ゼロの使い魔の奇妙な冒険   作:不知火新夜

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ヴァリエール領にいるルイズの家族がスタンド使いとして覚醒した…それを母カリーヌからの手紙で知ったルイズと才人は、大急ぎで里帰りする事に。そこに待ち受けるスタンドは…


7話

翌日の太陽がやっと少し顔を出した時間、俺とルイズは校門前に繋がれている2頭の馬の前にいた…昨日ルイズから家族の事で帰省する事が決まって直ぐに、シエスタに頼んで臨時に手配して貰った物だ、ルイズの実家と学院まで徒歩だと数日掛かるらしいからな。

…遠距離の移動手段が馬だと聞いた時には、空飛ぶ箒みたいなのは無いのかと一瞬突っ込もうとしたが、その場合シエスタ達みたいな平民は大いに不便してしまうだろうし、俺にとっては…むしろ好都合だ。

何故なら、

 

「そういえばサイト、アンタ乗馬の経験は?というかアンタの世界って、馬はいるの?」

「ああ、いるさ。それに乗馬は趣味だ」

 

尤も当初はジョジョ第7部『スティール・ボール・ラン』のジョニィ・ジョースターやジャイロ・ツェペリ、ディエゴ・ブランドーの真似で始めたのだが…いざやってみると面白くて嵌った。

周囲からも筋が良いと言われて一時は競馬のジョッキーを目指そうかなと本気で考えたが…身長が僅かにオーバーして挫折した。

 

「それより此処からルイズの実家までどの位なんだ?」

「馬車だと半日位だから…急げば6時間位ね」

 

早足でも6時間か…状況からして少しでも時間が惜しかったが、流石の俺でも6時間も騎乗して走らせ続けた経験は無い。

思いっきり飛ばして着いた時には腰痛めてダウン、等となったら本末転倒だ。

向こうがどんなスタンドを持っているか分からない上、こっちのスタンドはどっちも近距離パワー型。

万が一、片方がダウンしたらストッパーが機能不全に陥るし、無茶は出来ない。

 

「準備は良い?行くわよ!」

「了解だ、ルイズ!」

 

------------

 

「着いたわ、此処よ」

「…オレェ…想像とは段違いにデカくねぇ?Greatだぜ…」

 

日が真上に昇りかける時間に、ルイズの実家に到着した…が、このデカさには俺も絶句した。

貴族、それも公爵(いちばんうえ)であるルイズの実家だ、相当な大きさだろうと想像こそしていたが…これは予想外だ…バッキンガム宮殿でやっと互角と言って良いデカさである…貴族の城でこれなのだから、国王の城は、俺の世界の歴史的建造物等比較にならないかも知れない。

 

「?何呆けているのよ?入るわよ、時間が無いの」

「あ…ああ、分かっている」

 

そんな俺の驚愕を知らず、急かすような呼びかけをするルイズに従い、敷地内へと入る。

 

「お、お帰りなさいませルイズお嬢様!随分と急なお帰りでございますな」

「ええ。着いて早々だけど、お父様に言伝を。『今ヴァリエール家に起こっている現象について良く知る者を連れてきました』と伝えなさい」

「は、はい!かしこまりました!」

 

出迎え(公爵の家だし、使用人とか執事とかを多く雇っているだろうな)の遅さを気にする事無く、ルイズは早急に、執事と思しき初老の男性に指示を出す。

さて、何が出るか…手紙の内容からしてザ・フールらしきスタンドが1体いる事は推測出来るが、それ以外のスタンドは分からない。

全て人と思しき異形と言っていたが…ハイエロファントグリーンやストーンフリー等、変形出来る奴もいる、油断は禁物だ。

 

「お待たせ致しました。こちらへ」

「分かったわ。行くわよ、サイト」

「了解だ、ルイズ」

 

戻って来た執事の誘導で城へと入る…さて、此処からは戦場になっても、何ら可笑しくはねぇ。

気を引き締めないと…な。

 

「お父様、手紙の件について良く知る者を連れ、只今戻りました」

「おお、ルイズか…入ってくれ」

「はい、只今」

 

中から聞こえて来た、恐らくルイズの親父(公爵家の長なんだし、ヴァリエール公爵と呼ぶか)らしき声音の呼びかけに応じ、ルイズがドアを開けた…ら、

 

びゅぅん!

 

「うおっ!?」

「きゃぁっ!?」

「なっ!?止まれ、異形!」

 

突如、ヴァリエール公爵のスタンドらしい存在が俺達に向かって突進、パンチを繰り出してきたっ!

何とか回避に成功こそしたが…まさか新たなスタンド使いである俺達の気配に毒されたか…って、

 

「な、パープルヘイズだとっ!?」

 

紫色を基調とした菱形を並べた様な模様の身体。

頭に兜の様な物を身に着け、常に涎を垂らした獰猛な顔付き。

両手に組み込まれている、カプセルの様な容器。

…間違いない、ジョジョ第5部『黄金の風』の主人公ジョルノの味方として登場する、パンナコッタ・フーゴのスタンド『パープルヘイズ』だ、こいつは危険すぎるっ!

