1週間後。織斑一夏は未だにそれを踏み出せずにいた。一応全装備を着込んでみたものの、どうにも自分の体に似合っていない気がしてならない。自分が鍛えていないのも確かにそうではある。しかしそれよりも似合わないと感じる原因は他にもある。自分が何も話せずにいるからだ。あれ以来自分はタイラー以外の人間と関わりを断った。誰も危険に晒したくないと考えたから。しかし、ただそれだけの理由で7日間誰とも話さないとなると気が滅入って仕方がない。ではタイラーに話そうとも思うが生憎彼は今何処かへ出かけている。こんな非常事態にどこへ出たのかとも思うがあんな恰好であんな状況下で街を歩いていたような人間だ。常人の思考では理解が届かないだろう。
「はぁ…」
それに銃の扱い方も分からない。構えるところまでは何となく分かったものの狙いが全く定まらない。
どうしたらいいものかと、タイラーの家を歩いてみても、やはり目新しいものは何一つとして見当たらないのだ。ふとテーブルの新聞の見出しが目に入った。目新しくは無いが妙に一夏の興味をそそる。四角四面なまでに几帳面なタイラーが新聞の一つをほったらかして行くはずが無い。そこで一夏は新聞を手に取る。
紙面はいたって普通の国際面。国際政治状況がほんの少し語られているが問題はそこでは無い。見出しにはこう書かれていた。『米陸軍特殊部隊隊員作戦中にて4名死亡』と。タイラーがこの記事をほったらかしたままここを去ったという事は何かがある筈だ。そして初めに一夏に対して言った言葉が妙に胸に突っかかっていた。「余計な詮索は無用だ」と。この2つの関係からおおよその事を察するにタイラーは過去に何かがあった。少なくとも自分の知る範疇は無い何かを行っていた。何か、それが分かれば苦労などしない。生憎あの秘密主義者に何を聞いてもノーコメントで返ってくるだけなのだろうから。
一夏は再び自室へと戻る。今自分がやらなければならない事はタイラーに付き従う事だけだ。そうしなければ、どうあがいてもこの先生き残れる保証はどこにも無い。自分は既に一般人の範疇を逸脱してしまったのだ。そうなればもう自分は元の家族とも会うことは無いのだろう。
脳裏に浮かぶのは自分の理想とした女性。自分をいつも第一に思ってくれた人。別れながらも、それでも自分を好きと言ってくれた人。ありがとう。ありがとうと心の中で感謝を述べる。その感謝は自分を好きとしてくれる存在を『切り捨てる』事で、結果として彼女たちの存在を護ろうという『偽善』に過ぎなかった。そうしなければ後々自分は彼女たちの存在と言う重圧で押し潰されてしまいそうだったから。そうして再び一夏はタイラーより渡された装備を着込んでみた。先ほどよりかはいささかマシに思える。これならば、と一夏は思った。
そして玄関のチャイムが鳴り響き、彼が帰ってくるなり、一夏へと宣告する。
「一夏。御託は後だ。始めるぞ」
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