サクラ大戦 剣聖の新たな道 作: ノーリ
しかしながら、どうしても入れたい展開だったのでご容赦ください。戦闘パートについては特に言及することもなくナレーション処理です。
先述の通り内容的には短いので、軽く読んでいただければと思います。では、どうぞ。
追伸:先日、投稿をしていた際に気付いたのですが、ユーザー情報のメールアドレスが昔のままで更新されていませんでした。
メッセージ機能もありますし、感想や評価などもありますのでわざわざメールを使用する方がいらっしゃるとは思いませんが、もし以前メールを送られた方がいらっしゃいましたら誠に申し訳ございません。
メールアドレスの設定をし直しましたので、以降はちゃんと届きます。先述しましたが、わざわざメールを送ってくださる読者様もいないとは思いますけれど、万一そんな方がいらしたときのために念のためお知らせしておきます。
大神とさくらをガレキの向こう側から救出したソーンバルケはその足で上へと向かう。途中、地下の方から派手な音が聞こえてきたがそちらに関しては黙殺する。先ほど考えたように、今自分が顔を出しても邪魔になるだけなのは明白だからだ。餅は餅屋というわけではないが、機械同士のドンパチは機械だけでやらせればいい。
(どうしても…となれば話は別だが)
だが今は、そのどうしてもではない。自分を除いて全員が揃っている帝国華撃団。ある意味、帝国華撃団の正常な形であればこそ、心配はしていなかった。
(私は私にできることを…)
本拠地が襲撃されたとあって、浮足立ったりパニックになっている関係者も多いだろう。それらの面々の所在や無事を確認すべく、またその面々を落ち着かせるべくソーンバルケは階段を登ったのだった。
「あ、ソーン!」
事務局。顔を出したソーンバルケを迎えたのは、かすみ・由里・椿の三人娘だった。
「やはり、ここにいたか」
三人の無事を確認し、ソーンバルケはまずはホッと一息ついた。そんなソーンバルケの許に、三人が早足で駆け寄ってくる。
「ソーンさん、状況は?」
一番の年長者であり、まとめ役でもあるかすみらしく、現状把握のためにそれを聞いてきた。
「それは花組の連中のことか? それとも、他の関係者のことか?」
「え? 両方知ってるんですか?」
「いや、ハッキリ言えば花組の方の状況はわからない。私が知っているのは、襲撃の際にガレキで閉じ込められた大神とさくらを助け出し、他の連中に合流させたことだけだ」
「じゃあ、他の人たちはどうなんです?」
今度は椿がそう尋ねてきた。
「まだ全員というわけではないが、食堂の調理関係者や、舞台裏の舞台関係者、二階にいた設備関係者などには会うことができた。動揺しているのもいたが、大方は落ち着いていた。流石に皆組織の一員といったところか」
「そう。良かった…」
ソーンバルケの報告に由里が大きく息を吐いて胸を撫で下ろす。それはかすみと椿も同じようで、かすみはホッとした表情に、椿はパアッと表情が明るくなった。
「まあ、まだ確認できてない連中もいるが、今言った私が無事を確認できた面子が他の関係者の様子を確認してくれるそうだ。人手は増えたし、何より襲撃を受けたのが地下ということもあって巻き込まれた関係者はあまりいないと思うが…」
「心配なのは整備班でしょうか…。襲撃場所が丁度仕事場ですからね」
「そうね」
「でも、今日はほぼ就業後でしたから、人的被害はないんじゃないかと思いますけど」
「ええ。それが不幸中の幸いね。光武は維持費がものすごくかかるし、何といっても帝都防衛の要だから光武に何かあったらもちろん一大事だけど、逆に言えば資金でどうにかなるからね」
「取り返しのつかない人命が無事だっただけまだマシってことよね」
「そうですよね…。ただ、嫌なこと言っちゃいますけどまだ人的被害は皆無って決まったわけじゃないですから。多分大丈夫だとは思うんですけど…」
「そうね」
「わかってるわよ」
三人娘が角を突き合わせて喧々諤々と自分たちの意見を言い合っているのを聞きながら、ソーンバルケは感心していた。
(…そうか、こいつらもまた組織の…帝国華撃団の一員だったな)
腐っても鯛…という表現は失礼だろうが、普段はただの劇場の一職員でしかないこの三人だが、有事におけるこの切り替えは見事としか言いようがなかった。そして、ソーンバルケの脳裏にここまでくる間に確認してきた面々の姿が浮かぶ。
普通ならばもっと混乱や動揺していてもおかしくない状況であるのだが、自分が考えているより余程そういった人員は少なかった。
