サクラ大戦 剣聖の新たな道 作: ノーリ
経験者の方はおわかりでしょうが、未経験の方もタイトルで何となく想像できてしまう話の展開になります。今後の話の展開がわからない方は当然として、わかっていらっしゃる方もあまり気分のいい内容ではないですね。まあ、ご了承ください。
では、どうぞ。
それは、門の中を進んでいる花組の他の面々にも伝わっていた。
「カンナ…」
立ち止まり、振り返った大神がギリッと唇を噛んだ。
「ひっく…カンナ…」
「カンナさん…」
「……」
「……」
「さ、最後の最後まで勝手ばっかり…最低のヤボですわ…最低の…」
花組の隊員たちも沈痛な表情になっている。すみれの憎まれ口もいつもと違って力がない。仕方のないことではあるが。
(…全く)
そして、やりきれない表情になってソーンバルケが額に手を当てた。
(…どうしてこう、嫌な予感というものに限って当たるのか)
ここに突入する前に感じた嫌な予感が早くも当たってしまったことにソーンバルケが溜め息をついた。が、
(これだけで終わってくれれば、まだいいのだが…)
そんなことを思わず考えてしまい、ソーンバルケは気付かれぬように花組の他の面々に顔を向けたのだった。
「時間がありません…先を急ぎましょう、隊長」
「ああ」
マリアに対して重々しく口を開いた大神が進行方向に再び顔を向けた。
「…みんな、、行くぞ!」
大神の号令と共に進軍を再開する花組。そんな中、すみれの神武だけは微動だにしなかった。
(すみれ…)
それに気づいたソーンバルケだったが、声をかけるわけにもいかなかった。何度となくいがみ合ってきたが、逆に言えばだからこそ何でも言い合える間柄だったのだ。そんな相手を失ったのだから、ショックも一入だろう。
(……)
かける言葉も見つからず、ソーンバルケも他の隊員たちと共に進むしかできない。結局は自身で自身の心に折り合いをつけるしかないのだ。もう一度振り返り未だ微動だにしないすみれを案じながらも、ソーンバルケも歩を進めたのだった。
「……」
どれぐらい経ってからだろうか、ようやくすみれも皆の後を追って進みだす。が、少ししたところでその耳に自身の神武のものとは違う機械の駆動音が聞こえてきた。すみれが振り返るとそこには花組を追ってきたのだろう、鹿の氷輪不動の姿があった。が、
「まったく…このわたくしを待たせるだなんて、なんて失礼な人なんですの!」
すみれは慌てる様子もない。むしろ、待ち望んでいたかのようなわかっていたかのような態度だった。
「遅れてすまねえな! 貴様らの仲間の茶番が、ずいぶんと長引いてな!」
「ち…茶番ですって!?」
その一言にすみれが激高した。カンナが自身の命を懸けた行為を茶番扱いされては、激怒するのも仕方のないことである。怒りのまま、すみれが鹿へと攻撃した。しかし、
「ケケケケケ…」
先ほどの猪同様、鹿にも大したダメージは入っていないようだった。逆に、鹿の攻撃の直撃を受けてしまい、先ほどのカンナと同じく半壊状態になってしまう。
「あぁ…」
そしてそのまま倒れ伏してしまった。
「相手にならんな…さて、残りの奴らも始末してやろう」
勝利を確信した鹿がとどめを刺さず、そのまま悠々とすみれを捨て置いて花組の後を追おうとする。が、それが仇となった。すみれの横を通り過ぎようとした直後、突如すみれの神武に光が戻り、鹿の氷輪不動を串刺しにしたのだ。
「グアァァァァッ!」
「おととい、いらっしゃい! 三下!」
鹿を貫いたすみれがそのままジリジリと歩を進める。お誂え向きに、鹿のすぐ側は断崖絶壁。底の見えない、まさに奈落の底である。
「は、離せ! このまま落ちれば貴様も!」
それがわかっているからこそ、何とか鹿も拘束を逃れようとする。が、すみれにはそんなつもりは毛頭ない。
「…それが…何ですの?」
そのまま躊躇せずに歩を進める。半壊状態の神武のどこにそんなパワーがあるのかと疑うほどだ。
「三下と相打ちなんて…われながら…最低ですわね…。少尉さん…みなさん…カーテンコールは…頼みますわ…」
そして、すみれはそのまま鹿と共に奈落の底へと落ちていったのであった。
「まてっ! すみれくんがいないぞ!?」
大神がそれに気づいたのは、すみれが残って暫く経ってからのことだった。直後、後方で轟音と爆発、そして閃光が走った。
