学戦都市アスタリスク~語り部の魔術師~   作:リコルト

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お久しぶりです。
ようやく大学のテストが落ち着きました。



一年前の出会い

 

 

ーー1年前ーー

 

 

 当時、私はお母様とお父様と共にドイツへ家族旅行に行っていました。

 

 なぜなら、私のお父様は統合企業財体の幹部で、なかなか休みが取れないお仕事に就いておられたのですが、久しぶりに休暇が取れたため、旅行に行こうと提案してくれたからです。

 

 仕事の関係上、なかなかお父様に会えない私とお母様はこの提案を反対するわけもなく、久しぶりの家族全員揃ったお出かけを楽しみにしていました。

 

 

 

 けど、当時旅行先であんな事に巻き込まれるとは私だけでなく家族も想像がつきませんでした……

 

 

…………………………

 

 

 

………………………………………

 

 

 

…………………………………………………

 

 

 

「動くな!この娘がどうなっても良いのか!」

 

 

「んっ……!!」

 

 

 私は泊まっていたホテルのロビーを占拠した覆面の男達のリーダーに銃型煌式武装を頭に突き付けられ、腕は痛さを感じるくらい捻られて、まともに抵抗も出来ませんでした。

 

 

「ノエル!!」

 

 

「動くんじゃねぇ!そこぉ!」

 

 

 お父様が私を助けようと行動しますが、リーダー格の男が躊躇う様子もなくお父様に向けて銃を発砲しました。お父様はそれを何とか避けましたが、難なく銃を放つ彼に対して何もする事が出来ませんでした。けれど、ここで彼に刺激を与えれば、私はすぐに殺される……私の身を案じるお父様の行動は正しいとまだ小学生の私でも分かっていました。

 

 

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 どうしてこうなったか……

 

 

 それは私達が夕方にドイツに到着し、泊まるホテルのロビーでチェックインをしていた時でした。

 

 

 突如、ホテルの入り口から覆面をした集団が一気に押し掛けて、ホテルのロビーにいた警備員をあっという間に所持していた煌式武装で制圧し、このロビーを占拠してしまったのです。

 

 

 覆面をした男達はホテルの入り口、階段などを押さえ、念入りに部外者が立ち入りを許さないようにしていましたが、彼らには失念がありました。

 

 

 それは私が魔女(ストレガ)だということ。

 

 

 一見、私は抵抗する手段を持たない子供に見えますが、私には類稀な魔女の能力を備えており、茨を顕現し、それを操る能力が使えました。

 

 

 私は彼らが油断した一瞬の隙を突いて魔女の能力を発動しました。私の能力で作った茨はすぐに覆面の男達を拘束しようと試みます。しかし……

 

 

「こんな物、俺達に効くかよ」

 

 

 リーダー格の男を中心に煌式武装で、難なくその茨は無惨に切り裂かれ、星辰力の粒子となって消滅していました。

 

 

 その後、私は現状みたく茨を生成した張本人として彼らに人質として拘束されてしまいましたが、分かった事がありました。

 

 

 それは彼らは只の強盗等ではなく、統合企業財体に恨みがあるテロリストのようなグループだったこと。最初から私達メスメル家を人質としてEPに交渉するつもりで、それはつまり、最初からEPの幹部である私の父を狙うために現れ、その家族である私の能力も筒抜けだったという事を表していました。

 

 

 彼らは隅から隅まで念入りでした。まさか、私の能力も彼らに知られていたなんて。その時の私にはもう打つ手がなく、私の心の中は殺されるかもしれない恐怖と絶望で一杯でした。

 

 

……………………

 

 

…………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

「おい、メスメル家の当主!今すぐ、俺達の故郷を、お前達統合企業財体に汚された土地を元に戻すと上層部に交渉しろ!お前達が流す工場用水のせいで、村のみんなは苦しんでるんだ!でないと、この娘をぶっ殺す!」

 

 

「くっ………それは……」

 

 

