サクラ大戦 剣聖の新たな道   作: ノーリ

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おはようございます。前回の続き、今回は深川廃屋での戦闘回です。まあ今回は特筆すべき物語上の進展もありませんので、サラッと読んでいただければと思います。
むしろ、物語的に佳境に入るのは次からですからね。どんな感じに先生を絡ませていこうか、頭の痛いところです。(笑)

では、とりあえず今回のお話、どうぞ。


NO.18 雨降って地固まる

「ん?」

「おっ」

「あっ!」

「あら」

 

再始動した大神とすみれが廃屋の探索を続けて暫し、とある部屋の前で無事にカンナ・ソーンバルケの姿を見つけることに成功した。

 

「ソーン」

「大神」

 

男衆は二人、互いの無事を喜ぶ。一方で女衆はというと…

 

「……」

「……」

 

互いに何か言いたそうな…しかし気まずそうな表情でお互いを見ていた。

 

「無事でよかった」

「お前たちこそ」

「ああ、何とかね。…ところで、二人はこんなところで何を?」

 

大神がそう尋ねると、ソーンバルケは自分の後ろに立っているカンナを仰ぎ見るように振り返った。

 

「ああ。実はこの部屋に魔操機兵が入っていくのを見たんだが…」

「何ッ!? 本当か、カンナ!?」

「ああ」

「そうか、やったじゃないか、カンナ!」

「へへ、まあな」

 

大神に褒められ、頬を染めて照れるカンナ。それが気に食わないのか、

 

「…ま、カンナさんお得意の野生の勘といったところなのかしら」

 

と、すみれが口を滑らせてまた一言余計なことを言ってしまっていた。

 

「なんだ、テメェみたいに何もしてないって言うんじゃないぜ!」

 

当然、カンナも売り言葉に買い言葉状態になってしまってすみれを睨む。だが、すみれも負けてはいない。たとえこの状態を招いたのが自分だとしても…だ。

 

「言ってくれるじゃございませんこと、カンナさん!」

「何だぁ!?」

「何ですの!?」

「お、おいおい、いい加減に…」

 

慌てて大神が仲裁に入ろうとしたがそれはできなかった。何故なら背後から感じたからである。そう、剣呑な気配…もっと言えば“剣気”を。

 

『!』

 

大神から一拍遅れてすみれとカンナもそれを感じたのか、ほぼ同時にすごい勢いで大神の背後に目を向けた。そこには…

 

「いい加減にしておけよ、お前たち」

 

ソーンバルケの姿があった。しかし、今までの姿とは違い、圧が半端ではなかった。その目を見た瞬間、針の筵や処刑台にでも晒されているかのようにすみれとカンナの背筋が凍り、冷や汗に加えて急速に咽喉がカラカラに渇いていく。

 

「う…」

「あ…」

「そんなに小競り合いがしたいなら、そこで大人しくしていろ。首を刎ね飛ばしてやるから、あの世で好きなだけわめけ。それが嫌なら…わかっているな?」

『……』

 

二人ともコクコクコクと壊れた人形のように首を縦に振る。と、

 

「ふん」

 

軽く鼻を鳴らしてソーンバルケが剣気を収めた。直後、周囲にかかっていた圧が解除され、大神以下三名は身体が軽くなったように感じたのだった。そして、

 

「はー…はー…はー…」

「うっ! ゴホ…ゴホ…」

「ぶはっ! ゼー…ゼー…」

 

酸素を求めて荒い呼吸を繰り返す。すみれに至っては呼吸しようにもむせてしまって大変だった。そんな三人を尻目に、

 

「……」

 

ソーンバルケは腕組みをするとそっぽを向いて三人が復調するのを待ったのだった。

 

「はー…はー…ふぅ…」

 

緊張から解放され、ようやく大神の呼吸が整った。少し遅れてすみれとカンナの呼吸も元に戻る。

 

(し、死ぬかと思った…)

 