「すみれくん…!」
それだけで何かあったのかを理解した大神が、カンナのときと同じくやるせない表情になって神武内部で歯噛みをする。
「すみれはん…」
「うっ…うっうっ…」
「……」
「すみれさんっ! もうケンカできないなんてあたしイヤよ…」
さくらの悲痛な、しかし本心からの慟哭に誰も答える者はいない。そんな中、
(成る程な…)
ソーンバルケだけは割と冷静であった。
(こういう筋書きか。こうしてこの後も一人…また一人と減っていって、最後には大神とあと一人か二人しか残らないという…)
昔の経験があればこそだが、だからこそこんなことを考えてしまう自分が他人事の上に達観し過ぎて嫌になってしまう。だが、嫌になったところでどうせこの後の予定調和は変えられるわけもない。
(できることなら、こんな予定調和は成立してほしくないのだが…)
だが、成立するからこそ予定調和なのだ。それを考えればこの先も…。
「…時間がありません。行きましょう…隊長」
そんなことを考えていると、マリアがまた大神に声をかけて先に進むように促した。
「…ああ!」
それでも立ち止まるわけにはいかない。ここで立ち止まったら、あの二人の働きが無駄になる。折れそうになる心を必死で抑えながら、再び花組は前進した。しかし、少し進んだところで紅蘭が不意に足を止める。
「紅蘭、どうした?」
それに気づいた大神も同じく足を止めた。紅蘭の足元には、五芒星の魔法陣の文様が記された地面があった。
「この模様、なんか気になるんや。ウチが調べときますから、みんな先行っててや」
「しかし…」
「心配せんでええで。問題がなければすぐに追いかけますわ。それに…いざとなったらウチの神武にはとっておきの秘密兵器があるんや!」
「え…? 何だい、それは?」
大神ですら初耳のそのことについて尋ねる。が、
「秘密兵器やから、秘密に決まっとるやろ。まぁ、まかしとき!」
と、詳細については口を割らなかった。
「行くぞ」
そして、その紅蘭の意を汲むかのようにソーンバルケが口を開く。
「…わかった。でも、無理はするなよ」
「了解や!」
いつもの紅蘭の姿に少しだけ安心した大神が再び前進し始める。そんな中、ソーンバルケだけはその場にとどまっていた。
「ソーンはん? どないしたの?」
「いや…」
先ほどの予定調和のことを考え、ソーンバルケの表情は優れない。だが、予定調和であるならばここでどれほど食い下がったところで結果は決まっているはずである。
(全く…)
自分の度し難さに頭を抱えながら、ソーンバルケは紅蘭に顔を向けた。
「任せていいのだな?」
「勿論や! せやから、はよ大神はんとたちと合流しいや」
「わかった」
本当は納得などしてもいないのだがそう言って頷くと、盛大に後ろ髪を引かれつつもソーンバルケは大神たちの後を追ったのだった。他の面々を見送った後、紅蘭が地面に刻まれた五芒星に近づく。
「この模様は…魔術のもんや…まさか、これは…」
紅蘭がある考えに至った直後、その魔法陣が光り出した。そしてその光の中から、蝶の紫電不動が姿を現そうとする。
「反魂の術や! 叉丹のヤツ、これで三騎士と不動をよみがえらせたんやな!? せやけどもう復活なんかさせへんで! なあ…カンナはん、すみれはん…」
そして攻撃態勢に移る。
「あんたらの出番は終わりや! 舞台は引き際が肝心やで!」
紅蘭が魔法陣…正確にはその中の蝶の紫電不動に向かって攻撃を仕掛ける。だが、魔方陣から発している光がカーテンのようになって紅蘭の攻撃を防いだ。
「なんちゅう頑丈なシロモンや…」
閉口していると、どこからともなく現れた降魔が紅蘭の周りを囲んでいた。
「なんや、ひっかかった! ワナがしかけてあったんかいな!?」
それに気付いたときには既に遅く、紅蘭は四方から降魔の攻撃を受け続けるようになってしまう。
「…かんにんな、ウチの神武。とっておきをつかわな、あかんようや…」
眉根を下げて神武に謝る紅蘭。自分より、神武を優先するところが何とも紅蘭らしい。そして、これから自分がやろうとしていることも考えれば、紅蘭にしてみれば謝るのも当然といえた。そうしている間にも、降魔たちの攻撃は止むことを知らず激しくなる一方である。
「なんや、これくらい!」
しかし、紅蘭の眼鏡の奥の目はまだ光を失っていない。
