時間を昨日の夜、皇太子様と会話していた時までバイツァダストする。
俺はルイズとの結婚を強行しようとするワルドの真意を図るのは一先ず置いて、皇太子様と話をしたいと率直に思った。
此処まで誇り高き、そう、ヴァリエール公爵家やアンリエッタ姫様とも引けを取らない、いや凌駕する程の揺るぎない『黄金の精神』を持った皇太子様がこうして追い落とされなければならない今の状況に我慢ならなかったから…
「皇太子さまに…お聞きしたい事が御座います」
「そうか、何でも聞くと良い」
「敵は五万、こちらは三百…勝算が無いのは皇太子様も存じておられるでしょう…このまま戦えばどんな運命が待っているかも…それでも何故、戦うのですか?」
「我らの王族としての名誉と、愛する者の地を、命を賭けてでも守るためだ」
最初の問いは、するまでも無い確認だったが…やはり皇太子様は『黄金の精神』を持った御方だった。
故に…悔しい…頭にくる…イラつく…我慢ならない…!何でこんな状況に陥らなければならなかったのか…その訳を頭で理解はしても、心が納得するかは別問題だった…これを納得するのは、俺が尊敬するジョジョを否定する事と同じだからだ…!
「皇太子様…貴族派は何故、こんな反乱を引き起こしたのですか…!皇太子様の様な誇り高き御方の、愛する者たちの事を本気で案じる御方の下に仕える事に、何の不満があると言うのですか…!」
「…何だか、嬉しい様な、くすぐったい様な、複雑な気分だね。君もまた、主であるラ・ヴァリエール嬢の様に正直で、優しくも誇り高い心を持っている…けれど、誇りや民の為の政治だけでは、臣下は纏められない…正に今がそうだ。我々の敵である貴族派…『レコン・キスタ』はハルケギニア統一を狙っている。遥か東方にある『聖地』の奪還という始祖ブリミルが成せなかった理想を掲げて、それを何時までも成し遂げようとしない国々を粛清するという名目を掲げてだ」
始祖ブリミルが夢見た『理想』…つまりは宗教の原理主義か…俺の世界でもそれが無いわけでは無いが…その『理想』はっ!誇りや、平和という、言葉に言い表すのも難しい程に素晴らしい物と比べても大事だと言うのかっ!貴族派…『レコン・キスタ』の奴らにとってはっ!
「だが奴等はその目的の為に流されるであろう民草の血を微塵も考えていない。故に、我らは勝てずともせめて勇気と名誉の片鱗を見せつけるのだ。ハルケギニアの王家は、決して弱小ではないと、弱腰ではないと示さねばならぬ。奴等がそれで『ハルケギニアの統一』と『聖地の奪還』を諦めるとは思わないが、それでも我らは勇気を示さねばならぬ、王家に生まれた者の義務として」
皇太子様のその揺るぎない決意を聞いて、俺も決意が固まった…
「皇太子様、そこまでの決意をお持ちとあらば、それを拝聞しました俺もそれに報いなければなりません…これを、お受け取り下さい」
「これは…矢じり?」
俺が差し出した指輪を入れる為のそれの様な『箱』…そこには『矢』が保管されていた。
そう、俺はこの任務を受諾した際に、何かが起こった時の為と『矢』を持ち出していたのだ…スタンド使いを生み出す為では無い、もっと別の為だ。
スタンドの、更なる可能性『レクイエム』…その余りの力は、あらゆる概念を支配すると言われている…シルバーチャリオッツ・レクイエムなら『魂』、ゴールドエクスペリエンス・レクイエムなら行動だ。
その力で危機を乗り越え、任務を達成出来ればと持ち出したのだが、まさか今、此処で使う事になるとはな。
「これは、俺やルイズ達ヴァリエール公爵家、そしてアンリエッタ姫様が手に入れた、この世界にあらざる力を発現させる物です」
「この世界に…あらざる…?」
それに続く様に俺は皇太子様にスタンドについて説明した…今更ながら公爵家との約束に反するが、尽くせる手は尽くしたかったと思ったんだ、この時の俺は。
「スタンド使いになる資格を持った者は、この矢に狙われ、そしてその攻撃を受ける事によってスタンド使いに覚醒します。ルイズも姫様も、これが掠めた事でスタンド使いとなりました…無論、俺もです」
「その様な力が、君の世界にあると言うのか…だが今の説明は、公爵家との約定に反する行為…今更、滅びの道に足を踏み入れた私に言っても漏えいの危険は無いが…何故だ?」
「今まで俺がこのハルケギニアで出会ったスタンド使いは全部で6人…ルイズ、ヴァリエール公爵様、カリーヌさん、エレオノールさん、カトレアさん…そして、アンリエッタ姫様。この6人に共通する事、それが皇太子様にもあった…とでも言いましょうか」
「今挙げた6人、そして私に共通する事…まさか『始祖ブリミルの血筋』!?」
そう、その一点が、皇太子様をスタンド使いにしようと思い立った点だ。
アンリエッタ姫様と皇太子様は従兄妹同士と聞いていたし、ルイズ達ヴァリエール公爵家は始祖ブリミルの庶子に連なる身の上だという。
スタンド使いの血縁がスタンド使いになる可能性はそれ以外と比べて圧倒的に高い(最たる例がジョースター家だ)のは知っていたが、それにしても始祖ブリミルに連なる身の上の人しかスタンド使いを見ないのも俺にとっては疑問に感じていた。
けれどこのハルケギニアでスタンド使いになる資格の1つがそうだとしたら…
「皇太子様の揺るぎない決意を聞きながら、今更亡命を勧める事は出来ません。ですが、万に1つ、億に1つでも可能性があるとしたら…俺はそれに賭けたい。その可能性が、皇太子様、貴方なのです」
「私が…この戦いに勝つ可能性…?」
「はい…!それに、勝つとまでは行かなくとも、勇気や名誉を見せつけるならば華々しく行かなくてはなりません。皇太子様…どうか、万に1つでもあるかもしれない可能性を…捨てないで頂きたい…!」
仮に皇太子様がスタンド使いになったとしても、戦況を変えられるかは至難と言って良いだろう、俺とルイズ、2人のスタンド使いがいても戦場を避ける選択を前提としていた事にも現れている。
けれど、俺は『喉に食らいつける』可能性があるなら、決してそれを手放す気は無かった…!
