学戦都市アスタリスク~語り部の魔術師~   作:リコルト

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お久しぶりです。
コロナウイルスで大学が休講になりました。
オンライン授業をするって突然言われたのですが、オンライン授業がどういう物かあまりパッとしないんですよね……。 





白髪の序列一位

 

 

 季節はあっという間に冬を越え、すっかり春になった。温度も厚着をする必要も無いぐらいになり、アスタリスクに植生されている桜の木が満開の花を咲かせていた。

 

 後数日で、アスタリスクの各学園で行われる入学式に向けてどの学園の生徒も最後の準備に取り掛かろうとしており、それは勿論自分も例外ではない。

 

 

「えっと……式典で使うブーケ用の花はこれとこれとこれで十分足りるかな」

 

 

 僕は中央区の大きな公園で開かれているマーケットのような場所で入学式の式典の飾り付けのための花の買い出しに来ていた。

 

 一応、花の種類はそこらの暑苦しい体育会系タイプの男子よりは知っているため、買い出しに行かされた訳なんだけど、花に一番詳しいのはノエルなんだよね。

 

 けれども、ノエルやエリオット君はあくまで特待生として早く入学しただけで、二人も入学式には参加する。入学式に参加する生徒が自分の式の準備をするのも変な話なので、二人はここ数日、春休みのように休日を取らせている。

 

 ただ、僕を含めた生徒会の面々が働いているのを見て二人は休みに反対したので、アーネストさんの会長権限で強引に休ませている。若い内に仕事中毒になると、悪いことしかないよ。マジで。

 

「はいよ、語り手のお兄ちゃん」

 

「どうも、ありがとうございます」

 

 花屋の主人であるお婆さんから注文した花を花束のような形で丁寧に受け取り、僕は注文した分の代金を支払った。

 

「さてと……一旦学園に帰ろうか」

 

 花束の状態で持っているため、他の店に入るのも邪魔だと思われるし、潰されて花が散るのは困るから、何処に行くにしても学園に一度戻るのが得策だろう。学園には女子力高い人達が早く飾り付けをしようと待っている人もいるわけだしね。

 

 別の店にこの状態で入るのは無理だと判断した僕はガラードワースへの方へと歩き始める。ひとまずは公園を出てからだ。

 

 

 公園を出ようとしたその時……

 

 

 

「……貴方が本宮シオンね?」

 

 

「……オーフェリア・ランドルーフェン!?レヴォルフの序列一位がどうしてここに………」

 

 

 

 まるで、春の暖かい季節が冬に逆戻りしたような冷たい視線を感じ、公園の入り口近くの塀へとすぐに目を向ける。

 

 すると、そこには何の気配もなく幽霊のように現れた白髪が目立つ少女が立っていたのだ。ひんやりとした冷気を全身に纏ったようなこの白髪の少女、アスタリスクの生徒では知らない人はおらず、一部の生徒達からは恐怖の対象として死神のように認識されている有名人だ。

 

 

オーフェリア・ランドルーフェン。アスタリスクの一角であるレヴォルフ黒学院の序列一位で、つい先日行われた王竜星武祭の優勝者である。

 

 アーネストさん達のように星武祭を制した並外れた実力者ではあるが、彼女は星脈世代の中でも誰よりも異質な存在なのである。それは彼女の二つ名である孤毒の魔女(エレンシューキガル)という名前が関係していた。

 

 彼女の能力は二つ名の通り毒や瘴気を扱う能力で、彼女から無尽蔵に溢れるそれらは並の星脈世代でも死に至るかもしれない程生命に有害なものである。しかも、その瘴気は能力者である彼女自身でも抑えるのは困難なものらしい。

 

 そのため、多く人々は彼女に会うのは死神に会うようなものだと恐れて好んで彼女には近付かず、彼女自身もそれを知って人前にはめったに現れない。

 

