ゼロの使い魔の奇妙な冒険   作:不知火新夜

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ヴァリエール領でのルイズの家族(この世界のスタンド使い)との初対面…それを終えた才人とルイズは…何故かトリスティンの城下町にいた。何故なら…


8話

空が、夕焼け独特のオレンジ色に染まるまであと少しと言えるこの時間、俺達はトリスティンの城下町に寄り道していた。

というのも、

 

「折角だから城下町に寄り道してアンタ用の剣を買うわよ」

 

というルイズの一言からだ。

何でまた急に、と一瞬思ったが、

 

「シルバーチャリオッツは剣を使うスタンドでしょ?本体のアンタが剣を使わなかったら恰好が付かないわ」

 

と、その理由を言われて納得した…ポルナレフもアヌビスを使っていた(正確には操られていた)時があったし、持っていて損になる事は無いだろう。

…それにしても、

 

「これで大通りか…結構狭いんだな…」

「これで狭いの?アンタの世界って、どれだけ道広いのよ?」

 

トリスティンの城下町でも特に大きい区画らしいブルドンネ街に来ていた俺達だが、その道幅は大通りと言うには明らかに狭かった。

目測だと大体5m位か…俺の世界なら大通りと言うより古き良き商店街、の方がしっくり来るな。

 

「そうだな…大通りと言える道は大体20メイルは下らないな。中には44メイルの所もある」

「は、はぁ!?いや本当にどれだけ道広いの!?」

 

メイル、というのは此処ハルケギニアでの長さの単位だ。

ただ呼び方が変わっただけで、実質的にメートルと変わらない。

他にもより細かいサントという単位もあるが、それもセンチメートルと一緒だ。

キロメートル?…それは分からねえな。

 

「まあ、それは置いて…それより、財布はちゃんとあるわよね?まさか取られていない?流石のアンタも魔法を使われたら一発なんだから、そこ気を付けなさいよ」

 

俺の世界の道路事情に驚愕していたが直ぐに正気に戻ったルイズからの忠告が、俺は少し気になった。

この世界ではメイジ=貴族だった筈、その貴族がスリだと…?

それが本当なら、貴族の風上にも置けない奴だ…貴族の誇りが、『黄金の意志』が無いのかっ!

 

「待てルイズ、魔法を使うのはメイジだけの筈。そのメイジが窃盗に魔法を使うだと?」

「メイジにも色々あるのよ。何か罪を犯したり、家の事情で追い出されたりして、平民に落とされた貴族がいるの。平民メイジという存在で、傭兵とか犯罪者になったりするのよ」

 

その反感からルイズに聞いてみたが、どうやら貴族といえど皆が皆、ルイズ達ヴァリエール家の様に貴族である事の誇りや責任を感じている訳では無い様だ。

その成れの果てが、あんな罵声を平気で浴びせるルイズの同級生であり、平民メイジなのだろう。

どの世界でも、『腐敗社会』の言葉は付き纏うのか…殊にこのハルケギニアは、今の様な社会が形成されてからもう6000年も経過してしまっている…それも必然なのかもしれない。

 

「まあともかく分かった、気を付ける…ところで、武器屋はどの辺なんだ?」

「えーと…ピエモンの秘薬屋があそこだから…あった、あそこよ」

 

ルイズが指差した先には、剣が交差して描かれている看板が立て掛けられた、いかにもな店があった。

ルイズ達貴族はともかく平民は読み書きを教わる機会が少ないらしく、それに配慮しているのだろうが…いかにも過ぎる、ドラクエの世界か此処は?

 

「貴族の旦那、ウチは真っ当な商売をしていまして、目を付けられる様な事は決してs」

「何を勘違いしているの、客よ」

「ほう、こりゃあ驚いた、貴族が剣を!坊主は聖具を、兵隊は剣を、貴族は杖を、そして国王陛下はバルコニーからお手をお振りになるのが相場だというのに!」

「話は最後まで聞きなさい、使うのは私じゃなくて、コイツ。私の使い魔よ」

「忘れておりました。昨今は貴族の使い魔も剣を振るうそうです」

 

…胡散臭いな。

裏通りに位置する立地、質素を通り越して少しボロくなっている店の建付け、やや雑多に並べられた武器の数々、そして調子の良い問答の店主…何から何まで胡散臭すぎる。

こういうタイプの店は大概ぼったくり価格で売り付けたりするのだが、一方で物凄い掘り出し物が見つかるかもしれないケースもあるから始末が悪い。

…特にルイズは買い物のかの字も知らなさそうだし向こうもそう見るだろう、俺が気を付けないと前者になりかねないな。

 