「ウチの居場所! ウチの未来! ウチの夢! やっと手に入れた大事な…大事なウチの宝物や! ぶっ壊されてたまるかいな!」
ここが舞台とばかりに大見栄を切る。そして、
「帝国華撃団・花組をナメたらあかんで! ウチの科学力の勝ちや!」
自分を攻撃してきた多数の降魔もろとも、紅蘭の神武は自爆して果てたのであった。
「紅蘭…」
背後で爆音が聞こえ、大神はもう肩を落とすしかなかった。何があったのか、ここまでの流れを思えば考えるまでもない。とはいえ、だからと言ってショックがなくなるわけもなく。
「……」
「もう…イヤだよ…」
「紅蘭! 紅蘭!」
マリアは言葉もなく、アイリスは涙を浮かべ、さくらは悲嘆に暮れていた。そして、
(…いずれ、冥府で)
ソーンバルケはそんな餞の言葉を贈ることしかできなかった。
「…行くぞ!」
そして、一番辛いであろう大神が指示を出す。絶対に歩みを止めるわけにはいかないのだ。しかし、
「フフフ…やるじゃないの…」
その行く手を、どこからともなく現れた蝶の紫電不動が遮る。
「だけどね、ここから先へ進ませるわけにはいかないわ!」
蝶の攻撃が花組を襲う。
「ぐあっ!」
「うっ!」
「うっ!」
「きゃあっ!」
残った花組の面々がダメージを受ける。唯一ソーンバルケだけは生身ということで一撃が致命傷になるということもあり、何よりこんなところで果てるわけにはいかないので神経を集中してその攻撃を何とかかわしたが。
「以前より…格段に強くなっている! くそっ! うかつに近寄れない!」
大神が歯噛みする。だがその直後、マリアが驚くべきスピードで蝶との間合いを詰め、そして紫電不動を抑えた。
「時間がありません! ここは私が止めます! 隊長たちは先に進んでください!」
「マリア! バカな、キミまで!」
「隊長! あなたには帝都を守る使命があります! 早く先に…! 私の…最後のわがままをきいてください…」
大神は逡巡する。だがそれもほんの一瞬。
「…わかった」
苦渋の表情で頷いた大神がマリアの脇を通り抜ける。その後ろをさくら、そしてアイリスが同じように前に向かって突き進んだ。
「マリア」
最後にソーンバルケがその脇を通り過ぎた後立ち止まると振り返り、マリアに声をかける。
「ソーン…みんなを、お願い」
「ああ」
「ごめんなさい。ありがとう」
「……」
ある意味初めて聞いたようなマリアの弱い言葉に、ソーンバルケは表情を曇らせ、しかしその意を汲んでそれ以上立ち止まることはせずに大神たちの後を追ったのだった。
「離せ! 離すのよ!」
蝶がもがくがそれをマリアが許すわけもない。離すどころかその拘束する力はますます強くなった。そして、
「くらえっ! パールク ヴィチノィ!」
マリアの銃口が火を噴き、蝶と共に閃光の中に消えたのだった。
「マリア…」
「……」
「うっ…うっうっ…」
「……」
後方での閃光と爆音にまた一つ悲しみを積み重ね、ようやく目的地と思われる場所に大神をはじめとする残りの花組がついた。目の前には大きな門が口を閉ざしてそびえ立っている。
「霊子砲はこの先か? 行くぞ!」
大神が号令をかける。しかし、その後方からまたも機械の駆動音が鳴り響いてきた。
『!』
花組の面々が慌てて振り返ると、そこにはマリアが仕留めたはずの蝶の紫電不動が全壊一歩手前の状態ながら迫ってきていた。
「フフフ…やられたわ…アタシはもうだめだわ…」
不気味に蝶が笑う。そして、
「でも…アタシの命にかけても、叉丹様のジャマはさせない! それがアタシの叉丹様に対する忠誠…そして愛…。お前たちも地獄に道連れよぉぉぉぉぉぉぉっ!」
高らかにそう宣言すると蝶が自機の紫電不動の内燃機関を暴走させる。
「! まずい! 自爆するつもりだ!」
一番最初にそれに気づいたのは大神だった。
「何ッ!?」
そのことにソーンバルケも顔を顰める。流石に爆発は剣ではどうしようもできない。どうすべきか考えようとしたそのときだった。
「アイリスっ!」
アイリスがテレポートすると蝶の紫電不動を抑えたのだった。
「何をしてもムダよ! この周囲は、跡形もなく消し飛ぶのよ!」
「う…うう…」
高笑いする蝶に、アイリスが怯える。
「離れろっ! 離れるんだっ! アイリスっ!」
大神もアイリスに退くように命じた。が、
