「そういえば、シオン君は何かを買いに来たって言ってたけど、何を買いに来たの?」
「歯みがき粉と香水だね。一応、ライブラリーからは持って来たんだけど、そろそろ切れちゃって。後は店にあればで良いんだけど、詰め替えのシャンプーぐらいかな」
街を案内されている最中、シルヴィは僕のお目当ての物が何かと訊ねてきたので、僕は欲しい物をそのまま素直に打ち明ける。香水とかシャンプーとかって女性の方が多く使うから詳しい感じはあるし、シルヴィにオススメのお店を紹介して貰うのも良いかもしれない。
「歯みがき粉に香水、シャンプーね。なら、私が使っているお店を紹介してあげるよ。品質と品揃えがアスタリスクの中でもとても良いお店だよ」
「助かるよ。なら、そこに行こう」
流石は女の子。やっぱりこういうのは女の子に一日の長がある。それにしても世界的アイドルが御用達のお店か。案外とんでもない場所かもしれない。
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シルヴィに連れられて彼女がオススメする店にやって来ると、そこは普通の百貨店のような学生が簡単に利用できそうな大きな店だった。
てっきり数回行ったことがある銀座みたいな高いお店かと思っていたが、そうではなかったようだ。
そう思いつつ意外そうな顔をしていたら『たまにテレビの取材とかではシオン君が想像しているようなお店は使うけど、基本は利用しないかな。世界的有名人っていう肩書きはあるけど、お金は豪遊しない方だよ。今でも、ファストフード店とかの味が恋しくて、食べに行くぐらいだもの』とプライベートな情報を教えてくれた。
意外にも庶民的な歌姫である。シルヴィの感じから豪遊するような人物ではないとは思っていたけど、ここまで庶民的だと普通の女子学生にしか全然見えない。
ちなみに、その時に『シオン君はこういう生活の人って好きかな?』とシルヴィに世論アンケートみたいな事を聞かれたので、僕は自分の心を嘘偽りもなく、好きとシルヴィに話した。だって、豪遊するような貴族じみた生活はあまり憧れがないし、家庭的なタイプの女性の方が接しやすいから。
そう言ってシルヴィに返答したら、シルヴィは嬉しそうに謎のガッツポーズをしていた。
なんでだろう?まさか、アイドルの在り方について人知れず悩みを抱えていたとか?相談されたら付き合うが、こちらからはあまり触れないでおこう。
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「そう言えばシオン君っていつもどういう種類の香水をつけているの?」
目的の歯みがき粉とシャンプーの詰め替えパックを見つけ、最後の目的の物である香水が売っているコーナーを移動しながらシルヴィが僕に訊ねる。
「柑橘系のものかな。けど、柑橘系の香水を使い始めたのはここ最近なんだ。カーリーさんやライブラリーの他の女性の人に勧められてね。でも、昔は無香料タイプの物を使っていたよ。ちょっとした知人に叱られてね……」
「ちょっとした知人?」
「うん、その人ね。ちょっとしたレストランを開いているんだ。それで、料理ができる僕をしばらく臨時で雇った時があって、その時にカーリーさんの計らいで柑橘系の強めの香水を使って行ったら……」
『シオン、アンタ柑橘系の香水をつけているでしょ?それ使うとワタシの料理の香りが霞むんだよね。大方カーリーさんがやったのは分かるし、今日は初日だから許すけど、次同じ事やったらただじゃおかないから』
マジで殺されるかと思うぐらいキレられた。
あの人は昔から料理に対してのプライドがすごく高かったからね。僕の料理の腕を認めて雇ったのは分かるけど、基本は僕に対して嫌悪感が漏れてるからなぁ。仲が悪いのは意識の方向性の違いが原因だけど。あの人の料理は大衆向けより富裕層向けの人用なんだよね。
「へぇ~、そんなことがあったんだ。っていうか、シオン君って料理が得意なの?」
「まぁ、そうだね」
元々ライブラリーの仕事で、自炊をする機会もあったし、何よりカーリーさんがお腹を空きやすい人だったから、昔は今の数倍の頻度で料理をしていたっけ。そのせいで、料理の腕は無駄に上達しちゃったんだよね。
