サクラ大戦 剣聖の新たな道   作: ノーリ

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おはようございます。前回の投稿からまた大分時間が空いてしまいました。申し訳ありません。

やっとプライベートのゴタゴタが片付き、ここからはまた通常通りの投稿ペースに戻せそうです。お待ちいただいた読者の皆様には本当に申し訳ありませんでした。(そんな奇特な人間がいるのか? という指摘はこの際置いておいて)

今回は普通だったら第五話に入るところなんですけど、ちょっとした幕間会です。どんな展開かは前回の最後から大体ご想像がつくでしょうが、そこはまあ実際に読んでいただければと思います。

では、どうぞ。


NO.Ex-01 剣聖の決意

羅刹を撃退して一週間後、大帝国劇場。

 

「♪♪♪」

 

正面玄関のところでニコニコしながらソワソワしているアイリスの姿があった。いつも元気なアイリスだが、今日はいつも以上に落ち着きのないように見えた。

 

「……」

 

そこから少し離れたところで、そんなアイリスをちょっと複雑な表情で見ているさくらの姿があった。そしてさくらはその表情のままアイリスに近づくと、

 

「ねえ、アイリス。…一つ聞いていい?」

 

と、尋ねた。

 

「えっ!?」

「大神さんに飛びついたとき、何か感じたの?」

「……」

 

アイリスはその問いに何も答えない。そこへ、

 

「アイリス」

 

紅蘭がアイリスを呼びに来た。

 

「隊長が呼んではるで」

「はーい!」

 

待ってましたとばかりにアイリスが返事を返した。

 

「…嬉しそうね」

 

さくらが少しばかりムッとした表情になって、愚痴るかのようにそう呟く。

 

「デートのやり直しをすることになったんだもん! じゃ、行ってきまーす!」

「……」

 

ムッとした表情は変わらずに、かと言って何か文句を言うのも大人げない…そんなアイリスが知るわけもない狭間でさくらが葛藤していると、

 

「あ、そうだ!」

 

何かを思い出したアイリスがさくらへとUターンしていった。そして、

 

「飛びついたときね…なんか、とっても温かかった。それでね…」

「うん?」

「あとは…ヒ・ミ・ツ! 行ってきまーす!」

 

肝心なところをはぐらかしてアイリスは今度こそその場を立ち去ったのだった。

 

「……」

 

本人がその場から居なくなってしまったため怒るに怒れず、そもそも怒るのもお門違いな気がして、かと言ってこのまま何事もないかのように納得するのもそれこそ納得できず、さくらは悶々とした思いをため込んでいた。と、

 

「どうした?」

 

不意に誰かから声をかけられた。

 

「えっ!?」

 

驚いて声のした方を振り返ると、不思議そうな表情でさくらを見ているソーンバルケの姿があった。

 

「あ、ソーンさん…」

「何かあったのか?」

「え?」

 

質問の意味がわからず、さくらがもう一度同じことを言う。

 

「何でですか?」

「いや…気づいてないのか?」

「え?」

「何か…どんよりというような…かと思えば、燃え盛るような気配を発していたのだが…」

「えっ!? あたしがですか!?」

 

さくらのその問いに、ソーンバルケが無言で頷く。

 

「そんな…」

 

知らず知らずのうちにそんな状態になってたことに、さくらは驚きとも恥ずかしさともとれるような表情で俯いていた。

 

「さっきのはアイリスだろう?」

 

そんなさくらに対して少し思うところはあったが、この場ではそれ以上は何も言わずにソーンバルケがアイリスの去って行った方に視線を向けた。

 

「え、ええ…」

「随分急いでいたようだが、何かあったのか?」

「…大神さんとデートのやり直しをするんですって」

 

そのことを思い出したのだろうか、先ほどソーンバルケに自分が指摘されたことについてはまだ思うところはあったが、それでも簡単に割り切れるわけもなくムッとした表情でさくらがそう告げた。

 

「そうか」

 

その一言でさくらがこんな状態である理由を悟り、ソーンバルケは内心でクックッと笑った。勿論、大っぴらに笑ったら間違いなく突っ込まれて面倒なことになるからである。

 