 

「シルバーチャリオッツ!奴を止めろぉ!」

「キラークイーン!援護して!」

 

尚も襲い掛かるパープルヘイズだったが、そのパンチはキラークイーンによって抑え込まれ、その隙を着いたシルバーチャリオッツが羽交い絞めした事で場は収まった。

危なかった…危うく俺達3人揃って、殺人ウィルスの餌食になる所だった…

 

「お前達…お前達の側にも、私達と同じ様に異形が…それにお前達、その異形に指示を出し、挙げ句に従わせていた様だが…」

「その事について、お母様達にも知らせなくてはならない事があります。お父様、直ぐにお呼び願えますか?後…使用人達には人祓いをお願いします」

「分かった…直ぐに呼ぼう」

 

ルイズのお願いによってヴァリエール公爵が呼び出してから程無く、家族らしき3人の女性が入ってくる。

やはりルイズの家族と言うだけあって、皆キレイだが…その話は後だ、今は大真面目な場面だからな。

 

「それじゃあサイト、説明をお願いするわ」

「了解だ、ルイズ」

「その前にルイズ…彼は一体何者ですか?今回の事を知っているのもそうですが、身なりからして平民の様ですし、貴方とはどういう関係なのですか?」

 

おっと、そこを突っ込んで来たか。

まあいい、どの道此処から説明しない事には話が繋がらないからな…

 

「まずはそこから説明します…これをご覧下さい」

 

そう言いつつ、顔の前に左手…使い魔のルーンが刻まれた左手…をかざす。

 

「「…使い魔のルーン!?」」

「はい。俺の名はサイト・ヒラガ…一昨日、ルイズのサモン・サーヴァントによって、このハルケギニアとは何もかもが違った世界から召喚された使い魔です」

 

------------

 

「スタンドの主な特徴については以上です。ご理解頂けましたか?」

「異世界から持ち込まれた、精神の個性が具現化した存在…俄かには信じられませんが…」

「だが此処まで理詰めされた仕組み、一昼夜で空想出来る物では無い。私達に起こった事とも殆ど合致している…」

 

余りに突飛な話の切り出しだったが故、納得も理解も難しいかと思ったが、案外すんなり納得してくれた…ここら辺は流石、ルイズの家族だな。

 

「此処からはそれぞれのスタンドについて説明します。宜しいですか?」

「うむ。よろしく頼む」

「はい。まずは俺のスタンド、シルバーチャリオッツ。見た目の通り騎士のスタンドで、目にも止まらぬ素早さで剣撃を繰り出します。鎧を外す事により、残像が出来るほど素早さが上昇する一方、パワーは人並み…だった筈です」

「筈…とはどういう事ですか?」

「昨日、とあるメイジと決闘を行った際、そのメイジが呼び出した青銅のゴーレムを、剣の一振りで吹き飛ばし、挙げ句木端微塵にしました」

「剣の一振りで…そんな馬鹿な!」

「俺も驚きました…もしかしたらこのルーンが関係しているのかもしれません」

 

そりゃあ驚くよな…単なる平民が、メイジが召喚したゴーレムをいとも簡単に吹き飛ばすなど、一見ありえない話だからな。

 

「次に、ルイズのスタンド、キラークイーン。人を遥かに凌駕するパワーもさることながら、最大の持ち味は3種類の『爆弾』を操る事です。1つ目は、左手で触れた物を任意のタイミングで爆破する爆弾。2つ目は、熱源を追いかけて爆発する爆弾。3つ目は、本体…ルイズの事です…を殺そうとした敵に取り付いて爆発する爆弾です」

「爆弾を操る…色々とルイズにぴったりですね…」

 

それを言わないで欲しかったな…

 

「次に、公爵様のスタンド、パープルヘイズ」

「ああ、こいつか。先の2体と比べて随分と禍々しく、野蛮な印象を与えるが…」

「パープルヘイズは、キラークイーンとほぼ同等の身体能力を持ちますが、最大の持ち味は両拳に仕込まれたカプセルに入っている殺人ウィルスです。これに一度感染すると、僅か30秒で内側から腐る形で死に至ります」

「わ、僅か30秒だと!?何というスタンドだ!」

「勿論、ウィルスは猛毒ではありますが弱点もあります。それは光に滅法弱い事です。ルイズから聞きましたが、ライトという発光体を生み出すコモン・マジックがあるそうですね。仮にカプセルが割れても、直ぐにライトを発動すれば対処は可能です」

「そ、そうか…驚かせるでない」

 

他にも『抗体』を使えば感染しても治るのだが、抗体の概念がこのハルケギニアにあるか疑問だし、下手に混乱させる訳には行かない。

…それはともかくルイズ曰く『私達に対しては親バカ』なヴァリエール公爵からは、パープルヘイズが生まれる様な要素は認められない。

フーゴは神童と言える頭脳と、暴力的な本性があったが故に生まれたのだが。

 

