「シオン兄さんの新しい栞ですか……」
フラーレルがシオンのためにと持ってきた箱の中身をノエルが宝石を見るように眺めている。
右側にある栞の束の一番上にある一枚の栞の絵柄はトランプをモチーフとしたポップな雰囲気で、一方左側の栞の束の一番上にある一枚の栞の絵柄は赤と青が綺麗に分かれた何か神秘的な雰囲気を醸し出す絵柄でノエルだけでなく、レティシアやアーネストも興味を示していた。
「そう、シオンの魔術師としての能力は非常に汎用性が高い優れた能力だ。ただ、シオンの物語を顕現させる能力はそれに関わる触媒が必要でね。それが普段からシオンが使ってる栞だ。そして、その栞は物語の書き手の遺物を基に作られる。今、シオンが持っているのはグリム兄弟の栞だけだね」
「そう言えば………」
ノエル、レティシア、アーネストは今までのシオンの能力を回想のように思い出す。
ーー『いばら姫』をモチーフにした相手を簡単に深い眠りにつかせる茨。
ーー『シンデレラ』の華やかな舞踏会に映えそうなするどい硝子の雨。
ーー『ラプンツェル』に出てくる主人公を幽閉するとてつもなくでかい巨塔。
ーー『赤ずきん』を彷彿させる真っ赤に染まった炎と狼のシルエット。
ーー『しらゆきべにばら』に出てくる姉妹を思わせる赤と白の薔薇の双風。
ーーこれら全てグリム童話に由来する物語なのだ。
「ということはその新しい栞を使えば、シオンは他の物語に関係する物を顕現できますの?」
「ええ、副会長さんの言う通りです。ほら、シオン。受け取りなよ」
そう言って、フラーレルは箱から複数枚の栞の束を全て取り出してシオンに手渡しする。
「ちなみにシオン君!その二つの束の栞って誰の物語か分かるかな?当ててみてよ!」
「は、はぁ………」
彼の先生的立場であるシエラの天真爛漫な問いかけに応えるためにシオンは改めてシオンは栞を眺めた。数ある栞を大まかに把握しておかなければ、能力も使えないためシオンにとってもこれはある意味で良い機会だった。
「………も、もしかして、さっきのトランプ柄が描かれていた栞……イギリスの童話作家のルイス・キャロルのものですか?」
そんな中、あまり自信が無い様子でノエルがそれに手を挙げて答える。
「お、ノエルちゃん大正解!そのトランプ柄の栞の束はルイス・キャロルの栞なんだ!」
「ルイス・キャロル……」
ールイス・キャロルー
その名前はペンネームで、本名はチャールズ・ラトウィッジ・ドジソン 。世界的に有名な童話『不思議の国のアリス』の生みの親であり、作家でありながら数学者や写真家という異色の経歴を持つイギリス人作家だ。
不思議の国のアリスには確かにトランプに関わる話で、ハートの女王が良い例だ。栞にトランプ柄が描かれる理由も納得である。
一つはルイス・キャロルの栞だということは分かった。ただ、もう一つの栞の方が難しい。赤と青の二つの色に対照的に分かれた柄で、これといった特徴がない。そう思いつつ、シオンは栞を一枚ずつ捲っていく。
「うん?これは………」
捲っていくと、シオンの目に一枚の栞が目に入る。それは夜を思わせる黒色の背景で妖精が踊っている柄が描かれていた栞だった。
「夜…妖精…もしかしてシェイクスピアですか?」
「そうか!真夏の夜の夢だね?」
シェイクスピアと名前を出すと、アーネストもその栞の基の物語となった名前を答えとして挙げ、シオンの答えに同意の意を示した。
「ピンポーン!流石はシオン君と会長さん!この栞はルイス・キャロルと同じイギリス出身の劇作家であるウィリアム・シェイクスピアのものだよ!」
それを聞いたシエラは相変わらずと言って良い程クイズ司会者みたいな拍手を二人に送った。
「シェイクスピア……ですか?」
「ノエルがあまり知らなくても無理ないですわ。ルイス・キャロルの話が子供向けならば、シェイクスピアの話は大人向けの話ですもの。彼は四大悲劇と呼ばれる作品を残した人物ですわ」
レティシアさんの言葉に僕も同意する。劇に興味がある子供ならまだしもノエルぐらいの年齢の子供はあまり見ない方だろう。彼の創作の中ではレティシアさんの言った四大悲劇が最も有名で、彼の作る話は大抵人が死んでしまうのだ。大人向けというのはまさに的を射ぬいた言葉である。
