サクラ大戦 剣聖の新たな道   作: ノーリ

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おはようございます。そして、ご無沙汰しております。皆さんはお元気でしょうか。

折からのコロナの影響で生活にも支障が出ており、投稿ペースが乱れております。私自身は大丈夫なのですが、この一件で色々ありまして。
また、私生活でも少々立て込んでおり、なかなかこちらに手が付けられない状況です。

ゴールデンウイークに差し掛かるということもあり、何とか今話から三週連続で投稿しますが、その後は暫く月一投稿ぐらいになるかと思います。落ち着きましたら通常のペースに戻りますので、それまでご容赦ください。その際にはまたご報告させていただきます。

で、肝心のお話ですが、今回は第三話の後半部ですね。刹那との決着です。

どのようになったかは本文をご覧ください。では、どうぞ。


NO.12 火喰い鳥の夜明け

「…で、どうしたの?」

 

あやめの私室。ソーンバルケが気を利かせて退出したのを見計らい、悩める大神にあやめが尋ねた。

 

「俺は…隊長失格なんでしょうか?」

「え?」

 

予想だにしない大神からの一言にあやめが固まってしまった。だがそんなあやめにも気付かず、大神はさらに続ける。

 

「実は俺、先ほどマリアに「隊長失格だ!」って言われたんです」

「……」

 

あやめは遮ることもなく、大神の話に耳を傾けた。

 

「俺は…俺の行動は…間違っていたんでしょうか?」

「…そうね」

 

やがて、ゆっくりとあやめが口を開いた。

 

「マリアの言うことも確かに当たってるわよ」

「…!」

 

唇を噛み締めながらも反論することはなく、大神はあやめの言葉を黙って聞き続ける。

 

「いま大神くんが倒れたら、誰が帝都を護るというの? 軽はずみな行動は慎まなくてはいけないわ」

「…はい」

「でもね、何が正しいかなんてきっと誰にもわからないことよ。私の意見を言わせてもらえるなら大神くん」

「はい」

「迷っていてはダメよ!」

「……」

 

真剣な面持ちになって大神があやめに相対している。その過程で、大神の表情には先ほどまでの弱々しさが徐々にではあるが消えてきていた。その表情の変化に、あやめは内心でホッと安堵の溜め息をついていた。

 

「大切なのはそれがどんな結果に終わったとしても、後悔しないように努力し続けることよ」

「……」

「後は、隊長としてマリアとよく話し合ってみることね」

「はい!」

「ふふ、よろしい。じゃあ、お行きなさい」

「はい」

 

大神は力強く頷くと、失礼しましたと一礼をしてあやめの部屋を退出したのであった。

 

 

 

「どうしてかしらね…」

 

大神が退出した直後、あやめは一枚の写真を取り出してそれを懐かしそうに眺めていた。それは、かつて『対降魔迎撃部隊』という降魔専任の特殊部隊の集合写真だった。

 

「外見は全く似てないのに…妙にあなたに重なるときがあるのよ…」

 

その中の一人、長髪の青年にあやめは目を向け、そして語り掛けるように呟いた。

 

「…護ってね、あの子たちを」

 

最後にそれだけ祈るように呟くと、あやめはその写真を再びしまったのだった。

 

 

 

「よし、取りあえずあやめさんに言われた通りにもう一度マリアと話し合ってみよう」

 

心情を吐露することで迷いが晴れたのだろうか、大神の表情はいつもの精悍な顔つきに戻っていた。そのままマリアの私室に赴きノックをするも返答がない。

 

「マリア…いないのか」

 

いきなり出ばなをくじかれた格好になった大神だったが、今の大神がこの程度で諦めるわけもなくマリアの姿を求めて帝劇中を歩き回る。途中、書庫で寝ていた紅蘭を部屋に運んだり、舞台袖で恍惚としていたすみれの相手をしたり、何故か身体が勝手に動いてシャワー上がりのカンナと鉢合わせて何故だかこちらが気後れしたりといった些細な出来事はあったが、肝心のマリアの姿は何処にも見つけることはできなかった。

 

(マリア…一体何処に…?)

 

時間ばかりが経過して目当ての人物を見つけられないことに大神が焦り出す。そんな中、ロビーにてようやくお目当ての人物の姿を見つけることができた。

 

(! 居た!)

 

ロビーで険しい顔になって佇んでいるマリアを見つけ。大神が一度大きくふうっと息を吐いた。そして、自分の顔をピシャピシャと二回叩く。

 

(よぉし…)

 

気合を入れ直すと、大神はマリアへと近づいた。

 

「マリア」

「!」

 

驚いたのだろうか、それとも別の理由があったのだろうか、マリアがビクッと身体を震わせる。そして、ゆっくりと振り返った。

 

「あ…少尉…」

 

大神に気付いたマリアが慌てて背を向けると、その場を走り出そうとした。だが、そうはさせじとその手を大神が掴む。

 

「待ってくれ、マリア!」

「少尉、もう私に構わないでください!」

 

マリアは子供のような駄々をこねて大神を振りほどこうとするが、今の大神がそれを許すはずもない。

 

「マリア! 俺の話も聞いてくれ!」

「お話しすることは何もありません!」

 

押し問答の様相を呈してきはじめた二人のやり取りだったが、マリアが大神を振り切ってそのまま外へ走っていった。

 

「マリア! 待つんだ!」

 

慌てて大神もその後を追って外へ出る。丁度そのタイミングだった。

 