 リーダー格の男の威圧感のある声に命令されるも、お父様は顔に冷や汗を垂らして苦しい表情をしていました。確かにメスメル家はEPの重要なポジションにいますが、幹部でも統合企業財体のトップにそのような命令を通そうとするのは無謀に等しいでしょう。逆にそのような無理を進言すれば、反抗したと思われて、EPに存在する暗部グループを使われ、どのみち私を含めたメスメル家が黙殺されるかもしれないのをお父様は分かっていました。だから、お父様は連絡をする事が出来なかったのです。

 

 

 

「命令に従えられないなら、仕方が無いな。ここで、娘が死ぬ瞬間を目の前で見てるんだな!」

 

 そう言ってリーダー格の男が私に銃口を突き付け、私も死を覚悟した瞬間………

 

 

「ぐはっ……」

 

 

 

 突如、階段を監視していたグループの男の一人がドサッと音を立てて、降って来るように階段から落ちてきました。

 

「っ…!?そこにいるのは誰だ!?」

 

 それを見たリーダー格の男は何事かと私に突き付けていた銃口を階段に向けました。すると、私より少し年上の黒髪の少年が銃型の煌式武装を展開したままゆっくりと階段から降りてきたのです。

 

「はぁ、3日連続のドイツ講演で疲れてて、今日は部屋で寝ようと思っていたのに、何の騒ぎ?」

 

 少年は眠そうにあくびをしながら周りに訊ねますが、その場違いな質問に私を含めた全員は呆気に取られて、誰も答えることが出来ませんでした。

 

「……階段を監視していたそこにいる男、お前がやったのか?」

 

「階段?ああ、さっき僕が倒したこの人か。上の階で下に降りられないようにしていたから、少々強引な手をさせてもらったよ。でも、意識を失っているだけだから安心して」

 

 少年はまるで玩具で遊んでいるような軽い感覚で経緯を説明していましたが、私を拘束していたリーダー格の男の顔にはピキピキと青筋が立っていて、男が彼に怒っているのがよく分かりました。

 

「何の騒ぎだ?ふざけるのも大概にしろよ!こっちには人質が「動かないで」っ何だ!?」

 

 男は怒りの感情に身を任せて、私や他の人達に発砲しようとしますが、それは叶いませんでした。

 

 

 何故なら、リーダー格の男やその仲間達の四肢に床から現れた茨が巻き付いていたから。

 

 

 突如、現れたそれに誰もが驚いていましたが、一番驚いたのは私でした。あの茨は私が出した物ではありません。

 

 

 なら、一体誰がやったのか。

 

 

 それはあの黒髪の少年。彼の身体の周りからは私の倍以上の星辰力が満ち溢れていて、彼が右手に持っていた栞らしき物は緑色に輝いていました。

 

 

「グリムの章、眠りの茨姫の束縛(ソーン・バインド)

 

 

「ま、まさか…お前……は……」

 

 

 リーダー格の男は少年の正体に気付いた様子でしたが、まるで麻酔を打たれたかのようにその場で眠り倒れてしまい、それに続くように茨に拘束された他の仲間達もその場に眠り倒れてしまいました。

 

 グループ全員を難なく倒してしまった少年。人質から解放された人達は彼を救世主のように賞賛しようと声をかけようとしますが………

 

「すいません、今は寝かせてください。疲れた状態で()()を使ったからしんどくて…。そこで倒れている人達は寝ているだけですから、あとは自由にしてください。それじゃあ、失礼します」

 

 ただそれだけを言い残して、黒髪の少年は自分の部屋へ戻ろうと解放された階段を登って行きました。

 

 本当は私も彼に助けてもらったお礼をしたかったのですが、そそくさと登って行ってしまった彼を止めることが出来ず、私のお父様とお母様と共に彼の姿を視界から消えるまで見つめていました。

 

 

 彼は一体何者なのでしょうか。

 

 

 あの時、グループの男達を倒した力は恐らく魔術師の能力。しかも、茨を使う私と同じ能力。

 

 あの能力を見た時、私は彼に惹かれてしまう興味のような感情を持ったのです。

 

 あのグループのリーダー格の男は最後に彼の正体に気付いた様子でしたが、すでに倒れた状態で警察に引き渡されていた最中でした。

 

 

 お父様なら、何か知っているのでは?