(それもこれも当然と言えば当然のことか…)
実際のところはどうかわからない。ここの職員のどのぐらいが帝劇の一員であり、尚且つ帝撃の一員であるのかはソーンバルケにはわからないところだった。だがそれでも、自分が知っている関係者以外は全員帝撃と全くの無関係などということはないだろう。平時には普通でも、有事には組織の一員としての顔を見せるのはやはり流石と言わざるを得なかった。
(…余計なお世話だったかもしれないな)
口元で自嘲すると、ソーンバルケはその身を翻す。
「ソーン?」
「何処に行くんですか?」
「あらかたは見回ったが、また少し見ていない場所があるのでな。そこを確認してくる」
「そうですか。お気をつけて」
「ああ」
自分が考えていたより余程しっかりしていた三人娘に見送られ、ソーンバルケは事務局を辞したのだった。
「! おい!」
屋根裏部屋。まさかこんなところには誰もいないだろうと思って後回しにしていたソーンバルケは、そこに倒れている人影を見て慌てて駆け寄った。抱きかかえて起こしてみると、
「う…うう…」
それは苦しそうな表情で呻いているあやめの姿だった。
「藤枝女史!」
ペチペチと頬を軽く叩いてみたが、あやめの状況は変わらない。苦しそうに呻いているだけだ。と、頬に触れた感触に気付いたのか、あやめがうっすらと目を開ける。
「…ソーン?」
「ああ」
まずはあやめが気が付いたことにホッと一息ついたソーンバルケは、次に状況の確認を行う。
「どうしたんだ? 襲撃で怪我でもしたのか?」
「いいえ…。ただ、少し気分が悪くなって…」
「そうか。怪我をしているわけではないのだな?」
「ええ…」
(であれば、まずは重畳といったところか…)
そのことに重ねてホッとしたソーンバルケがあやめを抱きかかえた。俗に言う、お姫様抱っこの格好である。
「ここからならお前の私室が近い。そこへ連れていくぞ」
「ありがとう…。迷惑をかけて申し訳ないけど、よろしくね…」
「なんの」
こんな弱々しいあやめを見るのは初めてだと心配しながら、ソーンバルケはあやめを抱きかかえてあやめの私室へと向かったのだった。
「少しは楽になったか?」
「ええ、ありがとう…」
傍らに腰を下ろしているソーンバルケにそう答えると、あやめが軽く微笑んだ。だがそれが無理しているものだとわかってしまい、ソーンバルケの心がチクリと痛んだ。
(こんな時ぐらい素直になればいいものを…)
立場がそれを許してくれないのだろうか、それとも弱い一面を見せるのが嫌なのだろうか、誰が見ても状態が悪いのが継続しているのを否定したあやめの姿は見ていて気持ちのいいものではなかった。
「藤枝女史…」
「大丈夫…だから」
もう一度声をかけたが、それでも返ってくる返答は同じ。そのことに少し腹が立ちかけたソーンバルケだったが、自分も同じ立場だったら同じ反応をするだろうなと思い、これ以上追及するのはやめたのだった。
(成る程、我ながら度し難いものだ…)
あやめの姿が自分の写し鏡を見ているようで、ソーンバルケは自嘲気味に口元で笑ってしまった。
「それよりソーン、敵は?」
自分の状態を後回しにして敵襲を気にかける。この辺りはさすがに帝撃の副司令といったところだろう。
「さあな。だが、花組は全員出撃した。それを考えれば後れを取ることはないと思うが」
「そう…」
その報告を聞いてほっと一息ついたあやめだったが、すぐに残念そうな表情になってソーンバルケを見た。
「何だ?」
何か言いたいことがあるのがその表情からわかったソーンバルケがあやめに尋ねる。
「あなたは…出てくれなかったのね」
(それか…)
戦力として数えているソーンバルケがここにいることに少なからず不満だったのだろう。なので、ソーンバルケは正直にそのことについて説明する。
「仕方ないだろう。今回の戦場は地下だ。地下ではあるが屋内ということでただでさえ戦場が限定されているのに、そこを生身の私がチョロチョロ動き回るわけにもいくまい。狭い屋内では邪魔になるし、他の連中も気が散るだろう」
「そうか…それじゃあ、仕方ないわね」
「ああ。…もっとも、私の光武…霊子甲冑があるなら話は変わってくるが、残念ながら私は…」
「わかっているわ…。ごめんなさい、無理なことを言ってしまって」
「いや、いいんだ」
ソーンバルケが首を左右に振った。
「現状、私が役立たずなのは間違いのないことなのだからな」
「そんなこと言わないで」