『フハハハハハ…』

 

嘲るような笑い声が上空から聞こえてきたのは。

 

「…!」

「この声は!?」

 

マリアと大神が見上げた頭上の上空には、刹那の姿が大きく映っていたのだった。

 

『帝国華撃団、タチバナ=マリア。ロシア革命の闘士。あるいは…クワッサリーとでも呼んだほうがよろしいかな?』

「!」

「革命の闘士? クワッサリー? 一体何のことだ!?」

 

事情のわからない大神は混乱しているが、名指しされたマリアの方は自分のことだけによくわかっているのだろう。唇を噛み締めながら鋭い視線で遥か頭上の刹那を睨んでいた。

 

『貴様の正体、我が黒之巣会が見破ったり! 正義を守る帝都の戦士とは仮の姿。…してその真実は、冷酷無比な鬼畜よ!』

「くっ!」

 

刹那の指摘にマリアの表情が苦しそうな悲しそうなものに歪んだ。そのことがわかっているのかいないのかはわからないが、刹那は楽しそうに先を続ける。

 

『貴様の素性を仲間に知られたくなくば、今すぐ姿を見せよ。クク…ハハハハハハハハハ!』

 

一方的にそれだけ告げると、刹那の姿はかき消すように消えたのだった。

 

「消えた…」

「……」

 

呆然と呟く大神の傍らでマリアは怒りに満ちた表情でその空を睨んでいた。

 

「マリア…あれは一体?」

「…築地で戦った黒之巣会の一人です」

「そうだよな…。名前は確か「刹那」だったはずだが」

「ええ」

 

上空に移していた視線を下ろしたマリアが頷いた。

 

「マリア…もし行くのなら、俺も付いていくぞ」

 

そんなマリアの次にとる行動が推察できた大神が釘を刺す。

 

「…大丈夫です。少尉は私があんな挑発に乗るとでも思いますか?」

「……」

 

いつもなら首を左右に振って否定の意を表す大神だが、残念ながら今はそれはできなかった。今のマリアは明らかにおかしい。それを考えれば普段は乗らないあんな挑発にも乗るような気がしてならなかった。

 

「では少尉…失礼します」

 

それがわかっているからだろうか、これ以上この件に関して突っ込まれたくないと思ったのだろう。マリアは軽く一礼するとそそくさとその場を離れたのだった。

 

「それにしても、今のは一体…」

 

マリアの姿が見えなくなった帝劇の入り口で、大神は先ほどの刹那のメッセージについて考える。

 

「『クワッサリー』とか『ロシア革命の闘士』とか、一体どういうことなんだろう?」

 

解けぬ新たな疑問点を抱きながら、大神はマリアの姿が見えなくなった帝劇をじっと見つめていた。そして、

 

「マリア…やはり俺には何も話してはくれないのか…」

 

大神のそんな呟きは、そのまま虚空に溶けたのだった。そのため二人は気付かなかっただろう、その様子を物陰から窺っていた人物がいたことなど。

 

 

 

 

 

(妙なものを見てしまったな…)

 

マリアの後を追って大神が帝劇に戻ってから十分な時間を置き、物陰にて様子を窺っていたその人物が溜め息をついた。雲間から現れた月の光が照らし出したその顔は、ソーンバルケのものだった。

あやめの私室を辞して後、劇場の見回りを終えたソーンバルケはいつものように残業の際の出入り口である裏口より帝劇を出たのだが、その時に上空に浮かぶ刹那の姿を見てしまったのだ。そして、大神とマリアも。となると当然、先ほどのやり取りも聞くことになってしまっていた。

 

「……」

 

軽く頭を抱えると、ソーンバルケはふうっと息を吐く。そして、

 

(どうしたものかな…)

 

素直にそんなことを思っていた。今まで散々、ここがただの劇場ではないこと…もっと端的に言えば何かと戦っている場所であることを、望むと望まざるとにかかわらず見せられていたので今更驚きはしない。

で、恐らくはここの上層部の人間は自分もここに置きたいのだろう。でなければ、遅かれ早かれここの秘密がわかってしまうだろうに部外者を入れるとは思えなかったからだ。とは言え、現実はまだそのような話も要請も受けてはいない。立場としてはソーンバルケは現状実に中途半端な立ち位置なのである。そんな不安定な立ち位置の自分が勝手に首を突っ込んで歓迎されるとは思えなかったのだ。では何事もなかったかのように見て見ぬふりをするかと言われると、それもまた違う気がする。帝劇の連中が戦うにはあの機械で出来た物体…ソーンバルケはもちろん名称を知らないが…光武を駆使する必要があった。だが、自分にはそんなものはない。

 

(そこも含めて、ここの狸どもは動いているのだろうが…)

 

ソーンバルケの頭にあやめと米田の顔が浮かんだ。だが、すぐにそれを振り払う。今はあの二人のことはどうでもよい。

実際問題、上野公園であの甲冑の化け物…脇侍を生身で斬り刻んでいるために奴らに後れを取るとは思えなかったが、甲冑だらけのあの戦場に一人生身というのもシュールな話だ。第一、そんなことを許可しないだろう。帝劇の連中は今までこの件に関しては何とか誤魔化していたが、先日椿とお供したときの件に加え、今回のこれでとうとう誤魔化しきれなくなってしまった。もっとも、先日のことは椿から報告が行っているから上の連中は知っているだろうが、今回のこれは完全なる不可抗力のため惚けて何も見ていないふりをすれば、まだ暫くは状況に変化はないだろう。

