サクラ大戦 剣聖の新たな道 作: ノーリ
さて前作の最終話での後書きをお読みくださった方はお判りでしょうが、今回も当然のようにとんでもクロスです。
そしてこれもまた前作の最終話での後書きにて書きましたが、ええ、便乗しました。(笑)
来月に実に十年以上の時を超えてこの作品の続編が出るとのことで、それを知り、居ても立ってもいられなくなって始めた所存です。故に、見切り発車なのは否定しません。(笑)
そして今回の主役は、これも前作の最終話の後書きにて書きましたがファイアーエムブレムシリーズより、この方にお願いしました。タイトル、並びにタグでもうバレバレですから敢えて説明する必要もないでしょう。どのように物語に絡んでいくか、ニヨニヨしながら読んで頂ければと思います。
では、通算四作目のとんでもクロス、長いお付き合いになるか短いお付き合いになるかはわかりませんが、どうぞ。
数多の次元の数多ある時間と空間に無数にある世界。そのうちの一つのとある世界にある一つの里。
その里で今、その里の里長がその生涯を終えようとしていた。
(ふ…)
走馬灯というわけではないが、死の間際にはやはりこれまでの道のりが思い出されるのだろう。そして彼は薄く笑った。
(思えば、波乱万丈の生であったな…)
素直にそう思う。己の運命に翻弄された若かりし日々。しかしその日々が終わりを告げてから、今まで懸命に走り続けてきた。
同じ運命にあった者たちが少しずつ集まり、やがて集落となってそこの長にまでなったのだ。もっとも、彼自身にそんな気はまるでなかったのだが。
最初はまだほんの小さかったその集落も、今ではその時とは比べ物にならないほど大きくなった。それでもまだ集落・里といった規模ではあるが、このまま発展していけばいずれは国にまで成長するかもしれない。
(惜しむらくは、その様子を見れないことか…)
常人より長い生とは言っても、それでも永遠ではない。終わりは来る。友と呼べる存在は既にほぼ先に逝ってしまった。そして、ついに自分の番が来たのだ。
(輪廻転生など信じているわけではないが…)
次があるならば今度はどんな生になるのか。そんなことを考えながら彼は目を閉じ、そして眠るようにその生涯を終えたのだった。
(ん…?)
浮上してきた意識を感じ、彼は目を覚ました。
(まだお迎えの時ではなかったのか…)
我ながら存外しぶといなと苦笑しながら上半身を起こす。が、彼はそのまま固まってしまった。
「何…だと?」
そして、呆然とした口調で思わず呟く。だが、それも仕方ないかもしれない。何故ならその目の前に広がっている光景は、目を閉じる前のものとは全く違っているからだ。そこに広がっているのは見慣れた里の光景ではなく、全く違ったものだった。
「……」
思わず顔に手を持っていき、自分の頬を軽く抓ってみた。
「痛みはあるな…」
どうやら目の前の光景は夢や幻ではないらしい。だが、だとしたら何故、いつもの里の景色ではなくこんな見たこともないような光景が広がっているのか。考えたものの、自分を納得させるような回答は出てこなかった。
(仕方ない)
論より証拠・百聞は一見に如かずというわけではないが、状況を把握するために彼は起き上がった。そして、目の前の見たこともない光景に向けて歩き出したのである。
「……」
散策を始めて数刻。目に入ってくる、自分の知識の中にはまるでない数多くのものに何度も目を奪われながら、彼は散策を続けていた。そして、続ければ続けるほど混乱の度合いが増しているのである。
(何なんだ、ここは…)
さっきからずっとその思いが彼の頭を支配していた。右を見ても左を見ても見たことのないものばかりだからである。建物、店、乗り物と思しきもの、衣類から人に至るまで、彼には今まで見たことのないものばかりだった。無理やり自分がよく知る世界との共通点を上げろと言われれば、空が青いことぐらいしかない。それほど、目の前に広がる光景と、今までの日常の光景には差異があった。そして、おかしいのはその一点だけではなかった。
(……)
他の通行人にぶつからないように気を配りながら、彼が己の手の平に目を落とす。そして数回ほど握って開いてを繰り返したのち顔を上げた。
(やはり…)
意識が戻ってきた直後から感じ、そして今まで歩いてきたことで彼はあることについて確信を持っていた。と、少し先に綺麗な川があるのが目に入った。
(丁度いい)
橋を渡る大半の人間とは袂を分かち、彼はそのまま河川敷へと向かった。そして、水面に映る己の姿を見る。
(やはり…か)
水面に映る己の姿を目の当たりにした彼は、確信を持っていたそのあることが、自分の錯覚や思い違いではないのをハッキリと理解した。彼が目を覚ました直後から感じ、そして今までの時間で間違いないと確信していたことというのは、己の身体のことであった。では具体的には何か。それは、若返っているということだった。
意識を失う前、己の手は加齢によって艶を失って皺だらけのものであった。そしてこの身体も、普通に歩くのはできるがやはり加齢によってその速度や足取りは覚束ないものであった。
だが、意識を起こしてから目にした己の手は張りも艶もある瑞々しいものであり、足取りもしっかりして体力の消費もないに等しい。そう、まるで若返ったかのように。そしてその、ありえないはずの現実は今水面に映る己の姿を見て、実際にこの身に起こったことだと理解していた。水面に映る己の顔は、若かりし頃の自分の顔だったからである。
(だが…何故だ?)