ネクタイを少し緩めながら大神がちらりとソーンバルケに目を向ける。自分たちをこの状態に陥れた張本人は平然とした顔をしているのが少し腹が立った。しかし、その原因も二人の隊員たちにあるとあっては仕方がない。

 

(お、お、お、おっかねー…)

(なんて気迫ですの…震えが止まりませんでしたわ…)

 

その二人…すみれとカンナもソーンバルケが今垣間見せた迫力に文句を言うこともできずにとりあえず心を落ち着けることしかできなかった。

 

「はぁ…」

「ふー…」

 

すみれとカンナが大きく深呼吸を繰り替えして呼吸を丁寧に整える。ようやく三人の状態が(心情的にはまだまだとは言え)元に戻った。そして、

 

(こいつ(この人)を本気で怒らせるのは絶対に止めよう…)

 

三人揃って、そう、固く決心したのだった。

 

 

 

「さて…」

 

ソーンバルケの圧から解放された後、無理にでも話を戻すべく大神が口を開いた。

 

「ここに二人がいるのはわかった。それで、何故中に入らないんだ?」

「わたくしたちをお待ちになっていたんですの?」

「いや、そういうわけではなくてな」

「実はここのドアなんだけど、部屋の中からカギがかかっちまってるんだ」

「カギ?」

 

大神が首を捻る。

 

「そうなんだ。だからここを開けるには、カギを見つけてこないといけなくてさ」

「カギね…」

「カギか。それっぽいものなら、廃屋内にあった気がするなぁ」

「残念ながらここに至るまでの道中、見つけることができなくてな。…ああ、そうそう。その代わりと言っては何だが、こんなものを見つけたぞ」

 

ソーンバルケはそう言うと懐に手を突っ込み、古ぼけた瓶を取り出すとそれを大神に向かって投げた。

 

「わっ…と」

 

いきなり投げられて大神が思わずその瓶を落としそうになってしまったが、何とかキャッチする。それは薬瓶のようなものだった。

 

「? 何だい、これ?」

 

大神が尋ねる。

 

「クモなどの毒に効く薬だそうだ。さっきすみれが大騒ぎしていたから丁度いいだろう」

「まっ!」

「そうなのか」

 

先ほどの失態(?)を指摘されたすみれが顔を真っ赤にしたが、大神は気にすることもなくその瓶を開けるとすみれに患部を出すように伝えた。そうしながら、

 

「あ、じゃあ…」

 

大神も何かを思い出し、ズボンのポケットをまさぐる。そしてお目当てのものを見つけると、

 

「これを」

 

と、先ほどのソーンバルケと同じようにそれを投げた。

 

「これは?」

 

瓶をキャッチしたソーンバルケが、大神と同じように質問を投げかける。

 

「そっちはヘビなんかの毒に効く薬らしいよ」

「ぎゃーぎゃーわめいていたカンナさんにはピッタリのお薬でしょう?」

「なッ!」

 

今度はカンナが顔を真っ赤にしたが、先ほどのこともある手前抑える。

 

「ほう、それはまた都合のいい…」

 

言葉通り都合のいい展開に少し呆れながらもソーンバルケは瓶の蓋を開ける。そして大神と同じようにカンナに患部を出すように言った。こうして二組とも、互いのパートナーの一応の傷の手当てを終えたところで鍵を探すべく、再び合流して探索を始めたのだった。

 

 

 

「よし、開けるぞ」

 

振り返った大神に三人は無言で頷く。再合流を果たした四人は再び廃屋を探索し、鍵束を見つけることができた。その鍵束の中の鍵を一つ使い、先ほどカンナが魔操機兵を見たという部屋のドアを開けたのである。

 

「三人とも、油断するなよ」

 

ソーンに関しては言わなくても大丈夫だろうけど…と思いながら注意を促すと大神はそっと室内に入った。その後にすみれ、カンナと続き、最後に周囲を確認してからソーンバルケが中に滑り込んだ。

 

「よし…いたぞ」

 

大神が言ったようにそこには先ほどまでと同じく、部屋一面にペタペタと御札を貼っている魔操機兵の姿があった。

 