 

(だが…)

 

先ほどのマリアの表情を思い出す、あれは危うい。刹那の先ほどの挑発は見え見えのものだった。いつものマリアならばあんなものに乗りはしないだろう。だが、今のマリアならどうだろうか。あの表情を見ると、十中八九乗りかねないと思っていた。といって、踵を返してマリアに忠告しても何故知っているのかと詰問されて追い返されるのが関の山だ。それを考えれば、馬鹿正直に行動するのは愚策以外のなにものでもない。

 

(…いっそ、何も見なければ楽だったものを)

 

そう内心で毒づくものの後の祭りである。そして逡巡はしていたものの、ソーンバルケの心は決まっていた。

 

(長い夜になりそうだな…)

 

そんなことを考えると、ソーンバルケは再び夜の闇に溶け込んだのだった。

 

 

 

 

 

「それにしても…さっきの刹那の言葉は何だったんだろう」

 

私室に戻ってきた大神が、先ほどのことを思い出しながら反芻するように考える。

 

「マリアのことをいろいろ言っていたけど…あれはどういう意味だったんだ?」

 

考えても仕方のないことだが、それでも考えずにはいられずに大神が頭を悩ませていた。と、

 

「隊長! 隊長、大変だ! 開けてくれ!」

 

突然、大神の私室のドアが乱暴にノックされた。

 

(カンナ?)

 

尋常ならざる様子のカンナの声に大神が急いでドアを開ける。その目に飛び込んできたのは、戦闘服に身を包んだカンナの姿であった。

 

「どうした、カンナ?」

「隊長! マリアが…マリアが光武で出て行っちまった!」

「何だって!? ホントか、カンナ!? …まさか、一人で刹那のところに?」

 

ある意味当たってほしくない予想が当たってしまい、大神が苦虫を噛み潰したような表情になる。だが、こうしてはいられない。

 

「隊長、説明は後だ。指令室へ急ごうぜ!」

「わかった!」

 

カンナと共に、大神は走って指令室へと向かったのだった。

 

 

 

「マリアは!?」

 

指令室。戦闘服に着替えた大神が、開口一番マリアの安否を尋ねた。

 

「…紅蘭が止めようとしたんだけど、間に合わなかったそうよ」

 

あやめの表情が曇る。だがそれは、紅蘭も同じだった。

 

「ウチが光武を整備しとったら、マリアはんが来たんや。うち、声かけたんやけど、マリアはん、目もくれんで光武で出ていったんや」

(やはり刹那のところに一人で行ったのか…)

 

大神が奥歯をギリッと噛み締める。

 

「大神くん、何か知ってるの?」

 

それに気付いたあやめが大神に尋ねた。

 

「ええ。黒之巣会の刹那がマリアのことをクワッサリーと呼んで挑発したんですが…」

「!」

 

その大神の一言に、あやめの表情が変わった。

 

「ねえ、クワッサリーって、何?」

 

アイリスがキョトンとした表情で尋ねる。と、

 

「…あなたたちにも話しておかなければならないでしょうね」

 

あやめがあまり気乗りのしない様子だったが、それでもおずおずと口を開き始めた

 

「話はまだ、マリアがロシアで暮らしていた頃まで遡るわ。ロシア王朝の圧政に苦しんだ民衆が起こした革命の嵐。その中心となる部隊に、一人の少女がいたの」

「少女のコードネームは『クワッサリー』。つまりそれは、マリアのことよ。クワッサリーとは、“火喰い鳥”という意味。戦場を黒い炎のように駆け抜ける彼女の戦いぶりからついた名前らしいわ」

 

あやめの話を、大神はじめ残りの華撃団の隊員たちは黙って聞いていた。

 

「…彼女には、実の兄のように慕っていた隊長がいたの。けれど、ある戦いで隊長は生命を落としてしまったの。味方の援護が遅れて、ね」

『……』

「…マリアは砲火に怯えて、その時の援護射撃が遅れたことをいつも悔やんでいたわ。彼女はそれ以来、戦場での判断ミスにとても厳しくなったのよ。…特に大神くん、あなたにはかつての自分の姿を重ね合わせて見ているのよ」

「…それでマリアさんは大神さんを責めたりしたんですね。悲劇を繰り返させないために」

 

さくらの言葉に、あやめが無言で頷く。

 

「でも…だからと言って一人で出ていくなんて…」

「きっと…知られたくなかったんだ」

 

大神の呟きに、カンナがそう答えた。

 

「あいつは自分の悲しい過去を他人に知られたくなかったんだ。特に隊長、あんたには」

「……」

 

カンナにそう諭され、大神はそれ以上何も言えなくなってしまった。だが、当然このままマリアを見捨てるような帝国華撃団ではない。

 

「マリアはんがそんなヘビーな過去を背負ってたとは知らんかったわ」

 

紅蘭の表情が引き締まり、目に強い輝きが宿る。

 

「あたいとは長い付き合いなのに…水臭いなぁ。カッコつけすぎだぜ、アイツ!」

 

カンナもいつもの様子に戻った。

 

「わたくし、他人のことには干渉しない主義ですけど、話を聞いてしまった以上は放っておけませんわ!」

 

すみれはいつもとは変わらない様子だが、その口調と表情はいつものものではなかった。

 

「お兄ちゃん、マリアをお願いね!」

 

アイリスから叱咤激励を受け、

 

「行きましょう、大神さん!」

 