「まあ、アイリスと大神はそう言うことならば仕方ないが…」

 

そこでソーンバルケはポンとさくらの肩に手を置いた。それによってこの件で忸怩たる思いを抱いていたさくらは、弾けるように顔を上げた。

 

「お前は何かしら、次回公演の準備があるのだろう? それはいいのか?」

「あ、そ、そうだった」

 

ソーンバルケに指摘されて思い出したさくらはすみません、失礼しますと頭を下げてその場からパタパタと走り去っていった。

 

「やれやれ…」

 

手間のかかる連中だとソーンバルケは一息つく。そして自身もまた動き出した。

 

“帝国華撃団花組 ソーンバルケ”

 

として。

 

 

 

 

 

時間は巻き戻り、華撃団が羅刹を倒したその日の夜。

 

『失礼します』

 

月組隊長、加山雄一がとある場所を訪れていた。そこは彼自身も決して無関係ではなく、そしてその後ろにいるソーンバルケにとってはより一層無関係ではないところ…何処かといえば、花小路邸であった。

その本宅ではなく、離れに今、加山とソーンバルケは足を踏み入れようとしている。羅刹を倒した時に数多くいた月組の隊員たちの姿は今はない。加山が不要と判断し、隊員たちもまたソーンバルケが危険人物ではなさそうだと肌で感じたからである。

とは言えソーンバルケに対して欠片でも猜疑心がある以上、隊長の命令とは言えども、はいわかりましたというわけにもいかず、実際は月組の隊員たちは少数ながら加山たちの周りを固めていた。監視兼護衛である。勿論、二人ともそのことに気づいてはいるが、加山は月組の隊員たちの行動原理もわかるため、そしてソーンバルケは自分に危害を加える危険性がないためそのままにしておいた。

 

『うむ、入りたまえ』

 

一呼吸おいて花小路の許可が出ると、加山はゆっくりと障子を開けて中に入った。ソーンバルケも続けて中に入るとそこにいたのは花小路、米田。そして…

 

『お前たち…』

 

予想だにしない人物の姿に流石のソーンバルケも息を呑んだ。その表情を見た花小路と米田がニヤリと意地悪く笑う。散々ソーンバルケに驚かされた身としては、これぐらいの意趣返しは許されるだろうと思っていたからだ。そこにいたのは。

 

『こんばんは』

『ハァイ♪』

『ど、どうも』

 

かすみ・由里・椿の三人娘だった。

 

 

 

『まあ、何はともあれ座りたまえ』

 

かすみたちの姿に驚いているソーンバルケに花小路がそう勧めた。いつの間にか座布団が用意されている。傍らを見ると既に加山は座っており、ソーンバルケが唖然としている間に用意してくれたのだろう。

 

(用意のいいことだ…)

 

これはまた参ったなと苦笑すると、ソーンバルケはその上に着座した。

 

『まずは、大人しく従ってくれてありがとうよ』

 

着座したソーンバルケに米田がそう礼を言う。

 

『おかげで余計な被害が出ないですんだぜ』

『…それは少し心外だな』

 

言葉通り、少々ムッとした表情になってソーンバルケがジロリと米田をねめつけた。

 

『あん?』

『お前、私を何だと思っている。何かあればすぐに剣を振るうとでも思っているのか』

『おっと、悪ぃ悪ぃ』

 

米田がクククと含み笑いしながら楽しそうにそう答えた。

 

『ま、いい』

 

別に締め付けるようなものはないのだが首元を緩めるような動作をすると、次にソーンバルケは予想していなかった三人に再び視線を向けた。

 

『あ…』

『はは…』

『えっと…』

 

ジロリと睨まれて帝劇三人娘たちは所在なさげに、しかも居心地悪そうにキョロキョロしたりガサゴソしている。無論、ソーンバルケにはそんな意図は微塵もないのだが、自分達には責任はないとはいえやはり後ろめたさを感じているのだろうか、まともに顔を合わせるのも憚られた。

そんな彼女たちの機微を敏感に感じ取ったのか、ソーンバルケが再度米田と花小路に顔を向ける。

 

