学戦都市アスタリスク~語り部の魔術師~   作:リコルト

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他学園の動き①

 

 

 本宮シオンがガラードワースに入学してから早数日。彼一人によりガラードワースは新たな体制へと動き出そうとしていた。

 

 ライブラリー出身の魔術師という経歴、『語り部の魔術師』というネームバリュー、これらを兼ね備えている本宮シオンがガラードワースに入学し、入学早々に序列上位入りしたという事実はガラードワースだけに影響を与えるのみならず、他の統合企業財体及び他の各学園に影響と衝撃を与えていた。

 

 

 

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ーー星導館学園ーー

 

 

「語り部の魔術師の入学ですか……。星武祭が終わって早々ガラードワースは大きく動き出しましたね」

 

 そう言って、生徒会長室で電子新聞の記事を眺めているのは星導館学園序列二位の実力を持ち、生徒会長の座に就いている女子生徒、クローディア・エンフィールドである。

 

 彼女が見ていたのは本宮シオンについて書かれていたアスタリスクの記事で、それを見終えると、それを指で横にスライドし、今度は彼女のちょっとしたツテで入手した本宮シオンの公式序列戦の記録を閲覧する。

 

 それを見たクローディアは他学園の長として彼の実力を認め、星武祭での要注意人物として警戒し、同時に個人的には彼に対して興味を抱いていた。

 

「ひとまずは様子見ですね。いずれ彼とは接触したいとは思っていますが、ガラードワースに所属し、ライブラリーが関わっている以上余計な事はしない方が良いでしょう。今頃、『銀河』の人達は新たなライブラリーとW&WとEPの同盟関係について対策をしていますしね」

 

 そう言ってクローディアは記録映像を見るのをやめ、机に乗っかっていた資料に手をかける。

 

「こちらはこちらで出来る事をやりましょう……そう言えば本宮シオンさんと()なら一体どちらの方が強いのでしょうね?」

 

 その二人が戦う姿を想像して、腹黒そうな笑みを浮かべるクローディアは一枚の特待生の資料を眺めるように右手に持った。

 

 その資料の氏名欄には『天霧綾斗』と刻まれており、今は余計な事を行わず、星導館学園に新たな嵐を起こしてくれるだろう彼を迎える準備を彼女は一人で着々と整えていたのだった。

 

 

 

 

 

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ーーアルルカント・アカデミーー

 

 

 

「にゃっはぁ~~!見てよ見てよ、カミラ!ガラードワースに新しく入って来た彼!記録を見ても超絶強いんじゃない?絶対序列六位の実力じゃないでしょ~、これは!」

 

「(まさか、あのエルネスタが他校の生徒にここまで関心を持つとはな)ああ、流石はライブラリーが誇る魔術師だ。噂ではあのアーネスト・フェアクロフと一度戦い、引き分けたと聞いている」

 

 薄暗い技術室。色々な部品や設計図、それにお菓子が散らばっているその部屋で本宮シオンの戦いの記録を見ているのは部屋の主である『彫刻派』の筆頭、エルネスタ・キューネと彼女の少なき親友である『獅子派』の筆頭、カミラ・パレートだ。

 

 彼女達も本宮シオンに影響を受けた者達の一人で、彼の戦いに非常に興味を示していた。

 だが、彼女達は本宮シオンだけに興味を示していた訳ではなかった。むしろ、本宮シオンよりも彼女達の興味を引く物が戦いの記録に写っていたのだ。

 

 

「ねぇ~、カミラ。彼の使っている()()()()だけど、煌式武装に詳しい君はどう思った?」

 

「………稀にみる素晴らしい性能だと思うな。一つの煌式武装だけで、太刀や大剣など形や大きさを変えられるし、多種多様な銃にも変換できる。この記録だけではシルヴィア・リューネハイムの使う煌式武装に似ていると思わせるが、恐らく他の槍や斧のような武器にも変えられるだろう。そして、これを作ったのは恐らく………」

 

「やっぱ、カミラもそう思う?こんな見たことがないシステムの煌式武装は一人しかいないよね。世界が認める程のライブラリーの万能の天才技師……()()()()()()()()()

 

「ああ、ライブラリーに所属している以上彼の煌式武装を作成したのは間違いなくドーロットだろう。で、お前は何を企んでいる?まさか、ドーロットをライブラリーから引きずりだすのか?あの人は世間嫌いが有名で、ライブラリーの本拠地から出た事がないと噂される変人だぞ?」

 

「そのまさかだよ~。あの人から何かアドバイスを聞ければ、私が今作っている自律式擬形体(パペット)の完成度もさらに高まるし、カミラも煌式武装の分野で何か教えてくれるかもしれないよ~?」

 

「それは、そうかもしれないが……ドーロット以前にライブラリーがこちらの要望に応えるとは思えないぞ。只でさえ、うちの統合企業財体は営利主義の塊みたいな存在なのに」

 

「まぁ、口だけでお願いするだけじゃ門前払いだよね。そこで、私は秘密兵器を使いま~す!」

 

「秘密兵器だと?」

 

 そう言ってカミラはエルネスタに訊ねると、エルネスタは自分の机に置いてあった頑丈な木箱を持ってきて、その中身をカミラに見せ付ける。

 

「この二つは……本か?」

 