「レイピアみたいな物は無いか?無ければ片刃の剣を頼む」

「はい、ただいま」

 

なるべく俺が交渉役となる様仕向けなければと判断し、切り出す。

対応した店主が奥に入って1分後に持ってきたのは、全体に装飾が施されたレイピアだった。

 

「従者様のご要望の物で一番と考えますが…これはどうですかね?」

「へえ、綺麗な剣ね。でも大分細いわね、折れちゃいそうだわ」

 

確かに俺の要望と大分ピッタリだが…ルイズの言う通り、耐久性に問題ありそうだ。

装飾が柄や鍔といった強度的に問題が無い部分までなら気にしなくても良かったのだが、刀身全体にまで及んでしまっている。

彫り込むタイプであれば強度が失われてしまうし、上乗せするタイプだと重量バランスが崩れてしまう。

装飾剣としてならば問題は無いのだろうが…正直俺好みじゃあ無いな。

…そもそもレイピアにそれを求めるな、という突っ込みは勘弁してくれ。

シルバーチャリオッツの戦闘スタイル上、これが一番イメトレしやすいんだ。

 

「実はですね、それは最近、貴族様に人気の剣でございます」

「貴族に人気?それはどういうこと?」

「最近、城下町を盗賊が荒らしまわっておりまして、万が一の防衛の為に宮廷の貴族の方々の間で下僕に剣を持たせるのが流行っておりましてね。その際にお選びになるのがこの様な綺麗な剣でして」

「へぇ…」

 

仮にそうなっても一撃必殺位にしか使えないと思う…ただ見た目は良いので体面を保つのには最適だな。

 

「駄目だな、強度が足りなさそうだ。装飾とかはともかく、強度的に酷使に耐え得る物が良い」

「へへぇ、それなら…」

 

そう言って再び奥に入って1分後に持ってきたのは、

 

「これなんてどうですかい?この店一番の業物でして。従者様の要望には少し外れますがね」

「うん!やっぱりこういうのよ!」

 

何て言うか…全体的に宝石が散りばめられた両手剣だった。

 

「コイツを作り上げたのはかの有名なゲルマニアのメイジ、シュペー卿でして、刀身には固定化の魔法も掛かっておりやすんで、従者様の期待にも十分応えてくれる代物ですぜ!」

 

固定化が掛かっているのか…確かルイズの話だと、固定化が掛かった物体はその状態を維持し続けるんだとか…つまり剣なら割れたり錆びたりしにくくなる、という訳だな。

装飾剣としても見栄えはする…所謂クレイモアに近い形状なのが残念だが。

 

「で…幾らなんだ?」

「これ位上等な物ですからねぇ、2000エキューで。新金貨でしたら3000枚ですかね」

「随分高いわね。立派な家と、森付きの庭が買えるじゃないの。もう少し安くならないの?」

「勘弁してくだせぇ。こればっかりは売上にアカがついちまいますぜ」

 

「はっ!少しばかり目が利くじゃあねぇかとちょっぴり期待した俺の馬鹿っ!そんな安物に引っかかる奴だったとは見損なったぜっ!」

 

な、なんだ、急に男の怒鳴り声がっ!

その声のした方向に俺とルイズは振り向くも、そこには雑多に置かれた剣の数々だけが…まさかっ!

 

「おい…そんな所に隠れて随分と器用だなてめー。俺に怒鳴るとは、喧嘩でも吹っ掛ける積もりか?」

 

普通なら隠れる事など不可能に近いスペースしかないその剣の数々。

だが、ハングドマンやマン・イン・ザ・ミラー等、スタンドの中には物体に潜り込める能力を持つ奴だっている。

似た様な性質のある魔法でも、それは不可能ではない筈だ。

声の主は、恐らくそれを使ってこの剣のどれかに潜り込み、入って来た奴に夜襲をしでかすつもりかも知れねぇ。

だがああも堂々と存在を見せつける行為をするとは、余程自分の腕に自信があり、それを以て俺に決闘でも挑みたい心かもな。

その勝負…乗ってやろうじゃあないかっ!

 

「おい、どの剣に潜んでやがるっ!何時までも隠れてないで、さっさと出て来やがれっ!」

「おいおい、そう急くなよ、俺は此処だ。そして俺は隠れるつもりなんざ無いぜ?」

「これか?これが…お前か?」

「おぅ。しかし随分と早く見つけたもんだ。さっきまでは見損なっていたが、案外捨てた物じゃあねぇな、アンタ」

 

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

俺は剣の中に潜んでいるであろう奴を手あたり次第に探していたら、見つけたのは『喋る』剣だった。

な…何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何が起こったのか分からなかった…

頭がどうにかなりそうだった…

アヌビスだとかハングドマンだとか、そんなチャチなもんじゃ、断じてねぇ。

もっと恐ろしい物の片鱗を味わったぜ…!

