サクラ大戦 剣聖の新たな道   作: ノーリ

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おはようございます、前回の続き。話的には蝶との決戦ですが、実はそれ自体はツマミみたいなものだったりします。では本筋はというと、それは本文を読んでご確認ください。

では、どうぞ。


NO.31 月下の邂逅

明けて翌日の夜。花組は再び作戦司令室へと集合していた。一日おいたと言っても、それで状況が好転するわけでもない。それでも、最悪の精神・身体状態からは何とか脱出できたようだった。だが、そんな状況を再び無にするかのような事態になっていた。

 

「みんなに集まってもらったのは他でもない…」

 

最初に口を開いたのは当然、米田だった。そしてその口調は重々しいを通り越して物々しい。それだけ、事態が深刻だということの裏返しである。

 

「恐れていたことが現実のものとなってしまった…」

「あれ何や? 東京湾に…?」

 

作戦司令室のモニターに映る聖魔城の姿に紅蘭が息を呑む。が、それは前もって事情を知っていた大神とソーンバルケ以外の全員も同じ思いであった。

 

「うむ…」

 

相変わらず、米田の口振りは重い。

 

「赤き月の夜、封印解かれし時、降魔の聖域、甦らん。聖域には破滅の神機ありき。その神機、裁きの光をもって地上を灰燼に帰さん…『放神記書伝』の一文だ」

「『放神記書伝』…?」

「魔神器と共に、この帝都でもっとも尊き御方の元に代々伝えられた予言書だ」

「尊き御方って…まさか」

 

何かを言いかけたすみれに対して米田が重々しく頷く。その一挙動ですみれはそれ以上何も言わなかった。

 

「それでは、あれが…」

「そう…聖魔城だ」

 

マリアの問いに米田が答える。

 

「聖魔城…」

「恐らく、神機とは太古より伝わる霊子砲の事だろう」

「霊子砲…?」

 

聞きなれぬ言葉ではあったが、米田の様子から察するに花組や帝都にとってよろしくないものであることは明確であった。何より、『砲』という一言で大方の予想はつく。

 

「その光は天空を切り裂き、大地を霧と変えん…とある。およそ四百年前の戦いの再現だ。封印されし幻の大地“大和”が今、浮上しようとしている」

 

そこまで言うと、米田の表情に更なる厳しさが宿った。

 

「もはや時間はない! 一刻も早く東京湾に向かい聖魔城復活を阻止するのだ!」

「了解!」

 

大神が敬礼を返した。しかしその直後、帝劇を突然の激震が襲った。

 

「!」

「何っ?」

「その汚い小屋から出てきなさい。帝都のイヌども!」

 

驚く花組に呼び掛けてきたのは、他ならぬ殺女であった。

 

「こ…この声は…」

「あやめさん…」

(藤枝女史…)

 

その事実に言葉を失う花組であったが、ソーンバルケもまた表情を歪めていた。

 

「グズグズしてられないわ。…みんな、行くわよ!」

 

マリアの一喝によってスイッチが入ったように、花組は殺女の誘いに乗って大帝国劇場から出撃したのだった。

 

 

 

「叉丹様の望みは全ての破壊、全ての死…。その望みは、アタシが…」

 

蝶が微笑む。その周りにいる多くの降魔が、その望みを実現させるかのように帝都を蹂躙していた。そこへ、

 

『帝国華撃団、参上!』

 

花組が姿を現す。そして、

 

「あ、あやめさん!」

 

とある建物の上にて、自分たちを見下ろしている殺女の姿を見つけたのだった。

 

「あやめさん!」

 

呼びかける。が、

 

「ふふ…出てきたわね、坊や」

 

殺女は殺女のまま、あやめに戻ることはなく何一つ変わらなかった。

 

「あやめさん! オレです! 大神です!」

「うふふ…可愛い子ね。あやめは死んだと言ったでしょ? あなたも今、殺してあげるわ!」

 

そして傍らにあった量子甲冑…叉丹のものとは色違いの同型機である『神威』に乗り込むと、霊力の塊を大神に放った。

 

「ぐはっ!」

「大神さん!」

「ふっははは…」

 