『…まあ、ただの小間使いではないとは思っていたが』

『あん?』

『この三人がここにいるということは、この三人も…ということなのか?』

『その通りだ』

 

ソーンバルケの推察に花小路が頷いて答える。

 

『さすがに話が早くて助かる』

『早いものか』

『む?』

 

どういうことかと花小路が訝しがると、ソーンバルケは楽しそうにクククと含み笑いをしながら、

 

『いかにも秘密がありますというあの連中の中にいるのだ。そこの三人がまるで無関係なわけがないだろう』

 

と、自分の今の言がどういう意味なのか説明したのであった。

 

『成る程な…』

『なんだ、やっぱりわかってたのかよ』

 

得心がいったように花小路が頷き、米田がガシガシと頭をかいた。

 

『…ったく、わかってるなら言ってくれりゃあいいじゃねえか。黙ってるなんて趣味が悪ぃぜ』

『馬鹿を言うな。お前たちがどんな秘密を持っているのかわからないのに、そんな真似をするわけないだろう。もっとも…』

『あん?』

『お前といい、あの連中といい、この三人といい、唾棄すべきような連中には思えはしなかったがな』

 

ソーンバルケの脳裏にあの狂王やベグニオンの元老院連中の顔が浮かび、すぐ消えていった。ああいう、ある意味わかりやすい連中の纏っている、いかにも悪そうな気配というのは米田をはじめ帝劇の連中からは感じたことはなかった。もっとも、もしそれを隠し通せているのならば大した役者だとは思うが。

 

(まあ、表向きは歌劇団の役者連中だからな。それができないこともないとは思うが…)

 

とは言え、さくらのドジっぷりや紅蘭の暴走っぷり、カンナの裏表のなさなどが芝居にはどうしても思えない。あれはどう見ても天然ものだからだ。

 

(故に、問題ないとは思うのだがな…)

 

そう思いながら、改めてソーンバルケはここにいる面々の顔を盗み見る。彼ら彼女からは、ソーンバルケに対して敵対するような気配は感じられなかった。もっとも、警戒心は未だ抱いているようだが。

 

(まあ、当然か)

 

こちらとしても向こうが何者なのかはハッキリとはわからない。だが向こうとしても、こちらが何者なのかはわからないのだ。多分大丈夫と思っていても警戒するのは当然のことだろう。そして…

 

(ここに呼んだのは、そこのところの件で…なのだろうな)

 

わざわざかすみたち帝劇三人娘まで呼び、そして彼女たちが帝劇の真の姿と無関係ではないことを暗にだが明かしたということは、これから始まるのはそれについての話なのだろう。そして、

 

(私の処遇も…というわけだ)

 

己の出処進退をハッキリさせるときが来たということなのだろう。それがこのように突発的な発生であっても。そして、ソーンバルケは覚悟を決めたのだった。

 

『…君も薄々はわかっていただろうが』

 

口火を切ったのは花小路だった。

 

『帝国歌劇団はただの劇団ではない』

『……』

 

わかってはいたことだが、それでも初めてのハッキリとした意見表明にソーンバルケは黙って頷いた。

 

『もちろん、彼女たちが歌劇の団員…役者であるのは間違いのない話だ。だがそれと同時に、彼女たちにはもう一つの重要な任務を持っている』

『あの人外の連中と戦うこと…だな?』

『…そうだ』

 

ソーンバルケの言葉に花小路は重々しく頷いた。

 

『では、あの連中は一体何者だ?』

『詳しいところはまだわからねえんだよ。そこの…』

 

そう言って米田はソーンバルケから視線を外すと、その後ろ…加山へと視線を向けた。

 

『加山が率いる、俺たち帝撃の隠密諜報部隊である『月組』の連中が必死になって探ってくれてるが、その全容はまだ不明だ』

『申し訳ありません』

 

己の力不足を指摘された気分になり、加山が深々と頭を下げた。

 

『ああ、気にすんな。別にお前らを責めてるわけじゃねえ。ああいう連中が簡単に尻尾を掴ませねえのは、よーく知ってるからよ』

 

ニヤリと笑ってそう答える米田に少なからず救われた気分になり、微笑を浮かべると加山は無言でもう一度叩頭した。

 