その原因に川辺で腕を組み思いを馳せる。だが、いくら考えたところでわかるわけもない。彼は愚鈍というわけではなく、どちらかと言えば間違いなく聡明な人物であるが、それでもこの事態の正解を導くことなどは到底無理な話だった。
(あるいは…)
自分はやはりあのとき死んで、ここは死後の世界。あるいは、信じているわけでもない輪廻転生によって降り立った、新たな世界なのだろうか。そう考えた方が余程辻褄が合うし理解もできた。
(まあ、とにかく)
取りあえず己の考えに区切りをつけると、彼は元来た道まで戻ると、そのまま橋を渡ったのだった。
(流されるままに…と言うわけでもないが、もう少しこの世界を歩いてみるか…)
望むものか、あるいは望まないものになるかはわからないが、とりあえず現状を打破する『何か』を求め、彼は再び人ごみの中に入って歩き出したのだった。
Side ???
「んーっ!」
一人の少女が固まった身体を解すように伸びをした。小脇に置いていた自分の荷物はそのままに、周囲を見渡す。
「ようやく、着いたのね…」
感慨深げな口調の中に少々の疲労の色を含みつつ少女が口を開いた。故郷を離れて長い旅路を終え、ようやく着いた目的の地。ここでの新たな生活に胸を躍らせつつも、同時に己の全うすべき役割もまた思い出し、少女が表情を引き締めた。
「さて…と」
懐から手紙を取り出し、少女はそれを広げる。そして、目的地へと向かって足を踏み出したのだった。
Side Out
目覚めて数刻、見知らぬ世界で当てのない散策を続けていた男は、周囲に流されるようにしてとある場所に辿り着いていた。
「公園か…」
目の前にあるそれを見て思わず呟く。そう、彼の眼前には大きな公園の入り口があった。
「丁度いい。少し休むか」
人の流れに従うようにして公園に入ると、彼はそのまま少し歩く。やがて、小休止するのに丁度いいベンチを見つけると、ゆっくりとそこに腰を下ろしたのだった。
「ふーっ…」
ベンチに深々と腰を掛けてゆっくり大きく息を吐きだすと、彼は上空を見上げた。相も変わらず澄んだような青空がどこまでも広がっていた。
(さて…)
その青空をぼーっと見ながら、思索に頭を巡らせる。
(これからどうしたものか…)
何はともあれ、頭の中にまずよぎったのがそれだった。ここに来るまで見てきた数々の光景により、ここが自分の理解・常識の範疇外の世界であることがわかった。であれば当然、頼るべき友や戻るべき場所はありはしない。実際問題として、こうやっているだけで腹も減ってくるのである。
何で自分の現状がこうなっているのかはわかりようもないが、それより先に目の前に迫る現実問題をどうにかしなければならない。寝る場所は雨露を凌げさえすればどこでもいいのだが、空腹はそうにもいかないのだ。
(盗みを働くわけにもいかないしな)
そんなことを思って自嘲する。物々交換しようにも、ここでは何が価値があるのかわからない以上はそんなことできるわけもない。第一、大したものを持っているわけでもない。
唯一、物々交換の品になりそうなのは腰に佩いたこの名剣だけだが、これは幾多の戦場を共にしてきた相棒だ。どれほど頼まれようが金を積まれようが、とてもではないが手放す気はないため選択肢としてはとっくに外されている。だがそうなると、ではどうしようかということになって最初に戻ってしまうのだ。
(堂々巡りだな)
わかってはいるがどうしようもないのだから仕方ない。せめて残飯を漁るようになるのだけは阻止しようと考え、腰を浮かせた。
(山か海にでも行くか。そこの獲物をとれば、とりあえず飢えは凌げるだろう)
だがそれでも当座のことにすぎない以上は早く身の振り方をどうにかしないとなと考えてその場を後にしようとした彼の足を、突如轟音と人々の悲鳴が止めたのだった。
Side ???