 その彼女がどうして俺の前に現れたのか自分でも理由が分からない。ただ、好意的な接触では無いという事は確かな事実だと自分でも理解できる。

 

「あの…僕に一体何の用ですか?」

 

 死神と恐れられる人物に僕は接触した目的を訊ねる。すると、彼女は顔の表情を一切変えず、機械のように僕の問いに答えだした。

 

「……ライブラリーの切り札、貴方の実力をうちの生徒会長が確かめたいらしいの…。だから、私は貴方と戦うことでしか話し合えない」

 

 そう言って、彼女は自慢の無尽蔵である星辰力を周囲に満たし始める。同時に彼女の後ろには化身のような紫色のモヤが見えるが、生存本能だけであの紫色のモヤがヤバい奴なのはすぐに分かる。

 

「くっ……仕方がない!」

 

 僕は片手に花束を持ちながら、もう一方の片手に煌式武装を片手剣のような形で顕現させる。あのシルヴィですら勝てない星脈世代にどう挑めば良いのか、勝利のイメージが全く浮かばないが、静かな闘争心を剥き出しにしている彼女に自分はただ戦闘体型を構えるしか方法が無かった。

 

 どうしてこうなったんだ……

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

ー数日前ー

 

 

「……呼び出して何の用かしら?」

 

 暗い雰囲気を醸し出している生徒会長室に呼ばれたオーフェリアは彼女を呼んだ張本人であるディルク・エーベルヴァインに問いかける。

 

「仕事だ。語り部の魔術師が俺達の計画の脅威になるのか実力を見極めてこい」

 

「……随分と焦っているじゃない」

 

「黙れ。ライブラリーは俺達の計画からしてみれば、一番未知の脅威なんだよ。実際、一時的にアスタリスクを離れていたヴァルダから最近何者かにずっと尾行されていると連絡を受けている。恐らく、ライブラリーのメンバーだ」

 

「そうなのね……で、実力を見極めてこいって具体的に私は何をすれば良いのかしら?」

 

「そこは戦うテメェにまかせる。俺達の脅威にならないと思わなければ、そのまま何もせずに撤退しても構わねぇ。ただ、俺達の脅威になると思うのならば、最悪アイツに星脈世代として活動が出来なくなる致命打を与えてこい。俺達の計画の邪魔になる雑草は若い内に摘んだ方が良いからな」

 

「……分かったわ」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「………ねぇ、花束」

 

 

「はい?」

 

 

「花束をそこのベンチに置いてくれないかしら?」

 

 

 花束をベンチに?確かにちょうど離れた所にベンチがあるから置いても良いが……。

 

 

「もしかして、両手が塞がってるから僕が本来の実力が出せないと心配してるんですか?」

 

 僕がそう訊ねると、彼女は首を横にふる。

 

「いいえ……私の毒は生き物には有害だから。あれだけ綺麗に咲いた花を枯らせるわけにはいかないわ」

 

 へぇ、メディアとかでは誰も寄せ付けない女性だとか怪物とか報道されているけど、意外に女の子らしい所もあるんだな。

 

「分かった。なら、お言葉に甘えて」

 

 僕は彼女の言葉に甘えて片手を塞いでいた花束を戦闘に影響が無い離れたベンチに置いてきた。最初はベンチに置いてくる際に不意討ちをしてくると思っていたが、彼女は何もしてこなかったね。もし、星脈世代じゃなければ、優しい女の子ではなかったと思ってしまう。こうして、戦うのは非常に残念である。僕としても彼女には怪我をさせたくない。

 

「……準備は良いかしら?」

 

「はい……おかげさまで」

 

 僕は改めて空いた片手に片手銃を顕現させ、自分が最も戦いやすい戦闘体型を取った。

 

「……なら、行くわよ」

 

 オーフェリアの言葉と同時に彼女を守るように蠢いていた紫色のモヤがシオンに襲い掛かる。

 

 

 

…………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

(おかしい……おかしいわ)

 

 

 ライブラリーの切り札と闘っているオーフェリアは彼に疑問を抱いていた。

 

 

(何故、私の毒が彼には効かないの?)