『敵が何者かは、今はまだわからずじまい…というわけか』

 

難儀なことだと思いながら、ソーンバルケがふうとため息をついた。

 

『それでは専守防衛しかできないな』

『仕方ねえさ。啖呵切ったってできねえものはできねえんだ。それに、いつまでもこのままにはしねえよ。こっちが探り当てるのか、向こうがお出ましになるのか。どっちが先になるかはわからねえが、必ずその時はくるさ』

『そうだな』

 

頷く。そしてソーンバルケは、恐らく最も重要でそして最も彼らが聞きたいであろうことを口にすることにした。

 

『それで、私にどうしろと? …いやもう少し仔細に言うのなら、私にどうしてほしいのだ?』

『……』

 

その言葉に、場の空気が一瞬凍り付いたように固まる。だが、いつまでも固まっているわけにもいかない。そして、その固まって凍り付いた空気を動かしたのはやはり司令の米田だった。

 

『…単刀直入に言うぜ』

 

米田がお猪口に入っていた酒を飲み干すと、たんっとそれを膳に叩きつけた。そして、居住まいを正してソーンバルケに向き直す。

 

『お前の力を、俺たちに貸してほしい』

 

そして、ぐっと頭を下げた。居住まいを正してからの叩頭ということで、自然とその体勢は俗に言う土下座の形にとなった。

 

『し、司令!』

 

その姿に思わず加山が腰を浮かせかけ、かすみたちもビックリしている。だが、米田が伏せた顔を少しだけ上げると視線で加山を制した。

その目で米田の意図を感じ取った加山が浮かせかけた腰を止め、渋々といった様子で再び座り直した。

 

(さて…)

 

目の前の米田の土下座を受け、ソーンバルケはどうしたものかと思っていた。だが、それはもったいぶって逡巡しているわけではない。米田の頼みに対する答えを考えるべくそのままゆっくりと目を閉じると、不意に帝国歌劇団の…花組の面々の顔が浮かんでくる。

 

さくら

すみれ

マリア

アイリス

紅蘭

カンナ

そして…大神

 

一癖も二癖もある個性派揃いだが、あの連中に含むところも嫌悪感もない。そして、テリウスで起きた二度の大戦での様々な悲しき別れと同じものをあの連中に味合わせたくはなかった。

 

(しかし…)

 

ゆっくりと目を開くと、今のこの状況にソーンバルケが内心で自嘲する。

 

(まさかこの地でも戦乱に巻き込まれることになるとはな…)

 

テリウスでの二度の大戦以降、特に大掛かりな戦もなく生涯を終えたこの身ではあるが、まさか右も左もわからぬこの世界で、三度戦に身を委ねることになろうとは思わなかった。だが、

 

『……』

 

ジッと頭を下げ続ける米田の姿を見る。総司令というからにはその名の通り、花組たちを率いる組織のトップ。あるいはトップではないにしてもトップクラスである人物なのは間違いない。そんな人物が一介の剣士であり、そして何者ともしれぬ自分に向かって床に頭をこすりつけんばかりにして頭を下げているのだ。重ねて言うが一介の剣士であり、何者とも知れぬ自分に向かって…である。その姿に、在りし日のクリミアの女王やベグニオンの皇帝の姿が自然と重なった。

 

(あるいは面従腹背かもしれないが…)

 

利用するだけ利用しようとして、そのためならば頭を下げることなど厭わないのかもしれない。何度か感じているが、米田は相当な狸だ。その程度のことができないとは思えなかった。だがそれでも、花組の戦いは偽物ではない。一歩間違えば、その生命を散らすことになるのはその戦いぶりを見ればよく分かった。

 

(であれば…)

 

見捨てるわけにはいかないな…。そういった結論に達する。…いや本当は、最初から肚は決まっていたのだ。ただそうと決めることに対して納得するだけの理由が欲しかった。それだけのことなのである。

 

(我ながら本当に度し難いな…)

 

内心で一つ溜め息をつくと、頭を上げてくれとソーンバルケは米田に声をかける。そして米田の頭が上がりきり、視線が再び重なった直後、

 