「わぁ…」
目的地へ向かう途上、少女がとある公園に立ち寄って目の前に広がる光景に感嘆の声を上げた。
故郷では見ることもなかった大都会の景色。そして自分の後ろの公園には満開の桜が所狭しと咲いている。空は青く澄み渡り、絶景の光景に少女は胸を躍らせた。
「んーっ…」
大きく深呼吸をして少しの間目の前に広がる光景に見とれる少女。だが、そんな幸せな時間は長く続かなかった。突如、自分の背後から轟音と人々の悲鳴が聞こえてきたからだ。
「!」
鋭い瞳になって振り返り、自分の背後を睨む少女。そこには成人男性の背丈の二倍以上はある甲冑が暴れていた。パニックを起こし逃げ惑う人々の中、唯一その少女だけが鋭い瞳でその甲冑を睨む。そして所持品の一つである白鞘袋の結いを解いてその中身…日本刀を取り出した。
少女の気配を感じ取ったのか、甲冑は少女に向かって突っ込む。少女はジャンプしてそれを難なくかわすと、甲冑の上に白鞘袋を投げ捨てた。そして、
「はああああああっ!」
振り向きざまに再び飛び上がり、鞘から抜いた日本刀で頭上から甲冑を一刀両断したのだ。甲冑は、まるで人のように雄叫びを上げながら両断されてその機能を失った。
「ふぅ…」
刀を鞘に収めると、少女は緊張を解いて大きく息を吐く。そんな少女の耳に、
『娘! 後ろだ!』
という誰かの声が聞こえたのと、それに導かれるように振り向いた直後身体が吹き飛ばされたのはほぼ同時だった。
Side Out
「何だ、あれは」
突如現れた甲冑の化け物に、男が思わず息を呑んだ。今まで色々な相手と戦ってきたが、あんなのは見たことがないからだ。だが、パニックになり逃げ惑う人々を見て男はすぐに気を取り直した。そして、丁度いいとばかりに突っ込んでいこうとする。
(実戦はやっていないからな。この身体が本当に若返っているのであれば、それを試すのも悪くあるまい)
幸いにして人々が逃げ惑う様子を見るに、あの甲冑は斬り伏せても構わん存在なのだろう。そう判断した彼は剣の柄に手を掛けながら走り出した。が、
『はああああああっ!』
一人の少女が、裂帛の気合と共にその甲冑を一刀両断してしまった。これではもうどうしようもない。
(む)
残念に思いながらも彼は剣の柄から手を放し、速度を緩める。そうしながら、少女に目を向けていた。
(なかなかの太刀筋だ。あの若さで大したものだな)
自分の脳裏に浮かんだ剣士たちと比較しても引けを取らない腕前ではないのか。そう判断し、彼は感心していた。だが、それも一瞬。不意に少女の背後、彼からも死角の部分からもう一体の甲冑が現れると、少女に向かって突っ込んだのである。
「娘! 後ろだ!」
それに気付いた彼が叫んだのと、甲冑が少女を突き飛ばしたのはほぼ同じタイミングだった。
Side ???
「きゃああああっ!」
どこからか聞こえてきた男の叫び声に振り返ったのとほぼ同時に甲冑に吹き飛ばされ、少女は悲鳴を上げて吹き飛んだ。衝撃は強かったが幸運なことに着地は何とか足からできたものの、負荷が全て足にかかりその結果、
(痛ッ!)
少女が顔を歪ませる。自分の現在感じている状態から、骨折や内臓破裂と言った重篤な負傷は負っていない。せいぜいが打撲や打ち身ぐらいのものだろう。ただそれ以上に問題なのが足であった。吹き飛ばされ、着地したときの衝撃の負荷が全て足首にかかってしまい、足を挫いてしまったのだ。
(ッ!)
顔を顰めながら思わず患部に目をやる少女。この状態では先ほどまでのようにはいかない。とは言え、泣き言を言っても目の前の状況が変わるわけではない。
(やらなくちゃ!)
