サクラ大戦 剣聖の新たな道   作: ノーリ

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おはようございます。前回の続き、今回は対天海戦です。一つの節目ですね。どのようになったかは本文をご確認ください。

では、どうぞ。


NO.22 決着

「帝国華撃団、参上!」

 

日本橋。目標地点とする場に花組が下りたつ。そこには元からあったのか、それとも六破星降魔陣の影響で現れたのかはわからないが、不気味な佇まいの門のようなものがあった。

 

「いつの間にこんなものが…」

 

大神のその呟きからして、突然現れたのだろう。だが、それをのんびりと誰何している暇はない。花組の後ろには無数の脇侍が迫ってきているからだ。

 

「隊長!」

「わかっている…」

『では、手筈通りに』

 

外から聞こえた声にモニターを向けると、そこにはソーンバルケの姿があった。勿論生身である。

 

「ソーン…」

『今更問答は無しだぞ、大神。さっさと行け』

「でも、やはり…」

 

大神の表情が曇る。それは先ほどの翔鯨丸内でのやり取りが原因だった。

 

 

 

『見えたわ!』

 

日本橋近郊空域。あやめが目標を捉えて報告した。花組がそちらへと目を向けると、そこにはいかにもな感じの門がそびえたっている。

 

『何だ、ありゃ!?』

『あんなもん、見たことないで!?』

 

カンナと紅蘭のツッコミも無理からぬこと。他の面々も見たことがないものだったからだ。ただし、米田とあやめの表情は厳しい。

 

『長官、まさかあれが…』

『ああ。…五年前とまったく変わりゃしねえ。ったく、二度と拝みたくなかったってのによぉ…』

 

厳しい表情のまま米田が舌打ちした。そうする間にも彼我の距離は詰められてきているが、同時に新たな問題も発生していた。

 

『すごい数ですわね…』

 

すみれが呆れたように呟いたのは、その門を守るかのように配置されている魔操機兵のことである。先ほど叉丹のところを撤退したときのように、雲霞のごとき数が配置されていたのだ。

 

『さしずめ、門番ってところですか…』

『そうだな』

『ねーねー、お兄ちゃん。どうするの?』

『う、ん…』

 

アイリスに尋ねられ、大神が考え込む。

 

(全員で突破するのが最善とは思うが、そうするとあの脇侍たちに追撃される。その抑え用に部隊を分ければ、突撃時の戦力が落ちてしまう。どちらをとっても痛し痒しだな…)

 

どうにか、その両方を補える策がないものかと思うが、そんな名案がポンポン出てくれば苦労はない。だが、救いの手は思わぬところから現れた。

 

『ふむ。ならば露払いは私が務めよう』

『え?』

 

こともなげにそう言ったのはやはりというか、当然というかソーンバルケだった。そしてその口調のまま、ソーンバルケが平然と続ける。

 

『私があの雑魚どもを抑えよう。お前たちはその間に、親玉の首を取ってこい』

『そんな! あかんて!』

 

ソーンバルケの無茶といえば無茶な作戦に真っ先に反対の意を示したのは紅蘭だった。

 

『いくら何でも無茶だぜ!』

 

カンナも追随する。だが、ソーンバルケは表情を崩したりしない。

 

『だが、全員で突入すればあの数が追ってくる。とは言え、戦力を裂けばそれだけ戦力ダウンになってしまう。どちらも状況的には避けたい。…違うか、隊長さん?』

『いや…』

 

ソーンバルケの意見に大神が首を左右に振った。

 

『その通りだよ』

『だろう? だから私があの雑魚どもを抑えようと言っているのだ。そうすれば、お前たちは一丸となって攻め込める』

『理屈はわかりますけど…』

 

それでも感情では納得しきれていないようで、さくらはムッとしているような悲しんでいるような複雑な表情を浮かべた。

 

『…できるの?』

『『できませんでした』じゃ、許されない話ですのよ?』

 

マリアとすみれはまた違う観点からソーンバルケに尋ねる。二人は可能ならば賛成というスタンスのようだ。そこらへんはまだ、ソーンバルケに対する各人の距離感の違いがあるようだった。

 

『無論、私だけが働くつもりはない。司令殿と副司令殿にもお付き合い願うさ』

 

そこでソーンバルケが米田とあやめに水を向け、なぁ? と二人に尋ねた。

 

『ああ、やってやるよ』

『力の及ぶ限りはね』

『ということだ。…さあ、どうする、隊長殿?』

 

ソーンバルケが大神に判断を委ねた。花組の視線も大神に移る。

 

『よし…』

 

そして、大神は肚を決めたのだった。

 

 

 

「三度は言わんぞ、行け」

 

腰に佩いたヴァーグ・カティを抜き、ソーンバルケは脇侍の集団に正対した。

 

「…本当に、大丈夫なんだろうね?」

 

念を押すように大神が尋ねる。

 

「それは私のことか? それとも、ここを抑えきることかな?」

「その両方だ」

「正直なことだ」

 

ソーンバルケが一瞬だけ苦笑したが、すぐに真面目な表情に戻った。

 

「まあ、心配するな。私とてあの数を相手に捌き切れるとは思ってはいない。いずれは突破を許すことにもなろう。だが、そこまでの時間稼ぎはできる。それに先ほども言ったが、私一人が苦労するわけではないからな」

 

そこでソーンバルケはチラリと上空に目を向けた。そこには、艦砲射撃の用意を整えている翔鯨丸の姿があった。

 

「どうにも支えきれなくなったら大人しく退く。だがそれまでは、存分にあがくまでのことだ」

「…わかった」

 

ソーンバルケの覚悟に大神も覚悟を決めた。ふーっと一回大きく息を吐き、隊員たちに命令を下す。

 

