ゼロの使い魔の奇妙な冒険   作:不知火新夜

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ギーシュの決意とルイズの葛藤、2人の思いに触れた才人は改めて、使い魔としての決意をする。だがそこへ襲撃して来た土くれのフーケ、貴族派の者らしい仮面のメイジと傭兵集団を退けはしたが、任務の達成が一層困難だという事を思い知らされた。


20話

突如襲撃して来た傭兵の集団をルイズのシアーハートアタックで撃退、仮面のメイジもフーケも追って来ない事を確認しつつ、俺達は桟橋…ある建物の階段を抜けた先にある、四方八方に枝が伸び、その先に船がぶら下がった、中が空洞になっている大樹…へと向かう。

俺達の動向が貴族派に掴まれてしまったのは痛いが、こっちはスクウェアメイジが1人、トライアングルメイジが2人、スタンド使いが2人、結構な規模での襲撃で無ければ対処は出来る。

向こうも規模の大きい部隊をぶつければ大事になりかねないと踏んでいるだろう、これ以上の襲撃は無いと俺達は安心し、桟橋にぶら下がる船に到着した。

まだ出航のタイミングでは無かったが故に渋る船長だったが状況が状況だ、ワルドが風石…風のルーンと魔力が込められた石らしく、船はそれを動力源としているらしい…の魔力の不足分は自分が受け持つ事で交渉は成立、予定より早くアルビオンへと向かう事となった。

で、その途上だが、俺とルイズは揃って、思いっきり質問攻めにあった。

どうして部屋の松明が突如切断されて傭兵の元へ飛んだのか、あの第三者の声は誰なのか、俺達が離れたタイミングを見計らってのあの爆発は何なのか、俺とルイズはどうしてそれを『知っていた』かの様に動けたのか…俺もアイツらの立場だったらそーする。

だが今更ながらスタンド関連の情報はヴァリエール公爵家と俺との重要機密…最近はアンリエッタ姫様との、と加えた方が良い状態だ…である、「ヴァリエール公爵家の皆を敵に回す覚悟の上だろうな?」と脅してやったら一瞬の内に黙り込んだ…皆して青ざめていた様子からしてカリーヌさんの異名『烈風カリン』の最ッ高の恐ろしさは健在って奴だな。

さて…ここからが正念場だ。

先程の襲撃も無傷で切り抜けた俺達だったが、これからも貴族派の奇襲が待ち受けているかも知れない。

また、今から足を踏み入れるは激戦が繰り広げられているアルビオン王国領内、さっきとは敵の規模が違い過ぎる為、まともな衝突は避けたい。

だがしかし、ワルドが船長から聞いた話だと王党派の陣営は既に本拠のニューカッスル城に籠城、貴族派がそれを包囲している状態で、王党派との接触には陣中を突破するしか方法が無い。

ほぼ絶望的な状況…それは正に今だ。

 

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俺の不安は、アルビオンに上陸する前に現実の物となってしまった。

船がアルビオンに接近したその時、俺がその光景…大地の下半分が、大河から溢れ落ちた水が気化した事で出来た霧で覆われ、正に『雲の上に乗っている』光景だ…に見とれていた時だった。

その進路を妨害するかのように空賊らしき船が数隻立ちはだかり、大砲を突きつけられた為に船長が投降してしまったのだ。

で、俺達はといえば、貴族の乗客、という事で各々の得物…俺はデルフリンガー、ルイズ達メイジは杖…を没収された挙げ句に縛られ、船倉に放り込まれた。

大方、ルイズ達の関係者に身代金でも要求して一儲けしようって算段か、或いは貴族派と一枚噛んでいるか…やれやれだ。

その気になればシルバーチャリオッツをけしかけて縄を切れるし、キラークイーンとのタッグで空賊共を逆に制圧するのも不可能では無いが、大砲をちらつかせている関係上、止めた方がいいな。

そう思案していると、

 

「お前らに聞きたいことがある。もしやお前ら、アルビオンの貴族派の連中かい?」

 

…まさか、後者か?

 

「いやぁ、そうだとしたら申し訳ねぇと思ってさ。俺達はお前たちによって稼げる訳だし、王党派に加わろうとかしやがるアホ共を捕まえればそれこそウハウハだしなぁ。で、どうなんだ?」

 

…やっぱり後者か、此処はどうすべきかな。

馬鹿正直に「王党派への使いだ!」と言うべきか?NO! NO! NO! NO! NO!