さくらに促され、大神は力強く頷いた。

 

「ああ! 帝国華撃団、出撃だ!」

 

大神の号令に、アイリスを除く残りの華撃団全隊員がそれぞれ己の光武に乗り込む。そしてマリアを追い、夜の闇の中翔鯨丸は発進したのであった。

 

 

 

 

 

「黒之巣会! どこに逃げた!」

 

築地。刹那を求め、マリアが鬼気迫る表情で前回の戦場を歩く。その前に現れた脇侍は例外なくハチの巣になり、マリアの通った後は瓦礫の山になっていた。自身は忌み嫌っているかもしれないが、流石は『クワッサリー』というところであろうか。

 

「刹那! 出てこい!」

 

怨敵の名を叫びながら前進を続ける。夜の闇に雨が重なり、それだけが反射する不気味な静寂が広がっていた。と、

 

『ククククク…』

 

どこからか、刹那の嘲るような声が聞こえてくる。

 

『よほど、自分の過去を知られるのが恐いとみえるな』

 

そしてマリアが気づいたときには、マリアの光武は脇侍と刹那に周囲を包囲されていた。

 

「ははは! まんまとかかったな!」

 

そして、マリアが何らかの行動を起こす前に刹那の霊子甲冑『蒼角』の攻撃によって、マリアの光武は大破させられたのだった。

 

「し、しまった!」

 

身動きが取れなくなる光武の中で、刹那の嘲るような笑い声だけが遠くから聞こえてきたのだった。

 

 

 

『帝国華撃団、参上!』

 

それから遅れること数刻、華撃団は先ほどのマリアと同じく築地へと降り立っていた。

 

「紅蘭、ここで間違いないんだな!?」

 

開口一番、大神が紅蘭に尋ねる。

 

「間違いないで。マリアはんの光武の反応は確かにここからやった」

「わかった!」

「ただ、今は反応がないのが気がかりやけど…」

「そこは実際に確かめるしかない。よし、行くぞ!」

『了解!』

 

こうして華撃団はマリアを求めて築地を進む。だがその手掛かりは意外にもすぐに見つかった。

 

「大神さん、あれ見て!」

 

さくらからの通信が入り指示された場所を拡大すると、そこには半壊状態のマリアの光武があった。

 

「マリア!」

 

その惨状に思わず大神が走り出そうとする。が、

 

『マリア機は動けないようね。隣に行って助け出してあげて』

 

その、大神の逸る気持ちを制するかのようにあやめから通信が入る。それによって自分を取り戻した大神は了解と返信を入れて通信を切った。

 

「急ぐぞ、一刻も早くマリアを救出する!」

『了解!』

 

帝国華撃団はマリアを救うため、こうして築地での第二ラウンドを開始したのであった。

 

 

 

「…今回も、お客さんがタップリとお待ちかねか」

 

戦場の状況を確認したカンナが鼻白む。その言葉通り、戦場となる場所は変わらないものの、脇侍の数は以前に増していた。

 

「あら、怖気づいたんですの?」

 

すみれが挑発するように茶々を入れる。

 

「ヘッ、冗談言うな。ただ、マリアを救出するのに邪魔くさいと思っただけだ」

「そうやね。うちらが負けるとは思ってないけど、それでも物量作戦っていうのは有効な手段の一つやからね」

「でも、実力はこっちの方が上でしょう?」

「わかってるで。けど、向こうは何せ機械やからな。こっちは生身の人間。戦闘が長引けば肉体的にも精神的にも擦り減っていくのはこっちや。向こうにはそれがない。これは向こうにとって大きなアドバンテージやで」

「なら、さっさと終わらせるだけですわ!」

「そうだな、何よりマリアの安否が気にかかる。よし、前回は戦力を二手に分けたが、今回は何よりスピードが大事だ。一点集中して突破するぞ!」

『了解!』

 

こうして華撃団は今回は前回とは違う作戦をとった。

 

「敵戦力の手薄な経路から突破してマリアの元まで急ぐ! いいな、戦闘は最小限に抑えるんだ! 今回の目的はマリアの救助だということを忘れるな!」

『はい!』

「よし、カンナとさくらくんで前衛を任せる。すみれくんと紅蘭で中衛を組んで、カンナとさくらくんをバックアップ。俺は万一のために殿に回る」

 

大神の指示通りに瞬時に隊列を組んで華撃団は築地を進んでいく。その光景に、本部で状況を見ていた米田とあやめも相好を崩していた。

 

「随分と板についてきたんじゃありません? 大神くんも」

「いや、まだまださ」

 

そう言ってヒラヒラと手を縦に振るものの、言葉とは裏腹に米田の表情は嬉しそうだし満足げだ。それに気付いたあやめがまた、クスッと笑う。

 

「お兄ちゃん、ファイトーっ!」

 

アイリスが制服と同じ黄色い声援を上げている中、モニター向こうの華撃団はどんどんとマリアの光武に向かって進んでいた。

 

「オラオラオラ!」

「はあああっ!」

 

カンナが正拳突きや蹴りを繰りだして風穴を開け、そこにさくらが斬り込む。

 

「邪魔ですわよ!」

「そこ、どいてやー」

 

すみれが側面から襲い掛かってきた敵を突き刺し、紅蘭が後方から砲撃で牽制する。そして、

 

「ッ! 危ない!」

 

大神は隊員たちを指揮しながら、その間隙を縫って襲い掛かってくる敵から味方の光武をかばっていた。

 