「花組総員、俺に続け! 天海を倒すぞ!」

『了解!』

 

先頭を切って門に突撃した大神の後に花組が続く。最後、さくらが門をくぐる前にちらりとソーンバルケを見たが、すぐに大神の後を追ったのだった。

 

 

 

「行ったか…」

 

花組を見送り、ソーンバルケは首を戻す。正面にはこちらに向かってくる、無数の脇侍の姿があった。

 

「さて、では始めるか」

 

ヴァーグ・カティを構えると、その大量の脇侍たちと相対する。

 

「ま、やれるところまで頑張ってみるさ。あいつらのためにもな」

 

そう呟いたソーンバルケの顔は、今までにないほどに楽しそうな表情になっていたのだった。

 

 

 

 

 

「なんだ、ここは!?」

 

門から突入した花組は暫く移動した後、不意に開けたところに出た。その空間は自然にできたものではなく、明らかに何らかの手が入っている。

 

「日本橋の地下にこんな地下空洞があったなんて…」

「なんて悪趣味な場所なんですの!」

「ここが本拠地かい、腕が鳴るねぇ!」

 

さくら、カンナ、すみれがこの場所についての感想を好き勝手に述べ、

 

「ん? 先に何かあるで?」

「なにあれぇ~っ! いや~ん、気持ち悪い!」

「隊長、奥に怪しい建造物があります!」

 

紅蘭、アイリス、マリアはこの空間に配されているものについての意見を述べていた。

 

「建造物もそうだが、奥に扉があるな…」

 

大神が目ざとくそれを見つけて呟いた。扉というよりは実際には先に続く洞窟と言った方が正しいが、その入り口は光る格子のようなもので塞がれており、このままでは先に進みようがなかった。

 

「あの中に天海がいるのか…? しかし、何か邪悪な力で封印されているようだ。どうやったら開くのだろう?」

「隊長、まずはあの怪しい建造物を破壊してみましょう」

 

マリアが、自分が気になったいかにもな建造物に対する進言を述べた。

 

「扉前に一つ。坂下と坂上部分に各一つずつ。あの扉を開く手掛かりになるかもしれません」

「そうだな。よしみんな、まずはあの建造物を破壊だ! 随分頑丈そうだが、ドアの部分が弱点のようだ。建造物のドア部分を狙うぞ!」

『了解!』

 

天海に向かうべき道を確保するため、花組はとりあえずその怪しい建造物を破壊することにしたのだった。一方その頃、

 

 

 

「フッ!」

 

ソーンバルケがヴァーグ・カティを薙いで脇侍を両断する。両断された脇侍は爆発し、そのときにはもうソーンバルケは別の脇侍を斬り捨てていた。

そうして続けざまに五体ほどの脇侍を破壊する。だが、

 

「全く…次から次へと…」

 

雲霞のごとく湧いて出る脇侍に辟易としながらソーンバルケは息を整えた。周囲の敵はとりあえず一掃したため、それができる余裕もあったのである。しかし、それはあくまでもとりあえずに過ぎなかった。少しすればまた脇侍が四方八方から襲ってくるだろう。

 

「泣き言を言っている暇はないな」

 

ソーンバルケはそのまま家屋の陰に隠れる。戦地が日本橋ということで遮蔽物になる家屋が多く、それがソーンバルケにとっては好材料だった。大多数体一人のかくれんぼのようなものである。無論、鬼は向こうだがこちらは一人。これだけ遮蔽物があれば探し出すのは容易なことではない。その隙をついて脇侍を斬っていくのだから、ある意味非常にソーンバルケに向いている戦場だった。尚且つ、翔鯨丸の艦砲射撃の援護もある。

流石にソーンバルケに被弾したら取り返しがつかないため、その近くに着弾させるわけにはいかないが、少し離れた距離で効果的な艦砲射撃をしてくれているおかげで効率的に敵を分断できていた。弾薬の関係もありこのまま押し切れるわけではないのはわかっているが、それでも数が減るのは大きな援護である。尚且つ、六破星降魔陣の影響からか住民などは避難しており、人影は皆無。それはつまり、人的被害を考慮に入れなくていいので無茶ができるということであった。翔鯨丸が市街地だというのに艦砲射撃でソーンバルケを援護できているのもその事実が大きい。とは言え、

 

(押し切るのはどう考えても無理な話だがな…)

 

冷静にそう判断もしていた。今までは上手くいっていたが、何しろ彼我の戦力差は膨大なのだ。いずれ必ず持ちこたえられなくなる時はくる。が、それは仕方ないとソーンバルケも米田もあやめも割り切っていた。元から勝てるだけの戦力差ではないのだ。ソーンバルケたちの一番の目的は時間稼ぎである。稼げるだけ稼いで、これ以上無理とみたら撤退するだけだった。

 

(それまでは頑張るさ。だから、そっちも頑張れよ、帝国華撃団)

 

物陰から躍り出てまた脇侍を斬り捨てたソーンバルケは、門の奥に行った僚友たちに心中でエールを送ったのだった。

 

 

 

「これで…最後だ!」

 

門の外でソーンバルケや米田たちが時間稼ぎに奮闘している頃、大神が最後の建造物を破壊したところだった。流石にここまで戦い抜いてきたことと、大神の指揮の賜もあり花組には被害らしい被害はない。

 

「どうだ!?」

 

建造物をすべて破壊したことにより、全員の注意が扉に向かう。と、何度か怪しい閃光が辺りに瞬いた。

 

「…なんだ!?」

 

驚いていると、扉を封じていた格子のような物体が順々に消えていき、そして少し後には全てなくなっていたのであった。

 

「よし! 乗り込むぞ!」

 

