余りに衝撃的な展開の連続だったあの1日から一夜明けた今、俺の目覚めは視界に映る見慣れない石天井と、背中に感じる藁の感触だった…ああ、夢じゃなかった訳だな、昨日の展開は。
さて、俺のご主人様の様子は…と、
「…やれやれだ、まだ寝ているのか。お寝坊さんなこった」
貴族、それも由緒正しき家柄故か、天蓋の付いたベッドでスヤスヤと寝息を立てている我がご主人様、ルイズの姿があった。
全く、学生という身分なのに規律ってものがなってないな…ま、そのお蔭でルイズの可愛い寝顔が見られて眼福眼福、な訳だが。
でも、何時までも寝かしていては明らかな寝坊、ルイズが咎を受けてしまう。
「ほら、ルイズ。朝だぞ、起きろ」
「……うーん……」
身体を揺さっても起きる気配が無い…結構眠りが深いタイプの様だな。
「…起きないと朝食の時間過ぎるどころか遅刻だぞー」
「……んー……」
お決まりの脅し文句を使っても反応は変わらない…漫画じゃあ無いんだからそりゃそうか。
よし、こうなったら、
「レロレロレロレロ」
「うわぁぁぁぁ!?」
がばっ
よし、耳元レロレロ(擬音)作戦大成功!
「い、いったい何事!?何が起こったのよ!?」
「お早うさん、ご主人様」
「…あんた、誰?」
おいおいそれは無いだろ、人を異世界から呼び出しといて…
「ルイズ、お前の使い魔だよ。全く、しっかりしてくれよ」
「あ、そうだった…じゃなくて!ちょっと、起こし方を考えなさいよ!何なのアレ!」
「起こし方を考えた結果がアレ。普通にやっても起きなかったしな」
「で、でも…!…まあ良いわ。見張り」
「はいよ、了解」
名詞しか無い命令(恐らく)だったが、早い話が「外出て待っていろ」という事だろう。
ここで漫画とかだと中世ヨーロッパの貴族は着替える際に召使とかに服とか持ってこさせたりする物だが、そこもキラークイーンがいるし、俺がわざわざやる事もあるまい、今後も。
「お待たせ、さっさと食堂に行くわよ」
「了解、ご主人様」
見張りを始めて数分、昨日見た(恐らくはここの制服だろう)服装に着替えたルイズが部屋から出てきたので、俺達はその食堂に向かおうとする、と、
ガチャ
「あらおはよう、ルイズ」
「…おはよう、キュルケ」
隣の部屋からルイズと同学年らしい女子生徒が出てきたのを見るや否や、ルイズの表情があからさま、と言って良い程険悪になっていく。
その原因と言ってもいい、キュルケと呼ばれたその女子は、俺と同じ位の長身に褐色の肌、赤毛のセミロングにエキゾチックと表現できる顔つき、そして物凄くデカいと言って良い胸が特徴的だ。
そう、胸はデカい、が、何か明らかにビッチ臭がする。
女性のタイプは「胸の大きい大和撫子」な俺、ビッチなぞ問題外である。
胸の大きさを考慮しても29点のPoor、再試験を受けるにも値しない(ちなみにルイズは昨日会った時点で71点のGood、俺が今まで会った女性で初めての一発合格だ!流石俺のご主人様)。
…そんな俺の馬鹿みたいな女性評はさて置いて、明らかに不機嫌な様子のルイズとは対照的に、キュルケの方は何の事は無いと言わんばかりに余裕綽々だった。
「あら、そこの平民があなたの使い魔?」
ルイズは答えない、それどころか不機嫌オーラの濃度が増してきている様に見える。
…頃合いだな。
「ああ、そうだ。俺は才人。サイト・ヒラガだ。それじゃあな。ルイズ、此処で油売って無いで、早く行くぞ」
「へ、あ、わ、分かったわよ!」
