ゼロの使い魔の奇妙な冒険   作:不知火新夜

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ウェールズのスタンド使いとしての覚醒、そこには才人の、ウェールズへの、アルビオン王党派への、『黄金の精神』へのありのままの想いが関わっていた。それを汚された才人は怒りのままにワルドを糾弾、『矢』による拒絶反応を利用して殺害した。


23話

「これが…資格が無い者が『矢』で傷つけられた場合の結末か…どちらに転ぼうと、恐ろしい物だね、『矢』とは…」

 

『矢』による傷が広がり、砕け散ったワルドの末路を見届けつつ、『矢』の恐ろしさを口にする皇太子様…俺も何気に初めてだからな、スタンド使いの資格が無い奴が『矢』で傷つけられた時の結末を見たのは(スタンド使いの資格が無い筈だった広瀬康一はクレイジーダイヤモンドで傷が治ったしな)。

さて…

 

「ところで、どうした物か…君達を何としても手紙ごとトリスティンに帰したい物だが、ワルドのグリフォンはもう使えない、イーグル号は既に出航してしまった…」

 

帰る為の手段が一気に無くなってしまい、途方に暮れる皇太子様…帰還する為の手段が無い訳では無いが、正直それは一か八かの物だ、それも分かる。

 

「ですがこのままニューカッスル城に居てもいずれ敵の総攻撃を受けるのがオチです…こうなったら、強行突破も視野に入れないと…」

「サイト、分かっているの?相手は5万よ。幾ら私達がスタンド使いだと言っても、多勢に無勢よ…」

「分かっている…その為の対策もある…だが、これは…」

「…最後の手段、という訳だね」

「…はい…」

 

言うまでも無く、シルバーチャリオッツの『レクイエム』化だ。

シルバーチャリオッツ・レクイエムが持つ、有効射程内の生物を昏睡状態にさせる能力で、突破を安易に進めるのが目的だが、使った事はおろか見た事すら漫画だけだ(しかもその時ポルナレフは既に死亡、レクイエム化したまま暴走させてしまうという結果を招いた)。

あくまで、最後の手段としてとって置きたいが…使うしか、無いか…?

俺すら途方に暮れようとしていたその時だった、

 

ボコッ!

 

「きゃっ!?」

「なっ!?」

「敵襲かっ!?しかし地中からか…?」

 

礼拝堂の床の一部が突然、上空に土を舞い上げる様に穴が開いたのは。

そしてそこから現れたのは、

 

「コイツ…まさかギーシュの!?」

「え…!?でもアルビオンは空中でしょ!?」

 

なんでギーシュの使い魔、ヴェルダンデが此処に…まさかっ!?

 

「ヴェルダンデ!?此処は一体…あれ、サイトにルイズ、それに皇太子様?」

「て事は、此処は礼拝堂かしら…ギーシュ、早く登りなさい!」

「おかしい…1人、ワルド子爵が足りない」

 

そして更に顔を出したのは『イーグル号』で帰還した筈のギーシュにキュルケ、そしてタバサだった…何が、どうなって…?

 

「あら、ダーリン。実はね、ワルド子爵のグリフォンだと残った3人を乗せるには無理があると思ったタバサと一緒に、シルフィードを飛ばして戻る事にしたの」

「その過程で下から通った方が敵に狙われずに済むだろうというミス・タバサの意見で僕のヴェルダンデが此処まで穴を掘って来たって訳さ」

「…ところで状況は?」

 

まさかの助け舟に安堵しつつ、俺は今までに起こったことをありのまま(ではないか…スタンド関連は伝えなかったのだから)伝えた。

 

「ま…まさかワルド子爵が貴族派だったのか!?」

「どおりで怪しそうな動きがあると思ったわ…」

「どのみち時間が無い、早く」

「…ええ!」

 

余りの展開に驚くギーシュとキュルケを他所にシルフィードへの搭乗を急かすタバサに、躊躇いながらも同意するルイズ…昨日の皇太子様の決意を聞いては、もう亡命は勧められないとルイズも思ったのだろう、その背は悲痛に満ちていた…

だが、

 

「サイト!アンタも早く!」

「…悪い、少し待っていてくれないか?」

「…分かったわ、早くしなさいよ!」

 

俺は、このアルビオンで若干心残りがあった…それを今、振り切って来る。

 

「皇太子様…ご武運を、お祈りしています…!」

「ありがとう、サイト…君がもしこのアルビオンに来ていなかったとしたら、私は今生きていなかっただろうし、生きていたとしても死ぬ『為に』決戦に臨んだだろう…けれど今は違う。死も『辞さない覚悟』で、勝利の可能性を…掴みに行く…!足掻くための策はある、それを成せる力も、今の私にはある…!」

 

それは、どうしても言って置きたかった、皇太子様への、アルビオンの王党派への、激励。

それに応える皇太子様の顔は、勝利への執念からか凛々しい物になっていた…!

