミスタ・コルベール!」

 

…ん?何か教師コルベールが言いかけたな?

ガン…?ガン…ダム?ガン…スリンガー?ガン…スパイク?

 

「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する。是非ともフーケを生け捕りにして見せるのじゃ!」

「「「杖にかけて!」」」

 

…勿論、ルイズが行くと言うのなら使い魔である俺も当然行くし、捕まえて見せる。

そう心に誓い、ルイズ達が杖を掲げたのと同時に、背負っていたデルフリンガーの鯉口を切った…日本刀ではないのでこの表現は少し可笑しいか?


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