ゼロの使い魔の奇妙な冒険   作:不知火新夜

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アルビオン行きの船に乗り込んだ才人達一行だったが、その船が空賊に拿捕されてしまう。だがその空賊の頭目は、アルビオン皇太子ウェールズ・テューダーその人の変装だったっ!


21話

空賊の頭目が実はウェールズ皇太子様その人の変装だったという、まさかの展開故に一悶着こそあったものの、俺達は皇太子様の案内で彼ら王族のみが知る、ニューカッスル城下に隠された港に船を停泊させる事で(比較的)平穏に目的地に到着する事が出来た…ルイズのあんまりに無鉄砲な行動も吉と出た訳だ。

その中の、姫様から宛てられた手紙が保管されているという皇太子様の自室に、俺とルイズだけが案内された…大所帯で入る程の任務でも無いし、無駄に話が逸れても良く無いからな。

その一角に鎮座する皇太子様の机、そこに置かれた、宝石が散りばめられた小箱を開け、その中から今回、任務の為に回収する手紙らしき物が取り出される。

…余談だが、その箱の蓋の内側にはアンリエッタ姫様の肖像画が飾られ、手紙もまた何百回も読まれたのかボロボロと言っても過言じゃあ無い状態だった…余程姫様を愛しく思っているみてーだな、姫様からの密書を読んで凄く嘆いていた事からも、それが分かる。

 

「これが姫から頂いた手紙だ。この通り、確かに返却した」

「ありがとうございます」

「明日の朝、我が国の船『イーグル号』が非戦闘員を乗せて出航する。それに乗ってトリスティンへ帰りなさい」

 

…非戦闘員『だけ』、だと?つまりそれは…

 

「あの、殿下…差し出がましい様ですが…王党派に、勝ち目は無いのでしょうか?」

「我が軍は三百。一方で貴族派は五万。勝ち目は万に1つも無い。我々に出来る事は、勇敢な死に様を、我らの高き誇りを、連中に見せつけるのみだ」

「殿下の討ち死にされる様も、それに入っている、と?」

「勿論だ」

 

…やはり、皇太子様も、此処に留まる王党派の兵士たちも、最期まで戦うつもりか…!

 

「殿下…失礼をお許し下さい。このお預かりした手紙について、姫殿下からは聞いています。この任務を私に仰せつけられた際の姫殿下のご様子も、尋常ではありませんでした。まるで…恋人を、案じておられる様な…。先程の殿下の物憂げな御顔といい、もしや姫殿下と、皇太子殿下は…」

「ああ、私とアンリエッタは恋仲だった。その動かぬ証拠であるこの手紙が敵の手に渡ったら最後、間違い無くゲルマニア皇室に渡るであろう。そうなればアンリエッタがゲルマニア皇帝に誓う筈の愛は紛れも無い偽物となり、結婚及び同盟の話は立ち消えになる。つまりそれは、トリスティンは貴族派を相手にたった一国で立ち向かわなくてはならないという事だ」

 

そう語る皇太子様の眼、そこには純粋に姫様を愛し、そして姫様を、トリスティンを案じる様子が感じ取れ、皇太子様もまた『黄金の精神』を抱いた方だと俺は感じ取った。

 

「殿下!トリスティンに亡命なされませ!」

 

だから、ルイズが必死に亡命を勧め始めたのを聞いて、

 

「お願いであります。私達と共にトリスティンに「ルイズ!」っ!?」

 

条件反射で彼女を止めた…止めなければならないと思った。

 

「ルイズ…何も言うな…!」

「…サイト…!?」

 

余りに必死な様子が伝わってしまったみたいだ、ルイズがびくついた様に固まってしまった。

 

「それは出来ないよ。姫はそれを望んでいない。亡命を勧める文言は…一行たりとも書かれていない…私は王族故…嘘はつかぬ。姫と私の名誉に誓って…言わせて貰う」

 

おまけに皇太子様の苦しそうに絞り出したその言葉で、何も言い返せなくなってしまった…明らかに嘘だと理解出来たが、それが余計に今迄培われた『黄金の精神』の強さを感じ取ってしまったからだ…ルイズも、そう思ったに違いない。

 

「…君は正直な女の子だな、ラ・ヴァリエール嬢よ。正直で、真っ直ぐで、良い目をしている…けれど、余りに正直すぎるのも使者は務まらない、しっかりしなさい。尤も、我が国が迎える最後の使者には適任過ぎる位だけれども。是非、今夜のパーティーには出席して欲しい。君達は我が王国が迎える最後の客人だ、盛大に歓迎しよう」

 

その憑き物が落ちた様な様子が、余計に痛々しく感じられた…何で、何でこんな状況に陥らなければならなかったんだ、皇太子様は、アルビオンの王党派は…!