 

 

……………………

 

 

………………………………………

 

 

…………………………………………………………

 

 

「語り部の魔術師、ですか?」

 

「ああ、そうだ。彼の名前は本宮シオン。ライブラリー出身の魔術師で、統合企業財体からはライブラリーの切り札とも呼ばれている実力者だ。ただ、戦闘時のデータがあまりに少ないから、先程までは私もその実力は半信半疑だったぐらいだ」

 

 そう言って、お父様は先程の彼の素性について説明しました。どうやら、お父様もあの能力と実力の差を見て彼の素性に気付いていたようです。

 

 あの後、私達はロビーでチェックインを済ませ、ようやく自分達の部屋に入れました。彼が倒したグループの男達は警察に引き渡されたのですが、被害者の一人として警察から事情聴取を受けていたのです。どうやら、あのグループの男達は彼の能力の茨によって一週間は目覚めないと医師から判断されたようです。

 

 最初に階段から彼によって落とされた人も胸の辺りに星辰力で作られた茨の棘が刺さっており、彼もグループの男達と同じような症状らしいです。元アスタリスクの生徒で、戦闘経験があるお父様が言うには彼が持っていた銃型煌式武装から能力として放たれた物だとか。

 

「で、では、お父様。あの時の茨は……」

 

「ああ、彼は物語を能力として扱う魔術師だ。相手を眠らせてしまう茨、そんな物が登場する物語はノエルも知っているだろう」

 

「いばら姫……ですね」

 

 私がそう答えると、お父様は頷きました。

 

 

『いばら姫』

 

 

 グリム童話、ペロー童話の両方に載っていて、一部では『眠りの森の美女』とも訳される世界的に人気な童話の一つ。

 

 魔女に呪いをかけられ、100年もの眠りについたお姫様が王子様のキスで眠りから目を覚ます、言わずも知れたハッピーエンドの作品で、私が子供の頃に最も読んだお話でした。

 

 物語を能力として扱う魔術師。その能力の可能性は私の茨を扱うだけの能力より広く、それを扱う彼のスペックも私の比ではないでしょう。

 

 けれど、それらを踏まえた上で、私はお父様にある事を訊ねなければならないと思いました。

 

「あ、あの、彼はライブラリーの魔術師なんですよね?なら、いつか彼と戦わなければならない時が…」

 

 私が知るライブラリーの常識。それは統合企業財体とは敵対関係にあるということ。現にある統合企業財体とライブラリー間で武力戦争に発展する事が有ったぐらい非常に仲が悪いのです。

 

 それを聞いたお父様は深い息を吐きながら、私にゆっくりと説明しました。

 

「ノエル。将来お前はメスメル家の当主としてEPを支える立場だから話しておくが、統合企業財体に勤める全員がライブラリーと仲が悪いわけでは無い。中にはライブラリーと仲良くしたいという者達もいる。私もその中の一人だ」

 

 そのままお父様は話を続けます。

 

「各統合企業財体の中にはいくつかの派閥が存在する。穏健派、改革推進派、中には改革推進派が発展した過激派もある。先程襲撃してきたグループが話していた工場用水の件も過激派が我々穏健派の反対を押し切って実行したものだ。まぁ、このような事態が起こった以上、過激派や改革推進派の発言力が弱まるがな」

 

 そう言って、お父様は嘲笑するような複雑な表情で、私に近づき、肩に手を置きました。

 

「ノエル、お前も利益だけを追求するような大人だけにはなるなよ。他人の気持ちを考えて行動すれば、その分お前を助ける仲間は増え、敵は減る。それさえ考えていれば、私はお前の友人関係等には今後一切口を出さないつもりだ。もちろん、先程の彼についてもな」

 

 

 

………………………

 

 

 

……………………………………

 

 

 

………………………………………………

 

 

 

 お父様との会話を終え、夕食を食べた後、私は気晴らしに夜の散歩に出かけようと一階のロビーに降りてきました。

 