その様に愉快そうに笑う殺女。そして続けざまに二撃目をお見舞いする。

 

「うう! あ、あやめさん…」

 

衝撃をモロに喰らった大神が表情を歪める。だが、

 

「やはり、こいつらとつるんでいただけあって手ぬるいわね」

 

蝶はそれを侮蔑するかのように揶揄した。が、殺女にはそんな皮肉など何も意味をなさない。

 

「ふふん…あなたのやり方を見せてもらうわ」

「くっ! 見てなさいっ!」

 

挑発した形が何故か挑発され返し、蝶が更に降魔を召喚した。

 

「皆殺しにして叉丹様にご報告を」

「うふふ…最高の舞台が始まったみたいね…」

 

その言葉を残して殺女は戦場から消えた。その様子を作戦司令室からモニター越しに眺めていた米田とソーンバルケはともに複雑な表情をあやめに向けている。

 

「……」

(米田…)

 

言葉にこそ出さないものの、後ろから複雑な表情を浮かべている米田の姿を覗き見たソーンバルケには、その気持ちが痛いほどわかっていた。そのことにふう、と溜め息をついた直後、突然にソーンバルケの姿が作戦司令室から消えうせたのだった。しかし、ソーンバルケに背を向けている格好になっていた米田は、そのことに気が付くことはなかったのだった。

 

 

 

『大神! 敵はやっかいなものをしかけやがったぞ』

 

自分の背後でそんなことが起こっていたなどと露知らず、作戦司令室より米田が情報を伝える。

 

『「蝶」とか言う降魔がしかけた電気の攻撃装置らしい』

 

そして、各神武のモニターに、米田の言うところのその厄介なものの映像が映し出される。

 

『どんなモノか分からん以上、うかつに近づくのは危険だ! 破壊するか、避けて行動しろ!』

「了解! 行くぞ、あやめさんを取り戻すんだ!」

 

大神の号令の下、蝶との戦いが始まった。その戦場から少し離れたとある建物の上。

 

「こ、ここは…?」

 

直前までと一変した周囲の光景に、珍しくソーンバルケが取り乱す。と、

 

「ふふ…いらっしゃい」

 

聞き覚えのある声がその耳朶を打った。その声を聞き、ソーンバルケがゆっくりと声のした方向に振り返ると、そこにいたのは降魔と化したあやめ…殺女だった。

 

 

 

「…何のつもりだ?」

 

殺女と対峙したソーンバルケが開口一番、殺女に対してそう問いかける。

 

「ふふ…まあ、そんな怖い顔をしないでちょうだいな」

 

対して殺女は妖艶な笑みをたたえると、彼女の愛機である神威の肩へと飛び乗ってそこに腰掛けた。

 

「ただ、あなたと少しお話がしたかったの」

「話?」

 

その一言に、ソーンバルケが怪訝な表情になる。

 

「ええ、お話」

 

が、殺女はなんでもないかのように平然と頷いた。

 

「…何の話だ?」

「ふふ…まあ、そう焦らないでちょうだいな」

 

そして殺女がすっとある方向に手を向ける。そこには、蝶に向かって突き進んでいる花組の姿があった。

 

「坊やたちの戦いぶりを見物しながらにしようじゃない」

「……」

 

殺女の魂胆…そして、話というものが何なのか皆目見当がつかないソーンバルケだったが、今の殺女には自分に対する殺意は見えなかった。そして、無抵抗の人間を斬るような剣はソーンバルケは持ち合わせていない。ペースを持ってかれてどうにもスッキリしないが、とりあえず今は殺女と事を構えるのはやめることにした。ソーンバルケも殺女に倣ってその場に腰を下ろす。

そのソーンバルケの様子に笑みを浮かべ、殺女は再び戦場へと目を移したのだった。

 

 

 

「奴は建物を挟んだ向こうか…」

 

付近の地形を確認しながら大神が呟いた。

 