「今度こそ、逃がすなよ」

「ああ」

「すみれ、今度こそ大声出すんじゃねーぞ」

「あなたこそ、お気をつけなさい」

「よし、もっと近寄るぞ…ああっ!?」

 

振り返った大神がすみれとカンナの背後を見て、そこにいたものを目にしてしまい思わず声を上げてしまった。

 

「ど、どうした、隊長!?」

 

いきなり素っ頓狂な声を上げた大神に驚きながらカンナが尋ねる。と、

 

「す、すみれくん…カンナ…う、後ろ」

 

恐る恐るといった様子で二人の背後を指し示したのだ。直後、

 

「こ、この気配は…」

「も…もしかして…」

 

すみれとカンナも自分の後ろに何がいるのか気づいてしまい、顔を青ざめさせて引き攣らせた。が、大神が危惧した事態にはならなかった。何故ならそこにいたもの…すみれとカンナの弱点である蛇と蜘蛛はその直後に一刀両断されてその生を終えたからである。

 

「……」

 

三人の更に後ろにはソーンバルケが無言で立っており、蛇と蜘蛛が斬られた後にチンと鍔なりの音がした。それだけで、何が起こったのか察するに余りある。

 

「は、はぁ…」

 

最悪の事態を回避できて力が抜けたのか、がっくりと大神がその場にへたり込んだ。その大神の様子で、自分たちの背後の危険が除去されたことを悟ったすみれとカンナが冷や汗を拭いながらホッとしたように大きく息を吐く。

 

「ふ、ふー…」

「よかったですわ…」

 

二人とも大神と同じように全身の力が抜けたようだった。が、

 

「また逃げられたか…」

 

ソーンバルケのその言葉に三人が顔を上げると、そこにはもう確かに魔操機兵の姿はなかった。

 

「今回はお前の失態だな、大神。いくらあの二種類がいっぺんに出てきたとは言え、大声をあげてしまったのだからな」

「いや…その…面目ない」

 

その謝罪の言葉通り面目なさげに大神がポリポリと後頭部を掻く。

 

「へへへ…しょうがないなあ」

「ほほほ…これで通算三回目ですわね」

 

事の成り行きにすみれとカンナが笑う。誰も気づいてはいなかったが、それはここに来て初めての笑顔だった。もっとも、偵察任務中に笑うことなどまずないはずだから当たり前なのだが。

 

「すみれくん…カンナ…」

 

ひとしきり笑い終えたところで、大神が表情を改めて口を開いた。

 

「俺はきみたち花組の隊長だ。俺にできることは隊長として、そして仲間としてきみたちを支えてあげることぐらいだ。そう、俺ができることは小さなことなんだ」

「……」

「……」

「だから、君たちは協力しあってくれ…。すみれくんとカンナ…二人がお互いに支えあってほしいんだ」

「…わかったよ、隊長」

 

ややあって先に口を開いたのはカンナの方だった。

 

「仕方ねえな、すみれ。ここは一時休戦、にしとくか」

「異存はありませんわ」

(ほぉ…)

 

長い紆余曲折があったものの、それでも双方に蟠りなく手を握らせたことにソーンバルケは感心していた。

 

(普段頼りないところが多々あるのは事実だが…)

 

なかなかどうして、締めるところは締めるじゃないかと大神のその手並みに内心で頷いていた。もっとも、あの司令と副司令が隊長に据えた人物なのだから、これぐらいのことは当然期待していたのかもしれない。

 

(やはり狸親父と女狐よ)

 

当人たちが知れば失敬なと怒るだろうがその手練手管を知ればそう思わないわけはなく、少なくとも刀で従わせた私よりは間違いなく上かと、ソーンバルケは内心でクックッと笑ったのだった。

 

「よし! では任務に復帰だ! 敵はそこの階段から地下に降りたようだ」

 

先ほどの魔操機兵のいた場所からほど近い位置に、下へと降りる階段がある。

 

「三人とも、追うぞ!」

「はいっ!」

「まかせとけ!」

「承知」

 

