「私の所属している事務所にアイドル部門ができるんだけど、アイドルにならないかって声をかけられてて」
「それでどうしようかと悩んでたわけですか?」
「うん。やりたいって気持ちはあるんだけれど、アイドルになった時の問題とかを考えたら一歩踏み出せなくて」
悩みを聞いて考えてくれる後輩くんを見て、それだけで心が温かくなるような気がする。
自身の抱く気持ちに気付いて、アイドルになろうとする気も減っているような。
「先輩の言う問題って、勉強とかですか?」
「それもあるんだけれど、アイドルってとっても輝いているじゃん? 私もそうなれるかなっていう不安とか、その他にも色々……ね」
アイドルは恋愛できない。
この気持ちを抱いたまま諦めろと言われたら、アイドルを断るしか無い。
そう断言できるほどに、今は目の前にいる後輩くんが大切でいる。
「先輩って」
「うん」
「モデルになる時は同じような不安ありました?」
「あの頃は上手くできるかって不安よりもモデルができる嬉しさの方が上だったし、まだ将来とか今ほど考えられてなかったから」
「それじゃ、今はそんなにアイドルやりたく無い感じですか」
「アイドルをやりたく無いわけじゃないんだけど……」
今はアイドルやモデルって前に、女として大事な時だと言いますか。
「んー、その他の色々に少し引っかかりますけど、個人的な解釈でよければ」
「うん。意見の一つとして参考にさせて」
「アイドルになればいい……ってよりは、今思った気持ちを信じて先輩の好きにしたらいいと思います」
「……でも、それだと後悔しない?」
「僕的には今の気持ちを裏切って選択したあとの後悔よりデカイものはないと思ってますけど。……少し心理的な話をしますと、人ってどちらを選択しても後悔するんですよ。簡単に言えば隣の芝生は青い的な」
何となく分かるような、分からないような。
「どちらにせよ後悔するのなら、今、いいと思っている方を選んでいいと思いますよ」
「……なんとなく分かったと思う。話聞いてもらって、気が楽になったよ」
「それは良かったです。なら最後に僕の願望を」
「願望?」
「先輩…………城ヶ崎先輩には、アイドルをやって欲しいと思ってます。自分のやりたいことを楽しんでやっている姿は十分に輝いて見えるので」
「ふぇっ?!」
いっぺんに色々と起こりすぎていて訳がわからない。
後輩くんが何かカバンから出したようだけどそれって最近私が表紙を飾った女性誌だしなんで買ってるの?!
名前を呼ばれ、アイドルをやって欲しいと願望を伝えられ。
輝いて見えるってそれはつまりモデルの仕事も見てると?
「先輩のこと、友達とかから聞きました。でも、なんだか居心地が良さそうだったので」
「私、ビックリしすぎてて何が何だか分からなくなってきてるんだけど」
意識する気持ちがさらに強くなって後輩くんの顔をまともに見ることができない。
きっと顔は真っ赤になっていて、それはバレているだろう。
「アイドルになるのが乗り気で無いように見えますけど、わがままを言わせて貰うとステージに立って輝いている先輩が見たいです。やりたい事をやっている先輩を見ると、こっちまで楽しくなってきて、新しいこととか初めてみようって思ったり。もっとたくさんの人を笑顔にできると僕は信じてます」
そのセリフを聞いて私は後輩くんへと目を向ける。
良いことを言って恥ずかしくなってきたのか、今度は後輩くんが視線をあちこちへと彷徨わせていた。
後輩くんが言ったように、たくさんの人を笑顔にするアイドルへとなれると考えたことはあった。
だけど本当になれるか不安で、自信がなくなって。
私──誰かに背中を押して欲しかったのかな。
それは誰かじゃなくて、後輩くんが良いと思っていたり。
好きな人と一緒にいたいけれど。
その好きな人に輝いているところを見たい、と言われちゃったらそりゃ頑張るしかないっしょ。
「ここまで言われてやらないってのは私じゃないし。アイドルになって世界中の人を魅了させるんだから」
「それはとても嬉しいです」
「だからさ」
のほほんとしている後輩くんに飛びっきりの笑顔を見せながら言ってやった。
「──くんはこの私を焚きつけたんだから、アイドルとしての城ヶ崎美嘉ファン一号としてずっと付いてくるんだよ!」
──後日談
「ああ、そういえば美嘉」
「どしたのプロデューサー。ポッキー欲しいの?」
「それは貰うが、言い忘れてた事があってさ」
「何々?」
「うちは恋愛に関して自由だから」
「…………っへ?」
「だけど報告はして貰うぞ……美嘉? おーい、聞いてる?」
活動報告に今考えてるアイドルとその関係を載せときます
案があったらそこに