それとも条件反射で「はい、そうです」と言うか?NO! NO! NO! NO! NO!

或いは…

 

「誰が薄汚い反乱軍よ!私達は王党派への使いの者よ!私達はトリスティンを代表してアルビオン王室へ向かう大使なんだから!」

「ル、ルイズ!な、何を言っているだァァァァァ!?」

 

…1つ目を迷わず選ぶ奴が居たのを、あろう事か俺のご主人様がそうなのを忘れていた…やれやれだ、そこは状況を読もうか。

…傍にキラークイーンを発現させている辺り、相手がどんな出方をしても切り抜けられると踏んだのだろうが、仮にキラークイーンがいなかったとしても言いそうだ…ルイズは、そんな奴だった。

ギーシュの訛り全開の叫びに表れている通り、恐らく皆そう思っているだろう。

 

「随分とまた正直な奴が居た物だ。その態度なら褒めてやるが、少しは状況を読んだ方が良かったぜ?」

「アンタ達みたいな下賤な輩の為に読まなきゃならない空気なんて無いわ!元よりこんな状況は覚悟の上よ!」

 

尚も食って掛かるルイズだったが、そんな罵詈雑言を真正面から浴びせられている空賊の様子が何かおかしい。

普通なら怒り狂う所を、むしろ感心したかの様な、救われたかの様な笑みを浮かべていたのだ。

まさかとは思うが…

 

「ほぉ…ちょっと待っていろ、お頭に報告してくらぁ」

 

程無く空賊が、船倉に鍵を掛けつつ去って行く。

ルイズの独断専行に俺以外は頭を抱えるばかりだったが、もし俺の直感が正しければ結果オーライとなる…と思う。

そうなれば良いが…

 

「お前ら。お頭がお呼びだ」

 

------------

 

「大使としての扱いを要求するわ。でなければ、アンタ達に話す事など何も無いわ!」

「王党派への使いの者だと言っていたな?あんな明日をも知れぬ連中に、一体何の用事だ?」

「言ったでしょう?話す事など何も無いと!」

「貴族派に付く気は無いか?アイツらはメイジを欲しがっている。礼金も弾むだろうよ」

「死んでも嫌よ、あんな薄汚い連中の下っ端なんて!」

 

空賊に案内されたのは、その頭目がいる部屋だった。

空賊の頭目は如何にもそうだと言わんばかりの風貌で、その部屋のディナーテーブルの上座に座り、周囲に武器を持った数人の手下を控えさせていた。

その前方に案内された俺達だったが、ルイズは早速、頭目に食って掛かった。

で、今現在は押し問答を繰り広げている、という訳だ。

俺達の側はと言うと、今更状況は変わらないと諦めの表情だった。

 

「もう一度言う。貴族派に付く気は無いんだな?」

「答えは一緒、NOよ」

 

念を押すかの様な問いを投げ掛ける頭目と、変わらず拒否の姿勢を示すルイズ…やはりおかしいな、頭目もまた、感心した様な、安心した様な笑みが僅かに浮かんでいた。

そして、

 

「「「はははははははははははははははは!」」」

「ちょ!?何で笑うのよ!?」

「いやぁトリスティンの貴族は、本当にプライド高くていけないな。何処かの国の恥知らずどもに比べれば数百倍もマシだけど」

 

突如巻き起こった大爆笑、急に変わった頭目の口調、急に外しだした帽子と眼帯と『髪の毛』と『髭』、そしてこの後の行動が、俺の疑問を氷解させた。

 

「アルビオンへようこそ、大使殿。私はアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」

 

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

俺達は空賊に捕まっていた筈だが、その頭目は俺達が会う予定だった皇太子様その人だった。

な…何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何が起こったのか分からなかった…

頭がどうにかなりそうだった…

お忍びだとか落ちぶれただとか(ry

 

「ぶっ飛ぶ程…カミングアウト…」

「意外っ!それは目の前の皇太子殿下っ!」

「…」

「ぐ、グレートです、皇太子殿下…」

「こ、こういう時は素数を数え…素数って何だ?」

「お、オレェ…」

 

各々のセリフで、どれだけ意外だったかが分かるだろう?


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