覚悟を決めて立ち上がった少女に向かって、どこから湧いてきたのか先ほどの甲冑が突っ込んでくる。甲冑に相対し、剣を構えた少女だったが、絶え間なく続く痛みに顔を歪めて反応が遅くなった。それを好機と感じ取ったのか、甲冑はそのまま突っ込む。しかし、もう一度吹き飛ばされるはずだった少女の身体はそこにはなかった。空振った形になった甲冑が周囲を見渡すと、離れた場所に男に抱きかかえられた少女の姿があった。
Side Out
「大丈夫か?」
男が少女を抱きかかえながらその顔を少し覗き込み尋ねた。
「え? あ、あの…?」
状況がわからず、少女が混乱してあちこちに顔を向けている。まあ、吹き飛ばされるのを覚悟していたらいきなり男に抱きかかえられているのだから当然だろう。
「どうなんだ?」
「あ、は、はい」
少し強めに尋ねられ、少女が思わず頷いた。状況が状況ということもあって無駄に時間は使えないし使いたくないのだろう。
「わかった。降ろすぞ」
「はい」
ゆっくり地面に降ろされ、少女が地に足を着いた。途端に、足首を痛みが襲う。
「ッ!」
顔を顰め、少女が不自然な体勢になった。その姿に、男が一瞬で少女の状態を見抜く。
「足を挫いたようだな」
「……」
「その様子ではあれの相手はできまい。あれは私が引き受けよう」
「! そんな!」
顔を上げ、少女がそれを翻意させようとする。だが、男は軽く微笑むと自分の腰に佩いている刀をポンと叩いた。
「まあ、そこでゆっくりと見物しているといい」
男はそう告げると、少女に背を向けた。少女は何とかしようとするものの、挫いた足の痛みに耐えられず、遂にその場に腰を下ろしてしまった。と、甲冑がこちらに狙いを定めてまたもや突っ込んでくる。
(突撃だけしか能がないのか)
猪が…と内心で思いながら、同時に何人か脳裏に浮かんできた自分の旧知の人物の顔を思い浮かべ、男がまた軽く微笑んだ。そして、ゆっくりと目を閉じる。
甲冑の突撃のスピードは収まらず、そして目を閉じて動きが止まってしまった男の姿に少女が内心不安になった。だが甲冑がある程度の距離まで迫ってきたその刹那、
「!」
男が目を開くと直後には甲冑のいる場所を通り抜けており、そして甲冑はというと動きが停まりバラバラになっていたのだった。
(ふ、成る程)
男が振り返ると、己の剣技の結果である甲冑の残骸を見る。実戦で自分の今の状態がどれほどのものか試した結果、恐らく全盛期のものと言っていい状態であることがわかった。恐らくというのは、相手が余りにも弱すぎて己の力量を正確に誰何するには力不足であったからである。だがそれでも、寸分の狂いもなく自分の思った通りの剣技を繰り出せたことで、己の力量が今どの程度のものかはある程度把握することができた。
男はそのまま視線を少し上に上げ、自分を見ている少女に目を向ける。
「大丈夫か?」
Side ???
(え?)
少女は目の前の光景に驚きを隠せなかった。甲冑が突撃してくる中、男は剣の柄に手を掛けたまま目を閉じてしまった。しかしその目が再び開いた直後、男の姿は甲冑の遥か先にあり、そして甲冑の動きが停止した。そして甲冑は轟音と共にバラバラになったからである。
(い、今のって…)
生唾を飲み込みながら少女が甲冑の残骸を見た。そこに走っていたのはどう考えても斬撃である。男が刀の柄に手を掛けており、そしてこの斬撃の跡が甲冑にある以上、男が斬り捨てたと考えるのが普通である。だが、
(見えなかった…)
それが、少女が驚いている理由だった。男が斬撃を駆使して甲冑を斬り捨てたのだったら、普通ならその所作が見えて当然である。だが、少女にはそれが見えなかったのだ。自分も幼少のころから剣の腕前を磨いてきた身。少なからず自負するところはあった。だが、自分を助けてくれたこの男はそんな自分の上を行く剣の使い手ということになるのだ。その事実に呆然となりながら男に目を向けていると、
「大丈夫か?」
再度、男に気遣われる。
「あ、は、はい」
頷いて立ち上がろうとした少女だったが、自分が足を挫いていることを思い出し、痛みに顔を歪めた。
「無理をするな」
「すみません…」
男にたしなめられ、少女がシュンとなってしまった。コロコロ変わる少女のその様子に、男が苦笑する。と、
「あの、貴方は一体…?」
少女が、ある意味現段階で一番気になっていることを聞いた。自分を上回る剣の使い手なのだ。剣士として、興味を持たないわけはない。
「相手の名を知りたくば、まず自分から名乗るべきじゃないか?」
「あ、は、はい。私は…」
男にそう言われた少女が己の名を名乗り、
「そうか。私の名は…」
それに応じるように男もまた己の名を名乗った。
少女の名は、真宮寺さくら。己の身に破邪の力を宿し、帝国華撃団・花組の一員としてこの地にやってきた少女。
男の名は、ソーンバルケ。かつてテリウス大陸において剣聖の名をほしいままにした、最強の剣の使い手。
物語は、ここから始まる。決して交わることのない二つの星が交わり、そしてこの邂逅によりまた新たな、そして本来進むことのない物語を紡ぐことになる。
その物語に、暫しのお付き合いを…