「…分かった!君の想い、受け取った!この力で、奴らに目に物を見せてご覧に入れよう!」
「ありがとう…ございます…皇太子様…!」
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「まさか…直ぐに役立つとは思いもよらなかったが、スクウェアクラスのメイジを撃退するとは…凄いな、スタンドという物は」
実はレコン・キスタの一員だったワルドの裏切り、そして皇太子様への奇襲…だがエアロスミスは、それをあっさりと返り討ちにして見せた。
「レコン・キスタに身を落とした卑しき兵士よ!これが我が王族としての誇りを形とした物だ!…尤も、貴殿の様な身では見る事も叶わぬが…」
「その通りです、皇太子様…さてワルド、てめーには言いたい事が山ほどあるから良く聞きな…!」
先程エアロスミスの爆撃を食らったワルドに、皇太子様と共に向き直る俺…てめーはこの平賀才人が直々にぶちのめしてやるから覚悟しな…!
「誇りだと?ふざけるな!その様な物で世界を、聖地を回復する事が今まで出来たか!ブリミル亡き後6千年もの間、それg「てめーはもう口を開くな!」」
ガシィ!
「がっ!?…あ…」
尚も喚き散らすワルドを、シルバーチャリオッツで首を鷲掴みにしつつ杖を奪い取り、そして歩み寄る。
「この平賀才人はこのハルケギニアでは所謂『異邦人』として通っている…俺の誇りを踏みにじったのと同じ言動をした貴族を罵倒し、足蹴にした事もある…威張るだけで能無しなもんで、力の差を見せつけてやった貴族はまるで人が変わっちまった…上司風を吹かせる様な奴といざこざなんてしょっちゅうよ。だがこんな俺にも、心から忠誠を誓う方が誰かは分かる!それは揺るぎない『黄金の精神』を内に秘めた『真っ当な貴族』といえる方だ!」
歩み寄りながらも、俺の本音を、一字一句、噛みしめる様に叫ぶ。
「『黄金の精神』とはあらゆる事を想う事ッ!『慈愛』を捨てぬ事だぁッ!系統魔法は『精神』の魔法ッ!貴族の素晴らしさは『精神』の素晴らしさッ!てめーらは、レコン・キスタは『精神』を捨てたッ!タンカスと同類だぁッ!」
そして、目前まで来た。
「そのタンカスみてぇなてめーは…皇太子様を始めとしたこのアルビオンの王党派の方達の『精神』までも汚そうとしたッ!その為にルイズを、俺のご主人様の全てを否定したッ!その罪の重さは、この世界の誰だって、法律だって分からねえ…だから、俺が裁くッ!」
シルバーチャリオッツに、ワルドを掴んでいた手を離させると同時に、俺は拳を、拳で『握っていた物』を突き出す。
それは、
「裁くのは『コイツ』だぁッ!」
ドズゥ!
「がっ!…あ…!」
『矢』、だ。
ピキ、パキポキ
「ぐ!?が、あぁぁぁぁぁ!?」
『矢』を突き刺した所からひび割れが広がり、それと共にもだえ苦しみ出すワルド…やはり『外れ』だったか。
「てめーが『力』を得る事を、こいつは拒否したという訳だ…どうだ、世界を手に入れる事も夢じゃあ無い力を得る資格がないと判断された、その痛みはッ!」
「ぎゃぁぁぁ…僕は…世界を…!」
まだ言うか、コイツ…!
「てめーの様なクソッタレにルイズをやらなくて良かったぜ…そうそう、次にてめーは『ガンダールヴ、貴様ッ!』という」
「ガンダールヴ…貴様ぁぁぁぁ!」
パァン!
「ばわ!」
そして、ワルドは散った。
「てめーの敗因は…たった1つだぜ…ワルド…たった1つの単純な答えだ…てめーは俺を怒らせた…!」