進路が確保できた花組はその先を目指し、開いた扉を進んでいく。そしてしばらく進んだ先に、一つの人影が浮かんでいた。

 

「よくぞここまで…辿り着くことができたな…ほめてつかわそう…」

 

その人影が花組を睥睨すると不遜な態度でそう告げた。

 

「黒之巣会首領、天海…!」

 

その人影を睨みつけ、大神がギリッと歯ぎしりをする。そして、その両手に持つ二振りの刀のうちの一振りをその人影…天海に突き付けた。

 

「帝都の…いや、この地上の全ての善なる者になりかわり、貴様の生命…ここでもらい受ける!」

「こざかしい! 百年…早いわっ!」

 

大神を真正面から睨みつけると天海は大喝するようにそう宣言する。直後、天海の周囲を無数の閃光が包んだ。そしてその閃光が消えたとき、天海の姿はなく、そこには金色の魔操機兵の姿があったのだった。

 

「かァァァァァァァっ!」

 

戦闘モードに入った天海の魔操機兵…その名も『天照』が重々しく起動し始めたのだった。と同時に、

 

「魔界を統べる大いなる者たちよ! 草木を焼き払い、大地を割り、天空を引き裂く力を…我に与えたまえぇ~っ!」

 

天海が呪を唱え始める。すると、その足元に小型の六破星降魔陣が浮かび上がり、それに呼応するかのように周囲の大気が震動しだす。

 

「見るがいい! 我が力をォォォォ!」

 

天海の天照がそのパワーを増したように身震いする。それと同時に、花組の周囲に魔操機兵が召喚されたのだった。

 

「イヤァ…」

 

花組の中でも一際霊力の高いアイリスが天海の霊力に中てられたのか、露骨な拒否反応を示した。

 

「素晴らしい!」

 

そんな華撃団などもはや眼中にないとでもいうのだろうか、天海が悦に入った表情でそう呟いた。

 

「全身にとめどない力が満ちてくるようだ! 行くぞ、帝国華撃団! ウォォォォォォッ!」

 

天地が裂けるような咆哮と共に天海が花組を見据える。が、花組には引き下がるような様子はない。

 

「こざかしい! 千~年…早いわっ!」

 

数字が十倍になり、ここに帝国華撃団・花組と黒之巣会首領・天海との決戦の幕が開いたのであった。

 

 

 

「天海に総攻撃…と言いたいところだが、周囲の敵を無視していたら余計な被害は免れないな」

 

天海が召喚した魔操機兵たちの姿に、大神が舌打ちをした。

 

『ですが隊長、こいつらに構っていて天海にやられたら元も子もありません!』

「わかっている。よし、二手に分かれるぞ。カンナとマリア、俺と一緒に天海を抑えてくれ!」

『了解!』

『任せな!』

 

指名を受けた二人からの快諾に一人頷くと、大神は残りの隊員にも指示を出す。

 

「さくらくん、すみれくん、紅蘭は周囲の魔操機兵の殲滅を! アイリスはさくらくんたちを援護しながら、俺の指示に従って回復に回ってくれ!」

『はい!』

『承知しましたわ!』

『任しとき!』

『わかったよ!』

 

作戦が決定し、花組が散る。

 

「それじゃ行くぞ、二人とも!」

『はい!』

 

最初に動いたのはマリアだった。挨拶代わりとばかりに銃弾をお見舞いする。が、

 

「ふん」

 

天海は嘲笑してマリアの銃弾を正面から受け止める。多少は装甲にダメージを受けたものの、それはまさしく取るにも足らないほどのものだった。

 

「ぬるいわ!」

 

天海が腕を振り上げてマリアに襲い掛かろうとするが、

 

「そうは行くかよ!」

 

カンナが天海の右から回り込んで得意の正拳突きから右回し蹴りをお見舞いする。

 

「ぬぅ!」

 

先ほどのマリアと同じくダメージはそうでもないのだろうが、流石に近接戦闘能力では花組一のカンナの拳打だけあって、天海の足を止めるのには十分だった。天照の機体がぐらつき、バランスを崩す。

 

「おのれ!」

 

天海が標的をマリアからカンナに変更した矢先、大神が死角から斬りかかった。

 

「はあああああっ!」

 

裂帛の気合と共に二刀の刀を振り下ろす大神。その刀は確かに天照の装甲を切り裂いたものの深部に至るまでにはいかず、マリアの銃弾と同じ取るに足らないほどの刀傷だった。

 

「ちいっ!」

 

少しは予想していたものの、有効打にはまるでいたらない状況に歯噛みをし、大神は瞬時に距離をとった。その左右を、マリアとカンナが固める。

 

「予想はしていたが、やはり強い!」

「ええ、大した装甲です」

「あたいの拳打をくらっても、グラついただけだしな」

 

マリアとカンナが辟易した表情を浮かべる。そんな三人の感想通り、天海の天照は多少の傷を負ったもののビクともしていなかった。

 

「今度はこちらから行くぞ!」

 

そして、天海が動き出す。

 

「二人とも、気を抜くなよ! 今の俺たちはあくまでも抑え役。勝負はさくらくんたちが合流してからだ!」

「はい!」

「おうよ!」

 

大神たちは油断なく構えると、再び天海に襲い掛かったのだった。

 

 

 

「さて皆さん、こちらも行きますわよ!」

「はい!」

「よっしゃ!」

「オッケー!」

 

すみれの号令にさくらたちが答えた。誰が指揮を執る…というのを事前に決めていたわけではないだろうが、役回りというか普段の立場みたいなものから自然とこうなったのだろう。それに異議を唱えるような者もこの三人の中にはいなかった。

 

