「はぁい、サイト、ルイズ。遅かったじゃない」
「やれやれ、待ちくたびれたよ」
「…」
「お、オレェ…」
「あ…アンタ達…」
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
俺はアンリエッタ姫様の昨日の指示の下、早朝に待ち合わせ場所である校門前に来たが、そこにいたのはキュルケとタバサ、そしてギーシュだった。
な…何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何が起こったのか分からなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
ストーカーだとか盗聴だとか、そんな(ry
「なんで此処にいるのよぉ!?」
ルイズの絶叫が、空しく響いた。
「いやぁ、昨日の夜に女子寮へ向かう人影を見かけたんだけど、その姿が昼間に見たアンリエッタ姫殿下と瓜二つだったんだ!後を追わない理由など無いだろう!」
「さらっとストーカーの事実をバラしてんじゃあねぇ!」
「へぶぁ!?」
姫様をストーカーしたという事を堂々と告げた
悪いのはこのかっ飛ばされた
「えーと、話続けて良いかしら?…それでね、ギーシュがその人影を追って、ルイズの部屋に入ったのが見えたからその様子を伺おうとしたみたいだけど、鍵は掛かっているしサイレントも何故か掛かっていたから中の様子は全く分からない。途方に暮れていたギーシュを私達が捕まえて尋問したら、その話を聞いて『何かあるわね』って思ったの。で、その姫様らしき人影がいなくなってから暫くしたら…これからどうするのか詳細は全て聞かせて貰ったわ。それで先回りしたって訳よ」
「アンタもさらっと盗聴の事実をバラすんじゃあ無いわよ!」
「盗聴とは人聞きが悪いわね、聞こえただけよ?貴方だって、姫様からの極秘任務だからって、サイトと2人きりで逢引だなんて、ズルいにも程があるわよ」
「あ、逢引って何言ってるのよこの色ボケ女ぁ!姫殿下からの任務って言っているでしょ!」
その口ぶりは盗聴していると言っているのと同じだぞ…はぁ、仕方ないか…
「今更忘れろって言うのも無理があるし、口封じともなれば色々とカドが立つ…なんなら、同行するか?」
「は、はぁ!?アンタ何言って」
「流石はサイトね!主人の反対があっても大局的に物事を判断出来る!そこにシビれる惚れるぅ!」
「宜しく」
「あいたたた…ま、まぁ任せたまえ!このギーシュ・ド・グラモン、必ずや姫殿下の密書を皇太子殿下の元へ届け、手紙を敵の手から守り抜いて見せよう!」
お前はお呼びじゃあ無いんだが…まあ良い。
「ところで、姫様が同行させるって言っていた人はどうしたのよ?遅いじゃない」
「…確かにそうだな。まだ日の出までは少しばかり時間はあるが…」
…そう、姫様は昨日の指示の折、騎士団の中でも指折りの実力を持つ存在を1人、同行させると言っていた。
確かにフーケ捕縛の立役者となった俺とルイズではあるが、2人揃って未成年、交渉事となれば不安は大いにある。
スタンドの実力は姫様も理解はしてくれたが、これまた2人揃って近距離パワー型、遠くからマシンガンの如く飛来する魔法相手では分が悪い。
かと言ってこれは極秘任務、1個中隊でも付けよう物なら早々にばれてしまう(キュルケ達は完全なイレギュラーだが)…故の人選となったのだが。
「…アルビオンの状況からして1秒でも時間が惜しい、姫様もそれを分かっての人選の筈だが…む!?」
その時こちらへ向かう様に、一筋の風切り音が響いた…敵襲か!?
キィン!
「…誰?」
咄嗟にデルフリンガーを掴んだ俺だが、その前にタバサが『エア・カッター』で相殺した為、被害は無かった。
それと同時に攻撃が放たれたであろう方向を睨むタバサに合わせて警戒すると、
「僕は敵じゃない。姫殿下に同行を命じられた者だ…すまない、姫殿下の情報と比べて人数が多すぎると思って、早速敵に漏れたんじゃないかと警戒していてね。でもその中に婚約者の無事な姿を見て敵じゃないと安心したよ」
恐らく20代中盤位の声と背格好をした長身の羽根帽子を被った男が現れた…婚約者?…誰の事だ?
