「今までの話から考えると、俺はルイズの『サモン・サーヴァント』とか言う魔法によって、使い魔になるべく此処に召喚された。で、『コントラクト・サーヴァント』とか言う魔法によって、俺はルイズの使い魔になった。この左手に刻まれているルーンがその証拠。こんな感じで良いか?」
あれから突如現れたり消えたりした俺のスタンド(状況からしてそうだろ)『シルバーチャリオッツ』の様子にテンパるルイズを宥め、話を聞く為に彼女の部屋へ行く事になった。
そこ、女子の部屋に何ずかずか入っている!とか言うな、事は重大なんだからな。
「ええそうよ…物凄く不本意だけどね…」
「悪いな、初キスが俺で。…で、俺の現状はこれで大体分かったが…此処は何処だ?」
「はぁ、此処を知らないなんて一体どんな田舎から来たんだか…良いわ、教えてあげる。此処はハルケギニアでも知らない者はいない、トリスティン魔法学院よ!」
「…質問を変えるか。この世界が何と呼ばれていて、この、トリスティン魔法学院…だったか?は、どの国に属するんだ?」
「いやあんた本当に何処から来たのよ…仕様が無いわね…この世界はハルケギニアと呼ばれていて、このトリスティン魔法学院は、トリスティン王国の領内の学校よ。で、私はそのトリスティン貴族の中でも最も王家に近い家柄のラ・ヴァリエール侯爵家の娘よ!分かった?」
「OK、ありがとう。ルイズが物凄く由緒正しき家柄だと言う事も含めて説明ありがとう」
聞いてない事(とは言え何気に重要かもな)も含めて情報を提供してくれたルイズ。
つまり、
この世界『ハルケギニア』にはトリスティンを含めた幾つかの国家がある
→トリスティンにある(恐らく国立の…どうでも良いかそれは)トリスティン魔法学院では毎年春に使い魔召喚の儀式がある
→そこでルイズが『サモン・サーヴァント』を唱えた
→その効果で異世界の俺の目前に姿見みたいなゲート登場
→俺吸い込まれる
→俺ハルケギニアに転移
→ルイズの『コントラクト・サーヴァント』で俺使い魔に(今ココ)
という事か。
「そっちの質問に答えてあげたんだから、こっちの質問にも答えなさい、サイト」
「おっと、そうだったな。で、まず何が知りたいんだ?」
「さっきの銀色の騎士の事よ。さっきの様子見ていると、アンタの物みたいね。あれ一体何なの?」
まぁ、そうだよな。
「その事だが、その前に1つ言っておくべき事がある。よく聞いてくれ。信じるかはともかく」
「何よ急に」
「さっきお前、何処から来たんだ的な事を言っていたよな。俺は…
この世界の人間じゃあない。」
…沈黙が真っ先に来るのは覚悟の上だ、それこそが健全な反応だからな。
「…はぁ?何言ってるのアンタ?ていうか『お前』はやめなさい、ご主人様に向かって」
ですよねー。
だが『スタンド』を説明するにあたってこれを言うのと言わないのとでは結果が大いに違う…と思う。
言わずに説明すればどうなるか…多分『魔法の一種』と誤解するかもしれない。
「で、さっきの質問に戻るが、あれは俺のいた世界で『スタンド』と呼ばれている物で、人間とか、犬とか、ネズミとか…とにかく、生きとし生ける全ての物が持っている精神力、それを形ある物に具現化した物だ」
「精神力を…それ『魔法』じゃないの?」
ほらやっぱり。
「いや違う…と思うな。スタンドは、はっきり言ってしまえば生物1つ1つの『個性』その物で、故に全く同じと言っていいスタンドは基本的に存在しないし、逆に生物1個体に対してスタンドは1つだけだ。魔法はそれと全く逆…だと思う。この世界に降り立ってまだ数時間だが、俺みたいな生物を召喚したり使い魔を契約したり、挙げ句には空を飛んだりを皆がやっている…言ってしまえば精神力を用いた『技術』だろうか?」
