スタックした車を背にタイラー達は銃火の交わる中を走り続けた。先頭を走るセルゲイは時折砲弾で出来た穴に足を取られてよろけた。そこに待ってましたと言わんばかりの迫撃砲の着弾音が続々とこちらへ向かってくる。
「くそ、逃げろ!」
砲火の中で、誰かがセルゲイの背中を押した。そのおかげでセルゲイは何とか着弾ギリギリに爆風から逃れる事が出来た。
「大丈夫か?」
「すまん。助かったよアメリカ人」
タイラーは彼の手を取って素早くビルの中へと身を潜める。迫撃砲の着弾音も先ほどに比べれば幾分かは少なくなったようだ。
「ここなら安心だな。迫撃砲が来る事は無い」
「安心するのはまだ早いようだ」
タイラーは壊れかけの窓枠からそっと、その辺にあった軍用ヘルメットを突き出す。その時、空気を切り裂く銃声と共に軍用ヘルメットを弾丸が撃ち抜いた。
「言っただろ?安心するのは早い」
「狙撃手か。多分あの教会の3階の窓から狙ってるな。何かぶち抜けるものでもあるといいが…」
セルゲイは窓枠から体を出さないようにすぐそこの教会を指差す。タイラーは一旦自分の心身を落ち着かせて今自分が置かれている状況を整理した。
こちらはビルの中に4人。窓枠から400メートル先の教会に狙撃兵。装備は不明。天候は雪。だが今のところは教会を目視可能。つまるところ向こうも狙撃が可能だ。外は瓦礫の山、遮蔽物となりそうなものはいくつかあるが、そこまでたどり着ける保障は無い。
”こちらにはあれを撃ち抜ける武器は無い。狙撃銃でもあれば狙えない事は無いのだが…”
自分の銃を一瞥してタイラーはため息をついた。セルゲイは窓枠から身を乗り出さないように必死にしゃがみこんで怯えているばかり。
「織斑。武器は?」
「ACRアサルトライフルと、後は一応ですがRPG-29ロケットランチャーを彼から」
「彼?」
「あの人です。名前は確かアレクセイと…」
タイラーは瞬時にもう一人のロシア人アレクセイのほうへと視線を向けた。アレクセイは飄々とした表情で臆することなくタイラーへ余裕の笑みを浮かべている。
「これなら周りの壁ごと狙撃手を吹き飛ばせる。やるなら今だぞアメリカ人」
「そいつはどうも」
タイラーは続いて一夏の背中に掛けられているRPG29を見やった
RPG-29ならば建物ごと狙撃手を仕留める事は出来るだろう。しかし、それには大きなリスクが伴う。言ってしまえばロケットランチャーという系統の武器はその性質上、後方に発射ガスを逃がさなくてはならない。それにそのガスの範囲はかなり広い。したがって、発砲するならば屋外に出るほか方法は無い。
「織斑、そいつを僕に貸してくれ」
一夏はそれをタイラーへと無言で手渡した。
「いいか、僕が外に出てあいつを吹き飛ばす。織斑、お前はここであの狙撃兵を出来るだけ引きつけてくれ」
「了解」
一夏の視線をよそにタイラーはビルの外へと飛び出した。幸か不幸か、ブリザードは視界一面が真っ白に染まる。これでは確かに相手からこちらを目視する事は不可能に近いはずだ。不意にある予感が頭をよぎる。
”狙撃兵が撤退していたら?”
タイラーはその仮定をすぐさま頭から振り払った。楽観的な可能性を考えてはいけない。前の世界でもそう教わった。ありとあらゆる仮定を考えて行動せよ。タイラーはその通りに動く事にした。自分の度胸と、思考をフル回転させてブリザードの中を前進する。徐々にブリザードはその激しさを増していき、タイラーの視界を狭めていく。そうして進み続ける中で自分は今どんな状況に置かれているかを悟った。恐怖がタイラーを支配する。それは死へのものではない。見えざる敵に対する本能に突き動かされて反射的にマチェットナイフを構えた。その時だった。ブリザードの中から手が這い出してきた。その手は後方よりタイラーの喉元を締め上げ、もう一方の腕には白銀のナイフが掲げられている。
”迂闊だった…!”
タイラーはナイフを握りしめているほうの手を即座に掴み、ナイフを喉元より突き放す。同時に後ろに居るであろう対象を蹴り飛ばす。柔らかい感触が足から離れていく。その僅かな隙にタイラーは状況を立て直した。続いて相手のタックルを受け流し、足を払って襲撃者を蹴り倒す。マチェットナイフを逆手に構えて一直線に相手の頸動脈を切り裂いた。白銀の大地が血潮に濡れた紅い雪へと変貌し、襲撃者の頬へ積っていく。タイラーはそれを一瞥して再び教会の方向へと進んでいく。すると、ブリザードが収まり、視界に真っ青な青空が広がった。そして教会にキラリと反射するものをタイラーの目は見逃さなかった。
”チャンスは今しかない”
RPG-29の筒を展開し、折りたたみ式のサイトをオープン。照準は無論教会の3階。距離は200メートル。躊躇することなくスイッチを押す。刹那、積りに積もった雪が舞い上がり、弾頭は白煙を吹き上げて獲物へと直進する。近接信管が起動し、窓枠は爆炎に包まれた。この爆発ならば狙撃兵も生き延びている可能性はあるまい。
「よし、狙撃手は仕留めたな。アレクセイ。大丈夫だ」
「了解だ。アメリカ人」
焼け落ちる教会をバックにタイラーは走り出す。その先へ。自らの運命へと
書いてて思った。
IS要素が少ない。というよりISそのものが全く出てきてない。うん
また次回。