三人の了承の意を聞いた大神が先頭になって階段を下りる。そしてすみれ、カンナと続き、殿はやはりソーンバルケが務めて一行は階段を下りたのだった。

 

「地下の食糧庫か…」

 

階段を下りた大神がその内装を見て呟く。そこには確かに食料が貯蔵してあった。もっとも、廃屋となってもう長い年月が経っているのだ。ここに貯蔵されている食料はもうすべて使い物にならないだろうが。と、

 

「あっ!」

 

すみれが小さく悲鳴を上げた。

 

「すみれ!」

 

それに一番最初に気づいたカンナが慌ててすみれを覗き込む。

 

「大丈夫か!?」

「ええ、大丈夫ですわ。少し眩暈がしただけ。それよりあなたこそ、ヘビに咬まれた傷は大丈夫ですの?」

「…正直言うと、さっきから傷口がジンジンと痛みやがるんだ」

 

すみれと違ってカンナは悲鳴こそ上げないものの、辛そうなのはすみれと同じだった。

 

(やはり…消毒液じゃもたなかったか?)

 

最悪の状況を想定して大神の表情が青ざめる。ソーンバルケもあまり大事だとは思っていなかったが、ここまで引っ張るとなると少し不安になってくる。

 

(どちらにせよ、そろそろ区切りはつけるべきか…)

 

ソーンバルケがそんなことを考えている間に、大神は隣の部屋に通じている扉をくぐった。すみれたちも後をついていったのを確認し、ソーンバルケも最後にそこを通ったのだった。

 

「何だ、この部屋は!?」

 

扉を通って次の部屋に入った大神が思わずそんなことを口にした。そこは石造りの、まさに地下室といった感じの部屋であった。そしてここにも、部屋のいたるところに御札が張られていた。

 

「どうやら…ここで行き止まりのようですわね」

「いや…」

 

ソーンバルケの静かな一言に全員が振り返る。

 

「あれを見ろ、ここからでは大分わかりにくいが、上へとつながっているハシゴのようなものがあるぞ」

「本当だ」

 

それを確認した大神が頷く。そして、

 

「お、いたぞ…」

 

カンナがその気配に気づく。そこには今までと同じように、壁に御札を貼りつけている魔操機兵の姿があった。

 

「さっきの奴に違いないぜ」

「そうだな。一本道である以上、間違いあるまい」

「周りにはヘビもクモもいないようだし…」

 

大神が周囲を確認する。またあんな騒動になって取り逃がしてはたまらない。

 

「今度こそ逃がさねえぞ。全員でヤツを押さえ込んじまおう」

「そうですわね。ここには隠れるような場所もありませんし…」

「よしっ! みんな、行くぞ!」

 

大神が号令をかけたが一足遅かった。何故なら号令をかけた直後、周囲がまぶしい光に包まれたからである。

 

「うわっ!」

 

思わず大神が悲鳴を上げて腕をかざす。すみれ、カンナ、ソーンバルケも同様だった。

 

「な、なんだ、この光は!?」

 

カンナも驚いて声を上げる。と、すみれがハッとしたような表情になった。そして、

 

「屋敷に立ち込めていた霊力が…消えていきますわ」

 

先ほどまで確かに感じていた屋敷の霊力がなくなったのを肌で感じ、辺りを見回したのである。

 

「遅かったか…」

「くそっ! ヤツが御札を貼っていたのは屋敷の霊力を封じるためか!?」

 

ここにきて、恐らくだが黒之巣会の目的が判明した。が、それもソーンバルケの言った通り遅きに失したのだが。

 

「だが…何のために?」

 

すぐに大神がその疑問に行き当たる。しかし、

 

「考えている暇はなさそうだぞ」

「え?」

「見ろ」

 

ソーンバルケの指摘を受けて目をやると、先ほどの魔操機兵がくだんのハシゴを昇っていく様子が目に入ってきた。

 

「少尉、ヤツが逃げますわ!」

「よし、今度こそ逃がすな! 俺たちもあのハシゴを昇るんだ!」

 