一先ずキュルケとの会話を早々に打ち切り、ルイズを引っ張り込む。
…そう判断したのは、ルイズが不機嫌の余りキラークイーンでキュルケをぶっ飛ばしはしないだろうかという危惧もあっての事だが…正直、キュルケの言動と態度が、俺にとっても不快だからだ。
…彼女は、『気高き飢え』を知らない。
『気高き飢え』…ジョジョ第7部『スティール・ボール・ラン』の主人公、ジョニィ・ジョースターが常々口にしていた言葉で、俺はそれを『充足する事無く、貪欲に己を高め続ける意志』とか『飢えを共にする者を労わる想い』と解釈している。
ルイズにはそれがあって、キュルケにはそれが無いのは、さっきの態度等にも大きく表れている。
キュルケの態度は、人の痛みを全く知らないと言わんばかりに平気で相手を傷つけられる、そんな感じだった。
…正直、ルイズは当然だが、俺もシルバーチャリオッツを使ってビンタしてやろうかとも少し思った。
だが此処では平民として扱われている俺が、貴族らしいキュルケを張り倒せばどうなるか、それは火を見るより明らかって奴だ。
その事から無理矢理ルイズをひっぺがした訳だが、むこうはさして気にしてない様子で、それが唯一の安堵である。
「余程あの女子の事がいけ好かないみたいだな、ルイズ…まあ俺もそう思うが」
「ええ、そうでしょう!あのゲルマニアの野蛮人め!ツェルプストーの色ボケめ!」
そこから何を聞かされたか、についてはゲルマニアという国について、ルイズの家族であるヴァリエール家とキュルケの家族であるツェルプストー家の因縁について(ルイズの解釈を)延々と、とだけ言っておく。
まあそんな感じで俺達はルイズの言っていた食堂に着いた訳だが、
「…でかい上に豪華絢爛って奴だな…流石は貴族の食堂って訳か…」
「どう?アンタの世界でもこんな食堂は無いでしょう?メイジはほぼ全員が貴族、故にトリスティン魔法学院では貴族たるべき教育を存分に受けるのよ。だから食堂もまた貴族の食卓に相応しい物でなければならない、という事よ」
何ていうか…広すぎだろう…
『アルヴィーズの食堂』という名前のこの食堂(ちなみにアルヴィーズの由来は、壁に像として鎮座している数体の小人らしい)、百人並んでもダイジョーブ!とか聞こえてきそうな巨大なテーブルが3つも並んで尚、通路には大きな余裕があり、陸上競技のトラック位は有りそうだ…
その広い空間の何処もかしこも、派手さこそ控えめではあれど豪華さが丸分かりな装飾が飾られ、テーブルもまた高そうな蝋燭や花で彩られ、フランス料理のフルコースでも此処までは…と言わんばかりの量と質の料理の数々を余計美味しそうに見せている。
…初めて見た奴なら誰だってよだれズビッ!だな、俺もそーなった。
「分かった?本当ならアンタみたいな平民がこの『アルヴィーズの食堂』には一生入れないのよ。感謝してよね」
「いや待てルイズ、そう言う位なら俺入らない方が良くないか?」
「何言っているのサイト?アンタ護衛でしょ?傍に待機してないで何処に待機するって言うのよ?」
その余りの豪華さに場違いな感を覚えて退室した方がと提案した俺だったが、護衛としての役目を出され、それもそうだと納得した。
「分かったならさっさと椅子を引いて。気が利かないわね」
「はいよ」
「あんたは隣のよ」
ルイズの指示に従って椅子に座らせつつ、俺も隣に座るとそこには…ルイズ達のと比べて…少なくとも量的には明らかに及ばないがそれでも俺にとっては十分な量の(ルイズ達の方が多すぎるんだよ)バランスの取れたフルコースが待っていた。