「シオン君の料理か~。食べてみたいな~」
そう言って、シルヴィは香水を選んでいる僕の方を見て瞳で訴えてくる。上目遣いで、しかもキラキラと輝かせている瞳でだ。
「うっ…分かったよ。近い内にね」
「やった♪」
自分でも分かっているが、僕は女の子にこういう事をされると非常に弱い。何というかあまり女の子が困る姿を見たくないんだよね。
まぁ、別に料理を作るぐらいなら、自分にとっては朝飯前だし、別に食材があれば大丈夫だけど。
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「シルヴィ、今日はありがとう」
目的の物を無事に買えて、お店からシオンとシルヴィアは出てくる。二人が出る頃には冬という時期もあって夕方前なのに日は暮れそうになっていた。
「どういたしまして。私も久しぶりに息抜きが出来たから楽しかったよ」
シルヴィアもシオンと二人きりでいた時間が楽しかったのかシオンと会った時よりもすっきりと晴れ晴れとした笑顔をシオンに見せていた。
「次会うのは入学式が終わってからかな?確かシルヴィはライブツアーがあったよね?」
「うん、もうすぐワールドツアーが始まって練習とかもしなくちゃいけないしね。しばらくはシオン君とは会えないかな」
そう言って、シルヴィアは寂しそうな表情をシオンに見せる。
「なら、定期的にシルヴィには連絡をするようにするよ。アスタリスクに来てからは忙しくて一回も連絡ができなかったから」
「本当っ!?約束だよ!」
「もちろん。それと君の先生のウルスラさんの行方は僕が代わりに探しておくから」
「えっ……どうしてっ?」
「どうしてって。それはシルヴィが困っているからだよ。あの時に失敗したから、もう断念しようって気持ちは僕には無いよ。僕もお願いされた以上最後まで付き合うからね」
実はシオンはアスタリスクに来てからウルスラの捜索を自分の能力を使って連日行い続けていた。
けれども、捜索は失敗し、彼の能力で作った魔法の鏡は割れるばかりであった。それでもシオンはシルヴィアのお願いを忘れることなく、諦めずに捜索を続けていたのだ。
そのシオンの行動にシルヴィアは衝撃を受けていた。本来なら私事のため、シルヴィアは自分で解決しなきゃいけないと思っていた。
けれども、あまりに手掛かりが少なく、彼女の親代わりとも呼べるペトラにもウルスラの捜索は止められていたのだ。それは彼女を危険な目に会わせたくないという気持ちの表れで、シルヴィアはもちろん分かっていた。
だからこそ、シルヴィアは嬉しかった。まさか、軽く頼んだぐらいのお願いを彼は忘れずに今日まで熱心に協力してくれていたから。
「シルヴィ?何で泣いて?」
「うん……ありがとう、シオン君。なら、お願いしても良いかな?」
「うん、任せておいてくれ」
その後、僕はシルヴィが泣き止むまで彼女に付き合っていた。このまま別れるのも彼女には酷だと思うし、むしろシルヴィは喜んでいたから。
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「たっだいまぁー」
シルヴィが泣き止むまで彼女に付き添い、彼女をクインヴェールの近くまで送った後、僕は自分が住んでいる寮に帰って来た。
といっても、この寮は冒頭の十二人に与えられる特典で、入居者は十二人しかいない。だからこそ、ただいまと言っても返事は一切帰って来ない。
なんか物寂しさはあるよね、うん。
そう思いつつ、自分の部屋があるところまで向かうと、自分の部屋の前にはノエルと金髪の少年が立っていた。一体誰だろう。
「あ、シオン兄さん」
僕の存在に気付き、ノエルが声をかけてくると、金髪の少年もこちらの方を向く。
少年の視線……あまり良い感じではなさそうだな。むしろ、妬んでいるような。
「ノエル、部屋の前に立ってどうした?それとこの少年は一体?」
「そ、それが………」
「おい、語り部の魔術師!」
そう言って金髪の少年は僕に口を開いた。
「僕と決闘をしろ!」
はいっ?