ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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唐突に始まってしまったfgoのboxイベント『風雲からくりイリヤ城〜果心居士のささやかな野望』。
奏章『オーディールコール』まで虚無期間と思っていただけに、この時期でのイベントは素直に嬉しい。やはりイベント期間は二週間でもいいので、復刻なども含めて頻繁にやって欲しい気がする。

とりあえず、200箱開けたところでQPがカンストしそうなので少しペースを落とし始めて……小説の方に注力し、短いながらも書き上げました。
『ルリドラゴン』の其の②、これといった劇的な物語になるわけではありませんが、ゲゲゲの鬼太郎の気になった部分に対してもそれとなくメスを入れていく感じで話が進んでいきます。

まったりとしたお話をどうかお楽しみください。


ルリドラゴン 其の②

「それじゃあ、まずは手本を見せますね……」

 

 喫茶店で今回の依頼主である女子高生たちから事情を聞かされた、その数十分後。鬼太郎は彼女たちを伴い、人気の少ない河川敷へと場所を移していた。

 周囲に人がいないことを確認し、女子高生たちとも距離を置いて一呼吸。鬼太郎は自らの能力——その技の名を叫んでいく。

 

 

「——体内電気っ!!」

 

 

 体内電気。

 その名のとおり、体内から電気を発する能力。基本的には電撃を帯びたまま、相手に接触することでダメージを与える技だが、纏った電気は放射することで飛び道具としても使用できる。

 鬼太郎の数ある技の中でも、特に威力が高い大技の一つである。

 零距離で放てば、巨大な妖怪の肉体すら消滅させるほどの一撃となる。仮に人間がその電撃を浴びようものなら、瞬く間に感電して黒焦げになってしまうことだろう。

 

「おおっ!?」

「すっごい~! ほんとに放電してる!」

「あっ、やばっ……写真撮り損ねた」

「ゴロゴロピッカー!! 雷みたい、眩しい!!」

 

 だが、そんな物騒な大技を目の当たりにしながらも、女子高生たち・ユカ、神代、宮下、三倉の四人は浮かれた様子で拍手喝采を送る。ピカピカと光る鬼太郎の体内電気を大道芸とでも思っているのか、呑気に記念撮影など。

 河川敷にブルーシートまで敷き、さながらピクニック気分で鬼太郎と、彼から指導を受ける立場である——ツノを生やした女子高生・青木ルリのことを温かい目で見守っていく。

 

「……とりあえず、やってみましょうか」

「う、うっす! よ、よろしくお願いします……鬼太郎先生!」

 

 その空気にやりにくいものを感じながらも、とりあえず鬼太郎はルリに声を掛けていく。自分が手本を見せた体内電気、それと同じことを彼女にもやって見せてくれと指示したのだ。

 

「う……うぅうううう……!?」

 

 まずは自分なりのやり方で、ルリは全身に力を込めて身体から電気を発しようと頑張ってみる。

 

「ん……んんんんんんん!!」

 

 顔を真っ赤になるまで力み、なんとか体内から電気を絞り出そうと踏ん張ってみた。

 

「はぁはぁっ!! だ、だめだ……やっぱり出ない!!」

 

 しかし、それで出るようなら元から苦労などしていない。やはりというか、ただ力を込めるだけでは電気を発することなど出来ないようだ。

 

「さて、どうしたもんかのう……」

 

 これに付き添いの目玉おやじも一緒に頭を悩ませる。

 ここからどのような指導方法でルリに体内電気——いや、彼女自身の『放電体質』をコントロールさせる術を身に着けさせるべきか。

 

 

 

 実際のところ、鬼太郎の体内電気とルリの龍の体質その③『放電』が同じような仕組みなのか現時点では不明だ。

 鬼太郎の体内電気は、体内の『発電袋』で妖気を電力に変換し、それを発電する仕組みとなっている。そのメカニズムは電気ナマズなどと似たような原理でもあるというが、ルリがそれと同じとは限らない。

 そもそも、彼女はどこから電気を発しているのか。龍の体質の仕組みがどのようになっているかが分かれば、まだやりようもあっただろう。

 

「いや……仕組みとか、そんなこと私に聞かれても……」

 

 当然のことながら、その辺のメカニズムはルリ自身にも不明瞭。少し前まで、彼女には自分が龍の血族だという自覚もなかったのだから無理もないことだ。

 