 

------------

 

皇太子様の自室から出た俺達は、参加を要請されたパーティーの会場へと足を進めていた…暫くは2人揃って無言だったが、ルイズがふと、俺に話しかけて来た。

 

「…ねぇサイト」

「…何だ?」

「…どうして、どうしてあの人達、死ぬ事を選ぶんだろう…」

「…皇太子様も言っていたが、誇り…いや『黄金の精神』に殉ずる覚悟なのだろう」

「…それは…そうだけど…でも、それは愛する人より大切な物なの?自分の誇りを、『黄金の精神』を守るためには、残された人の事はどうだって良いの…?」

「…それは違うぜ、ルイズ。皇太子様にとっては、アンリエッタ姫様も、同じ位、いや『黄金の精神』以上に大切な物だと俺は思う」

「だったら…何で…!」

「…愛するが故、大切に思うが故、だからだ…俺はそう思う」

「え…?」

 

今のアルビオン王党派の様な状況に置かれつつも、決して諦めずに困難に立ち向かった集団を、俺はジョジョの漫画で見た事がある。

第5部『黄金の風』で、ジョルノが所属していたギャング組織『パッショーネ』を離脱、ジョルノやブチャラティ達『ブチャラティチーム』と終始戦いを繰り広げた、リゾット・ネエロ率いる暗殺チーム。

リーダーのリゾット、ファンからは兄貴として慕われるプロシュート、ブチ切れキャラで知られるギアッチョ、イルーゾォ、ホルマジオ、メローネ、新入りのペッシに、物語が始まった時点で既にパッショーネのボスであるディアボロに殺されたソルベとジェラート…個性的な9人が集まったこのチームは、読んで字の如く組織において邪魔な存在の暗殺を担当、多大なる実績を残しながらも、権限や報酬において余りにも酷い扱いをされ続けて来た。

挙げ句、その状況を危惧したソルベとジェラートが反逆の為にディアボロの正体を探ろうとして処刑され、その余りに惨い姿に、ディアボロ、引いてはパッショーネに逆らう事がどれだけ命知らずかを思い知らされた。

けれども彼らは諦めなかった、ソルベとジェラートの敵を討つ為に、自らの栄光を掴む為に、反逆の機会を伺い続けていた。

そしてディアボロの娘のトリッシュの情報を手に入れた事で遂にパッショーネを裏切り、彼女の警護を命令されたブチャラティチームと幾度となく衝突した。

結局としてディアボロの殺害はおろか、トリッシュの拉致も成し遂げられないまま全滅したが、メンバーのプロシュートの言葉を借りるなら『あともうちょっとで喉に食らいつけるってスタンドを決して解除しない』を、皆実践した。

イルーゾォはパープルヘイズの能力に恐れをなしながらもその使い手であるフーゴ達を追い詰め、ホルマジオはナランチャを襲撃して終始圧倒し、ギアッチョはジョルノとミスタを執念深く追撃、プロシュートはペッシに覚悟を見せつけ、それを見たペッシはその覚悟を持って真っ向から死闘を繰り広げ、メローネは一時トリッシュを捕まえ、そしてリゾットはディアボロの第2人格『ヴィネガー・ドッピオ』をあと一歩まで追い詰めた。

『仲間の栄光』と『トリスティンの平和』…守るべき物、心に抱く物は大きく違えど、皇太子様を始めとした王党派の面々は、暗殺チームの面々と同じ想いだと、俺は思う。

 

「貴族派にとって王党派は、アルビオンを制圧する上で根絶やしにしたい存在に違いない。ましてや皇太子様はその筆頭。もし亡命でもすれば、貴族派は真っ先に亡命先に難癖を付けるだろう。ひょっとしたら宣戦布告の理由に仕立て上げるかも知れない。皇太子様はそれを、トリスティンを戦乱の舞台にする事を良しとしなかったから、あんな嘘をついてまで、亡命を断った…俺はそう思う」