「ではさくらさん、あなたには左側の敵をお願いしますわ。わたくしは右側の敵にあたります」

「はい」

「まさかとは思いますけど、一対一の戦いで遅れは取りませんわよね?」

「ご心配なく! すみれさんこそ足引っ張らないでくださいね!」

「ま、生意気な。まあここは、抑えてあげましょう。紅蘭、あなたは状況を見てわたくしかさくらさん、どちらかの支援をしてくださいな」

「任しとき!」

「ねーねー、すみれ。アイリスは?」

「あなたはさくらさんについてなさいな。わたくしとの実力差を考えれば、さくらさんの方が劣りますからね」

「…聞き捨てなりませんね」

 

さくらがジト目ですみれを見たが、すみれがそんなものを意に介するわけがない。それにすみれも半分は今言った言葉通りの意味だが、もう半分は病み上がりのさくらを心配し、無理をさせないという思いが働いたからというのもある。とは言え、それはもちろん無意識のことなのではあるが。

 

「文句あるのでしたら、働きで示してみなさいな!」

「っ! わかりましたよ!」

 

すみれにたきつけられる形でさくらが天海の召喚した魔操機兵『近衛』へと襲い掛かった。が、その軌道が一直線で読みやすかったのか、さくらの斬撃は近衛に阻まれる。

 

「えっ!?」

 

相手をみくびっていたのか、予想外の結果にさくらが止まってしまった。その隙を逃さじと、近衛が刀を横に薙ぐ。

 

「くっ!」

 

さくらが慌ててそれをガードしたが、体勢が中途半端だったからかよろけてしまった。そのさくらに更に連撃を与えようと近衛が大上段に刀を振り上げたが、横からの小型ミサイルの攻撃でその近衛が吹っ飛んで爆散する。

 

「真正面から正直にいきすぎやで、さくらはん」

 

人差し指を立てて左右に動かしながらチッチッチッと口を鳴らした紅蘭がニカッと笑った。

 

「ありがとう、紅蘭」

「大丈夫、さくら?」

「ええ」

 

心配してやってきてくれたアイリスの手を取り、さくらが立ち上がった。

 

「まだまだですわね」

 

すみれが得物の薙刀を近衛から抜き取り、その近衛が爆散する。そして、腰に手を当てるとわざとらしくふぅ…と溜め息をついた。

 

「イノシシはカンナさんだけで十分ですのよ?」

 

本人が聞いていたら誰がイノシシだこらぁ!? と食って掛かるセリフだが、そこは大一番の決戦ということですみれも考えているのかカンナに通信を開くようなマネはしない。ムッとするさくらだが、直後にすみれの背後で爆発が起こった。

 

「! な、何!?」

 

慌ててすみれが振り返ると、すみれの背後には脚部をやられて歩行不能になっている近衛の姿があった。それだけで何が起こったのかを察知したすみれは倒れているその近衛に薙刀を突き立てる。すみれの足元に這いつくばっていた近衛は少しの間手足をじたばたさせていたが、やがてその挙動も停止した。

 

「油断大敵、やで、すみれはん」

「こ、紅蘭…」

 

先ほどさくらに向けたのと同じ快活な笑みを浮かべる紅蘭。呆然とするそのすみれに、今度はさくらが通信を送った。

 

「すみれさんも人のこと言えないじゃないですか」

「! 何ですってぇ!」

「もー、ケンカはやめなよ!」

 

一番幼いアイリスに諭されたさくらとすみれが不満そうな顔で同時にフンッと顔を逸らした。

 

「ええでええで、大分うちららしくなってきたやないの」

 

この空間の雰囲気や天海の能力に呑まれていたからかいつになく緊張感があってピリピリしていた花組だったが、このやり取りのおかげで大分そんな固さも抜けていた。

 

「さくらはんが油断してくれたおかげかな?」

「もう、やめてってば、紅蘭」

「全くです、少しは気を付けなさいな」

「あんたもやで、すみれはん」

「! あ、あれは!」

「ほな、行こか。気合入れなあかんで」

「はーい」

「ちょっと、それはわたくしの役目ですのよ!」

 

いつの間にか指揮官ポジションを取って代わられたすみれが不満を口に出しながらも右側の近衛に向かっていく。さくらも左側の近衛に向かい、その二人を組方支援する形で紅蘭とアイリスも再び動き出したのだった。

 

 

 

「これで、終わり!」

 

さくらが天海の召喚した最後の近衛を斬り捨てた。

 

「敵魔操機兵、全機破壊!」

「すぐに少尉たちに合流しますわよ!」

「ええ!」

「オッケーや!」

 

すみれの指示に従って大神たちの元へと急ぐさくらたち。近衛の数が大分減ってきた頃合いを見計らい、戦場の状況を確認して一足先にアイリスを大神たちの元へ行かせていた。

何しろ、アイリスは花組の中でも貴重な回復役。その能力を失うわけにはいかなかったし、何より一体多数とは言え、損傷の度合いでは天海を相手にしている大神たちの方が絶対に不味い状況だと思ったからだ。それは、合流した直後であろうアイリスの悲鳴からでもわかっていた。そのため、さくらたち三人は逸る心を抑えながらも自分たちの任務を片付けることにまずは専心し、そしてようやくすべての近衛を倒して大神たちの元へ向かえることになったのである。

 

「大神さん!」

「カンナさん、くたばってませんわよね!?」

「マリアはん、どないや!?」

 

ほぼ同時に大神たちの元にたどり着いたさくら、すみれ、紅蘭がそれぞれ通信を入れた。

 

「さくらくん、無事か!?」

「ふざけたこと言ってんじゃねえぞ、ずみれ!」

「紅蘭。…ええ、何とか大丈夫よ」

 