「そうですね……あとは感覚的にやっていくしかないでしょうけど……」

 

 その辺の仕組みが分からないなら、あとはふわっとしたイメージでやるしかないと鬼太郎が何とも曖昧なアドバイスを送る。

 

 そもそも鬼太郎自身も、普段から自分の体内の仕組みなど意識しているわけではない。体内電気もそうだが、他の技も鬼太郎は『身に染みた技術』として、いつの間にか行使できるようになっていた。

 理屈ではない。こういうのは『慣れ』だ。一度感覚やコツを掴んでしまえばあとはどうとでもなるというのが、鬼太郎の考えである。

 

「身も蓋もないな……けど、その通りかもね~……」

 

 安直な結論に気の抜けた息を吐きながらも、ルリもその通りだと頷く。

 実際、ルリの龍の体質その②『火を吐ける』理屈も、分かってやっているわけではない。色々と練習したことで、火を吐けるタイミングがある程度コントロールできるようになったというだけだ。

 

 ちなみにルリの場合、火が吐く直前は顔が熱くなったり、クシャミと一緒に出たりすることが多い。

 逆にそういった前兆がない限り、どうやっても火を吐くことなど出来ないと、結構アバウトなものだった。

 

「とりあえず、やってみよっかな……」

 

 やはり理屈が分かっているわけではないのだが、それでも練習の甲斐もあり、火を吐くことに関してはどうにかなった。

 いずれは放電も同じように、きっかけ次第でなんとかなるだろうと。

 

 鬼太郎という監督役がいることもあってか、ルリは割と気楽に構えながらとりあえず色々と試していく。

 

 

 

 

 

「——全然出ないわ~! もう無理、普通にめげそう……」

 

 しかし、そんな安直なルリの考えを戒めるかのよう、放電に関しては全く進捗が見られなかった。結構な時間頑張ってみたものの、彼女の身体からは静電気の一つも起こる気配がないのだ。

 確かに一度は発現した能力なのだから、放電もルリの体質としてしっかり受け継がれていい筈なのだが。

 

「む、難しいですね……人に教えるのは……」

「う~む……もっとこう、全身から力を絞り出すようにじゃな……」

 

 鬼太郎だけではなく、目玉おやじも。自分たちの能力の使い方などを参考にアドバイスを送ろうとするのだが、中々上手く言葉が出てこない。

 目玉おやじなど、本来の肉体——幽霊族の青年としての身体を持っていた頃は、鬼太郎と同じように体内電気などの技を自由自在に使えていた。

 その頃の感覚を記憶から引っ張り出してくるのだが、やはり人に教えるとなると勝手が違うようだ。

 

 鬼太郎にとっても、人に能力の指導をするなど初めての経験だ。上手くいかなくて当然、ここからどうしたものかと思案を巡らす。

 

「……あっ、ねぇねぇ! ちょっと思ったんだけどさ!!」

「神代さん? どうかしたの?」

 

 すると、ここでルリたちを見守っていた友人の一人、二色ツインテールの神代が助け船を出すように声を掛けてきた。

 彼女は良いアイディアが閃いたとばかりに、素敵な笑顔を浮かべている。その嬉しそうな表情に、他の友人たちも何事かと耳を傾けていく。

 

 皆の視線が集まる中、神代は何気なく浮かんだその考えを口にしていた。

 

 

「ルリちゃんも、鬼太郎くんみたいに……技名を叫んでみたらいいんじゃないのかな?」

「…………えっ? ……どゆこと?」

 

 

 しかしその提案を、最初は意味が分からんとルリが聞き返す。

 

「いや、だってほら……鬼太郎くんって、技を繰り出すときに叫んでるじゃない?」

 

 神代は自身のスマホを取り出し、とある動画を見せてくる。

 

 それは彼女たちが鬼太郎に手紙を送るきっかけにもなった動画だ。鬼太郎がとっても悪そうな妖怪相手に『体内電気を浴びせている映像』である。

 動画内では確かに鬼太郎が『体内電気っ!!』と声に出して叫んでいた。

 

「言われてみれば、確かに……」

「ほんとだ……鬼太郎くん、だいたい技名叫んでるね……」

 