「サンキュー!」

「おおきに!」

「ありがとうございます!」

「感謝しますわ!」

 

隊員たちからの感謝の言葉を受けて指揮を執り、大神たちは進む。元より敵戦力の手薄な場所を選び、更に戦闘より進軍を優先したために戦闘自体は大した規模ではなく、大して時間もかからずに戦闘領域を抜けたのだった。そして、

 

「マリア!」

 

マリアの光武の許に辿り着いた大神が通信を試みる。しかし、反応はない。と、

 

「隊長、ロケットが落ちてる! これ、マリアのだ!」

 

側にいたカンナが拾い上げ、大神に渡したそれは確かにあの夜見つけたものと同じロケットだった。

 

「くそっ、一足遅かったか!」

 

苛立ちを表すかのように、ダンっと大神が地面を蹴り鳴らした。と、

 

『フハハハハ…』

 

そんな大神たちを嘲るかのように笑い声が響き渡る。そして、

 

『女は預かった。返してほしくば大神一郎、貴様一人で来るがいい。その時まで、この女の生命は預かっておく』

 

先ほどと同じように、夜空に刹那の姿が映し出されたのだった。

 

「なんて卑怯な…黒之巣会、気に入らないね!」

 

カンナが憎々しげに表情を歪ませるとそう吐き捨てた。と、

 

「少尉、あれをご覧になって!」

 

すみれが何かに気付いてある場所を指示する。そこには、大神を迎えるかのように小さなボートがゆっくりと滑り込んできていた。

 

「これに乗れ…ということでしょうか」

「大神さん、これは罠です!」

「そうだ、やられるってわかってるのに、行くなんて無茶だぜ!」

 

すみれの推測にさくらとカンナがそう進言してやめさせようとする。が、

 

「自分の部下も守れなくて、何が隊長だ!」

 

大神の肚は決まっていた。望むところとばかりに、そのままボートに乗り込む。

 

「大神さん!」

「いいか、もしマリアだけでも戻ってこられたら、彼女を隊長として花組を再編しろ!」

「大神はん、何ゆうとるんや?」

「必ずマリアを救出してくる! 後は頼んだぞ!」

 

そしてその命令を合図にしたかのように、ボートはゆっくりと発進しだしたのだった。

 

 

 

「ククク…来たか大神、いい度胸だ」

 

刹那からの誘いに乗って数刻後、大神は築地のとある廃屋に足を踏み入れていた。そこには刹那とそして、

 

「少尉!」

 

マリアの姿があった。マリアは人質ということだろうか、それとも生け贄とでもいいたいのだろうか、ご丁寧に十字架に磔にされていた。

 

「マリア! 無事か!?」

 

まずは意識のあったことにホッとしながら大神が叫んだ。

 

「見ての通りだ…」

 

が、答えたのはマリアではなく刹那だった。そして、

 

「少尉、どうして来たのですか!?」

 

マリアが責めるような口調で大神をそう問い質した。

 

「俺は、花組の隊長だ。部下を助けるのは当たり前さ!」

 

それに対する大神の回答である。そこには、先だってまでの自分の立場に対して迷っている大神の姿はなかった。

 

「これは罠です! 逃げて!」

「…罠かもしれない。俺の判断ミスかも知れない。でも、君をここで見捨てることは俺にはできない!」

「私なんかのために…本当に…」

 

大神のその真摯な態度に思うところがあるのか、それとも仲間を信じ切れずにこんな事態を招いた自分の愚かさに後悔しているのか、ガックリとうなだれてマリアが唇を噛む。

 

「クサい芝居もそこまでだ! 続きは冥土でしてもらおう!」

 

そんな二人のやり取りにイラついたのだろうか、刹那が大神に襲い掛かってきた。刹那の鋭く伸びた鋭利な爪が大神の身体を刻む。

 

「ぐっ!」

 

激痛に顔を顰め、大神が膝を着いて傷口を抑えた。

 

「立て、大神! 簡単にくたばられても面白くない」

「少尉!」

 

笑う刹那と、その彼方に愕然としながら自分を見ているマリアの姿を確認した大神は、刹那の望み通り立ち上がった。

 

(必ずチャンスはくる! 今は耐えるのみ!)

 

大神はその隙を窺うために刹那の望み通りにしていた。鋭い視線がその剣技を表す片割れの“狼”を思わせるほど、その目の光はまだ失ってはいなかった。

 

「フハハハハ…」

 

そんな大神を好き放題に斬りつけながら刹那が嘲笑う。

 

「どうした、帝劇の隊長。だらしがないなぁ…。ではトドメだ!」

 

愉悦を感じさせる刹那の態度だったが、それも終わりを迎えようとしていた。この時間に幕を下ろそうと刹那が大神に襲い掛かったからだ。

 

「少尉ーーーっ!」

 

マリアの声が遠くから聞こえるような気がする中、それでも大神は倒れはせずに刹那を睨み続けていた。その大神を、天は見捨てはしなかった。突如轟音が響き渡り、廃屋全体が激しく揺れたのだ。

 

「な、何事だ!?」

 

予想外の事態に刹那が慌てふためく。そこに、

 

「そこまでよ!」

 

大神の耳に、聞き慣れた声が聞こえてきたのだった。

 

「さくらくん!」

「みんな!?」

「ど、どうしてこの場所が…?」

 

揃い踏みしている華撃団の姿に刹那も動揺が隠せない。その種明かしをしたのは紅蘭だった。

 