大神がそう指示を出すと一目散にハシゴに向かって登り始める。その後をすみれとカンナが追い、背後からの追手がないことを確認してソーンバルケが少し遅れて続いたのだった。

 

 

 

「くそ…随分長いハシゴだな」

 

昇り始めてから暫く経ち、大神が思わず呟いた。まだ光は見えてこない。

 

「どうやら地上まで続いているようですわね」

 

すみれがそう呟いた直後、頭上で鈍い金属音がした。

 

「なんだ、今の音は!? ひょっとして敵か、隊長!?」

「いや、行き止まりだ。天井がマンホールのふたになっている。どうやら開きそうだぞ…」

「地上へ出れられるのか?」

「少尉、開けてみましょう」

「よし…ゆっくり開けるぞ」

 

カンナの危惧を否定し、大神は頭上の物体…マンホールのふたをゆっくりと押し上げはじめる。そこに広がっていたのは先ほどの廃屋に荒れた敷地…そして魔操機兵たちとその中に一機だけいる深紅の魔装機兵の姿だった。

 

「うっ…眩しい」

「! た、隊長、あれを!」

「えっ?」

 

日の光の眩しさに顔を顰めていた大神がカンナの指示した方向に目を向ける。そこには、

 

「やはり地脈ポイントはここか…フフフ…」

 

黒之巣会の死天王の一人、紅のミロクの姿があった。その名の通り、一機だけの深紅の魔操機兵の傍らに。

 

「よし、作業開始だ。地脈ポイントを制圧する」

 

ミロクが振り返り、魔操機兵たちに指示を出す。その指示に従い、すべての魔操機兵が一気に動き出した。

 

「黒之巣会ですわ!」

「ちくしょう! よりによってこんな時に!」

(十分予想しうる事態だと思うが…)

 

大神たちの一段下でハシゴにつかまっているソーンバルケはそんなことを思っていた。元々怪しい人影が出るということでここに調査に来たのだし、ここに御札を貼っていたのが魔操機兵ならば黒之巣会が出てくるのは当然だろう。

できれば状況を確認したいところではあるのだが、上の三人が同時に顔を出して状況を確認しているために顔を出せるような隙間はないため、状況確認は三人に任せてソーンバルケは上が空くまでハシゴを掴んだまま待機することにした。

 

「地脈ポイント? 長官が言っていた「魔術」と関係があるのか?」

 

大神が呟く。その一言が原因かはわからないが、ミロクの表情が険を増した。

 

「しまった、気づかれたか!?」

 

ミロクの気配が変わったことに気づいた大神が慌てるものの、もうどうしようもできない。この状態から頭を引っ込めてマンホールの蓋を閉めたら身動き取れなくなって下へと真っ逆さまになるからだ。

 

「出てきなさい! そこのネズミ!」

 

案の定、ミロクに気づかれた大神は歯噛みをする。

 

「くそっ! これでは多勢に無勢。とてもかなわない…どうすればいいんだ?」

「何か手はないのかよ?」

「そうですわね…少尉、話をもたせて時間稼ぎをするのはどうです?」

「…そうだな。時間稼ぎをしても助かる保証はないが…やってみるか」

 

このまま何もしないわけにもいかず、大神はすみれの進言に従ってひとまず時間稼ぎをすることにした。

 

「お前たち、何をたくらんでいる! この屋敷で何をしていた!」

「ふふふ…お前たちにはわかるまいが、この屋敷からは強い霊力が発せられているのだ」

(おっ?)