それぞれ通信が返ってきたことにホッとした三人。だが、それぞれの光武の装甲を見て思わず絶句してしまっていた。光武の装甲はところどころへこんでおり、斬り裂かれていたからである。

 

「! 光武の装甲がここまで!」

「アイリス! あなた何やってたんですの!?」

「アイリス、ちゃんとやったもん!」

「それで…この有様!?」

 

いかに天海の攻撃が凄まじいものだったかを今更ながらに理解した三人が背筋を凍らせてゾッとした。

 

「ほぅ…あやつらを蹴散らしたか」

 

直後、天海の声が響き渡り、花組は瞬時に天海から距離を取りフォーメーションを組んだ。だが、天海はそれを気にする様子もなく楽しげに笑う。

 

「少しはできるようだな」

「ここからは、私たちも相手になるわ!」

「今までとは一味も二味も違いましてよ?」

「うちの大事な子たちに傷つけおって…許さへんで!」

「ベーっだ!」

 

合流したさくらたちがそれぞれ天海に宣戦を布告する。

 

「ごちゃごちゃとうるさい小娘たちだ。まとめて地獄に送ってやるから、さっさとかかってこい!」

「望むところ!」

 

さくらが天海の挑発(天海としては挑発のつもりはないかもしれないが)にまた正面切って斬りかかろうとするが、

 

「やめろ!」

 

突如入った大神からの通信に身体をわずかにビクッと振るわせて、立ち止まった。

 

「お、大神さん?」

「落ち着け、さくらくん。きみ一人突出してどうなる。やっと全員が集結したんだ、ここは全員の力を合わせて戦うんだ」

「隊長の言う通りよ。落ち着きなさいな、さくら」

「す、すみません」

 

マリアにも諭されてさくらが頭を下げる。諭されてみれば当然のことだが、大神たちの惨状に頭に血が上っていたのだろう。

だが、かく言う大神も内心は忸怩たる思いで一杯だった。いくらさくらたちが合流するまで抑えるだけとはいえ、三対一で当たってこの惨状なのだ。無論、相手は敵の首領、天海であるが、それでもここまでやられるとは思わなかったのだ。

 

(流石は腐っても黒之巣会の首領というわけか…)

 

眼前に悠然と立ちはだかる天海を見据え、しかし後退や退却の選択などあるわけもなく、大神が命令を下す。

 

「ここまでくればもう小細工はなしだ、一気に攻めるぞ! マリアと紅蘭は後方からの援護! 俺は真正面から攻め込む! 左はすみれくん、右はカンナ、背後からはさくらくん!」

 

そう指示を出しながら、大神はさくらに続けざまに指示を出す。

 

「さくらくん、ヤツの背後をとれるか?」

「やってみます!」

「頼む。マリア、紅蘭、俺たちのことはいい、さくらくんが背後をとれるように援護を頼む!」

「了解!」

「はいな!」

「お兄ちゃん、アイリスは?」

「アイリスは、もし誰かがやられたときにその光武を回復してくれるかい?」

「うん、まっかせて!」

 

アイリスの快活な返事に今の状況を忘れてフッと微笑む。だが、それもほんの一瞬。

 

「作戦開始!」

『了解!』

 

天海を倒すべく花組は最後の戦いに挑むのだった。

 

「ぬ!」

 

大神の作戦通りに散開した花組の動きは、、当然天海にも知れることになる。そしてその動きで、天海は大神の作戦を読んだ。

 

「我を包み込むつもりか! こざかしいわ!」

 

天海が正面を向いたまま高速で後ずさりをする。恐らくこのまま背後を壁か何かにくっつけてしまおうというのだろう。こうすれば少なくとも背後からの攻撃は防げる。できればこの空間の四隅のどれかに迎えればさらに左か右は防げるので尚よかったのだが、自分と花組の位置関係からそれができるポジショニングではないことを悟り、諦めたのだった。そこに、

 

「甘いわ!」

 

マリアが銃身を構えると地面に銃弾を撃つ。直後、

 

「うおっ!」

 

天海がバランスを崩して悲鳴を上げた。マリアが銃弾を打った場所は天海の後退する位置の途上にあり、銃弾でもろくなったところに天照の自重が加わって地面が陥没したのである。そこに足を取られた結果、天海がバランスを崩したのだった。

 

「ほいっ!」

 

その機を逃さずに紅蘭がミサイルを発射する。だがそれも天照ではなくその周囲に着弾した。そして着弾したミサイルが爆発し、天海の周囲にもうもうと土煙が立ち込める。

 

「おのれ!」

 

紅蘭の攻撃が目くらましを目的としたものだと気づいた天海が顔をゆがめた。直後、

 

「チェスト!」

 

天海の右から斬り込んだカンナが天照に渾身の拳打を見舞う。

 

「ぬうっ!」

 

天照が揺れる。まだその装甲は頑丈さを保っているものの、蓄積されたダメージは確実に天照に積み重なっていた。その証拠に、カンナの拳打で揺れた天照は衝撃を受けた方向に倒れそうになる。

 

「小癪な!」

 

天照のバランスを保った天海はカンナに向けて攻撃をしつつ、後退を続ける。先ほどまでマリアが地面を破壊してできた窪みに足を取られていたが、幸か不幸かカンナの攻撃で天照が揺らされたことでその窪みからは抜け出せることができたのだ。しかし、

 

「へへっ! 当たるかよ!」

 

カンナが天海の攻撃をかわしながら挑発した。紅蘭の攻撃によって舞い上がった土煙は未だもうもうと立ち込めており、それが煙幕の代わりになって攻撃がそれていたのである。そのため、かわすのも容易であった。と、

 

「ガラ空きですわよ!」

 