 

 

 オーフェリアが疑問に思っている事。それは本宮シオンが彼女に何食わぬ様子で対等に戦えているという事であった。

 

 

「そらっ!!!」

 

 

 彼は瘴気が充満している紫色のモヤの鞭のような一撃を片手剣で弾く。それにより、紫色のモヤは分散するように蒸発してしまう。彼女が劣勢に見えるその光景にオーフェリアは思わず目を見開き、彼女の運命を覆すかもしれないという一抹の希望のようなものを胸に抱いていた。

 

 

(本来、私の瘴気は純星煌式武装ならまだしも、只の煌式武装なら溶かしてしまう程危険なものなのよ。それなのに、彼の煌式武装は溶けない所か、私の瘴気が彼の煌式武装……いや、彼の星辰力を嫌がってる)

 

 

 最初はあの煌式武装に瘴気を祓う秘密があると読んでいた彼女であったが、その推測はすぐにハズレであると理解するのであった。

 

 

「はぁっ!!」

 

 

「……くっ!?」

 

 

 シオンの彼女を武器で傷つけたくないという気持ちで放った拳が彼女の細い腹に一撃を食らわす。それはオーフェリアも予想外の出来事だった。

 

 

(まさか瘴気を出している私にここまで接近……しかも、私に触れる事もできるなんて。やはり、私の瘴気が嫌っていたのは彼の特殊な星辰力!!)

 

 

「…………えいっ」

 

「えっ?……うぉっ!?」

 

 

 シオンの拳で吹き飛ばされると思われたオーフェリアだったが、彼女はそのまま彼の腕を掴み、投げ飛ばす。序列一位のオーフェリアの体術が鮮やかに決まり、シオンは綺麗に投げ飛ばされるしか術がなかった。

 

 

「いてて……って、ちょっオーフェリアさん!?」

 

 投げ飛ばされたシオンの予想外の出来事は終わらない。草むらを背に投げ飛ばされたシオンの身体にオーフェリアが覆い被さっているのだ。彼女とシオンの距離は数十センチも離れておらず、事情を知らない人が見れば、スキャンダル不可避の光景だ。

 

 一刻もこの状況から抜け出したいシオンであったが、彼の手首及び全身は彼女の握力と体重で固定されており、彼女の胸についている柔らかいものが彼の胸板に当たっている状態である。

 

「オーフェリアさん!!離してください!降参!降参しますから!だから、僕から早く降りてください!貴女のその……身体が僕の胸に当たって!!」

 

「……………………………………」

 

「いや、何か言ってください!?まるで、僕を観察するような目で無視するのが一番この状況で怖いから!?こんな状況見られたら、社会的にバッドエンドだからぁ!?」

 

 

 彼の頭の中には今後の結末が走馬灯のように浮かんでくるのだった。アーネストさん達からの事情聴取、カーリーさんからの事情聴取、週刊誌での風評被害、ノエルからの軽蔑された視線、そしてシルヴィからの説教。最後のはどうして浮かんでしまったのかシオンにも分からなかったが、当時の余裕の無いシオンにはそれを深く考える心の余裕と時間を持ち合わせていなかった。

 

「……やっぱり……ねぇ、本宮シオン」

 

「は、はい?何ですか?」

 

 しばらく無言でシオンを押さえつけていたオーフェリアがようやく口を開く。だが、その話す距離は人と人が話す距離としてはあまりにも近く、彼女の吐息とミントを思わせる清涼感が香る彼女の髪の匂いが彼に伝わるぐらいだった。

 

「……どうして私の瘴気が貴方に効かないの?私が推測するにそれは貴方の能力かしら?」

 