 お父様も先程の出来事をEPに報告をしなければならず、電話が忙しいそうでした。外出したついでにお疲れのお父様に飲み物でも買って帰りましょう。

 

 そう思いながら、ロビーの広い待合室を通って、外に出ようと思うと………

 

「ねぇ、そこの君」

 

 待合室の方から声をかけられ、その方向に顔を向けると、そこには夕方私達を助けてくれた少年、本宮シオンさんがソファに座っていました。

 

 疲れが取れたのか、彼の顔には気だるさが感じられず、こうして見ると、聡明で同年代には見えないような気品さを感じられました。

 

「あ、あの、先程は私達家族を助けていただきありがとうございました」

 

 私はすぐに彼の元へと向かい、頭を下げてお礼を言いました。そう言うと、彼は笑顔で「別にお礼をされる程のことはしてないよ。ひとまず、座ろうか」と空いているソファへと座らせました。

 

 ソファに座った私を確認すると、本宮さんは胸ポケットからあるものを取り出して机に置き、私に見せました。

 

「これは君のだよね?」

 

「は、はい、そうですが……」

 

 本宮さんが私に見せてきたもの。それは私が夕方の事件の時に作り出した茨の破片でした。 

 

 あの時、全ての茨は男達によって消滅したのではないかと思っていましたが、その時の破片がまだ残っていたのは作り出した私も驚きました。

 

「やはり、君のものか。実は僕が起きた理由は下の階が騒がしかったのもあったけど、下の階で魔女が発する強い星辰力を感じたからなんだ。僕はその時、その星辰力を発した君に話があって来た。君に魔女の能力の使い方と戦い方を教える為にね」

 

「えっ?」

 

 本宮さんの話に全く理解が出来ず、首を傾げていると、本宮さんは先程私に見せてくれた茨を目の前で指で弾いて、星辰力の粒子へと変えました。

 

「この茨はおそらく君の家族を守りたいという意志が強く反映されたから部分的に今さっきまで残ったのだろう。けれど、簡単に切り裂かれたり、指で弾いて消えるような茨じゃ君の家族や大事な人を助けられない。そこで、お節介じゃなければ、君に魔女の能力の使い方と戦い方を少しこの夜の時間に教えようと思うんだ。幸い、茨を使う能力は僕も持っているから参考になると思うよ」

 

 まぁ、僕も予定があるから付きっきりだと数日位しか見られないけどね、と本宮さんは言いますが、私は彼に訊ねずにはいられませんでした。

 

「そんな事をして良いんですか?だって本宮さんは「ダイバーシティ所属の魔術師。統合企業財体の敵。だから、何?それぐらいで僕が君に優しくしない理由にもならないよ」

 

 本宮さんは私の訊ねたい事が全て分かっていました。どうしてダイバーシティ所属である彼がEP所属の私にここまでするのかを。

 

「夕方の出来事から君達の家系が統合企業財体に関係があるのは分かっていたよ。ダイバーシティの仕事柄ああいう人を沢山見てきたからね。だから、君には敢えて詳しい詮索はしないでおく。ここで僕が聞いているのは()()としての君だ」

 

 それから本宮さんは私に魔女としての戦い方を教える理由を教えてくれました。

 それは世界的にも稀有な魔女や魔術師を怪物や化け物とあまり良く認識されていないのが深く関わっていました。何人もの魔女や魔術師が異端な能力のせいで迫害される、本宮さんはそういった人達を自分の魔術師である境遇を生かして、ダイバーシティに保護したり、能力の制御の仕方や魔女としての生き方を教えていたのです。

 

 私もその迫害される気持ちは同じ魔女として十分共感できました。そして、本宮さんの身分を考えない優しい性格に気付け、それがさらに彼への興味と好意を増させるきっかけとなったのです。

 

 

 私はこの時決めました。

 

 

「教えてください。私に魔女としての能力の使い方を、戦い方を。能力を使いこなせるようになりたいんです!」

 

 

 本宮さん……いえ、シオン兄さんみたいに強くなって、兄さんの横に立つことを。

 

 

 

 

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