今度は逆サイドからすみれが攻め寄せて薙刀で斬りつけた。先ほどまでの大神の攻撃と同じようにその傷跡は小さかったが、これもダメージの蓄積によるものか、本来ならば入らなかった裂傷が天照の装甲に入る。

 

「くっ!」

 

返す刀ですみれに攻撃を仕掛ける天海。だが、そのときには先ほどのカンナと同じくすみれは土煙の向こう側だった。

 

「ほほほ、どこを狙ってらっしゃるのかしら?」

 

そしてすみれもまたカンナと同じく天海を挑発する。薙刀の特性を生かした刺突でなく斬撃での攻撃だったのも、すぐに離脱するのを計算に入れてのことだった。もし突き刺して抜くに抜けなかったり、あるいは抜けたとしてもそれに時間がかかっては天海の攻撃をまともに喰らうことになるからである。

 

「チイッ!」

 

舌打ちした天海がすみれへと頭を向ける。が、

 

「私たちもいるのよ」

「忘れんといてや!」

 

マリアと紅蘭の銃弾とミサイルが天海へと降り注いだ。今回は先ほどのような牽制ではなく、直接天照へと被弾する。

 

「ぐぐぐ…」

 

天海が憎々し気に歯ぎしりをした。直接攻撃であるカンナの拳打やすみれの薙刀とは違い、マリアや紅蘭の銃弾やミサイルはそれほどのダメージはない。だが、比較問題でダメージがないだけであり、その実ちゃんとダメージは蓄積されているのである。

 

「ええい、鬱陶しいわ!」

 

群がるハエを追い払うかのようにマリアと紅蘭に攻撃を仕掛ける天海。この頃にはもう紅蘭が起こした土煙は大分収まっており、彼我ともに機体を確認できる状況になっていた。

 

「おっと!」

 

紅蘭は天海の攻撃を紙一重でかわすことに成功する。が、

 

「うっ!」

 

マリアが呻いた。

 

「マリアはん!?」

 

慌てて紅蘭が振り返ると、そこには左の手足が吹き飛ばされたマリアの光武の姿があった。

 

「油断したわ…」

「マリア!」

 

カンナが援護に向かおうとするが、天海がそれを見逃すはずもない。

 

「馬鹿め、死ねぃ!」

 

天海の攻撃がマリアを襲う。それは花組の誰もが間に合わないスピードだった。が、突如現れた一機の光武がその攻撃を受け止める。

 

「何ぃ!?」

 

予想外の状況に驚いた天海。その攻撃を受け止めた光武は光の粒子となってどこかへ向かう。その終着点には、大神の光武があった。

 

「大神…一郎!」

 

天海が何度目になるかわからない歯ぎしりをする。予想した結果にならなかったのだから憤懣やるかたないのも仕方ないのだが。

 

「天海! お前の思い通りにはさせない!」

「笑わせるな!」

「アイリス!」

「うん!」

 

アイリスはマリア機に近寄ると、己の霊力を解放させる。と、マリアの光武が見る見るうちに被弾前の状態に戻っていった。

 

「助かったわ、アイリス」

「へへ~♪」

 

マリアに褒められたアイリスが嬉しそうに微笑んだ。そのアイリスの姿にマリアもフッと微笑むと、天海をキッと睨みつけて立ち上がる。

 

「小うるさい連中め!」

「黙れ! 今こそ決着をつけてやる!」

「笑止!」

 

天海が大神に攻撃を掛けようとするが、その出足を止めたのは再びマリアと紅蘭だった。

 

「見え見えなのよ」

「せや。大神はん狙いなのが簡単にわかるで」

「ぐうっ!」

 

天海が歯噛みをする。天照にとっては大したダメージではないとはいえ、その大したことのないダメージも積み重なれば蓄積する。そして、天海の出足が止まったのとほぼ同時にさくらが天海の背後に到達したことを大神はモニターで確認した。ようやく用意が整ったのを確認できた直後、大神が総員に通信を入れる。

 

「今だ! さくらくん、すみれくん、カンナ、タイミングを合わせるぞ!」

「はい!」

「ええ!」

「よっしゃあ!」

「行くぞ!」

 

通信を切ると大神が天海に向かって突進する。それに合わせるようにさくら、すみれ、カンナがそれぞれ後背、左、右から攻め込んだ。

 

「うおおおおおおっ!」

 

気合を漲らせて大神が突っ込む。

 

「ええい! ふざけるな!」

 

劣勢を覆すべく、頭を取ってしまえばいいという判断が働いたのか、天海が大神に攻撃を仕掛けた。

 

「くうっ!」

 

その直撃をまともに喰らった大神が表情を歪める。

 

「お兄ちゃん!」

「隊長!」

「大神はん!」

 

攻撃に加わっていないアイリス、マリア、紅蘭の三人が悲鳴を上げる。だが、

 

「負けるかぁ!」

 

大神はその足を止めず、真っ向から天海に向かっていった。

 

「何ッ!?」

「うおおおおおおっ!」

 

その名のごとく、狼を思わせる咆哮と共に大神が天海に斬りかかった。そして、

 

「はあああああっ!」

「ええーいっ!」

「そおおおおおりゃあああああっ!」

 

さくら、すみれ、カンナがほぼ同時に天海に攻撃を仕掛けたのだった。結果、ここまで堅牢を誇った天海の天照の装甲にも遂に綻びが走った。

 

「ぐぎゃあああああっ!」

 

天海が悲鳴を上げたものの、むざむざとやられるものかとばかりに全方位に攻撃を仕掛ける。それをまともに喰らった大神以下三名は派手に吹き飛ばされた。

 

「はあっ…はあっ…はあっ…」

 

これまでの戦闘で満身創痍になりながらも大神が立ち上がる。

 