「こないなときのために、各隊員の制服の襟に発信機がつけてあるのんよ」

「チイッ!」

 

種を明かされた刹那が舌打ちする。だが、旗色が変わったからといって退くような真似はしなかった。

 

「貴様らごときが何人こようと、知れたことよ!」

「おぅおぅ、いきがってくれるねぇ。さあて、マリアをいたぶってくれた落とし前、タップリつけさせてもらうよ!」

「隊長! この場は私たちに任せて!」

「マリアはんの光武はまだ使えるよって、二人ともはよ合流しいや」

「さ、早く!」

「バカだよ…あんたたち」

 

嬉しいのか照れくさいのか恥ずかしいのか、らしくないマリアの呟きがその口から漏れる。その隣に大神が立った。

 

「マリア、行こう。今度は俺たちの番だ!」

「はいっ!」

 

頷いたマリアの表情からは翳りも曇りも消えていた。

 

 

 

 

 

「貴様らごときが私を倒せると思っているのか!? 返り討ちにしてくれる!」

 

勢揃いした華撃団にそう啖呵を切ると、刹那は自身の魔操機兵、蒼角を起動させる。その俊敏な動きは、目で追うのが精一杯なほどのスピードだった。

 

「速い! 何て機動性だ!」

 

光武を上回るその機動性に、大神も改めて驚きを隠せなかった。

 

『敵の動きは素早いわ。利用できるものは何でも利用して、敵の動きを止めることが重要よ』

『了解!』

 

あやめの指示に総員が返答する。直後、マリアがキッと蒼角…刹那を見据えた。

 

「お前だけは許さない!」

 

鋭いその視線は、自身にとって忌まわしいものかもしれないコードネームであるクワッサリー…火喰い鳥を示すかのようなものだった。

 

 

 

「さて、そうは言われたもののどうしたものか…」

 

彼方に刹那の蒼角を見据えながら大神が思案する。

 

「動きを封じるのだったら定石は包囲して、その包囲を狭めればいいのだけれど…」

「何か問題でもあるのかよ?」

 

カンナが頭に?を浮かべながら聞いてきた。

 

「いや、あのスピードだ。包囲網を敷く間、敷く前に間隙を縫われて脱出されかねない。そうなったら水の泡だ。こちらが機動性で上回れてればいいんだが、残念ながら機動性は向こうの方が上みたいだからな」

「確かに、先ほどの動きを見てもその点は間違いないでしょうね」

 

すみれが大神の意見に追随した。

 

「となれば、まずはその機動性を封じることが先決になるけど、重ねての話になるがあの機動性だ。近づくのも一苦労だし、かといって遠距離からの攻撃も命中させるのにも一苦労だろう」

「せやね。マリアはんならともかく、うちだとちょっとキツいかな…」

 

紅蘭が申し訳なさそうにボヤいた。

 

「となれば…」

 

大神がマリアに通信を開く。

 

「マリア、できるか?」

「勿論です」

 

迷うことなく、瞬時にそう返答してきた。その返答に頼もしさを感じながら大神が続ける。

 

「狙いは奴の機体の推進装置だ。あの機動性の大本はそこだろう。それが無理なら、どちらかの脚だけでもいい。使い物にならなくしてくれ」

「わかりました」

「でも大神さん、いくらマリアさんでも馬鹿正直に狙ったらあの機動性じゃあ…」

「うん、わかってる」

 

さくらの危惧に大神も頷いた。

 

「真正面から狙っても十中八九かわされるだろう。だから、どうにかして隙を作らないといけない。そして、その御膳立てはこっちでしなきゃいけないが、さてどうするか…」

 

考え込む大神。と、その均衡を破ったのは刹那だった。グググ…と沈みこんだと思うと次の瞬間にはその反動を利用してジャンプしたのだ。そしてその跳躍は刹那と華撃団の距離を一瞬で縮めるほどのものだった。

 

「! 散開!」

 

大神の指示に従って瞬時に華撃団は散開した。そのため、どの機体もダメージを追うことはなかったものの、刹那の攻撃地点の地面は抉れていた。あのままだったらあの一撃で誰かの光武は戦闘不能になっていたことだろう。

 

「チッ!」

 

舌打ちしたのはカンナだった。そしてそのまま突っ込む。

 

「いつまでも考えてたって仕方ねえ! とりあえず行動だ!」

「カンナ!」

 

大神が制したが一足遅く、カンナが刹那に襲い掛かっていた。

 

「はああああっ!」

 

いつも通りの正拳突きの一撃を繰り出す。だが、

 

「遅い!」

 

刹那が自身の得物であるトンファーでその攻撃を止める。

 

「そら!」

 

そして、そのトンファーを横薙ぎにしてカンナを吹き飛ばした。

 

「うわあああっ!」

「カンナ!」

 

大神が霊力で自分の影法師を作り、それをカンナの後ろに送る。吹き飛ばされたカンナをキャッチして二次被害は防いだ。

 

「大丈夫か?」

「す、すまねえ…」

 

衝撃でクラクラするのか、頭を抑えながらそれを振り払うために頭を軽く左右に何度か振る。

 

「チッキショー…」

 

歯噛みするカンナだったがあしらわれたのは事実。同じ轍は踏むわけにはいかないと、今度は迂闊に踏み込むわけにはいかなかった。

 

「紅蘭」

 

カンナが落ち着いたのを確認した大神が紅蘭に通信を開く。

 