「精神の『個性』…つまり性格とかを現した物の訳ね。成る程、よく分かったわ。で、スタンドには他にどんな性質があるの?」
俺の解釈の下での魔法との比較だったが、どうやらスタンドについて理解してくれたようだ、助かる。
「まあ一言ずつ説明するとこんな感じだな。
1、スタンドは本体であるスタンド使いの意思で動く。
2、スタンドはスタンドを持つ者にしか見られない。
3、スタンドはスタンドでしか触れない。
4、スタンドが傷付くと、本体も同じ様に傷付く。
5、スタンド使いが死ぬとそのスタンドも消え、スタンドがやられるとそのスタンド使いも死ぬ。
6、スタンドの強さと本体からの距離は反比例する。
7、スタンドの能力は本体によっては成長する。
8、スタンド使いとスタンド使いは互いに引かれ合う。
一応例外も存在するが、以上だ」
「ちょ、ちょっと待って。スタンドはスタンドを持つ者にしか見られないって言っていたけど…アンタのスタンド…だと思うけど、あの銀色の騎士、さっき私見たわよ!?まさか…」
「それを今から説明する。一先ずルイズ、眼を瞑って深呼吸するんだ」
「はぁ?な、何よ急に」
「良いから早く。話が進まない」
「わ、分かったわよ…すぅぅぅぅ、はぁぁぁぁ…」
スタンドとは精神力、これはさっき説明した通り。
ならば気持ちを落ち着かせ、精神力が高まった状態でなければ上手く具現化出来る筈が無い。
話の腰を折ってまでルイズに精神統一みたいな事をさせるのは、そういう意図があってだ。
…尤も俺も、スタンドについてはジョジョで得た知識はあれど、実際にスタンド使いになってまだ数時間の頭でっかちなのだが。
「よし、落ち着いた様だな…そしたら自分の心か頭の中を覗き込む様にイメージして見ろ。そこに今までいなかった筈の生物だか何だか分からねぇ奴がいる筈だ」
「急に適当になったわね…コイツの事かしら?猫みたいな顔したピンク色の」
「そう、それがルイズのスタンド…え、今なんて?」
「だから、猫みたいな顔したピンク色の人っぽい奴よ。何よ、コイツじゃないの?」
「いや、それで合っている…」
猫みたいな顔したピンク色の…まさか…な。
「そしたらそいつに『起きなさい』とか『出て来なさい』とか、とにかくこっちに出る様に働きかけるんだ」
「分かったわ」
俺の指示に頷くと同時に、ルイズの周囲は何かオーラが吹き上がるかの様な威圧感が起こる。
今まさに、ルイズのスタンドがこのハルケギニアに降り立とうとしているかの様に。
そして、
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
ルイズのスタンド、今まさに姿を現…し…た…
「き、キラークイーン…まじ?」
見間違える筈もない。
ルイズが言った通り、猫を擬人化したらこんな顔になりそうな容姿。
所々にドクロのアクセサリーを纏った筋肉質な体つき。
両手にはめられた手袋らしき物。
そして、これまたルイズが言った通りの、ピンク色っぽい身体の色合い。
間違いない、ジョジョ第4部『ダイヤモンドは砕けない』のラスボスである吉良吉影のスタンド『キラークイーン』だ…!
「ふう、これで良いの?」
「ああ…ルイズ、後ろを振り向いてみろ」
「後ろに私のスタンドが、きゃぁ!?」
真っ当なリアクションをありがとう。
しかしジョジョ全体でも屈指の強さを誇ると言って良いキラークイーンを、スタンドを知って間もないルイズが、出ろと命令するまで留まらせるなんて…凄い精神力だな。
正に大和撫子だぜ!
