あれからどうやって帰ったのか、あまり覚えていない。
ただ一つ分かるのは、いつも隣にいる春が居なかったことだ。
『こんな俺でいいのなら』
先輩と春が抱き合っているのを見て、私はその場を後にした。
春には用事ができて先に帰ると連絡を入れているけれど、明日以降もなんとなく顔を合わせづらい。
家に帰った時、いつもと変わらないように振る舞ったつもりだろうけれど、のほほんとしているお母さんにはお見通しなのだろう。
けれど私から話すのを待ってるのか、何か言ってくることはなかった。
次の日、時間をずらして春と一緒にいることを避けた。
唐突だろうけれど、『しばらく一人になりたい』と連絡している。
春ならこれでもきっとなんとなく察してくれるだろう。
「おはよう、凛」
「うん」
彼女は気を使ってからかってくることは無かったけれど、それが逆に私には辛かった。
昨日、寝るときも目を閉じればあの光景が見えて、実は夢だったってオチも期待して。
そんな事、現実じゃあるはずないのに。
「後悔してる?」
「……うん」
私の前の席に横座りした彼女は目を向ける事なく、声をかけてくる。
その姿勢に何処か優しさを感じて、私は窓の外に目を向ける。
寒く透き通った空の色が、私の目には痛く感じた。
「それで、自分の気持ちに気付いた?」
「……私、ずっと春のことが好きだった」
「……二人は近すぎたんだろうね。本来ならどこかで男女を意識するんだろうけど、それがなかった。幼馴染って特殊なんだよ。小さい頃から積み重ねていくものを互いに見てきた。なんでも知っているような気さえしてくる」
「……うん」
「今日、どこか遊びにでも行こっか」
「…………うん」
☆☆☆
あれから一週間が過ぎていた。
隣に春が居ないだけでこんなにも辛いものだとは思わなかった。
どれだけあの時に戻りたいと願っていても、そんな願いが叶うわけもなく。
けれど彼女はそんな私に優しくしてくれて。
それがいつまでもウジウジとしている私を惨めにさせた。
でも、それをいつまでも引きずるわけにはいかない。
でないと私が私でいられなくなる気がした。
「そろそろ、どうするか決めた?」
まるで私の心を読んでいたかのように、ピッタリなタイミングでの問いかけだった。
春の隣にいた私に戻るため、気持ちに区切りをつけようと決めたばかりなのに。
「取り敢えず春に告白して、私の気持ちに区切りをつけたいと思う。今後はそれから」
「そのまま先輩から取るのもアリだと思うけど?」
「それはダメ」
最初から私がなんて答えるか分かっていた問いかけだったようで、返しはなかった。
けれど背中を押されたような気がして、荷物をまとめたカバンを持って春の教室へと向かう。
これは無機質なものを介してのやり取りじゃなく、直接伝えなければいけない気がして。
「春。一緒に帰ろう」
「……おう。帰るか」
事前の連絡もしていなかったから、声をかけた時はとても驚いている様子だった。
そしてスマホをしばらく弄ってから荷物をまとめ、私の隣へと並ぶ。
たった一週間ほどのことなのに、とても懐かしいように感じる。
そして彼の隣がどれだけ居心地良かったのか、それを深く実感する。
この居心地の良いぬるま湯に浸かっていたのが私なんだと、現実を突きつけられもするけれど。
それ以上の落ち着きを感じるのだ。
今も何も聞かないまま、これまでと同じように隣を歩いてくれる春に甘えてしまいそうになる。
けれどそうしてしまえばきっと私は腐っていくだろう。
そうならないためにも私は、自分勝手というのも理解していながら区切りをつけるために口を開いた。
分かりやすく、それでいて簡潔に…高めて、高めていきたい