あやめがソーンバルケの手に自分の手を重ねた。
「藤枝女史?」
その行動に驚きを隠せず、ソーンバルケがあやめに視線を移す。
「今さっきあんなことを言った私が言えた義理じゃないけど、あなたは十分花組の一員として力を貸してくれてるわ。皆、表立ってそんなことは言わないかもしれないけどね。マリアやすみれだって」
「…気づいていたのか」
「ええ」
あやめが頷いた。
「他の四人はともかく、あの二人とはどうも空気感が微妙だったから…。大方、まだあなたのことを警戒していたのでしょう?」
「流石に鋭いな…」
「それはね。長い付き合いだもの。でも、そんな二人も最近はずいぶんあなたに対する角が取れてきたようにも見えたわ。あなたもわかっているんじゃなくって?」
「まあ、な」
ぎこちないながらも頷くソーンバルケ。すみれは深川の一件があってから大分険も取れたようだし、マリアもソーンバルケの普段の態度をある程度の期間目の当たりにし、その行動に裏はないと思い始めているのだろう。最近はずいぶんと当たりも柔らかくなっていた。
「だから、自分のことを役立たずなんて言わないでよ」
「…すまない」
嬉しい言葉ではあるのだが、どうにもこういう雰囲気には慣れていないソーンバルケは無難な返答をしてお茶を濁すことしかできなかった。それがわかっているからだろうか、あやめは弱々しいが仕方ないなぁといった感じに微笑む。それはいつも、大神に見せるような笑みだった。
「もう大丈夫だから」
そして、あやめはそう続ける。
「とりあえずもう少し横になるけど、今言ったようにもう大丈夫だから。だから、あなたはあの子たちのところに行ってあげてちょうだい」
「しかし、さっきも言ったが私は…」
「ええ、わかってる。何も戦闘に参加しろっていうわけじゃないわ。ただ、音だけでも何かが起こっているか、もう終わったかはある程度わかるじゃない? あの子たちの邪魔にならず、あなたに身の危険が及ばない程度に様子を探ってきてほしいのよ」
「そういうことであれば…」
ソーンバルケが腰を浮かせ身を翻したが、すぐに立ち止まると振り返る。
「?」
どうしたのかしらと不思議に思って見上げたあやめに、
「本当にもう大丈夫なのだろうな?」
念を押すようにそう、ソーンバルケが尋ねてきた。まるで父親みたいねと思わずそんなことを考えてしまったあやめはクスッと微笑み、
「ええ」
と、頷いて返した。
「そうか。では、その言葉を信じよう。私がいては休むにも休めないだろうからな」
「そういうわけじゃないけど…」
「わかっているさ。やつらの状況を確認しないとな」
「ええ。お願いね」
「ああ」
軽く頷くとソーンバルケは今度こそあやめの部屋を辞していった。
「ふぅ…」
ソーンバルケが自室を出て行ってから少し後、あやめは大きく息を吐いた。そして横たわりながらゆっくりと目を閉じる。だがそれは、眠るためではない。
(あれは…何?)
考え事をするためだった。それはここ最近、何度か夢で見る不思議な感覚。
(暗闇から、誰かが私を呼んでいる。その姿の見えない誰かが私に向かって手を差し伸べている。それはとても懐かしく、そして愛おしいのだけれど、その手を握ってしまったら、もう戻ってこれない…。でも、失いたくない。そんな逡巡をしている間に目が覚めてしまう…)
そして、その夢を見た後は決まって体調が悪くなってしまうのだ。先ほど倒れたのも、このことが原因だった。
(何なの、あれは…)
言いようのない不安があやめを襲う。それを拭い去ろう、そして静養を取ろうと努めるのだが、そうしてしまうとまたあの夢を見るかもしれない。その不安があやめに簡単に休むことを許さず、結局はただの小休止で終わることになってしまうのだった。
(さて…)
地下、格納庫入り口付近。あやめに頼まれたとおり、花組と黒之巣会との戦いがどうなっているかソーンバルケは確認しに来ていた。が、地下からは音が聞こえてこない。
(どうやら終わったようだな…)
その状況にそう判断するソーンバルケ。後は、どんな形で終わったか…なのだが。
(まさかやられているとは思わないが…)
しかし、万に一つということもある。それを確認すべく地下に降りたソーンバルケは戦場となったであろう格納庫へと向かった。が、その途上だった。
『お~っほほほほほほほ!』
不気味な女の笑い声がどこからか木霊した。
(この声…確か、ミロクとか言ったか)
深川で姿こそ見ることはかなわなかったが、声だけは聞いていたので思い出したソーンバルケは足を止め周囲を見渡した。だが、その姿は確認できない。