「えっ、そうですが……なら、ちょっと手首を離して僕から降りてくれません?知りたいことなら、全部教えますので」

 

「……分かったわ」

 

 交渉が成立し、彼女から物理的な意味で解放されたシオンはその場に立ち上がり、腰に着けている栞をしまうケースから水色と緑色に輝く栞を取り出して、オーフェリアに見せる。

 

「オーフェリアさんは毒や瘴気を扱う能力者ですから、予めこの栞の能力を使って、自分の身体と煌式武装に当たる毒や瘴気を無力化したんです」

 

「……その栞は?」

 

「シンデレラに出てくるフェアリー・ゴッドマザーの栞です。物語通りならシンデレラにドレスと馬車を与えるという奇跡みたいな能力ですが、僕の場合だと体力の回復や状態異常の回復などに使えます」

 

「その能力……私にも使える?」

 

「えっ?まぁ、何かアクセサリーに能力付与すれば、あとは身に付けている人物の星辰力を使用してその能力を発動する事ができますが………」

 

「なら……これにやってくれるかしら?さっきの毒と瘴気を無力化する能力の付与」

 

 そう言って、オーフェリアがポケットから取り出したのは銀色に輝くブレスレットだった。

 

 

………………

 

 

…………………………………

 

 

…………………………………………………………

 

 

「成る程。まさか、オーフェリアさんが人工的に作られた魔女だったとはね。噂はずっと僕も半信半疑だったけど、本人に言われたらね」

 

「そう……私は生まれ育った孤児院の借金の代わりに実験台になったの。この能力を手にした時にその研究所は私が滅ぼしてしまったけど、その時に私を拾ったのがうちの会長さんよ」

 

 ベンチの隣で座るオーフェリアさんの話を聞きながら僕は栞を輝かせ、彼女から借りたブレスレットに毒と瘴気を無効化する付与(エンチャント)作業をする。

 

 あれだけ好戦的な様子で決闘を挑んできた彼女であったが、彼女にはもうすでに戦う意志は無いということだ。依頼されている身として彼女の行動はそれはどうかなと僕も思ってしまうが、これ以上複雑な状況にはしたくないので、敢えて黙ることにした。僕としても彼女とは戦いたくないし、彼女に襲われたくない。

 

「……そう言えば、貴方は私を怖がらないのね?」

 

「怖がる?あー……別にオーフェリアさんみたいな境遇の人はライブラリーに何人かいるからね」

 

「……そうなの?」

 

「うん。ライブラリーはそういう研究所とかで育った孤児とかも保護してるから……よし、出来た!」

 

 能力を使うのを止め、栞をホルダーにしまい、完成したブレスレットをオーフェリアさんに返す。

 

 ブレスレットが返されると、オーフェリアさんはそれをすぐに右手に装着し、感触を確かめる。

 

「……うん、感触は大丈夫そう」

 

「そうか、ならこの花束で試してみて」

 

 そう言って、僕は先程花屋で買った花束をオーフェリアに手渡す。最初は花束に触ることを躊躇っていたが、意を決して花束に触れると、花束を彩る可憐な花達は一切枯れることなく、綺麗な色を保ち続けていた。

 

「……すごい。また花に触れるなんて!」

 

 花束を綺麗に持つオーフェリアさんの様子は死神や怪物と呼ばれる理由がどこにも見つからず、ただの花を愛する女の子にしか見えなかった。研究所に行かなければ、こういう笑顔を振り撒く女の子として一生を過ごしていたかもしれないだろうに。

 

 

………………

 

 

…………………………

 

 

……………………………………………

 

 

「……貴方は少なくとも私の脅威じゃない。貴方には運命を変える力を持っているわ、シオン」

 

 そう言ってオーフェリアさんは花束を僕に返す。

 

「うんっ?これは………」

 

 彼女から受け取った花束の持ち手を見ると、花束を結ぶゴムにメモ用紙が挟まっていた。

 