これがスープとパンだけ、となれば文句の1つや2つが出ていたであろうが、護衛は身体が資本、というのを心得ていた故なのか、その気遣いには俺に文句どころか感心の言葉しか浮かばせなかった。
…それ故に後ろで生徒Aをキラークイーンがドロップキックしていた光景なんて俺は全く見ちゃいねぇぜ、え、何で知っているか?は、Top Secretだぜ。
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そんなルイズの気遣いでまた俺の彼女への好感度が上がった(余談だが食事前のお祈り…日本での「いただきます」だな…があるかと思ってルイズに聞いてみたが、余りに長ったらしい文言なので戸惑ったのは此処だけの話)朝食も終わり、授業を受けるべく教室へ入る俺達。
流石に使い魔である俺の席なぞ無いと思い他の生徒の使い魔が待機している後ろに行こうとしたが、「護衛のポジションは傍でしょ」というルイズの一言により、隣で突っ立っている事になった。
しかし…本当に俺以外いねぇな、人間の使い魔って。
皆モグラやらサラマンダーやら…正にファンタジーだぜ…
そんな感慨に耽っていると程無く、1人の中年位の女性教師が入ってきた。
「皆さん初めまして、今年から貴方達の担当を担う事となりました、『赤土』のシュヴルーズです」
物腰が柔らかそうな、所謂学校の先生のイメージに合う人と言って良いだろうそのシュヴルーズと名乗った教師は、教室を眺めつつ、
「皆さん、春の使い魔召喚は大成功の様ですね。このシュヴルーズ、春の新学期に様々な使い魔達を見るのが楽しみなのですよ」
と声を掛けていたが、
「おや、結構風変わりな使い魔を召喚した様ですね、ミス・ヴァリエール」
その目が俺とルイズの方を向いて若干驚いた様な口調で話すと…周囲の空気が変わった…気がする。
「おいゼロのルイズ!召喚出来ないからってその辺をほっつき歩いていた平民を連れてくるなよ」
カチン
「違うわ「おいそこの」」
さっきのキュルケとの件で湧いていた不機嫌が再燃して来たので、ちょっと鼻をあかしてやるか。
「この左手のルーンが見えないか?これこそ俺がルイズの使い魔である証拠って奴だ…えーと「風邪っぴきのマリコルヌよ」そうそう、風邪っぴきのマリコルヌ殿」
「何だとこの平民!貴族である僕にそんな口聞いて許されると思っているのか!ゼロのルイズもその平民に何吹き込んでいるんだ!」
「先生!風邪っぴきのマリコルヌが私を侮辱しました!」
「だから風邪っぴきじゃない!風上のマリコルヌだ!ゼロのルイズ!」
「お黙りなさい!ミスタ・マリコルヌ!」
こちらを侮辱する様な発言をしやがったマリコルヌとか言う奴を挑発してやったら案の定食いつき、そして教師シュヴルーズによって(恐らく魔法だろう)赤土で口を塞がれるという制裁を受けた、ざまぁw
まあそんな些細な事もあったが授業は平常通り始まる。
周囲の様子から、内容はどうやら1年の時に習った事のおさらいらしい。
曰く、魔法には大別して『火』『水』『風』『土』の4つの系統と、今は無い伝説の系統『虚無』がある。
教師シュヴルーズはその中で『土』を専門とするらしい。
土って事は…重力を操作したり、土砂を飛ばしたり、或いは錬金術みたいなので石ころを金とかプラチナに変えたり…といった感じか?