『いいだろう』

 

と、返答をしたのだった。

 

『本当かね!?』

 

米田が口を開く前に横から口を挟んできたのは花小路だった。交渉は米田に任せていたのだろうが、花小路もやはり案じていたのだろう。その表情には驚きと、そして安堵が浮かんでいるのが見て取れた。

 

『ああ』

 

そんな二人に、そして二人だけでなくかすみたちや加山にもその意思を伝えるかのようにハッキリと断言する。

 

『あいつらの戦いがおままごとではないのは見ていればわかる。一歩間違えばその生命を散らすことになるのもな。…もっとも、私の力がどれだけ役に立つかはわからないが、な』

『いや、十分さ…』

 

米田がほおっと息を吐きだして深く溜め息をついた。

 

『おめえの剣腕はわかってるつもりだ。そんなおめえが力を貸してくれるんなら、これ以上のことはねえよ』

『買い被りすぎだ』

 

おどける米田に対するかのように。ソーンバルケがふっと笑った。

 

『しかし…何故我々に協力を?』

 

花小路が尋ねる。すると、ソーンバルケは視線を外して何もない中空を見た。そして、

 

『…若い生命をあたら散らすわけにもいかないだろう?』

 

と、遠い目をしながら呟いたのだった。

 

(こいつは…)

 

その姿に、米田が改めてソーンバルケの見えぬ底に息を呑んだ。

 

(本当に何者なんだ…。どうしてその若さで、そんな目ができるんだよ…)

 

自身は当然として、かつての盟友であった真宮寺一馬や山崎真之介も到達できなかったような場所にいるように感じられ、米田はそのまま嘆息せざるを得なかった。

 

『しかし…具体的に私に何をしろというのだ?』

 

そんな米田の思いなどわかるわけもないソーンバルケだったが、どうしても解消したい疑問点を解消すべくそう尋ねた。

 

『先ほど、私の剣の腕を見込んでみたいなことを言っていたから、もちろん戦闘要員としての働きを望んでいるのだろうが、あいつらが乗っていたあのカラクリは私には扱えないぞ』

『光武のことかね』

 

花小路のその言葉に、光武…? とソーンバルケが首を捻った。

 

『ああ』

 

花小路に追随するように米田が頷く。

 

『霊子甲冑、光武。あいつらの霊力を増幅させ、そしてその生命を護る、霊力の鎧さ』

『成る程な。…それで先ほどの話に戻るが、私にはあれは扱えまい』

『うむ…』

『まあなぁ…』

 

花小路と米田が心底ガッカリといった表情で頷いたのだった。

 

『ちょっと前、伯爵やあやめくんと花やしきまで出張ってもらったことがあったろ?』

『ん? …ああ』

 

そのときのことを思い出し、ソーンバルケが頷く。

 

『そんときにやってもらった検査ってのは、実はお前さんの霊力の有無を調べるもんだったんだよ。表向きは健康診断ってことにしてたがな』

 

ま、お前さんのことだ。何となくでも怪しいのはわかってたんじゃねえか? 続けての米田のそんな問いに、

 

『まあな』

 

と、ソーンバルケは返した。その返答を聞き、米田が楽しそうにニヤッと笑う。

 

『ったく、本当に喰えねえよな、お前さんはよ』

『何を言う。お前こそ相当な狸ではないか』

『ま、否定はしねえさ』

 

視線の合わさった二人は、そこでお互いにフッと笑ったのだった。そしてそのまま米田が続ける。

 

『話を戻すが、お前さんの霊力を調べた結果、とてもじゃないが光武を動かせるほどの霊力は持ってないことはわかった。つまり、光武に乗って花組の一員として戦うのは無理ってことだ』

『だが、先ほど米田くんも言っていた通り、君の実力の高さは十分に実証されている。故に君を手放すのは惜しい。余りにも惜しい。だからこそ、我々も悩んだ。そこで…』

『お前さんには花組の『影』になってもらいたいのさ』

 

米田がそう言って、ソーンバルケをジッと見つめた。

 