「………それは私の電話番号。うちの会長さんのせいで、表立った連絡先の交換が出来ないなら。それに次からはオーフェリアで良いわよ。貴方にさん付けをされると、妙にもどかしいから……」

 

 そう言って僕に一言を残していくと、それ以上は何も言わずにレヴォルフの方へと去っていた。突然現れたと思ったら、帰るのも突然か。色々と台風みたいな人だったな。

 

「……さてと、僕もガラードワースに帰ろうか」

 

 

……………………

 

 

…………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

「……彼は脅威じゃなかった。だから、貴方の指示通り彼には何もしてこなかったわ。それなのに、どうして貴方は不機嫌なのかしら?」

 

「テメェ、俺の指示が悪いみたいに言いやがって。テメェの能力が効かないなんて十分脅威じゃねぇか。それに、自慢の瘴気が出せなくなって帰ってくるなんて嫌がらせのつもりか?」

 

 オーフェリアの所有主であるディルク・エーベルヴァインはギロッとオーフェリアのことを睨むが、オーフェリアはそれに全く動じる様子もない。

 

「で、そのブレスレットは語り部の魔術師がやったものなんだよな?テメェの力では外せないのか?」

 

「……無理ね。私には外せないわ。それに、もしここで無理に外したら、溜まった瘴気が溢れて星脈世代じゃない貴方は簡単に死ぬかもしれないわよ」

 

「チッ…クソが!」

 

 ディルク・エーベルヴァインはその説明にも苛立ちを覚えるが、それがオーフェリアの嘘による脅迫だという事に気付いていなかった。

 

 本当はオーフェリア自身でブレスレットは外せるものである。しかし、オーフェリアは今日生まれた胸の内に抱く願望のために敢えて嘘をついたのだ。

 

 

 その願望とは『自由になりたい』。シオンが話したオーフェリアと同じ境遇の者達の存在への興味、そしてそんな者達や孤児達を保護するライブラリーへの憧れ。彼女はディルク・エーベルヴァインから解放され、自分もそこに務めてみたいと思っていたのだ。彼女の思い出の地にいる孤児院の子やシスターと共に。

 

 

 そのためオーフェリアはまず自分の長所とも言える星脈世代としての才能を敢えて捨てることで、自分を所有している価値のメリットを削ろうと考えたのだ。そうすれば、モノとして見ている私を彼は所有する意味を失うから。

 

 

「星脈世代として能力を失ったお前なんてただのガキじゃねぇか!クソッ!」

 

 

 ディルク・エーベルヴァインは彼女の予想通りの反応を示し、苛立ちを露にする。すると、生徒会長室のモニターから男の声が生徒会長室を響き渡らせる。

 

 

『なら、その彼を殺せばオーフェリア・ランドルーフェンの能力も解放されるのではないかね?』

 

 

(………この声は)

 

 

「あっ?どういうこと事だ、処刑刀?」

 

 

『言葉通りの意味だよ。彼女の能力を縛っているのが語り部の魔術師の能力なら彼を殺してしまえば良い。戦力的には彼はとても魅力的だが、彼が私達の計画には賛同する希望は薄いだろう』

 

 

「……そうだな。だが、お前は星武祭で忙しいから協力は難しいだろう?なら、誰が奴を殺すんだ?」

 

 

『今、ヴァルダを追っ手の件を踏まえた上でアスタリスクに急いで帰らせている所だ。ヴァルダなら彼を倒す実力も見込めるだろう』

 

 

「成る程……なら、ひとまずその計画はヴァルダが帰ってからだな。オーフェリア、お前は余計な事を勝手にするなよ?」

 

 

(……巻き込んでごめんなさい、シオン)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

「お帰りなさい、二人とも」

 

 

 場所が変わってライブラリーの本拠地がある人口島。まるで母のように迎えるカーリーの前には二人の男女が立っていた。

 