「負けない…もん…絶対! 負けないもん…。お兄ちゃんを…アイリスが…お兄ちゃんを…絶対…守るんだから!」
アイリスは退こうとしない。それどころか霊力の賜か、驚くべきことにアイリスが蝶を押し返し始めた。
「はなせ! 私を殺すと爆発するのよ!」
蝶がそう言った直後、アイリスと蝶は共にその場から姿を消したのだった。
「お兄ちゃん、帰ったらデートしようね」
アイリスのその一言を残して。
「みんな…!」
残されたのはとうとう三人だけになり、さくらが呆然と呟いた。
「振り向くな、さくらくん!」
そんなさくらに喝を入れるかのように大神が通信を入れる。
「!」
「まだ終わっちゃいないんだ! 俺たちは叉丹を倒し、そして必ず世界を救うんだ!」
「大神さん…」
「そうだな」
大神の言葉に、ソーンバル家も頷いた。
「ソーンさん…」
「ここで立ち止まってはならない。わかるだろう? さくら」
「はい…」
力はなかったが、それでもしっかりとした返答がさくらからは返ってきた。
「みんなの想い…決してムダにはしない…見ていてくれ…」
大神のその一言にさくらとソーンバルケも無言で頷いたのだった。その頃、ミカサも必死に群がる降魔たちとの戦いを繰り広げていた。
「メインエンジンに異常! 出力低下しています!」
「補助機関、全機停止! 復旧の見込み有りませーん!」
「左舷連鎖砲、使用不能!」
かすみたち三人の報告も旗色が悪いものばかりだった。そして大きな振動がまたミカサを襲う。
「きゃああああぁぁぁ…」
三人の悲鳴が艦橋に響き渡った。
「なにっ! このミカサをもってしてもダメだというのか…」
予想外の状況に米田も焦りを隠せない。が、この絶対的に不利な状況下でもその目は闘志を失ってはいなかった。
「だが、しかし! わしは帝都を守らねばならん! 神よ…たとえこの命が尽きようとも正義を救わせたまえ!」
しかし同時に、ミカサが絶望的な状況になっているのを嘲笑うかのように、また石時計の火が一つ時を刻んだのだった。
「ここは!?」
再び聖魔城内。門を超えた三人は開かれた場所に出た。と、
「大神さん! あれを!」
さくらが指さした先には
「ようこそ…」
あやめ…殺女の姿があったのだった。
「!」
「あやめさん!」
「……」
三者三様の反応を見せる花組の生き残り。
「よくここまで来たわね…あなたたちともようやく決着がつけられるわね…」
「どいてくれ、あやめさん! 俺たちには果たさなくてはいけない使命があるんだ! 邪魔するなら、たとえあなたでも…」
「たとえ、わたしでも…なあに? フフフ…大神くんにわたしが倒せて?」
「……」
立ちふさがる殺女のその言葉に大神が押し黙ってしまった。
「フフ…いいわぁ…」
その様子に、殺女が恍惚の表情を浮かべる。が、
「でも、だぁめ」
殺女は残念そうに首を左右に振った。
「え?」
「わたしの相手はあなたじゃないのよ。少なくとも、今はね。…ねえ、そうでしょう?」
「…ああ」
そこで、さくらと大神の陰からソーンバルケが出てきた。
「決着をつけましょう? 二人っきりで」
「望むところ」
「ソーン!」
「ソーンさん!」
慌てる大神とさくらをソーンバルケが制した。
「ここは私に任せてくれないか」
「いや、でも…」
「頼む。そのためにお前たちに無理を言ってここまで来たようなものだ」
「……」
「大神さん…」
さくらが大神に判断を委ねる。そして委ねられた大神は、
「…わかった」
苦渋の決断を下した。
「すまないな」
「信じていいんだよな?」
「ああ」
「わかった」
大神が一歩引いた。それに歩調を合わせるかのようにさくらも一歩引き、そしてそれを合図にするかのようにソーンバルケがヴァーグ・カティを鞘から抜いたのだった。
「フフ…楽しくなってきたわ…」
殺女が再び恍惚の笑みを浮かべる。
「さあ、二人の決着をつけましょう…誰にも邪魔はさせないわ」
「ああ」
そして、ソーンバルケと殺女は睨み合ったのだった。その頃、
「一番主砲、完全破損しました!」
「左舷の高射砲も燃えてます!」
「自動飛行制御機構、損傷! 飛行状態を維持できません!」
「舵を手動に切り替えろ! わしがやる! まだまだぁーっ!」
ミカサにもクライマックスが迫っていた。聖魔城の外と内で、風雲急が告げられていたのだった。