 

「サイト…私はこの反乱が起こってから今に至るまで、後悔の日々だった。始まった時には我らの治世が至らなかった事へ、今は兵士や、乱とは無関係の市民達から多大なる犠牲を出した事へ…けれども私はもう唯々後悔する事を止めるッ!今の状況を打開し、乱を鎮圧する事を以てッ!…サイト、これを預かっていてくれ」

 

決意を新たにした皇太子様は、何やら両手をごそごそと動かし、そして何かを差し出すべく、拳にした右手を突き出してきた…ま、まさかこれは…!

 

「は…こ、これは!」

 

皇太子様の右手の薬指にはめられた、アルビオン王家に伝わる指輪『風のルビー』だった…こ、こんな大事な物を、俺に『預かっていてくれ』だって…!?

 

「これは我らの再会を願って、君に預けるッ!

 

生きていたら…また会おう、JOJO!」

「!…はっ!俺が必ずや、守り通して見せます!殿下!」

 

思わず声が張ってしまったが、それすらも直ぐに吹っ飛んた…俺が、JOJO…か…

…決めた、俺は必ず、この風のルビーを守り通すッ!それが…皇太子様との命とあらばッ!

 

「必ずや、必ずやこのアルビオンに戻って参ります、ウェールズ皇太子殿下!」

「ああ、何時までも待っているぞ、JOJO!」

 

そして俺もアルビオンを後にした…必ずこのアルビオンに戻り、殿下にこれを返す事を決意して…!

 

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Side Wales

 

行ったか…ラ・ヴァリエール嬢も、迎えに来た面々も…ジョジョも。

苦難を共にしてくれた我がアルビオン王党派の後方支援の者達も、愛するアンリエッタの密命を胸に危険を覚悟で飛び込んでくれた使者達も、そして私に未知なる力と勇気をくれた、異世界から来たという偉大なる戦士も去り…今ニューカッスル城に残るは私の他には僅か数百の兵士達のみ。

その一方で周囲を取り囲む貴族派『レコンキスタ』の兵力は5万にも及び、おびただしい数の戦艦と龍騎士も加味すれば単純な数値の倍以上の力があると言って良いだろう。

どうあがいても絶望…普通に考えればそうだろうし、実際にそれは否定しない。

けれどもまだ、勝つ為の策が事切れた訳では無い。

その陣頭近くに君臨するレコンキスタの主力戦艦『レキシントン号』…かつて我が王党派最大級の戦艦に配属された部隊が反乱の先頭に立ち、真っ先に占領を成功させた地に因んでこの戦艦に名付けた、曰くつきの代物だ…それの奪取が、策を成す上での最初の鍵だ。

それだけでも無理難題なのは、今の戦力を考えれば致し方ない事ではあるが、今の私にはそれを成せる手段がある。

我がスタンド『エアロスミス』…ジョジョが元いたらしい世界で飛行機と呼ばれる乗り物を模した形状のスタンドで、私の周囲数百メイルまでを馬すらも引き離せるスピードで自由自在に飛行させ、毎秒数十発、無尽蔵とも言える弾を発射出来る銃と、今ハルケギニアで流通している火薬に換算して数百gもの量を一気に爆発させた位の威力を誇る爆弾によって攻撃出来る。

また、生物が吐く息や、炎が燃え上がりながら吐き出す空気に反応し、我が脳裏に光の点として知らせる探知能力も持っており、実際に私の吐く息に反応してか、私の左目に眼帯の様に張り付く機器からは中心近くで白い光が発せられた夜景らしき物が映し出されている。

だがその様子は平面でしか映せない為、これのみ使った場合で敵が何処にいるかは当てにならないが、そこは私の『遠見』で直接見れば補える。

そしてスタンドは…スタンド使いでなければそれを見る事も、それが発した音を聞くことも叶わない。

これを用いてレキシントン号に奇襲を仕掛け、そして奪取に成功すれば…相手に与える衝撃は計り知れない物になるだろう。

何の気配も無いまま突然周囲の誰か、或いは自分自身が銃で撃たれた様な傷と衝撃を受け、その原因が突き止められないまま第2、第3の被害が発生し、何も出来ぬまま制圧される…その制圧も分からないまま我らを守る様に向きを変え、そしてかつて味方だった方に牙を剥き、また再び気配も姿も音も無き奇襲が始まり以下同文…それが、私が描くこの戦いを勝利する為のヴィジョンだ。

勿論リスクは大きい…私がエアロスミスを動かしている間に誰が私を守るのか、他の戦艦を制圧する間にレキシントン号が再奪取されないか、そもそもニューカッスル城に攻め込まれないか…1つでも間違えれば即終わりだ。

けれど動かなければ、同じ運命が待っている…ならばジョジョが言っていた様に、華々しくも徹底的に足掻く。

我ら王党派と共に戦って散った兵士達、各地で貴族派の動きに怯える民、私を慕い亡命を勧めたアンリエッタ、アンリエッタの密命を胸に必死でその任を果たそうとした使者達、そして…ジョジョの為に。

…さて、そろそろ始めるとしよう。

 

「飛べ、エアロスミス!」

 

ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!

 

我がアルビオン王党派、引いてはハルケギニアの運命を背負った、一筋の明るい色彩の風が今、戦場の空を舞い上がった…!


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