 

ミロクがのってきたことに大神は内心で指を弾いていた。まさかすんなりこちらの思い通りになってくれるとは思わなかったからである。

 

(だが、今はありがたい)

 

稼げる時間を延ばすため、大神はミロクの説明を黙って聞くことにした。

 

「失礼な! わたくしにはわかりましたわ!」

「しっ! 今はヤツの話を聞くんだ!」

 

そのため、思わず反論したすみれを制してミロクに先を促させる。

 

「わらわたちの「計画」にはこの霊力が障害となっていた…。そこで、屋敷の霊力をまず封印し、障害を取り除いたのだ。そして、これからが本番というわけさ」

「計画だと! この帝都をどうするつもりだ!?」

 

更に引き延ばそうと大神が質問を重ねる。が、

 

「それを知る必要はない。何故ならお前たちは、ここで死ぬのだからな…」

 

流石にその先を話すことはなかった。まあ、黒之巣会にとっての最高機密のようなものだから当然と言えば当然なのだが。

 

「羅刹、刹那の仇…取らせてもらうぞ。黒之巣の怒りと恐怖をその身で存分に味わうがいい! 覚悟しろ、帝国華撃団!」

 

僚友の恨みを晴らすべくミロクが憤怒の形相で襲い掛かろうとした直後、突然耳慣れぬ轟音が周囲に響き渡った。

 

「な、なんだ!?」

 

突然の轟音に大神が驚いて周囲を見渡す。と、

 

「隊長、上だ!」

 

カンナの声に頭上を見上げる。そこには、

 

「翔鯨丸ですわ!」

 

空に浮かぶ翔鯨丸の姿があった。

 

『遅くなってすみません!』

 

直後、さくらから通信が入った。

 

『みんな、大丈夫ですか!?』

「さくらくん!」

『さあ、あなたたちも出撃よ!』

「はい!」

 

あやめの号令が合図となったかのように、マンホールから大神たちが踊りだす。

 

「よっしゃあ! やったるぜ!」

「これで役者がそろいましたわ」

「よし! 二人とも、光武に乗りこむんだ!」

「おう!」

「ええ!」

「見てろ…今までの借り、きっちり返してやる!」

 

闘志と気力を充実させながら大神たちは各々の光武へと走っていった。そして三人がマンホールから去った後、

 

「やれやれ…」

 

ゆっくりとソーンバルケがマンホールから姿を現したのだった。

 

「全く…あいつらがいつまでもあそこにいたからキツかった。ずっとハシゴを握っていたせいで、手が…」

 

今までずっとハシゴを握っていた後遺症で手が痺れており、それを解消するために何度か握って開いてを繰り返していた。と、ソーンバルケに気付いた魔操機兵の一体が刀を振りかざしながら突っ込んでくる。

 

「む」

 

当然、それに気づいたソーンバルケだが無視して握力を取り戻すためにゆっくりと同じ行為を繰り返す。そうしている間にも魔操機兵は当然距離を詰め、そしてソーンバルケに向かって刀を振り下ろした。

 

「……」

 

だが、ソーンバルケにそんな大ぶりな攻撃が当たるわけもなく、魔操機兵の刀が空を切る。その後も何度か攻撃を繰り出す魔操機兵だったが、ソーンバルケの身を捉える斬撃は一度もなかった。そして、

 

「!」

 

何度目かの攻撃をかわした後、握力が十分復活したことを理解したソーンバルケが初めて自ら動いた。直後、ソーンバルケの身体は魔操機兵と交差しており、

 

「……」

 

ガラガラと音を立てながら魔操機兵はその場にバラバラに崩れ去ったのだった。

 

「さて…」

 

花組に顔を向けると、全員の光武が勢ぞろいしている。用意は整ったようだった。

 

「では、後は奴らに任せるか」

 

そう呟くと、ソーンバルケは自分に向かってくる数体の魔操機兵をいなしながら巧みに森や茂みの中に隠れ、その姿を上手く眩ませたのだった。

 

 

 

「オンキリキリバサラウンバッタ…オンキリキリバサラウンバッタ…オンキリキリバサラウンバッタ…」

 

ミロクが呪を唱えると、それに呼応するかのように楔が地中へと消えていく。それは今までの上野、芝公園、築地、浅草と全く同じ光景だった。

 

「ふふふ…」

 

果たすべき第一の使命を終え、ミロクが笑みを浮かべる。そしてゆっくりと華撃団へと振り返った。

 