「川があるために簡単には近寄れませんね。ぐるっと迂回しないと…」

「で、そこへ行くまでは一本道で降魔はぎっしりと配置してある…」

「しかも、行く先々には先ほど長官が仰っていたあの得体のしれない装置…」

「まったく、イヤらしい配置やな。性格の悪さがようわかるわ」

「アイリスなら向こうまで簡単にいけるよ~?」

「だめよ、アイリス。一人だけ突出したら返り討ちにあうわ」

「わかってるも~ん」

 

アイリスの返事にクスッと微笑んださくらが大神へ通信を開く。

 

「どうしますか、大神さん」

「どうするもこうするもないな。どのみち一本道となれば選択肢は一つしかない。総員前進! 一丸となって降魔とあの装置を破壊しながら奴のところへ向かうぞ!」

『了解!』

 

大神の指示に従い、花組は一丸となって蝶の元へと進んだ。神武によって降魔とも互角に伍せるようになり、また、今までの経験から降魔の行動や攻撃のパターンも大分読めるようになってきた花組には降魔に苦戦していた在りし日の姿はなかった。全員一丸となり、蝶へと向かって進軍していく。そんな中、

 

「ねえ?」

 

戦場から少し離れた場所でソーンバルケと共に戦況を見ていた殺女が不意に口を開いた。

 

「何だ?」

 

殺女と目を合わせず、戦況を見つめたままソーンバルケが殺女に尋ねる。相変わらず、微妙な距離感は開いたままだ。と、

 

「あなた、私たちの仲間にならない?」

 

殺女がとんでもないことを聞いてきた。

 

「何だと?」

 

流石に看過できるような発言内容ではなかったため、顔を殺女に向ける。殺女はそのソーンバルケの様子に気にするそぶりもなく、相変わらず妖艶な笑みを浮かべていた。

 

「感じるのよ、あなたからは。普通の人間にはない、何か特別な感覚を…ね」

「……」

「あら、図星?」

 

殺女の、恐らく推論であろうその一言に、自分ではいやというほど身に覚えがあるソーンバルケは口を噤んでしまった。それを揶揄するかのように殺女が笑う。そして殺女は、再び戦場に視線を向けた。

 

「そんなあなたが、あのぼうややお嬢ちゃんと一緒にこれからも歩んで行けるとは思わないわ。あそこに居場所がないなら、私たちと共に歩まない?」

 

そして戦場からソーンバルケへと視線を戻すと、殺女はその手を差し出した。

 

「あなたなら、私たちと共に歩むことができるわ。さあ…」

「……」

 

その差し出した手を見ながら少しの間口を噤んでいたソーンバルケだったが、

 

「断る」

 

暫しの後、そう告げたのだった。恐らく最初から肚は決まっていたのだろうが。

 

「あら、どうして?」

 

本当に不思議そうな顔になり殺女が首を捻る。その表情は今までのものとは違い単純にその返答が理解できないといった感情を表すもので、年相応の女性の顔に見えた。

 

(まだこのような顔もできたのだな)

 

その表情の変化に内心でクスッと笑うと、それを悟られないようにソーンバルケが言葉を続ける。

 

「単純なことだ。お前たちにつく…ということは、あいつらを敵に回すと言うことだろう?」

 

ソーンバルケが戦場にて奮闘中の花組を指し示す。

 

「その気にならないだけだ」

「あら。あなたとあのぼうやたちは違うのに?」

「そんなことは重々承知」

 

テリウスでも身をもってよく知っているだけに、今言ったようにそんなことはソーンバルケは重々承知していた。

 

「それでも、お前たちにつく理由はない」

「あら、そう」

 

残念そうに殺女が肩を竦めた。

 

「振られちゃったわ」

「よく言う…。その気もなかっただろうに」

「そんなことはないわよ? 半分は本気だったわ。残りの半分は冗談だったけどね」

「……」

 

面白くなさそうにソーンバルケが顔を顰めたのと、蝶が断末魔の叫び声を上げながら光に呑まれたのはほぼ同時のタイミングだった。

 

「あら、もう終わっちゃったの?」

「そのようだな」

「全く…役に立たないわ」

 

蝶の敗死を憐れむでもなく、心底呆れたような表情になった殺女が神威の肩から降りる。それと同時に、ソーンバルケも下ろしていた腰を浮かせて立ち上がった。そして二人は真正面から相対する。