『言うなれば、裏の花組だな。完全なる独立の部隊として、花組を後方から、影から支えてほしい』

『完全なる独立部隊…』

『そうだ。団員もお前さんただ一人。究極のスタンドアローンとしての役割を担ってほしいのさ』

 

どうだ? と身を乗り出した米田に、

 

『一つ聞かせてくれ』

 

ソーンバルケが口を開いた。

 

『何だ?』

『奴らに…大神たちに私の立場を明かすのか?』

『ああ』

 

逡巡する様子もなく、米田はそう答えた。

 

『光武に乗れない以上、ともに戦場に立つことはねえ。だが、それ以外ではあいつらとは同じ役割を担ってもらうからな。それに…』

 

そこで米田はチラッと由里に視線をやり、すぐにソーンバルケにまた視線を戻した。

 

『…遅かれ早かれわかることさ。だったら、さっさとバラしちまった方がいい』

『…司令、今あたしの方を見ませんでした?』

『んなことねえよ』

 

米田の視線に気づいた由里が少しムッとした表情になったが、米田は相手にする様子もなくヒラヒラと手を振るのみであった。

 

『もう…』

『まあまあ、由里さん』

『仕方ないじゃない、いつもがいつもなんだもの』

 

椿とかすみがなだめるものの、由里は納得がいかない様子だった。そんな様子に苦笑しながら、米田は話の続きをソーンバルケに持ち掛ける。

 

『ま、そういうことさ』

『成る程な』

『? 何か引っかかることでもあんのかい? それとも、明かしてほしくねえってんならやめとくぜ。だがどっちにしろ、今言ったようにいずれはバレることになるだろうけどな』

 

もう一度、今度は由里に気づかれないように彼女に目を向けると、米田はそう答えた。

 

『いや、いい。ただ、こちらはどうしてくれとも構わないが、そちらとしてはそれでいいのかと思っただけだ』

『だったら心配いらねえよ。何度も言ってるがいずれはバレることなんだからな』

『そうか。では、お前たちの望むようにしてくれ』

『わかったぜ』

 

そこでいったん言葉を区切ると、米田は花小路に視線を向ける。その意図を理解した花小路が頷くと、続けて口を開いた。

 

『ただ、この件は帝国華撃団内部だけのことにとどめておく』

『? どういうことだ?』

『つまり、上層部には秘匿にしておくということさ』

『上層部だと?』

 

そんな単語が出てくると思わなかったソーンバルケが思わず再度米田に視線を向けた。と、米田が渋い顔をしてポリポリと頬をかいている

 

『…まあ、うちにも色々あるってことさ』

『成る程な』

 

その米田の様子で、ベグニオンの元老院連中やクリミアの口だけ貴族の連中みたいなのがここにもいるのだろうとソーンバルケは推察する。そのようなものにまったく興味がないソーンバルケには理解しがたい存在だったが、そうはいってもいるのだからしょうがない。そういう意味では、ガリアやフェニキス、キルヴァスやゴルドアといったラグズの国家はその辺りは非常にサッパリとしていたのだがそんなことを考えても意味のないことである。

 

(私の存在を明かして余計な波風を立てたくないということか。…あるいは、権力闘争の切り札にしたくないといったところかな)

 

もっとも、私などを手札にしたところでたかが知れているだろうが…。そう思ったソーンバルケだったが、世の中何があるかわからないと思い直した。

 

(そう…何があるかわからないからな)

 

この身を考えればわかりきったことなのに、咽喉元過ぎればそんな簡単なことさえ忘れてしまうとは…ソーンバルケは己の学習能力のなさに自嘲したのだった。

 

『しかし、秘匿したとしてもいずれはその上層部の連中にも知れることだと思うが…』

 

余計なお世話と思いつつ、ソーンバルケは忠告のつもりで聞いてみた。と、

 

『まあな』

 

米田はあっさりとそれを肯定したのだった。

 

『だがそれでも、わざわざ自分から言うことはあるまい』

 

そこに、花小路が口を挟む。

 

『そーゆーこった。いずれ知れるのは仕方ねえにしても、それまでは俺たちの掌の上で踊っててもらうさ』

『成る程』

 