「けれど…それじゃあ残された姫殿下は…最愛の人を失ってゲルマニアに嫁がなくちゃならない姫殿下の気持ちは…!」

「だったらルイズ、お前が姫様の支えになれ。最愛の人を失う悲しみに暮れる姫様を、お前が心身共に支えるんだ」

「…」

 

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「ちょ、ちょっとサイト、飲み過ぎじゃあ無いかい?」

「酒ッ!飲まずにはいられないッ!この状況下で何も出来ない自分に荒れているッ!クソッ!」

 

トリスティンからの使者である俺達の歓迎と、決起集会を兼ねたパーティの場、そこで俺はヤケ酒をかっくらっていた。

その場で現在のアルビオン国王様であるウェールズ一世が配下の兵士達に亡命を勧めるも、従う兵士が1人もいないその光景に、言い知れない程に複雑な感情が渦巻き、どう対処すれば良いか分からなかったからだ。

三百人程しかいないながらも、誰1人として誇りを、国王様への忠誠を失う事は無く、守るべきものの為に死ぬと分かっている運命へと皆が突っ走るその光景…見るに堪えられなかった。

此処までに揺るぎのない『黄金の精神』を持ち、それを以て王党派の三百人…この反乱が始まったばかりの頃はもっと多かっただろう…の熱き忠誠を一身に受けるアルビオン王国の国王様に皇太子様、そんな方が滅ぼされなければならないなんて…時代とは、人の世とは、どれだけ残酷なんだ…!

 

「確か君は、ラ・ヴァリエール嬢の使い魔の青年だね。しかし人が使い魔とはね」

「…サイト・ヒラガです。サイト、とお呼び下さい」

 

そんな俺に声を掛ける人物が1人、皇太子様だ。

 

「どうかしたのかい?なにやら陰鬱な様子だが」

「…色々とショッキングな事に出会いましてね」

「確かに、今は戦時中だからね。ところでサイト、明日の結婚式はどうするのかね?」

 

…結婚式?

まさか、ワルドとルイズの事か?

 

「その様子だと、ラ・ヴァリエール嬢から聞かされていないみたいだね。ワルド子爵に頼まれたんだ、決戦前に子爵とラ・ヴァリエール嬢の婚姻の式を挙げる為に、私に婚姻の媒酌をして欲しいと」

 

どういう事だ…?

ルイズから聞いた話なら彼女が判断するまで待つと言っていたんじゃあないのか?

それを今になって急にだと?

一体、何を考えている…?

 

------------

 

翌朝、皇太子様が前方で、俺が前側の長椅子でスタンバイしている礼拝堂。

俺と皇太子様は、新郎となるワルドと、新婦となるルイズの到着を、今か今かと待っていた。

他の面子は誰1人としていない…キュルケ達は先に帰らせたし、王党派の面々は決戦の準備で忙しかったからだ。

程無く、礼拝堂のドアを開けて入場するワルドとルイズ…流石にこの緊急時、派手な着飾りは無理だった(皇太子様も平常時と余り変わらない服装だったし、俺も緑学ランが精一杯だった)が。

 

「では、式を始める」

 

皇太子様の宣言に合わせ、その前方に並ぶワルドとルイズ…だったが、何やらルイズの様子がおかしいな。

さっきから俯き、顔を上げようとしない…一体どうした?

 

「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド、汝は始祖ブリミルの名においてこの者を敬い、愛し、そして妻とする事を誓いますか?」

「誓います」

 

その事を気にする事無く式を続ける皇太子様と、その問い掛けに答えるワルドの声…それでもルイズは顔を上げない…何か、あったのか?

 

「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、汝は始祖ブリミルの名においてこの者を…新婦?」

 

ルイズの番になっても顔を俯かせたままの彼女を流石に心配したか、皇太子様が声を掛ける。

 

「緊張しているのかい、ルイズ?しかし何も心配はいらないよ。僕のルイズ、君は僕が守ってあげるよ、永遠に。それをたった今、僕は誓ったんだ…殿下、続きをお願いします」

 

ワルドの説得に、今度は拒絶の意志を示す様に首を振った…まさか?