「わぁ…綺麗…」
「それがルイズのスタンド『キラークイーン』だ。スタンドの中でも高水準の身体能力もさることながら、『爆発』に関する特有の能力を持っている、トップクラスのスタンドだ…て、あれ、ルイズ?」
「ば…爆発…」
爆発、と聞いた途端、それまでキラークイーンの彫刻と思しき端正な容貌に見とれていたのが一転して凹んでいますと言わんばかりにテンションが下がったルイズ。
…爆発、に何か思い出したくもない過去でもあるのか?
「…まあ良いわ。でもスタンドなんて今まで聞いた事も無いし、この目で見たのも今日が初めてよ。それがどうして急にスタンド使いになれたのか、そこも聞きたいわ」
「分かった。そういえばルイズ、さっき何かが『下から』飛んできて右手を引っ掻いたと言っていたよな。実はそれがスタンド使いになる切っ掛けの一つであり、俺が異世界から召喚されたという証拠でもある」
「…ああ、そういえばそんな話していたわね」
「これが、ルイズの右手を引っ掻いた物で、傷付けた生物をスタンド使いに覚醒させる物体、『矢』だ」
そう言いつつ、先程回収した『矢』を見せる。
…ちなみに、異世界から召喚された、というのは一応本当だ。
実際、元の世界からハルケギニアへと渡る途中のあの訳が分からない空間でゲットしたのだから。
「…これがスタンド使いになれる物?単なる矢じりにしか見えないけど?」
「まあそう言うのも無理は無いが、実はこれ、スタンド使いの資格がある存在に反応してそっちへ向き、飛んでいく性質がある。ルイズが『下から』引っ掻かれたのも、この性質による物だ」
「へぇ、これがねぇ。あ、ところで、スタンド使いの資格が無い存在には反応しないの?」
「へ?あ、いや、その、だな…」
…あの事実を話すべきだろうか…?
話したら最後、半殺しは覚悟しなければならない気がする。
だがルイズは絶対、話すまで追求の手を止めないだろう。
「何?まさか私に隠している事実があるの?包み隠さず話しなさい!これは命令よ!」
実際に言い逃れは許さんと言わんばかりの雰囲気だし…腹を括るか。
「実はな…資格がない存在が『矢』で傷つけられると…」
「傷つけられると、何なのよ?」
「…どんなに軽い傷であろうとも死n」
ごすぅ!
「ばいつぁだすとっ!?」
「このバカ犬ぅぅぅぅ!じゃあ何!?私がスタンド使いの資格が無かったらあたし今既に死んだの死んだって事でしょふざけんじゃないわ主人に無理やり命の綱渡りをさせるとかどんな神経してんのよあんたはぁ!」
「あいだだだギブギブ!いや本当に申し訳ありませんでしたこちらの不注意でご迷惑をお掛けして申し訳ありませんだからキラークイーンで4の字固めはマジ勘弁してというか何でプロレス技知っているのぎにゃぁぁぁ!」
-----------―
「ま…まぁ他にもスタンド使いになる方法はある。生まれつきだったり、『矢』の原料が取れる『悪魔の手のひら』って所に行ったり、後は血縁者がスタンド使いとして覚醒したり…勿論資格次第だし、最初の2つは、少なくともこのハルケギニアでは無いと解釈して貰っても構わない。スタンドについては以上だな」
「ええ、良く分かったわ」
「じゃあこっちから最後の質問。使い魔の役目についてだ」
「使い魔の役目は主に3つよ。まず1つ目は、使い魔は主人の目となり耳となる…つまり感覚の共有だけど…無理みたいね」
出来たら出来たで、それプライバシーの侵害だから。
つくづく人権のかけらも感じられないルールだな、使い魔って。
「2つ目は、使い魔は主人の望む物…例えば秘薬の材料とか…を主人の代わりに持ってくるんだけど…あんたそんなの分かる?」
「悪い、無理だ」
出来たら出来たで、俺はおつかいに行く子供かっつーの。
「3つ目、そしてこれが一番重要な事だけど、使い魔は主人を守る盾となる、つまり護衛ね…でもシルバーチャリオッツの能力を聞くとメイジ相手には心許ないわね…」
すいませんね、微妙な能力のスタンドで。
「まあでも、メイジ同士の戦いは戦争でもなければそうそう起こらないし、モンスター相手なら十分期待出来る、そこは頼むわよ、サイト」
「…分かった、まあ期待してくれ」
今しがたメイジには…と言われたばかりだからかイマイチ期待されているのか分からねぇが。
「さて…色々話していたら疲れたわ、おやすみ、サイト」
「…もうこんな暗くなったのか…そうだな…お休…」
就寝の意思を告げるルイズに返事をしようと振り向く…が、そこには、
「…何…してんの、ルイズ?」
「?寝るから着替えるのよ」
「いや、それは見れば分かる。俺が言いたいのは、何故人前で着替えているのか、て事だ」
「?あんた使い魔でしょ?」
そう…俺の目の前でさも当然と言わんばかりに服を脱ぎだしたのだっ!