 

「それ、インテリジェンスソード?へぇ、珍しい物を置いているわね」

「へぇ、いかにもそいつは意思を持つ剣、インテリジェンスソードでさ。剣に意思を持たせるなんざ、一体誰が考え出したんでしょうかねぇ。こらデル公、お客様に失礼な口聞いてんじゃあねぇ!」

「はっ、本当の事を言っただけだぜ?」

 

意思を持った剣…か、流石は魔法が世界の根幹を担う世界、グレードだぜ…

それによく見れば片刃で、刃渡り120cm位か…反りはそんなに無い様だが、所謂野太刀みたいな感じだ。

所々、いや全体的に錆びは浮いていてボロボロな印象を与えるが、造りはしっかりしている様でその武器としての威圧感は中々の物だ。

レイピアでは無かったがそれでも、俺の所望とピッタリだ…が、

 

「ん、おめぇさん、『使い手』か?それにおめぇさんの後ろにいる銀のk」

「よしルイズ、これにしよう(ルイズ!コイツ、スタンドが見えているぞっ!)」

「それが良いの?…まあ良いわ(は、はぁ!?嘘でしょ!?直ぐに口封じしないと!)」

「店主、コイツの値打ちは?…ああ、そうそう、その前に静かにさせねぇと値打ちが聞こえねぇ。黙らせる方法は無いか?」

「あ、はい。コイツは鞘付きでして、入れて置けば静かになりやす」

「お、おいおめぇさん!無視してないで俺の質問にk」

 

チン!

 

危なかった…昼頃にヴァリエール公爵からスタンドが知れ渡ってはならんと言われたばっかりだと言うのに、早速バレる所だったぜ…何としても確保しとかねぇと…

 

「そいで、値段ですね。ソイツなら100エキューで十分でさぁ」

「100エキューね」

 

丁度100エキューが手元にあった為、難なく購入(かくほ)出来た。

…まあ正直な事を言えば俺達からぼったくろうとした事が許せなかった為、脅迫紛いに交渉しようかとも考えたが、売らねぇよと言われたらアウトだ、此処ばかりは下手に出るしかねぇ。

 

「マジックアイテムの類だから、魔力に似た力で構成されるスタンドが見えていたのね…危なかった…」

「本当だぜ…だがその為に100エキューも使わせちまったな…悪い…」

「別に良いわよ、一応は剣を手に入れたんだし…でもこんなボロ剣だと使い物になるのかしら…」

 

本人が口を利けない状態であるのを良いことに、ボロクソに言いまくる俺達。

でもよくよく考えたら、これは案外掘り出し物かも知れない。

まず、意思を持っていて、喋るという点。

スタンドの中にはスパイスガールやエコーズのACT3、セックスピストルズの様に本体とは独立した意思を持ち、且つ喋る事が出来る奴が存在する。

それらに共通する長所は、本体の良い話し相手となり、精神的な成長を促す事。

戦闘面でも3人寄れば文殊の知恵、では無いが本体が行動する上で重要なサポーターになる事だ。

次に剣その物。

柄も含めると150cmもあるその図体に違わずかなりの重量があり、背中に背負っていても結構な重さを感じる。

この重さという点は『素早い剣捌きが出来ない』という短所がある一方で『重量を活かした強引な叩き切りが出来る』という長所にもなる。

シルバーチャリオッツの得物はレイピア、突き刺しや斬り裂きは出来ても、そこは専門分野ではなく、カバーする上でもベストマッチしている。

錆びついているのはマイナスだが、こういう使い方なら大したハンデにならない。

それに…コイツが俺を『使い手』と言っていた事。

初対面である筈の俺をいきなり『使い手』と、まるで見知った様な呼び方をしていた。

つまり、コイツと俺…いや、俺に近しい存在とかつて密接な関係があった事を暗示していると思う。

何が言いたいのかと言われるとそれは、俺がこの世界に来た理由を見つける上で重要であるかもしれないという事であり、

 

ルイズが果たして、どんな才能を持ったメイジなのか、を知る上でも重要かもしれないのだ。

 

と、1人この剣について評価を下していると、

 

「つ、ツェルプストー!?それに、ミス・タバサも!?」

 

隣のルイズの驚きの声に即座にその視線の先に振り向く、と、そこには、

 

「ヴァリエール…それにサイトも…良かったわ、話があるの…」

 

何やら憔悴しきった顔のキュルケと、タバサと呼ばれた水色の髪の、ルイズ達の同級生がいた。


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