「帝国華撃団よ…待たせたな。今こそ相手をしてくれよう」

「望むところだ!」

『帝国華撃団、参上!』

 

大神が啖呵を切った直後、さくらたちも戦場に現れた。舞台を変え、ここからが二度目の本番である。

 

「ほほほ、飛んで火にいるなんとやらね」

 

ミロクが嘲笑するのを合図にしたかのように、魔操機兵がその数を増した。

 

「おいおい。ずいぶん皆と離れちまったじゃないか!」

「さくらさん! どうしてもっと近くに降りてこなかったんですの!?」

「すみません。地形が複雑で、ここに降りるしかなかったんです!」

 

今のやり取りの通り、花組は二手に分かれていた大神・すみれ・カンナの三人と、それ以外の四人の二手である。

 

「二手に分かれてしまったか…仕方ない。みんな、気を引き締めていくぞ!」

 

合流できなかったのは確かに痛いが、逆に言えば合流してしまえばいいだけのことと割り切り、大神は指示を下したのだった。そして戦闘が始まる。

 

「一にも二にも、まずは合流することだな…」

 

大神が自分たちとさくらたちの現在地を見てそう呟いた。距離的にはそう遠くはないのだが、その間には川が通っている。瞬間移動のできるアイリスなら何の障害にもならないが、さくら・マリア・紅蘭にはどうすることもできなかった。視線を上げると、下流の方に橋が架かっているのが見える。

 

「よし、まずは合流することを目標にする。各機、敵を蹴散らしながら下流の橋へと向かえ!」

『了解!』

「ねーねーお兄ちゃん、アイリスはそっちに行ってもいい?」

「え? あ、ああ、そうか」

 

そこでようやく、大神はアイリスが地形や障害物に邪魔されずに移動できることを思い出したのだった。

 

「マリア、そっちの戦力はどうだ?」

 

アイリスに指示を出す前に、大神がマリアに尋ねる。

 

「こちらはそれほど敵もいませんし、蒸気スタンドもあります。問題はないかと」

「わかった。それじゃあアイリス、先にこっちに来てくれるかい?」

「うん!」

 

大神の許可が出たアイリスは瞬間移動を繰り返し、さくらたちより一足先に大神たちに合流した。

 

「あらよっと!」

 

そうこうしている間に先陣のカンナがいつものように突破口を作り、

 

「フン!」

 

その脇をすみれが固めて進軍を続けていた。

 

「…こう見ていると」

 

その後ろをおっとり刀でついていきながら大神が呟く。

 

『どうしたの? お兄ちゃん?』

 

その大神の様子に気付いたのか、アイリスが通信を開いてきた。

 

「いや…あの二人、やっぱりいいコンビだと思ってね」

『すみれとカンナのこと?』

「ああ」

 

大神が返事を返した。そうしている間にも二人は次々に敵の魔操機兵を屠っていく。

 

「雨降って地固まるじゃないけど、そうなってくれればなぁ…」

 

切にそう願いながら、大神も敵魔操機兵を斬り捨てていくのであった。そうこうしている間にカンナたちはマリアたちとの合流を果たし、返す刀でミロクへと向かっていく。

 

「おっと、俺たちも遅れないようにしないとな。アイリス、行くよ」

『うん!』

 

大神とアイリスも早々に皆と合流すべく、光武を走らせたのであった。

 

 

 

「ふふふ…やるではないか」

 

合流した帝国華撃団に手持ちの魔操機兵をすべて破壊され、残すはミロク一人となった。だがミロクは、そんなことを気にする様子もなく楽しそうに笑う。

 

「わらわは紅のミロク。お望み通り、お相手してさしあげましょう。出てくるがよい! わらわが忠実なるしもべ、紅蜂隊!」

 

ミロクがそう合図すると、真紅の魔操機兵がミロクを囲むように何体も現れたのだった。

 

「チッ、増援かよ」

「うっとうしい真似を…」

 

カンナとすみれが苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

「フフフフ…まずは小手調べ…」

 