 

「いえ、女主人(ミストレス)の為ならどんな任務もきつくはありませんよ」

 

 

 一人は石炭のように黒い髪をした成人男性。身長は2m近く長身で、髪と同じ色をした黒色の眼鏡が頭の良さを感じさせる。口調も丁寧で朗らかとした様子は紳士や教授を思わせる雰囲気を醸し出している。

 

 

「兄様の言う通りです!追跡任務なんて私達にとっては余裕ですから!」

 

 

 もう一人は彼を兄様と呼ぶカーキ色の髪をした長髪の成人したばかりを思わせる女性。彼よりちょっと低いぐらいの身長であるため、二人が一緒に並ぶと兄妹ではなく、思わず恋人と間違えてしまう。性格も彼と比べると、とても明るく、その明るさを容姿でも体現するように胸元も服越しでもかなり大きい事が分かる。

 

 

 この二人はある人物……いや、あるモノを追跡するためにカーリーから極秘任務を受けていたのだが、そのターゲットに動きがあり、カーリーは二人を本拠地に帰還させたのだった。

 

 

「それで……ヴァルダ・ヴァオスの行方は?」

 

 

「何者かと交信をした後、急ぐように空港へと移動。目的の場所はアスタリスクです。細心の注意は払いましたが、尾行にも気付かれている様子だったので、バックにいる人物が帰還させた説が濃厚ですね。それとカーリーさんに新たに調査された件ですが、ヴァルダ・ヴァオスとウルスラさんは高確率で同一人物です」

 

 そう言って黒髪の男は追跡調査をした結果ファイルをカーリーの空間ウィンドウに送り、ヴァルダと呼ばれるローブをした女性の写真とペトラから手に入れたシルヴィアの探し人であるウルスラの写真が同一人物だという証拠をカーリーに見せる。

 

 

「ヴァルダ・ヴァオス……《翡翠の黄昏》の元凶で全統合企業財体が秘密裏に警戒している凶悪な純星煌式武装。最近ヴァルダがアスタリスクや世界各地で秘密裏に活動しているという噂がありましたが……まさか、ウルスラさんの体を使っていたとは」

 

 

「確かシオンもこのウルスラさんという人物を探しているのですよね?彼にこの事は?」

 

 

「まだ伝えない方が良いでしょう。相手は星脈世代すらも洗脳する最強の精神操作型の純星煌式武装です。シオンに伝えれば、恐らくウルスラさんを探すために行動を開始するのは必然でしょう。そこで、貴方達に新たな任務を与える為に招集したのです」

 

 

「新たな任務とは?」

 

 

「アスタリスクに向かい、ヴァルダ・ヴァオスをシオンには秘密裏に身柄を拘束するのです」

 

 

「やったー!私、アスタリスクにはずっと行きたいと思ってたんだよねぇ!美味しいスイーツのお店がたくさんあるし!でも、シオン君に会えないのはちょっと悲しいかなぁ」

 

 

「そう言うと思ったので、その件も含めて二人にはこれをついでにシオンに渡して来て欲しいのです」

 

 

 久しぶりにも関わらずシオンに会えないことに悲しがる妹にカーリーは大事そうなケースを見せる。中身を開き、兄妹が覗くとその中には十数枚以上の栞の束が入っていた。

 

 栞の束は二つに分かれており、一番上にある栞にはそれぞれトランプのような柄と赤と青のコントラストが映える柄が描かれていた。

 

 

「これは?」

 

 

「シオンの為の新たな栞です。これをシオンに渡して来て貰いたいのですが頼めますか?」

 

 

「了解しました」

 

 

「了解!」

 

 

 

 オーフェリアの嘘によりヴァルダが動く中、ライブラリーもその裏で二人の兄妹がアスタリスクに向かおうとしていたのを知るのはシオンにとって遠くもなく近くもない未来のお話である。

 

 

 

  

 

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