バイコヌール宇宙基地研究所一角の扉をブリーチングし、タイラーはヒョウの様に部屋へと飛び込んだ。そこに居たのは中年の白衣を着た研究者。彼こそが今回の仕事の最重要目標であった。
「あんたが…」
タイラーはポツリと呟いた。この弱り果てた目はその証拠をしっかりと焼きつけているはずだ。だからこそ自分はここに来た。真実を明らかにするために。
「そうだ。私が全ての元凶さ。おかげ様で世界中が大混乱に陥っている。誰も留め様も無い人類史上最悪のパンドラの箱が開け放たれてしまったよ…」
タイラーはACRライフルを下ろしかけたところで再び目の前の重要目標の胸元へと向ける。思考回路をフル回転させて目の前の重要目標へ再び言葉を投げる。
「あの日、何があった?」
忘れようもない日。自分にとっても、一夏にとっても、あの日の光景は目に焼き付いている。
だが、誰も知り得ない事をこの男は知っている。それを聞くために自分はここに、この世界に来たのではないか。
中年の男は語り始める。
「あの日…特に何の問題も無い日だった。衛星軌道に異常は見られない。空は鮮やか。ただ一つのものを除いては」
「一つのもの?」
その問いに彼は口を歪ませて嘲り笑いを洩らして見せた。自分の使命感に押しつぶされてどうしようもなくなった男は彫刻の様に椅子にもたれかかっている。
「地球規模即時報復攻撃システム。ロシア宇宙軍の切り札だ。米国の核抑止に対応するための切り札の演習を行おうとしていた。ところがだ…どっかの誰かさんにオーバライドされた」
「何だと!?」
その一瞬、タイラーの銃口が彼の心臓からぶれた。背筋に衝撃が走る。今、彼が言った事を信じて総合するならば核攻撃はこの男では無く、悪意を持った誰かということになる、しかしタイラーの衝撃は彼が撃ったのではないということではなく、悪意を持った誰かに核権限を乗っ取られたことの恐怖感が上回っていた。
”悪意が世界へ降り注ぐ”
そのフレーズがふとタイラーの脳内へ去来する。かつてキューバ危機を描いた映画のナレーションのその言葉通りにそれは現実と化した。
「それで、今に至る。世界はご覧の有様だ」
たった一人の悪意が世界をこうも破滅へと導く事は…可能なのだ。そこに大義など存在しない。ただ焦土と血と涙のみがそれを切実に物語っている。
「だがなぁ、面白い事にたった一つだけ核攻撃を受けなかった国家がある。分かっている通り、日本だ」
日本に住んでいるものは核攻撃を受けずにほっとした事だろう。しかし世界は日本が胸を撫で下ろしているのを見守るほど悠長な存在ではない。
その後は国連の復興の第一波として多額の支援金を請求され、あまつさえ株価は大暴落を引き起こし、内閣は総辞職。日本も混乱期を歩んでいる。
「そこでちょっと日本の軌道上で何があったか調べてみた。それがこれだ」
壁のモニターに衛星軌道の映像が表示される。日時はあの日。何の問題も無い日だったそこに地球規模即時報復攻撃システムの矢が降り注ぐ。
そこに小さな光点が飛来し、ロッドは高高度核爆発を引き起こす。それが続いて二度三度。ロッドを次々に破壊してせしめた。
「これは…?」
「かつて一人の科学者は、宇宙を目指そうとした。何よりも速く、何よりも高く、その先へ。だがそれは現実というあまりに残酷な世界に翼を折られて堕天した。その翼は今、憎悪となって私達に反旗を振りかざさんと牙を剥いた。その名は…」
「インフィニット・ストラトスだ」
次回は今熱い(物理)なあの国へ行きます!ご期待を。それでは