そんな二人を嘲笑するかのようにミロクはその魔操機兵…紅蜂隊へと攻撃指令を下したのだった。と同時に、ミロクの姿も掻き消えてしまう。

 

「! 消えた!? 一体何処へ…」

 

大神が眉を顰めて周囲に視線をやった。だが、ミロクの姿はどこにも見えない。

 

『ミロクの言う通り、紅蜂隊全てを退治しなくてはならないようね』

 

直後、あやめからの通信が入った。

 

『紅蜂隊を残さず倒して目にものを見せてやるのよ! 大神くん!』

「はい! 目標、敵魔操機兵の撃破!」

『了解!』

 

さくらたちの返事が聞こえると同時に大神が指示を出す。その指示通り動いた帝国華撃団にはいくら特別仕様といえども魔操機兵では相手にならず、瞬く間に紅蜂隊は倒されていった。

 

「観念しろ! もはや後はないぞ!」

 

紅蜂隊を全滅させた華撃団はミロクに迫る。多勢に無勢、ミロクはすっかりと囲まれていた。だが、

 

「フフフ、これしきで勝ったと思っているのか?」

 

ミロクは慌てる様子もなく、それどころか楽しそうに大神たちを嘲笑した。そして突然さくらに光線を浴びせる。が、

 

「んっ? 全然効かないわよ?」

 

言葉通り、さくらは平然としていた。が、直後にミロクの姿がその場から掻き消えてしまう。

 

「ふ…これで終わったと思うな!」

 

そんな捨て台詞を残して。

 

「どういうことだ?」

 

ミロクの意図がわからずに厳しい表情を浮かべる大神。

 

「まあ、ヤツの光線もただのハッタリだったようだし…。それでは」

「いきますわよっ!」

『勝利のポーズ…決めっ!』

 

一抹の不安を残しながらも敵を撃退したことには変わりなく、華撃団はいつものカーテンコールで戦いに幕を下ろしたのだった。

 

 

 

「終わったか…」

 

戦場から少し離れた場所からその光景を見ていたソーンバルケがそう呟く。魔操機兵程度ならどうとでも料理できるのは今までの戦いを見ていればわかるのだが、それでもあの機械の中に生身で一人突っ込むわけにもいかないので戦いは正規の華撃団に任せることにしていた。

 

「しかし…」

 

先ほどの光景を思い出す。それは勿論、ミロクがさくらに浴びせたあの光線のことだ。

遠目で見る限りさくらの機体には何の変調も見られない。それを考えれば取り越し苦労かとは思う。思うのだがその一方で、絶対にそんなことはないとも思っていた。

 

(ああいう連中がどれほど厄介かはよく知っているつもりだからな…)

 

しかし、再び大神たちに目を向けると、またもすみれとカンナの小競り合いが始まっており、その二人を他の面々は笑顔を浮かべながら囲んで見ている。その様子に能天気な…と思いつつも、そうはなれない自分の性分に我ながら度し難いなと自嘲していた。

 

「何もなければいいのだが…何もないわけはないのだろうな…」

 

とりあえず、用心だけはしておくかと思いながら、ソーンバルケは花組より一足先に戦場を後にしたのだった。

 

 

 

同日夕刻

 

「ふっ…もうすぐ始まる。愚か者の宴が…」

 

叉丹が某所にて楔を前に佇み、そして夜。さくらの光武の中から一匹の小さな猿のような生物が現れた。その猿のような生物はそのまま光武の格納庫から走り去り、ある場所へと辿り着く。

 

「見つけた…フフフフフフ…」

 

そこにはミロクの姿があった。そして任務を果たしたその猿のような生物はミロクに握り潰されたのだった。

ソーンバルケがミロクに対して用心しようと心掛けたのはさすがではあったが、これでは手の打ちようがない。更に叉丹が動いたのはソーンバルケだけではなく、華撃団にとっても完全に想定外のことだった。

今宵の月は真紅のような満月。それは、帝都を巡る戦いがその激しさを増すのをあたかも暗示しているような姿だった。

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