 

「最後にもう一度だけ聞くわ」

 

月の下、あの妖艶な微笑みを浮かべながら口を開いたのは殺女だった。

 

「私と一緒に来ない?」

 

再度、手を差し伸べて勧誘する。が、

 

「返答は変わらない」

 

ソーンバルケの返答はにべもなかった。すると、殺女の目がすっと細まる。

 

「そう…じゃあ」

 

殺女がすっと右手を上げた。と、それに呼応するかのように神威が動き出した。

 

「この場で殺しちゃっても…構わないわよね?」

「ああ」

 

ソーンバルケが首肯する。そして、腰のヴァーグ・カティに手を掛けた。

 

「やれるものならばな」

「うふふ…」

 

その姿に、殺女が楽しそうに笑う。張り詰めた緊張感が暫しの間静寂の時間を支配するが、やがて、

 

「止めておくわ」

 

クスッと笑って再び神威の肩へと戻る。

 

「こんなところでやりあうのはもったいないし。殺すなら、しっかりと舞台が整ってからじゃないと…ねえ?」

「殺す…か」

 

余裕綽々の殺女の『殺す』の一言に対して、ソーンバルケが同じようにクスッと笑った。

 

「あら、何か可笑しい?」

「いや」

 

ソーンバルケが静かに首を左右に振る。

 

「ただ、そちらが殺す気で来るのならこちらも遠慮する必要はないというのがわかっただけだ」

 

そして、闘気を解放する。

 

「っ!」

 

その闘気に中てられた殺女が顔を引きつらせ、そして先ほどまでの余裕綽々の態度はどこへやら、殺気を放ちながらソーンバルケを睨む。が、ソーンバルケもそんなことは気にする様子もなく、ヴァーグ・カティの柄に手を掛けた。

 

「……」

「……」

 

暫し、静寂の空間を張り詰めたような緊張感が支配する。その静寂を破ったのはソーンバルケだった。ヴァーグ・カティの柄に掛けていた己の手を放したのだ。

 

「やめておこう」

「…どうして?」

 

ソーンバルケが闘気を収めたことで殺女もまた殺気を維持し続ける必要がなくなり、先ほどと変わらない状態に戻った。

 

「さっき自分で言っただろう。こんなところでやりあうのはもったいないと」

「だったら、あんなおっかないモノ撒き散らさなくてもいいじゃない」

「…本当に殺し合うつもりがあるのかどうかわからなかったからな」

「失礼ね」

 

そう言うと、殺女がソーンバルケのすぐ側までワープした。そして、その顎に手を掛けて獰猛な笑みを浮かべる。

 

「私がそんなつまらない冗談を言うと思って?」

「いや…」

 

ソーンバルケはその手を取ると己の顎から剥がした。あん…と、殺女が不満げな吐息を漏らす。

 

「だがそれが確認できないとな、あの連中に任せるわけにもいかないのでな」

 

そしてヴァーグ・カティを音もなく抜くと、ソーンバルケはその切っ先をあやめに突き付けた。

 

「指名は承った。お前は、私が殺す」

「ふふふ…期待してるわ」

 

ペロリと舌なめずりすると、殺女が再び神威のところまでワープする。

 

「そのときが来るのを楽しみに待たせてもらうわね」

 

そして指をパチンと弾いた。と、次の瞬間にはもうそこにソーンバルケの姿はどこにもなかったのだった。

 

「ふふふふふ…」

 

一人となった月光の下、その後暫く楽しそうに殺女は笑い続けていたのだった。

 

 

 

(ここは…)

 

一方でソーンバルケ。目の前の光景が漆黒の闇から照明の下に戻ってきたことで、殺女に連れてこられる前の状態に戻ったことを理解した。現に、前方にはホッとした表情でモニターの先を見ている米田の姿があったからだ。

 

(……)

 

殺女に突き付けていたため鞘から抜いていたヴァーグ・カティを鞘に納める。こんなところを米田に見られてはまた面倒だからだ。

 

(藤枝女史…)

 