 

「私、貴方とは結婚出来ない」

「ルイズ!?」

「新婦は、この結婚を望まぬ…という事か?」

「はい…お二方には、大変失礼をいたす事になりますが…」

 

本当にまさか、という展開だった。

ワルドとの結婚を、今はっきりと、ルイズは断った。

それがその場の思い付きでないのは、決意に満ちたその声音が物語っていた。

 

「子爵。誠に気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続ける訳には行かぬ」

 

皇太子様もそれを感じ取ったのか、気を悪くする事無くワルドを諭した。

だがそれを、

 

「…緊張の余り思いが纏まらないのだろう、ルイズ。急な事だったのだからな。そうだろう?君が僕との結婚を拒む訳が」

「御免なさい、ワルド。確かに幼い頃の私は、貴女を想っていた。憧れだったのかも知れないし、恋だったのかも知れない。けれど今は違うの」

 

ワルドは認めようとしない…てめー…!

 

「世界だルイズ!僕は世界を手に入れる!その為に君が必要なんだ!君の『才能』が!君の『能力』が!君の『精神』が!」

 

な、急に何を言っていやがる…まさか…!

 

「ルイズ…君は始祖ブリミルにも劣らぬ凄いメイジとなる…今はまだその『才能』に気付いていないだけなんだ!君の『才能』が必要「てめぇルイズから離れろ!」」

 

メメタァ!

 

「がはぁっ!」

 

野郎…!最初からルイズの力が目当てか…この…貴族の風上にも置けない…タンカスが…!

 

「貴方は私を愛していない…今解ったわ…!貴方が愛しているのは私にあると言っている…ありもしない魔法の才能…それだけで結婚しようだなんて…酷い…こんな侮辱…最悪よ…!」

 

此処にスピードワゴンがいれば間違いなく『ゲロ以下の匂いがプンプンする』とか言われそうな奴に、ルイズを渡してたまるか…!

少しでもルイズに近づけば…シルバーチャリオッツのレイピアの錆びにしてくれる…!

 

「こうまで僕が言っても駄目かい?僕のルイズよ」

「誰が貴方となんか…!」

「そうか…この旅で君の気持ちを掴む為に努力したのだが…仕方ない…目的の1つは諦めるとしよう」

 

目的…だと…!?

 

「この旅における僕の目的は『3つ』あった。その内の2つが達成出来ただけでも良しとしよう。1つはルイズ、君だが…これはもう無理な様だ。2つ目はアンリエッタの手紙。これは手に入れるのはたやすい」

 

2つ目が姫様の手紙…てめーやはり…

 

「そして3つ目…!」

 

バッ!

 

「なっ!殿下!」

「皇太子様!?」

「っ!」

 

それを口にした瞬間、杖を構えつつ皇太子様の方へ飛ぶワルド…まさか、3つ目というのは皇太子様の命って事か!?

まずい、不意を突かれて距離を離された以上、シルバーチャリオッツでも到達する前に皇太子様がやられちまう!

ならば使うか、とっておきを…だが皇太子様に流れる危険もある…!

どうする、どうする…!

 

「死ねぇ!ウェールズ・テューダー!」

 

くっ…だめか…!

 

「行け!我がスタンドよ!」

 

チュドォォォォォォォォン!

 

「がっ…!?」

 

皇太子様の死…それが頭を過ったが、目前の光景は逆、ワルドが皇太子様との間に起こった爆発の直撃を受けて吹っ飛ぶ姿だった。

 

「ふぅ…危なかった」

「あれは…鳥…のスタンド…!?」

「いや…あれは…!」

 

そのワルドを撃退した物の正体、それは皇太子様が突き出す左腕に鎮座する、パステルカラーのプロペラ戦闘機の様な外見をしたスタンド、そう…

 

「エアロ…スミス…!」

「エアロスミス…それがこのスタンドの名前か。ありがとうサイト、君のプレゼントのお蔭だよ」

 

ジョジョ第5部『黄金の風』に登場するパッショーネ・ブチャラティチームのメンバー、ナランチャ・ギルガのスタンド『エアロスミス』だった。


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