しかも俺と話している最中でも服を脱ぐ手を止める様子は、全く無いっ!
その為に服で隠れていたルイズの『真珠の様な』と表現して良い素肌やら、『肝心の所まで』が付くもののスマートな体躯やらが俺の目の前で神秘的な輝きを…じゃなくて!
「ルイズ…良い女がそんな事する物じゃ無いぜ…」
「!いっ?」
ずどぉぉん!
「口動かす前に足動かして外出ろぉ!」
「すいません今出ますぅぅぅぅぅぅ!」
何とか分かってくれたか…キラークイーンの背中への蹴飛ばし1発と引き換えに、恥じらいを覚えた様だ。
「…良いわよ、入って」
「…分かった」
着替えを終えたらしいルイズの呼び出しに従い、入室する…もう驚かねぇぜ、例えネグリジェ姿でも。
「…そういえばルイズ、俺の寝る所は?」
と、ここで就寝の時間となった今の時点で一番重要な事実に気が付いた。
…そう、寝る所が見当たらない…いや、無くは…無いな、部屋の真ん中に、山盛りの藁が積まれている。
…OK、使い魔と言ったら普通は動物が出てくる物だ、そこは良いや。
「動物が出る物だと思っていたからそれしか用意してないわ。あんた暫くそこで寝なさい。ご主人様のあたしを無理やり死の綱渡りをさせた罰よ!」
「…分かった、本当すいません」
…未だに根に持っていたのか、それも当然だが。
------------
「…月が2つ…それも青と赤…か」
ルイズが寝静まった後、俺は何となく外が見たいと思い、部屋の窓から景色を眺めていた。
その空にあった青い月と赤い月…2つもある月は改めて俺が異世界に来たのだと思い知らされた。
今日は…本当に色々な事があった。
本来なら『ジョジョの奇妙な冒険オールスターバトル』をゲットして承太郎を選んでオラオラしたり、仗助でドラララしたり、DIOで無駄無駄したりetc…の予定だったが、今日を境に俺の人生は正に180°変わった。
ルイズの『サモン・サーヴァント』によってこのハルケギニアの地に降り立ち、その過程でスタンド使いに、主人であるルイズ共々覚醒した。
短く纏めるならこんな感じだが、その実言い切れない程のサプライズがあった。
これからもそれは続く、もしかしたら一生。
…そう思うのは、そもそも俺が、というか異世界の人間が『召喚』された事自体がイレギュラーである事、そして使い魔と主人は、どちらかが死ぬまで共にある、というルールだ。
この手の異世界転生の創作物で、元々帰る手立てがあったり、結果的に帰れたりするのが主流ではあるが、現実は小説よりも奇なり、あくまでそれは創作上の話だ。
「宜しくな、ご主人様」
…まあ、この世界でも明るく楽しくやって行きますかね。
そんな決意をし、俺は既に寝息をあげているルイズに、そう声を掛けた。