ーークインヴェール女学園ーー
「ペトラさん!これどういう事!?」
「……どういう事とは?」
学園長室に勢いよく入って来たシルヴィアはこの部屋の主であるペトラに週刊誌を見せ付ける。それを見たペトラはその件かと心の中で思っていたが、シルヴィアの問いかけに敢えて疑問という形で問い返したのだった。
「シオン君がアスタリスクにいる事だよ!しかも、何でガラードワースにいるの!」
「別に良いじゃない。W&WとEPがライブラリーを通じて同盟を組んでいるのだから、入学するのがガラードワースなのはあり得ない話じゃないわ。まぁ、カーリーに聞いた話だとガラードワースにシオン君の知り合いがいたのが一番の要因らしいわよ」
「ここにだって知り合いはいるでしょ!?ペトラさんの目・の・前・に!」
「……シルヴィ、まずクインヴェールは女子校よ。そんな所に男の子であるシオン君を入れるわけにはいかないのだけれど」
シルヴィアのあまりの言い分にペトラは頭を抱えて呆れてしまう。
(前にシオン君とフランスで会って、別れた後もシルヴィは私にシオン君についてひたすら聞いてきたし、余程彼が気に入ったのでしょう。シルヴィの年頃なら、一つぐらい恋をするのは良い事ですが……)
まさか、シルヴィが自分の為にシオン君を女子校に入れようとしている現場を本人が見たら、ドン引きでしょう。彼にはフランスでのシルヴィの印象をそのままにしておくべきですね。
「そう言えば、彼からは連絡がありましたか?前に彼と連絡先を交換したでしょう」
「それが一回も連絡がないの。アスタリスクに来たなら、連絡して来ても良いのに」
「シオン君もアスタリスクに来て間もないから、彼にも色々と用事があって忙しいのでしょう」
そう言ってペトラは可愛らしく頬を膨らませて怒りを表しているシルヴィアを宥めていた。
「……そんなに会いたいなら、シオン君に会いに行けば良いじゃない。私の勘だと、アスタリスクに来たばかりの彼なら街を見学している時期じゃないかと思うわよ」
「えっ!良いの!?いつもなら、外出にも厳しいペトラさんがここまで……もしかして
シルヴィアはペトラの言葉に顔を赤らめる。
「……何の
「やった~!!それなら、早速外出の準備をしてこようっと!」
そう言い残して、ペトラからシオンに会いに行く許可を貰ったシルヴィアはさっきまでの様子を一変させて、上機嫌に学園長室を出ていった。
学園長室に一人取り残されたペトラは苦労から解放されたように溜め息を吐く。
「……シルヴィの機嫌が良くなるのは良いことですが、何も起きないと良いですね」
そう言ってペトラは独り言のように天井を向いて、厄介事が何も起こらないようにとただ一人祈るのであった。
ーー界龍第七学院ーー
「ホッホッホ!遂にカーリーの子がアスタリスクへと足を運ばせおったか!うむうむ!その素材も金剛石のように煌めいておるわい!今からでもウチに来て、妾と一度対戦したいものよ!」
「またですか……」
中華風のオリエンタルな生徒会長室で、興奮を抑えられないように本宮シオンの戦いの記録を見ているのは界龍第七学院序列一位、多くの人々が『万有天羅』と敬う童女、范星露。
また、彼女の戦闘狂の発作みたいな言動を聞いて、頭を悩ませているのは彼女の弟子であり、彼女の事務的な補佐も務めている界龍第七学院序列五位の趙虎峰である。
「さて虎峰よ、お主から見て彼はどうじゃ?」
「本宮シオン君ですか?そりゃ、十分に強いと思いますよ。戦ったら、確実に僕は負けるでしょう。それが一体どうしたのですか?」
「うむ、確かに今のお主なら彼に負けてしまうじゃろう。けど、彼はまだ未完成じゃな」
「未完成?」
「言葉通りの意味じゃ。彼はまだ魔術師の本質的な能力の片鱗しか扱えておらぬ」
「(そう言えば、カーリーは昔から物語に関わる遺物を探しておったな。そこでもし、彼の持っている栞が彼の能力の発動条件で、その栞が遺物で作られておるのなら……)」
「………虎峰よ」
「はい?何でしょう、師父?」
「今から妾は黄辰殿で探し物をしてくる。決して中には入ろうとするではないぞ」
「えっ!?黄辰殿でですか!?あそこには歴代の万有天羅が遺した大量の品々がある筈です。僕も手伝いますよ」
「大丈夫じゃ、探し物はすぐに見つかる。それでは虎峰、後の事は頼んだぞよ」
そう言って、自分の弟子である虎峰を生徒会長室に残して、星露は黄辰殿へと足を運ばせる。
(カーリーの子には妾からアスタリスクに来たプレゼントを渡さねばならぬのう♪)
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ーーライブラリー本部ーー
「カーリー殿、お久しぶりです」
「ええ、お久しぶりですメスメル様。今はメスメル最高理事でしたっけ?」
「はい、一年前は色々とありましたが、あの件があって改革派が失脚してから、つい最近私がEPの理事を務めることになりましてね。今、こうしてライブラリーと同盟を組んでいるのが我々穏健派の第一歩だと考えています」
アスタリスクから遠く離れた人口島。そこにはライブラリーが活動するための本拠地があり、一般の人は立ち入ることが出来ない島であった。
そんな場所に足を運んだのは濃い緑色の髪が目立つ男性で、彼はEPに新たに就任した最高理事であり、メスメル家の当主であるクリフ・メスメル。此度は彼の真向かいで話をしているライブラリーの当主、カーリーに用事があって来たのであった。
「そう言えば、シオンはどうですか?そちらでも元気にしておりますか?」
「ええ、もちろん。今ではすっかりガラードワースの生徒のように馴染んでいますよ。それに、シオン君目当てで入って来る生徒が新たに増えて、ガラードワースにさらに活気が湧いてきそうですよ」
「うふふ。それは良かったです」
シオンの事や世間話について二人はしばらく談笑をし続けると、二人はようやく今回の対談の本題に入ろうとする。
「そうだ、カーリー殿。こちらが貴女の欲していた物です。これを探すのには苦労しましたよ。まさか、EPが所有していたイギリスの廃墟と化した博物館の奥にあったのですから」
「…………拝見しますね」
クリフから頑丈なケースを受け取り、カーリーはそのケースの鍵を開けると、中には一冊の風化しかけている台本と一昔前ぐらいの使うのは不可能であろうカメラが入っていた。
「クリフ様……こちらが」
「ええ、イギリスが代表する戯曲家ウィリアム・シェイクスピアが使っていた台本と同じくイギリスを代表する童話作家ルイス・キャロルが生前使っていたカメラです。これをライブラリーに寄付しようと来たのが今回の本題です。お納めください」
「よろしいのですか?こんな貴重なものを?」
「はい、実際このような物を今更欲しいと思う方はEPにはいなかったですし、これは一年前にシオン君に助けて貰ったお礼だと思って受け取って下さい。それに物語を能力とするシオン君の力にきっとなりますから」
「……分かりました。大事に使わせて頂きます」
後日、ライブラリーの製作部署では大きなプロジェクトが進められていた。それはクリフから頂いた遺物を基にシオンの新たな栞を作り出すプロジェクトである。
「ふふっ、シオンの新たな成長が楽しみです」
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