一体何処から…などと思っていると、
『ほほほほ! これで勝ったなんて思わないことね』
更にミロクの声が響き渡る。その内容を聞き、ああ、勝ったのだなということがわかってとりあえずソーンバルケはホッとしていた。が、その捨て台詞は気になるところではある。そして、その危惧は杞憂では終わらなかった。
同時刻、日比谷公園。
「完成だ…フフフ…」
あの楔を前に、叉丹が薄く笑っていた。そして、
「おお、やりおったな叉丹! ついに最後の地脈を押さえたか!」
それを感じ取った天海が満足げに頷く。黒之巣会の最初の目的が達せられたのだ。すなわちミロクが陽動をし、その間に叉丹が地脈に楔を打つという寸法である。単純ではあるが花組が戦力を二手に分けられない以上、効果は覿面といってよかった。
「時はきた! 天よ吠えろ! 地よ叫べ! 偉大なる支配者の復活を祝うのろしを上げるのだ!」
天海に呼応するかのように魔方陣…『六破星降魔陣』が発動する。それは先ほど、作戦指令室において米田たちから大神が説明を受けたものと同じ形だった。直後、帝都を大きな地震が襲い始める。
「! これは!」
突如発生した地震にソーンバルケは戸惑いながらもとりあえず花組の許へと向かった。花組も突如として起こった地震に悲鳴を上げている。
「おほほほほほほ…」
その帝都の状況に、六破星降魔陣が発動したことを理解したミロクが高らかに笑い声をあげた。
「やった、やったぞ! 天海様の勝利だ。わらわも嬉しゅうございますぞ」
実に気持ちよく勝利の高笑いを上げるミロク。だが直後、その足元に亀裂が入り崩落した。
「ああーっ!」
ミロクは崩落した足場ごと深い地の底に飲み込まれていった。まるで六破星降魔陣復活の生贄のように。だが天海はそんなことなどわかるわけもなく、遂に完成した六破星降魔陣の力に酔いしれていた。いや、もう六破星降魔陣がなってしまったので用済みだったのかもしれない。今の天海の頭の中にはミロクのことなど片隅にも残っていないのだ。
「おお、何という力だ! 素晴らしい力! 我らの理想が再び復活するのだ!」
その天海の身勝手な願望を証明するかのように帝都のあちこちが崩壊を始める。大地は波打ち、建造物は軒並み崩壊し、そしてまばゆい光に包まれた帝都は一瞬のうちにそのほとんどが瓦礫となって灰燼と化したのだった。直後、
「きゃああああっ!」
さくらが頭を押さえ、突然絹を裂くような悲鳴を上げて倒れたしまった。
(! 今のは!?)
それはソーンバルケにも聞こえたため、急いでその悲鳴のした場所へ駆けつける。幸いにしてもう揺れは収まっていたので問題なく辿り着くことができた。
「さくらくん!?」
大神がさくらに駆け寄ったのとほぼ同時に、ソーンバルケが格納庫へと入ってきた。
「あ、ソーンはん!」
一番最初にそれに気が付いたのは紅蘭だった。さくらを除く全員が振り返る中、ソーンバルケは足早にさくらの許へと向かう。
「大神」
「ソーン」
「無事で何より」
「ああ、何とかね」
お互いの無事を確認しあった二人はすぐにさくらに視線を落とした。その頃にはさくらの許に花組の全員が集まっていた。
「さくらはどうしたんだ?」
「わからない…」
大神が抱きかかえたが、さくらは気を失ってしまっているのかピクリとも動かなかった。
「さくらくん! どうしたんだ、さくらくんっ!」
軽く揺すったり、頬をペチペチと叩いてみるもののさくらが目を覚ます様子は一向に見られない。脈もあり、呼吸もしているので生命に別条はなさそうだが、安心できる点はそれだけだった。
「とにかく、ここではどうしようもない。しかるべきところに運ぶぞ」
「そうだな、わかった」
大神が一旦さくらから手を離すと、背負う形にして立ち上がりそそくさと歩き出した。その後を他の花組隊員たちが追い、殿をソーンバルケが担う。
(どうにも…碌でもないことになったようだな)
テリウスでも何度か感じたことのある嫌な予感に身を焦がしながら、ソーンバルケは花組と共に上へと向かったのだった。
「フ…これが、六破星降魔陣か…」
日比谷公園近くにて、黒之巣会の死天王最後の一人となった黒き叉丹が崩壊した帝都を見下ろしながら薄く笑う。そして…
「……」
そのままとある場所へと目を向けた。そこにあるのは大帝国劇場。叉丹はそれをジッと見ていた。その視線に映るのはは大帝国劇場か、それとも…。
それは、本人である叉丹しかわかりえぬことであった。