「次に、カリーヌさんのスタンド、ウェザーリポート」

「ウェザー…天候に関わるスタンド、という事ですか?」

「はい。ウェザーリポートは、周囲の天候と空気を操作する事が出来るスタンドです。雨を降らせたり霧を発生したり、空気の刃を作ったりと、色々な事に使えます。純粋な身体能力もキラークイーンやパープルヘイズと、ほぼ同等です」

「風の系統と通ずる所が多いですね」

 

ルイズの母であるカリーヌさん、既に50を越したとの事だが、その綺麗さは色あせておらず、その気高くもお淑やかな雰囲気とピンク色の髪も相まって流石ルイズのお母さん、という印象を与える…何だかリサリサ先生みたいだな。

そして属性は『風』のスクウェアで、30年前にはマンティコア騎士団の団長に就き、そのチートとも言える強さは今でも伝説として語られているとの事。

こっちは逆に、ウェザーリポートは正に生まれるべくして生まれたスタンドと言って良いだろう。

 

「次に、エレオノールさんのスタンド、ザ・フール」

「ちょっとどういう事よ、フールって!私が馬鹿だと言いたいの!?」

「い、いや、そのフールではありません!とある占いに使うカードの1枚に、天才や自由を暗示する絵柄があります。そのカードの名にちなんでザ・フールと名付けられているのです。ザ・フールは砂で出来たスタンドで、自由自在にその姿を変形させる事が出来ます。俊敏な動作は得意ではありませんが、どの様な形状にも再現できますよ」

「な、成程…ゴーレムに似ていますね」

 

お、おっかねぇ…ルイズの癇癪持ちはこの人譲りじゃあないか?

だがそれを含めてもやはり美人で流石に家族だなあと感じる…もう27歳で何度も婚約に失敗しているらしいが、相手の男は相当見る目が無いか我慢が足りないな。

属性は土のスクウェアらしく、こちらもまた生まれるべくして生まれたスタンドだろう。

 

「最後に、カトレアさんのスタンド、クレイジーダイヤモンド」

「ダイヤモンド…綺麗な名前ですね」

「クレイジーダイヤモンドは、キラークイーンをも上回るパワーと、シルバーチャリオッツに次ぐスピードを併せ持ちますが、最大の持ち味は、触ったものを『直す』事です。傷ついた物体や人体は勿論、バラバラになった物体の一部分に触れただけでも完全に直す事が出来ます」

「完全に直す…だと!?そしたらカトレアの病気も…」

「いえ…病気は治せません。あくまで傷付いたものを直す事が専門ですし、それに本体であるカトレアさんを直すことはそもそも出来ません」

「そ、そうか…望みが生まれたと思ったのだが…」

 

幼い頃から持病を抱え、外出はおろか城内を歩き回る事すらままならないというカトレアさん。

一応土系統の魔法は得意らしいのだが、魔法を使うにも身体への負担が大きいらしく、それを治したいという想いこそがルイズ(と、エレオノールさん)の『黄金の意志』を育んだというのは、どれだけ運命は皮肉なんだ…

とはいえカトレアさんからはそんな運命に悲観する様子は殆ど見受けられず、その柔和な雰囲気と全てを抱き留められるかの様な母性は、やはり家族だなと感じる綺麗な顔立ちと、ヴァリエール家髄一と言える爆乳とマッチして…94点のExcellentだ…!

クレイジーダイヤモンドは、彼女の優しさを体現した、ピッタリなスタンドだ。

 

「こうしてその力量を聞くと、魔法にも引けを取らない力を持っているのだな、スタンドとは」

「それに才能なき者はその姿を見る事も叶わず、欲に駆られて手を出そうとすればその欲によって身を滅ぼす…あり方こそ逆ではありますが、魔法と似た所が多いですね」

 

しかしだ、と突然立ち上がったヴァリエール公爵。

その姿からは一切の反論を許さないと言わんばかりの強烈なオーラが発せられていた…この毅然とした立ち振る舞い、貴族の、上に立つ者の鑑と言えるな。

 

「魔法と良く似たこの力、一度知ってしまえば放っておく様な存在などいまい。必ずやその力を研究し、あわよくば自分の欲の為に利用する連中が出てくるであろう。その魔の手は我らに、いやもしかしたら我らと少しでも関係がある者にも及ぶやも知れぬ。よいか皆。此度聞いた話は、一切他言はならぬ!それに、余程の事が無い限りはスタンドの存在を仄めかす様な振る舞いはならぬぞ!特にエレオノール。お前はアカデミーに籍を置く存在。仮に知られてしまったらまず真っ先にお前が研究の標的となる!殊に気を付けるのだぞ!良いな!」

「「「はい!」」」

 

ヴァリエール公爵からの警告の言葉は、それが守られなければどうなるかを、聞く人全てに思い知らせる程の重みがあった。

けれどこの時の俺達は知らなかった。

スタンド使い同士は惹かれ合う運命にあり、それはつまり、スタンド使いは生きている間、他のスタンド使いとの関わり合いが延々と続く運命にある事。

俺達しかスタンド使いがいない筈のハルケギニアであろうと、それは変わらないという事を。


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