そしてそれぞれの系統は本人の才能と努力如何で重ね掛けされ、一番下からドット、ライン、トライアングル、スクウェア…といった感じでランクアップしていく。
土の基礎と言える魔法『錬金』も、スクウェアともなれば金をも作り出せるらしい…尤も教師シュヴルーズはトライアングルらしく、『錬金』で石ころから作り出したのは真鍮だった(何故に合金の方が簡単なんだ、と思ったが、恐らく物質の比重が関係しているのかも知れないな)。
ふと此処で思い出した。
今朝からメイジが互いの名を呼ぶ際、その前に何かしらの渾名が付いているのを度々聞いた。
あのビッチだったら『微熱』、マリコルヌとか言っていた奴は『風邪っぴき』、教師シュヴルーズもまた自己紹介の際に『赤土』と渾名を付けた。
そしてこの渾名、専門とする系統と深い関係にある様に思える…まだあのビッチや教師シュヴルーズでしか確認していないが。
そして同じく系統と深い関係にあるのが使い魔…教師コルベールがそう言っていたのだから間違い無いだろう。
さて、ルイズの系統は、何だ?
俺という前代未聞な存在が召喚された事、渾名が『ゼロ』である事…正直此処からどんな系統なのか想像もつかない。
シルバーチャリオッツは白銀の騎士、ならば錬金を扱える土系統か…いや、俺がスタンド使いとなったのはサモン・サーヴァントで現れたゲートに入ってから、つまりルイズの使い魔が俺だと内定してからの話だ、その線は薄いだろう。
…む、もしやルイズのスタンドであるキラークイーンから、火の系統では?
キラークイーンは爆発を司るスタンドだ、爆発の際、物凄い高温の熱気と爆風が発生する。
それにキラークイーンの特殊攻撃『シアーハートアタック』は『熱』を頼りに敵を追尾する。
熱となれば火、その線が濃いかもしれない…!
…だがそれなら何故俺?
俺の特徴はと聞かれれば、根っからのジョジョオタクであったり、自他ともに認める熱血漢であったり、テリヤキバーガーが好きだったりする位か。
…火で当てはまる要素が薄すぎるんだが。
「それではミス・ヴァリエール。前に出て、錬金して見せて下さい」
考え込んでいると、錬金の実践にルイズが駆り出される事となった。
…丁度良い、これで良い結果が出れば少なくともルイズには土の系統への適性がある、と確信出来るし、俺が呼び出された訳もシルバーチャリオッツとの関係で辻褄が合う。
本当にベストタイミングだなと思った、が、
「先生、危険です!」
「そうです、ゼロのルイズの魔法を使わせるなんて!」
「止めてください!」
途端に騒ぎ出す教室…一体どうしたと言うんだ…?
「どうしたのですか皆さん?ミス・ヴァリエールは大変勤勉な生徒だと聞いていますよ?」
「ゼロの由縁を知らないからそんな事が言えるんです!」
教師シュヴルーズが疑問を口に出すも、抗議は止まらない…だから一体何なんだ…?
プッツーン
ふと、そんな音が聞こえた様な気がした、と共に、
「私、やります!」
「お願い、本当にやめてルイズ」
ルイズが立ち上がって教師シュヴルーズの下へと向かう。
「ミス・ヴァリエール。頭に作り上げたい金属を思い描き、それと共に詠唱を刻むのです。いいですね?」
「はい!」
如何にも張りきっていますと言わんばかりの返事と共に錬金の詠唱を始めるルイズ。
…と同時に他の生徒達が一斉に、避難訓練の様に机の下に潜り込んだ…お前ら、いい加減に…!
どごぉぉぉぉん!
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
ルイズが石ころに向けて錬金を唱えたら、石ころが金属ではなく爆弾になった。
な…何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何が起こったのか分からなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
イオだとかファイアBOMだとか、そんなチャチなもんじゃ、断じてねぇ。
もっと恐ろしい(ry
「また失敗しやがって!」
「何でゼロのルイズが魔法使うと毎回爆発するんだ!」
そして理解した、『ゼロ』の意味…魔法成功率『ゼロ』…と言う事を…同時に、怒りが込み上げてきた…!
ルイズがゼロだった事にでは無く、ルイズをゼロだという理由だけで罵倒するこいつらに…!
歯噛み!握り拳!やらずにはいられないッ!
この状況下で何も出来ないでいる自分に荒れているッ!クソッ!