「そう!私のコネをフル活用して手に入れた品々だよ!実は今ライブラリーは数人の諜報員を使って、世界の童話作家達の遺物を集めてるんだって!」

 

「なるほど……それらを使ってライブラリーと交渉するというわけだな」

 

 そう言ってカミラとエルネスタは木箱の中身を見ながらニヤリと笑みを浮かべるのだった。

 

 

「今年の鳳凰星武祭の優勝は私達のものだね」

 

 

 

 

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ーーレヴォルフ黒学院ーー

 

 

「チッ、ライブラリーがアスタリスクに自身の切り札を送ってくるとはな」

 

 赤髪の小太りな青年、ディルク・エーベルヴァインはその知らせにイラつきつつ、情報が載った新聞紙を机に叩きつけた。

 

「気に入らないな。よりにもよって何でこのタイミングだ?まさか、俺達の計画が気付かれたのか?……クソッ、あの白髪ロリババァが」

 

 ディルク・エーベルヴァインは思い出していた。

 

 数年前、ディルク・エーベルヴァインが生徒会長になったばかりの頃だった。彼はレヴォルフの運営母体である『ソルネージュ』のある計画に参謀として参加していたのだ。

 

 それは南アフリカ地域に眠るレアメタル及びマナダイトの資源獲得だった。当時、南アフリカ地域の資源鉱石はまだ他の統合企業財体も手を出しておらず、ソルネージュはそれをチャンスだと思い、この計画を実行したのだ。

 

 だが、南アフリカ地域にはある反対勢力がいた。それがライブラリーだった。

 

 ライブラリーは南アフリカ地域の自然や文化遺産を保護しており、ライブラリーの諜報員がその情報を聞き付けると、ライブラリーはすぐに南アフリカ地域へと駆け付けた。

 

 ソルネージュもライブラリーが駆け付ける事は想定済みで、この際にライブラリーにも痛手を与えようと、数百人の兵と数百体の自律式擬形体という万全の状態で整えて、南アフリカ地域へと武力侵略を開始した。ディルク・エーベルヴァインも後方で司令官としてこの戦いに望んでいた。

 

 

だが、その侵略作戦は僅か30分で終了した。

 

 

ソルネージュの圧倒的な敗北だった。

 

 

 ソルネージュの計画の準備は万全だった。しかし、それをライブラリーはたった30分間で叩き潰したのだ。ディルク・エーベルヴァインの作戦も含めてだ。

 

 しかも………

 

『こういう事には子供を巻き込みたくないんですよ。汚れ仕事は大人の仕事です』

 

 ライブラリーの切り札と呼ばれていた本宮シオンの手を借りず、ライブラリーは主であるカーリーとその他4人の計5人という戦力だけでソルネージュを侵略部隊を蹴散らしたのだ。

 

 ソルネージュはその戦いで死亡者は出さなかったものの、兵士達は二度と出兵出来ないような傷を負わされたり、貴重なマナダイトで作った自律式擬形体を壊されて全てライブラリーに回収されたりと被害は甚大だった。

 

 さらに、そこにカーリーが戦後被害として十数億という金を賠償金として支払わせたのがソルネージュにとってかなりの痛手だった。

 

 ソルネージュからしてみれば、ライブラリーは何の被害もなく、こちら側が被害者だと異議を申し立てようとしたかもしれないが、カーリー達少数の面子でこの被害を出した衝撃が大きく、反感を買ってライブラリーと全面戦争をしたら、ソルネージュが滅ぶかもしれないという推測が立ったので、ソルネージュの幹部達全員は賠償金の支払いに仕方なく応じるしかなかった。

 

 

 これが後に伝わるライブラリーと統合企業財体の伝説的な武力戦争の末路とライブラリーと統合企業財体が仲が悪くても、現在絶対に武力戦争を起こさない理由である。

 

 

 

「あの白髪ロリババァは俺が完璧に組んだ作戦を玩具で遊ぶ子供みたいに崩しやがった。しかも、ソルネージュからは作戦の責任者として説教されるし、人生で断トツの屈辱的な体験だったぜ。クソッ!数年経った今でもあいつだけは気に食わない!」

 

 

「………白髪、白髪って貴方はさっきから誰の事を言っているの?……もしかして、私?」

 

 生徒会長室に気配を漂わせずに入って来た白髪の少女、オーフェリア・ランドルーフェンはディルク・エーベルヴァインに訊ねる。

 

 オーフェリアの声で彼女の存在に気付いた彼はいつもの不機嫌そうな顔をさらに不機嫌にしたような顔でオーフェリアに振り向いた。

 

「……テメェ、いつからそこに?」

 

「……ついさっきよ。貴方の怒鳴り声みたいな声は廊下まで響いていたわよ」

 

「チッ。なら、さっきの件は忘れろ。俺は少し気分転換をしてくる」

 

 そう言って彼は机を蹴るように席から立ち、生徒会長室から出ていく。

 

 

「……彼が不機嫌な理由はこれね」

 

 彼が出ていった生徒会長室に一人残されたオーフェリアはディルクが叩き付けた新聞紙を手に取り、本宮シオンの記事を眺めていた。

 

「(物語……ね。私も昔は好きだったわ。孤児院でユリスと何度も同じ本を読んだんだっけ)」

 

「本宮シオン……貴方は私の運命を変える力は持っているのかしら」

 

 

 

 

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