「ど、どうだ?」

 

そして天海の状態を確認した。

 

「ぐ、ぐぐ、ぐ…」

 

天海はまだ生きていた。しかし、さしもの天照もこれまでの戦いで傷を負いすぎたのか、先ほどの同時攻撃により、機体の各所から火花が走り煙が立ち上っている。

 

「ぐぐぅ…ムダだ、我は何度でも…何度でも…よみがえるぞ…!」

「そうはさせるか!」

 

大神が二刀の刀を地面に突き刺すと、それを杖の代わりとして立ち上がる。

 

「ヤツを…天海をこの世から消し去るんだあっ!」

 

満身創痍の大神が立ち上がると、突き刺した刀を抜く。その時、不思議なことが起こった。大神の霊力が増していくのだ。まるで、何かで増幅されるかのように。

 

「こ、これは!?」

 

大神自身も驚きと戸惑いを隠せない。だが、この機を逃すわけにはいかない。そして、

 

「隊長!?」

「お兄ちゃん!?」

「隊長はん!?」

「隊長!?」

「少尉さん!?」

「大神さぁぁぁぁん!?」

 

花組の隊員たちの霊力が大神に呼応するかのように高まる。そして、その高まった霊力は大神のもとに集まった。

 

「うおおおおっ!」

 

大神は頭上で刀を交差させると、その霊力の塊を天海へと向ける。そして、

 

「くらえ天海! これが正義の力だぁぁぁ!」

 

皆の霊力を集めた攻撃を天海に浴びせたのだった。そしてその刃は、まるで豆腐でも切るかのように易々と天照の装甲を切り裂いたのだった。

 

「ヌゥゥゥゥゥグオォァァァァ…」

 

何とも形容しがたい悲鳴を天海が上げ、天照の各部が噴煙を上げる。

 

「…何ということだ!? 偉大なる我がこのような輩に!」

 

走った亀裂からは、小規模な爆発が繰り返す。

 

「グッ…そんな…ば、バカな! この偉大なる我が…どうして!?」

 

そして、その小規模な爆発が連鎖して天海を飲み込もうとしていた。

 

「な…何故!? 地は我を見捨てたもうたか!」

 

救いを求めるように差し出した手が光の中に消えた。そして、

 

「ウギャアアアアアアアアッ!」

 

断末魔の悲鳴を上げながら天海が天照の爆発へと飲み込まれていったのだった。と同時に、この地下空間が崩壊を始める。

 

「しまった! 総員、退避!」

『了解!』

 

天海の最期を見届けた華撃団は、崩壊に巻き込まれないように急いでこの地下空間を脱出したのだった。

 

 

 

 

 

「ま、間に合ったか…」

 

天海を倒した後の地下空間の崩落から辛くも脱出できた大神たちは、無事生還できてホッと一息ついていた。いつの間にか夜が明け、昨日と変わらぬ今日を迎えようとしている。

 

「それにしても…」

 

大神は天海にとどめを刺した時のことを思い出していた。

 

「地下でのあの力は一体…あれは何だったんだ?」

「あれが、彼女たちが帝劇に配属になった理由さ…」

 

大神が振り返ると、そこにはいつの間にいたのだろうか米田の姿があった。

 

「米田長官…。あれが彼女たちの霊能力なんですか? だとすれば…」

「それだけじゃねえ。おめえの力でもあるんだ」

 

とんでもないですねと続けようとしたところで、米田に機先を制された。しかも、大神が全く予想していなかったことを付け加えて。

 

「自分の?」

 

その言葉に、大神も驚きを隠せない。

 

「大神、おまえなんで花組の隊長になれたと思う?」

 

その真意を明かすためだろうか、米田がそんなことを聞いてきた。

 

「それは…自分が光武を動かすことができるからだと…」

「それだけか?」

「…はあ」

 

米田に含みがあるのはわかるのだが、その含みが何なのかわからない大神としては気の抜けた返事を返すしかできなかった。

 

「触媒なんだよ、おまえは」

 

そんな大神に、米田が含みの正体を口にする。

 

「触媒…?」

「そうだ」

 

大神の鸚鵡返しに、米田が力強く頷く。

 

「彼女たちの霊能力は、確かに他の者に比べて抜群に秀でている」

「はい」

「だが、いくら優れた霊力でも、それがバラバラに存在しているだけでは意味がない。時として、相反する彼女たちの霊力を統べ、一つの大きな力にまとめあげる力…。花組は、おまえの力を触媒としてはじめて、その能力を十分に発揮できるんだ」

「自分に…そんな力が…」

 

どうにも信じられない事実に戸惑う大神。と、米田が急に相好を崩してニカッと笑った。

 

「なぁんてな。ちょっとばかり、ほめ過ぎかぁ!? ハハハハハ…」

 

そのままバンバンと大神の背中をたたく米田。最後煙に巻かれたようなオチになって、どうしたものかと苦笑する大神。花組の男二人がそんなことになっている時、隊員たちはというと…

 

 

 

「! ソーンさん!」

 

最初にそれに気付いたのはさくらだった。その言葉に他の隊員たちも振り返るが、その視界に移ったソーンバルケの姿に絶句していた。

 

「無事なようだな…」

 

花組の無事な姿に軽く微笑むが、花組の面々はそれどころではない。

 

「ど、どうしたんですか、その恰好!?」

「これか?」

 

近寄ってきたさくらに、己の姿を見下ろしたソーンバルケが尋ねた。が、それも無理はない。ソーンバルケの姿はボロボロだったからだ。所々衣服が破れ、髪がバサバサに乱れ、そしてその全身は妙な色に染まっている。

 

「うっ…く!」

「ボロボロじゃねえか…」

 