その疑問は、その男が帽子を脱いで自己紹介をして、氷解した。
「女王陛下直属の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長のジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵だ」
「ワルド様!?」
「…その様子だとルイズの婚約者なの?随分と精悍な方ね。でも私はサイトの様な年若くワイルドな外見と、どっしりと老成された雰囲気を併せ持った方が好きよ!」
色ボケに走るキュルケは置いて…まさかルイズに婚約者がいたとはな。
しかし片やルイズは16、片やワルドと名乗ったその騎士は少なくとも26は超えている…年の差カップルを否定する気は無いが、ワルドの方は騎士となってもう10年近くは経っている筈。
その間に、他に縁談の1つや2つはあっても良い筈だが…
「久しぶりだな、ルイズ!僕のルイズよ!」
「…お久しぶりでございます」
「相変わらず軽いな君は!まるで羽根の様だ!」
「…お恥ずかしいですわ」
周囲の目など気にしないと言わんばかりにルイズに駆け寄り、抱き上げた様子から昔馴染み、それも結構仲良しな様だ…まさかコイツ、ロリコンの気があるのかっ!?
「彼らを紹介してくれないか?どうやらまだ警戒されているようだ」
「そ、そうですね…まず、使い魔のサイトです。本来ならサイトと2人の予定だったんですけど」
「サイト・ヒラガだ。宜しくな、ワルド子爵」
「君がルイズの使い魔か…最初に君の事を姫殿下から聞いた時は色々と信じられなかったけど、その面構えに油断無き振る舞い、あの土くれのフーケをルイズと共に捕縛したのも納得だよ」
…待て、今コイツ何つった?『最初に君の事を姫殿下から聞いた』…だと?
ギーシュをフルボッコにしたという噂、フーケを捕縛したという噂、昨日の使い魔品評会での演目…俺の事を知る機会なら幾らでもあった筈だがな…
「彼女たちは私のクラスメートです。何処かから聞きつけたみたいで、『仕方なく』同行させる事になったのです」
「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーです。キュルケって呼んで欲しいわ」
「タバサ」
「ぎ、ギーシュ・ド・グラモンです。宜しくお願いします」
「まあ、予定が逸れたが、宜しく頼むよ…さて、時間が惜しい。早速出発する事にしよう。おいでルイズ」
「待ちな、ワルド子爵」
そんな俺の疑問をよそに他のメンバーの紹介も済み、ワルドが出発の準備に取り掛かる様呼びかけたが、その際ルイズ抱えたまま、恐らく使い魔であろうグリフォンに乗ろうとしたのを止めに入った。
「どうしたんだい、使い魔君?」
「アンタとルイズの足は、そのグリフォンか」
「そうだとも。婚約者が移動を共にするんだ、何も変わった事は無いだろう?」
「ああ、無い。無いが…そのグリフォン、3人乗れるか?だったら乗せてくれ」
「ちょ、ちょっとサイト!昨日の事といい今の事といい、無礼過ぎるんじゃないの!?」
「まあまあルイズ、彼にもそれを言い出す訳があるのだろう…それで、どうしてだい?」
「俺はルイズの使い魔だ。使い魔は常に主人の身を守らなくてはならない。アンタの実力を疑うつもりは毛頭ないんだが、どんな時でもルイズを守れる状態でなければ、使い魔として立つ瀬が無い」
「成る程、見上げた忠誠心だよ。だけど僕のグリフォンは2人まで。此処は僕にその役目を、ルイズを守る役目を譲ってくれないかい?」
「…了解」
未だにこの男を信用してはいないが、これ以上食って掛かっても仕方が無い。
ルイズの護衛の役目は一先ずワルドに任せる事にし、俺はタバサのシルフィードに、その主人であるタバサとキュルケ、ついでにギーシュと一緒に乗る事となった。
そして、2体の使い魔は、空を舞った…!