そして、先ほどまで言葉を交わしていたかつての戦友…今の敵に思いを馳せたのだった。一方で東京湾では聖魔城が今まさに甦らんとしていた。蝶は敗れたものの、復活には十分な時を稼いたのだ。

 

「甦れ! 失われし聖なる都!」

 

叉丹が叫ぶ。と、それに呼応するかのように東京湾の海底深くから大地が浮上してきた。

 

「ついに、ついに!」

 

長き眠りから目覚めた聖魔城が姿を現したのだった。

 

「うわぁぁぁーっ!」

 

その余波は、遠く銀座にまで及んでいた。聖魔城から遠く離れた花組にも地震という形で伝わっていた。

 

「な、何だったんだ!? 今のは…」

「ふふふ、気を散らしている余裕があるのかしら?」

 

うろたえる大神たちに、殺女が挑発するようにそう言った。ソーンバルケとの話を終え、花組のすぐ側まで戻ってきたのだ。

 

「…あやめさん、まだわからないんですか! 俺です、大神です!」

 

大神が殺女へと必死に呼びかける。が、

 

「ふふふ…わかるわよ、大神一郎。私はいつでも私のまま…叉丹様の配下、最強にして最も近くにおつかえする者。降魔、殺女よ」

 

言葉通り殺女は殺女のままであり、あやめには戻らなかった。

 

「あなたは操られているんです! 目を覚ましてください! あやめさん!?」

 

それでも必死で大神が呼びかける。だがやはり、現実は無常だった。

 

「あなたたちの好きな藤枝あやめはもう、この世にはいないのよ。どうしても会いたいなら…あの世で探すことね」

「あやめさん! 目を覚まして!」

「ふふふっ、必死ね。かわいい娘。死んでもらうわよ」

 

そして、獲物を狙うハンターのような目でペロリと舌なめずりをした。しかし、

 

「殺女よ、聖魔城は復活した…戻るのだ…」

 

叉丹からのテレパシーがあやめに届く。

 

「はっ!」

 

それに返すと、殺女が残念そうな面白くなさそうな表情になって花組を見下ろす。

 

「…命拾いしたわね。うふふ…楽しみは次にとっておいてあげるわ」

 

そして花組に向けていたその視線を、今度は大神に固定した。

 

「ふふ、坊や…私に会いたかったら東京湾にいらっしゃい」

「あやめさーん!」

 

手を伸ばした大神の叫びもむなしく、殺女は彼女の愛機である神威と共に常闇の空へと消えていった。

 

「隊長! 時間がありません! すぐに東京湾に向かいましょう!」

 

どうすることもできずにやるせなさに苛まれる大神ではあったが、状況がそれを許してはくれなかった。

 

「ああ…」

 

力を落としてはいるが、確かにマリアの言う通りでもあった。ここでグズグズしている余裕はもうないのだ。

 

「あやめさん…」

 

もう一度届かぬその名前を呟く。そうこうしているうちに夜が白み始めてきた。気が付かなかったが、大分時間が経っていたのだろう。

 

「見てみい、霧が晴れてきたで。もうすぐ朝や…この世に明けない夜はないんや!」

「ああ! あれ見て!」

 

戦い終わって新たな朝を迎えた。が、それをすぐに絶望に塗りつぶすかのような暗い影が覆う。それは東京の上空に浮かぶ、巨大な島の姿だった。

 

「な、なんやねん!?」

「ああ…ああっ!?」

「どわぁぁぁ! あ、あれは…」

「聖魔城…」

「あ、あれが聖魔城だと…。あれはまるで…都市じゃないか!」

 

ついに姿を現したその威容に、花組は言葉もない。

 

「見るがいい! これこそ歴史から抹殺された幻の大地、大和だ!」

 

そこに、叉丹の声が響き渡る。

 

「もはや、我が野望は止められぬ。我こそが支配者! 天帝、叉丹なり! 憎悪よ、怒りよ、絶望よ! 今こそ、我が手に…新たなる帝都はここ、大和にあり! ふふふふ…ふ…ははは…あーっはははははは…」

 

狂ったような叉丹の笑い声は、その後も暫く続いたのだった。

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