やはり狸だなと内心でクスッと笑い、ソーンバルケはここでいったん話を変えることにした。

 

『それでは、そこの脇にいる三人も…』

『ああ』

 

ソーンバルケが何を言いたいのか察した米田が、その意を肯定するかのように頷いた。

 

『もちろん、俺たちの…帝国華撃団の一員さ』

『やはり、そうなるか』

 

そこでソーンバルケが首を捻って三人の方を向く。

 

『大神たちに裏があったのは何となくわかっていたが、まさかお前たちもとはな…』

『ふふ、すみません』

 

かすみがクスクスと笑う。

 

『支配人…いえ、司令より口止めされていましたので』

『そーゆーこと。これでも大変だったんだよ、秘密にしておくの』

『それは由里さんだけなんじゃ…』

『椿ぃ、あんた言うじゃない?』

『あはは…』

 

いつもと変わらない光景にソーンバルケがクスッと笑った。

 

『それで、こいつらの所属は?』

『風組。花組の輸送や移動車輛の操縦なんかが主な担当だ。んで、お前の後ろの…』

 

ソーンバルケがチラッと目線のみ後ろに向けると、着座していた加山がその姿勢のまま軽く会釈をした。

 

『その加山が率いる隊が月組。隠密や諜報が主な任務だな』

『はい。ですが、そこの御仁にはあまり通用しませんでしたが…』

『らしいな?』

 

米田に話を振られてどうしたものかと思いつつも、謙遜するわけにもいかず(謙遜したら加山の心情を抉ってしまいかねないので)に素直に肯定することにした。

 

『…まあ、昔色々あってな。気配を消している連中を察知するのは苦手ではないのでな』

『そうかい。こっちとしては、その『色々』の部分をぜひ聞かせてほしいんだがな』

『…いずれ、機会があればな』

『そうかい』

 

その返答に、どうやら今はそのあたりのことを聞き出すのは無理そうと判断した米田は、ソーンバルケのその言葉に素直に引き下がった。

 

『それじゃあ、そのいずれを期待させてもらうか』

『やめておけ、期待外れになるだけだ』

『…ま、気長に待つさ』

 

そこでまたお互いフッと笑った。

 

『話は決まったな』

 

そして頃合いと思ったのだろう、花小路が場をまとめるべくパンパンと手を叩いた。

 

『さて君の処遇だが、今まで通り私の屋敷から帝劇へと通ってもらう』

『つまり、表向きは今までと変わらずってことだ。やる仕事もな。ただそこに、花組の本来の任務も加わることになる』

『その上で、細かい点や現状では思い至らない点は都度方針を決める。そのようにさせてもらいたい』

『承知した』

 

花小路と米田の取りまとめにソーンバルクが軽く叩頭した。話がまとまったことにかすみたちと加山がホッとした表情を見せる。

 

(よかった…)

(ふぅ…これでこの件は黙ってなくてもいいわけね)

(ほっ…)

(未だ尻尾は掴めないが、敵には回したくないのも事実だしな)

 

四者四様の感想を思い浮かべながら、それでも共通していたのは胸を撫で下ろしたということであった。

 

『さて、それじゃあ固い話はここまでだ。ここからはパーッと行こうぜ!』

 

米田がそう言うとかすみたちが席を立つ。少しして、膳が運ばれてきた。それが各々の前に置かれ、そして、予定調和のようにお猪口に酒が注がれていく。(椿だけはお茶だったが)

 

『乾杯!』

 

全員の盃が満たされてそこそこに米田が音頭を取ってクイッと呷った。その、いつもとほとんど変わらない姿に苦笑しながらもソーンバルケも盃に口をつける。こうして、小規模ながらも宴会が始まった。それはまるで、ソーンバルケの入隊の歓迎会のようなものだった。

 

 

 

 

 

こうして、晴れて帝劇の真の一員になったソーンバルケは翌日、正式に花組に紹介された。そして、そこでの花組各員の反応は色々あったものの、概ね良好に迎え入れられたのであった。

しかしながらソーンバルケが入隊してからの最初の任務はもうすぐ側まで迫っていようとは、ソーンバルケ本人にも予想はできないことであった。

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