その凄惨な姿に、すみれは吐き気を催してしまったのか慌てて口を抑えて視線を逸らし、カンナは信じられないものを見たといったような表情で呆然としていた。

 

「大丈夫なの、ソーン!?」

 

アイリスが涙目になって見上げている。

 

「その恰好は一体…」

 

流石のマリアも二の句が継げないでいると、ソーンバルケは己の後ろを指さした。

 

「役目を果たしていたらこうなっただけだ」

「な、何や、これ!?」

 

一番最初にそれを確認した紅蘭が素っ頓狂な声を出し、次いでさくらたちもそれを見て再び唖然とする。ソーンバルケの後ろには、瓦礫と化した脇侍の群れが大量に転がっていたからだ。

 

「これを…あなた一人で?」

「馬鹿を言うな」

 

笑いながらソーンバルケはマリアの言葉を否定した。

 

「一人でこんな真似ができるわけはないだろう。大方は米田と藤枝女史のお手柄だ。私はやつらが討ちもらした獲物を狩っただけのこと」

「けどよ、その恰好…」

「仕方がないだろう。何せ数が数だ。大多数はやつらが受け持ったといえど、それでも討ちもらした数は結構なものになる。それを一手に引き受ければ、こうもなる」

「じゃあソーン、お怪我はしてないの?」

「ま、多少はな」

 

あの数を相手にして無傷なら、それはただの人外だと苦笑しながらソーンバルケがアイリスに答える。

 

「それでも、出血多量で動けないとか、四肢を斬り飛ばされたというような深刻な状態ではない」

「なら、その汚れた服は何ですの?」

「これはやつらの返り血だ。もっとも、機械だから血ではなく油というだけのこと」

 

そして、それが派手に身体を汚しているからこうなっているだけのこと。ソーンバルケはそう付け加えた。再会したときのズタボロの姿に絶句していた花組だったが、ソーンバルケの説明を聞いてホッと一安心する。が、

 

「だが、さすがに疲れた…」

 

花組の無事を確認してソーンバルケの方もホッとしたのか、そのまま倒れるように膝をついた。

 

「ソーンさん!」

「しっかりしなさい!」

 

さくらとマリアが両脇からソーンバルケを支える。他の面々も慌ててその場に近寄ってきた。

 

「心配するな」

 

ふぅ…と静かにソーンバルケが息を吐く。

 

「今言っただろう? 少し疲れた。もう終わったんだよな?」

「ええ」

「そうか。なら、休ませてくれ…」

 

そのまま目を閉じるとソーンバルケの身体から力が抜ける。二人で支えているとはいえ、意識のなくなった成人男性を抱えるのは大変で地面に落としかねないところだったが、

 

「おっと」

 

カンナが慌てて正面からソーンバルケを受け止めた。魔操機兵の返り血…この場合は返り油とでもいうべきだが、それをいたるところに浴びているためカンナの戦闘服が油にまみれる。さくらとマリアも、カンナほどではないが左右で支えたため同じように汚れてしまっていた。

 

「大変やったんやな…」

 

紅蘭が申し訳なさそうにソーンバルケの顔を覗いた。先ほどの自身の宣言通り余程疲労がたまっていたのか、もう寝息を立てている。

 

「言い方は悪いけど、後始末を任せた形だもの。割を食ったのは間違いないでしょうね」

「ソーン、大丈夫?」

「心配いらないわ、アイリス。今ソーンさんが自分で言ったように、眠ってしまっただけよ」

「良かった」

 

アイリスがホッとして顔をほころばせた。

 

「全く…人騒がせなんですから」

 

すみれは相変わらず人騒がせだが、それでもその表情からそれが本心ではなく心配の裏返しなのが手に取るように分かった。そして、それに気づいている他の花組の面々がニヤニヤと笑う。

 

「な、何ですの、その表情は!?」

「べっつにー?」

「キーッ! 何か言いたいことがあるんなら、ハッキリ言いなさいな!」

 

カンナに挑発されたすみれがいつものように癇癪を起こす。いつもの見慣れた光景に他の面々の顔にも笑顔が広がった。と、少し離れたところで大神たちが自分たちを呼んでいるのに気づく。

 

「みんな、隊長たちがお呼びよ。行きましょう」

「ああ、例のあれやな」

「そっか」

「今回はバタバタして、まだあれはやってませんでしたからね」

「そうですね、行きましょう」

「ちょっと待てよ。ソーンはどうするんだ?」

 

カンナの呼びかけに、そういえば…と、他の隊員たちが気付いた。

 

「本来なら起こすべきなのでしょうけど…」

 

一番最初に口を開いたのはやはりマリアだった。

 

「休み始めたときに起こすのも気が引けるし、寝かせておけば?」

「え? ここに置いてけってのか?」

「ええんやないの? 敵がいるってんならまた話は別やけど、もう敵はおらへんし」

「それに、長時間置いておくわけでもありませんからね。少しぐらいなら…」

「えー、ソーン可哀相!」

「でもね、アイリス。こんなボロボロの格好でいつものあれに付き合わせるのもどうかと思うわよ?」

「そっかぁ…」

 

表情を曇らせていたアイリスだったが、さくらにそう諭されて残念そうな表情だったが諦めることにした。

 

「ま、しょうがねえか」

 

カンナがゆっくりとソーンバルケを地面に横たわらせる。

 

「ちょっとの間だからよ、辛抱してくれよな」

「行きますわよ、カンナさん」

「おう!」

 

一足遅れてカンナも他の隊員たちの後を追った。休息に入ったソーンバルケの横顔を朝日が照らす。こうして、ソーンバルケが休んでいる間に本当にすべては終わり、帝国華撃団はソーンバルケを回収して帝劇へと戻ったのだった。


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