「何?」

「奴に攻撃してくれ」

「え? でも、うちの攻撃じゃあ不意をつかんと中々致命傷にはならんよ」

「それでいい。あの機動性だ、恐らくは回避するだろう。そこで…」

 

そして大神は他の隊員たちへと指示を出した。

 

「わかったで」

 

指示を聞き終えた紅蘭が了承する。

 

「頼む。攻撃のタイミングは紅蘭に任せる」

「よっしゃ。ほな、早速いくで!」

 

紅蘭が刹那に向かって攻撃を放つ。

 

「は、甘いわ!」

 

それに気付いた刹那が瞬時に移動した。そこへ、

 

「やあっ!」

「逃がしませんわよ!」

 

さくらとすみれが斬り込む。

 

「チイッ!」

 

忌々し気に表情を歪めた刹那が二人の攻撃を両腕で防いだ。そこに、

 

「もらった!」

 

カンナががら空きのボディめがけて撃ち込んだ。

 

「ええい!」

 

刹那はさくらとすみれの光武の腕を掴むと、まとめてカンナに投げつける。

 

「何ッ!」

 

吹き飛ばされたさくらとすみれの光武を受け止めたカンナ。とりあえずこの場は脱出とばかりに飛び上がった刹那だったが、直後にその推力がガクンと低下した。

 

「何!?」

 

予想外の推力の低下に着地を失敗し、刹那は地面に転がった。

 

「ぐ…一体何が…?」

 

自身の機体の状況をチェックすると、推進機関が大破していることがわかった。その破損部の形状を調べると、銃弾で撃ち抜かれたような跡がいくつも残っている。

 

「クワッサリー…!」

 

顔を上げた刹那が怒気を孕ませながらマリアを睨み付けると、そこには氷のような冷徹な目つきで砲身を自身に向けているマリアの姿があった。大神の立案した作戦通りである。

内容としてはごく単純なもので、まず紅蘭が攻撃をしかける。これはどちらかといえば従来の役割通りの牽制の意味合いが強いため、当たっても当たらなくてもどちらでも構わない。そこにさくら、すみれ、カンナで攻撃を仕掛ける。これは体勢の整わないところに畳みかけるというのが重要になる。かわすにしろ受け止めるにしろ反攻に転じるにせよ体勢が整っていない以上、一度離脱して体勢を整えようとするだろう。そして、安全に離脱しようとするならさくらたち三人に囲まれている地上を移動するよりは、先ほど見せた跳躍を使って一気に離脱しようとするはずである。しかし、空中では自由に身動きをとることはできない。そこをマリアが狙撃するというものであった。そして、マリアは見事に刹那の蒼角の推進機関を破壊することに成功したのである。

 

「これで今までのようなスピードは出せないだろう!?」

 

そこに大神が斬り込んだ。

 

「小癪な! 機体性能が落ちたと言えど、この僕が貴様らごときに!」

 

大神の攻撃を受け止めながら、刹那が吐き捨てた。が、

 

「いや、お前の負けだ!」

「何だと!?」

 

刹那が反論しようとする前に、大神のその言葉の意味がわかった。横から無数の砲弾が自身の蒼角を穴だらけにしたからだ。

 

「あ、ま、まさか…」

 

大神自身が囮だと気付いたときには蒼角は爆発を繰り返していた。ようやく顔を向けると、そこには先ほどと変わらぬ姿で砲身を自身に向けたままのマリアの姿があった。

 

「クワッサリぃい!」

「私を怒らせたことを、地獄で悔やむがいい!」

「く、黒之巣会に、栄光あれーっ!」

 

自身の末路を悟った刹那は最期にそう叫ぶと、光に包まれたのだった。そして、

 

「みんな、いくよ!」

「せーの」

『勝利のポーズ、決めっ!』

 

今回の主役であるマリアを中心にカーテンコールが行われたのであった。

 

 

 

 

 

「私なんかのために…ありがとうございました、隊長」

 

戦い終わり、いつの間にか夜も白み始めようとしていた。そんな中、図らずも今回の騒動の原因になってしまったマリアが大神に感謝の言葉を伝える。

 

「いいんだよ、マリア」

 

もうこれ以上何も言うなとばかりに大神が押し留める。

 

「申し訳ありません。私、今まで…」

「もういいよ、気にしないでくれ。おっと、それよりもこれを返さないと…」

 

そう言って、大神は戦闘前に拾ったマリアのロケットを差し出した。

 

「私の…ロケット…」

「ああ」

「隊長…」

 

大神からロケットを受け取ったマリアが、僅かながらも頬を赤らめながら、上目遣いに覗き込んできた。

 

「中を開けて…いませんよね?」

「…ああ、開けてないよ」

 

予想外の仕草にドギマギしながら何とか大神がそう答えた。思わず、か、可愛い…などと思ってしまったことは勿論内緒である。

 

「そうですか…ありがとうございます、隊長」

 

大神の返答にホッとしながらマリアが重ねて礼を言う。実にいい雰囲気なのだが、そのいい雰囲気に不満気な面々がそれを黙っているわけもなく、

 

「む…何ですの!? このラブラブチックな雰囲気」

 

すみれがジト目になり、

 

「お兄ちゃんは、アイリスの恋人だよ!?」

 

アイリスは三白眼で睨み付け、

 

「ふーん…大神さんって結構、浮気者なんですね」

 

さくらの頬が不満気にぷくっと膨れ、

 

「へ~…大神はんも隅に置けんお人やな」

 

紅蘭が楽しそうににんまりと微笑んだ。

 