「ということは、さっきの赤色と青色の栞はロミオとジュリエットですね。だから対照的なのか」
僕は改めてさっきの赤色と青色が対照的な柄が描かれていた栞に目を通してようやく理解した。対立した家同士の男女の恋をテーマにした悲しいお話。言われてみれば、これもシェイクスピアの物語だ。
「では、改めてこれを使わせてもらいます」
「うん、シオンならきっとその新しい栞もすぐに使いこなせると思うよ」
そう言ってフラーレルさんの笑顔に見守られながら、僕は新たに加わった栞を手持ちのホルダーの中にしまうのだった。
「じゃあ、これで僕への用件は終わりですね。二人は確かアスタリスクに別の用があって、そのついでで僕の所に来たんですよね?でしたら、そちらの別の用に行った方が……」
二人はわざわざ時間を削って来てもらっているのだ。そう思い、シオンは二人を心配して声をかけるが、二人はただただ口元を緩めるのだった。
「ああ、シオンには言い忘れてたよ。その別の用件っていうのは同じくガラードワースに用があるのさ。今日から僕とシエラはガラードワースの非常勤講師になるのさ。今日はそこの会長さんとの打ち合わせだよ」
「えっ!?」
その言葉にシオンは驚きの声をあげる。
「そうだ。シオン君、ノエル。良かったら、しばらくは彼らを部屋に泊めてくれないかな?二人の部屋の申請がまだかかりそうでね」
「「えっ!?」」
会長であるアーネストさんの言葉にシオンだけでなく、ノエルも驚きの声をあげるのだった。
「よろしく。シオン」
「よろしくね~。ノエルちゃん!」
……………………
…………………………………
…………………………………………………
「……あの二人。かなりの実力者ですわね」
「ああ……そのようだね。流石はライブラリーと言ったところかな?」
4人が応接室を出ていった後、部屋の中に残ったアーネストとレティシアが秘密の会話をしていた。
「シオンが言うには二人はあまり戦闘はしないようですけど、あの二人の雰囲気は明らかに戦闘慣れしている雰囲気ですわね。ライブラリーでは先生をやっているけど、それはおそらく表の顔みたいなものですわよ」
「ああ、僕としては手合わせしてみたいものだよ。シオン君の先生という面でも、一人の実力者としても興味がある」
「もう!アーネストったら!」
フラーレルとシエラをかなりの実力者だということに気付くが、二人はあまり警戒することはないという判断に落ち着いたアーネスト達で、彼らの話題は何気ない次の話題へと移った。
「ところで、レティシア。少し気になったんだけど、あのシエラっていう女性の方……誰かに似てないかい?」
「誰かって……誰ですの?」
「いや、雰囲気は全然違うけど普段見ているような感じがあったんだよね?」
「そう言われてみれば………確かに」
(けれど、
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ーリーゼルタニアの郊外ー
「……どうやら、フラーレル達はガラードワースに無事潜入できたようですね。あの二人がいれば、シオンも心強いでしょう。ね、
「………………………………」
雪が吹雪くリーゼルタニア。そんな雪原に似たような二人の白髪の女性が立っていた。一人はライブラリーの長のカーリー。もう一人はレヴォルフ序列1位のオーフェリアである。
「まさか、貴女が急にこちらにコンタクト仕掛けてきた時は驚きましたよ」
「……だって、シオンが殺されるかもしれない。あの二人は私よりも容赦しないから。私が今できるのはこうして貴女に情報を教えることだけ」
「うふふ……シオンも意外に女たらしですね。でも、本当に良いんですか?貴女は所有者である彼に謀反を起こしたんですよ?」
「……別に構わない。貴女が新たに計画した今やってるこの作戦が成功すれば、私は解放されるわ。そしたら、ライブラリーに籍を置くわよ」
「それは長として実力者である貴女を歓迎できるのは非常に嬉しいですねっと!……見えましたね。あれが貴女の孤児院ですね?」
「ええ……そうよ。さっき私の友人のユリスにも連絡したけど、貴女のいう作戦をやってもらっても大丈夫そうよ」
「リーゼルタニアの王女に予め連絡をするなんて用意周到ですね。なら、早速私達もこちらの仕事を始めましょうか!」