「お。おいおい、よせよ。そんなのじゃないって」

 

雰囲気がまずいと察したのか慌てて弁明する大神だったが、

 

「弁解はいいです」

 

ツーンと、取り付く島もない様子でさくらが更に頬を膨らませた。そんな、ある意味見慣れてきた光景を見てクスッと笑っていたマリアが表情を引き締めた。そして、

 

「大神少尉! あなたは私たち、帝撃・花組の隊長です」

 

と、大神を認めたのだった。

 

「頑張ろうぜ、みんな!」

 

カンナの掛け声に、全員がおー、と返し、築地での戦闘は幕を引いた。しかし…

 

 

 

 

 

「…グッ! ガハッ!」

 

全身を苛む激痛を感じ取り、刹那は目を覚ました。蒼角の爆発に巻き込まれて死んだと思われた刹那だったが、奇跡的にその生命を取り留めていたのだった。

 

「お…の…れ…」

 

息も絶え絶えにヨロヨロと立ち上がる。幸いにして爆発の影響で爆心地から吹き飛ばされたため、花組は刹那が生きていることに誰一人気がついていなかった。

 

「この屈辱はいずれ返してくれる! 待っていろ、華撃団!」

 

呪詛の言葉を紡ぎながら歩き出す刹那。だが、その前に立ち塞がる人物があった。

 

「!」

 

行く手を塞がれたことに驚いて顔を上げると、そこには堂々たる体躯の一人の青年の姿があった。

 

「何だ貴様!」

 

刹那が呪い殺しそうなほどの怨念の籠った目で見上げる。だが、その青年は微動だにしない。

 

「どけ!」

 

苛立ちが頂点に達した刹那がそう吐き捨てるが、

 

「…そうはいかないな」

 

その青年はそう言うと、そこから微動だにしなかった。

 

「貴様、殺されたいのか!」

 

刹那が睨む。が、その青年は小ばかにしたようにフッと息を吐いた。

 

「何が可笑しい!」

 

その仕草に苛立ちながら刹那が睨む。と、

 

「そんな身体でよく大口が叩けるものだと思ったまでのことだ」

 

そう、先ほどフッと笑った理由を述べた。

 

「…何者だ、貴様」

 

その青年の気負いもしない態度に少し冷静になった刹那が尋ねる。と、

 

「貴様には関係のない話だ。ここで死ぬ貴様にはな」

 

何一つ熱量を感じさせない口調で青年がそう宣言したのだった。その口調、そして自分を睨む視線の怜悧さに流石の刹那もたじろぐ。

 

(こいつ、一体!?)

 

たじろんでいる刹那を尻目に、青年は腰に佩いていた剣をゆっくりと抜いた。

 

「…貴様、華撃団の関係者か?」

「…だとしたら?」

「こうするまでよ!」

 

突然、刹那は今までの挙動が嘘のような素早い動きを見せると、青年の胸を爪で突き刺した。

 

「ッ!」

 

深々と五指の爪が突き刺さりその身体を貫く。

 

「ふん、のこのこ出てこなければ死ななかったものを!」

 

刹那が愉悦に満ちた表情で侮蔑気味にそう吐き捨てた。が、直後に胸に激痛が走った。

 

「な!」

 

激痛に耐えながら見下ろすと、そこには後ろから自分の身体を貫いている一振りの剣があった。唇の端から鮮血を吐き出しながらゆっくりと刹那が振り返ると、そこにはつい先ほど確かに貫いたはずのその青年の姿があった。

 

「き、貴様、どうやって…」

「遅い」

 

質問には答えずにその剣を刹那からゆっくりと抜く。心臓を貫かれた形になった刹那は、今度こそ本当に絶命したのだった。

刹那の死体を何の感慨もなく見下ろすその顔から夜の闇が剥がれ、夜明けの光が照らしていく。そこにいたのはソーンバルケの姿だった。

 

 

 

「どうなるかと思っていたが…詰めが甘いな」

 

刹那の死体を見下ろしながらソーンバルケはチラリとある方向に視線を送った。遮蔽物等があって実際にその姿は見えないが、その先には花組の面々がいるはずである。思うところはあるが、まさかここでノコノコ出ていくわけにもいかない。

ふっと一息吐くと、ソーンバルケは次に刹那に目を向けた。目を見開き、怨念と共に死んだ刹那は絶命したため動くことはない。だが、ソーンバルケにはどうもそれが信じられなかった。

 

(こういった連中が無駄にしぶといのは良く知っているからな)

 

過去の記憶を思い出して苦笑すると、すぐにその笑みを引っ込めて刹那の死体を掴む。そして、無造作に真上に向かって放り投げた。ある程度の高さまで到達した刹那が重力に従って自由落下してくる。そして、その身体がソーンバルケの目の前に落下してきたとき、

 

「!」

 

ソーンバルケは目にも止まらぬ速さでヴァーグ・カティを薙いだ。直後、刹那の首は切断され、頭部と身体の二つが地面に落下する音が周囲に鳴り響いたのだった。

 

「……」

 

刹那の首を斬り落とした後、ソーンバルケはチラリとある一点を見る。そして、ヴァーグ・カティに付いた刹那の血を拭うためだろうか、ブンと大きくヴァーグ・カティを薙いだ。刹那の鮮血が飛んでいき様々なものを汚す中、ソーンバルケはヴァーグ・カティを鞘に収めると何事もなかったかのようにその場を後にしたのだった。

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