 するとユカや宮下、三倉といった面々も自分のスマホからサイトを開き、鬼太郎が映っている動画を検索し始める。

 妖怪絡みの事件が増える度、鬼太郎が人間の助けに応える形で戦いの場に赴く機会が多くなるのだ。彼が妖怪相手に戦っている映像など、検索を掛ければすぐにでも出てくる。

 

「……えっ? こんなに……ボクの動画が……」

「……これは流石に……大丈夫か、鬼太郎?」

 

 自分の動画がネット内に溢れていることに、鬼太郎は恐ろしさを通り越して呆気に取られている。

 息子の活躍を映像で見られて最初は喜んでいた目玉おやじだが、流石の動画数に鬼太郎の心中を心配する。

 

 これは普通に肖像権の侵害なのではと、人間であればプライバシー保護を考えて削除申請をするところだろう。

 実際、その手の動画は後日——ネットに詳しい砂かけババアの手により、全て削除されることになるわけだが。

 

 

『——髪の毛針!!』

 

『——リモコン下駄!!』

 

『——指鉄砲!!』

 

 

 今はそれらの動画内容に触れるべきだろう。その動画内、全てで鬼太郎がそれぞれの技名を力一杯に叫んでいる。

 

「これって、なんでわざわざ叫んでるの? 別に叫ばなくても……技は出せるんだよね?」

「いやいや! やっぱり技名叫んだほうがかっこいいんじゃない!? ほら、男の子って……そういうところあるって言うし……」

「そっか、そっか。鬼太郎くんも、年頃の男の子なんだね~!」

 

 ユカたちはその動画を視聴した上で、鬼太郎が技名を叫んでいることへの疑問を口にしていた。

 

 普通に考えれば、その行為にはあまり意味がないように思える。

 敵にこれから繰り出す技を教えているようなものだ。下手をすれば相手側にこちらの動きを察知され、手痛い反撃を食らうかもしれないというのに。

 

「いや、なんでと言われても…………その場の勢いとしか言いようが……」

 

 改めて問われてことで、鬼太郎も冷静に考え直す。

 指摘されるまでほとんど意識していなかったが、確かに戦闘中、鬼太郎は技名を叫んでいることが多い。勿論、必ず叫ぶと言うわけではない。状況によっては技名を言う暇すらないときだってある。

 

「う~ん……けど、叫んでいるときの方が、心なしか技の威力が上がっているようにも感じますね……」

 

 それでも、わざわざ叫ぶ利点を上げるのなら——その方が『身体に力が入る』からかもしれない。

 技名を口にしているときの方が、気合が入って技の威力も上がるような気がすると。決して『カッコいいから』などという理由ではないのだ。

 

「うんうん、だからさ!! ルリちゃんも鬼太郎くんみたいに叫べば、その勢いで電気とかが出るようになるんじゃないかと思うんだよ!!」

 

 そんな鬼太郎の考え方に、神代が理解を示す。

 つまるところ、彼女が言いたかったのはそういうことだ。鬼太郎のやり方を見習い、ルリも技名を叫べば気合が入るのではないかと。

 

 ルリが必殺技を——『体内電気』を繰り出せるようになるのではと考えたのだ。

 

「え……? 叫ぶの……私が?」

 

 この提案にルリは目を白黒させ、次の瞬間にも顔を真っ赤に染めてしまう。

 自分が『体内電気!!』と叫ぶ光景を頭の中に思い浮かべ——それが思いの外、恥ずかしいことだと感じたのだろう。

 

「なるほど……そう言うことなら、試してみる価値はあるんじゃないの!?」

「ルリちゃん、頑張って!!」

 

 しかし、神代の考えにユカたちも乗っかっていく。

 本当にそれで放電が発せられる可能性を考慮し、とりあえず安全圏にて待機。ルリが必殺技を叫ぶ決定的瞬間を撮影しようと、それぞれがスマホを構える。

 ワクワクと期待に胸を膨らませ、まるで幼子のようなキラキラとした眼差しをルリへと向けていく。

 

「うっ……」

 

 そんな好奇心に満ちた友達の視線に、ルリの動きがなんともぎこちないものになっていく。しかし、ここでもたついていてもしょうがないと観念したのか。

 やがては意を決し、身体に力を込めながら鬼太郎のように技名を叫んでいった——。

 

 

「——た……体内電気~…………」

 

 

 けれど、やっぱり羞恥心を捨てきれなかったのか。声高々に叫ぶことが出来ず、恥ずかしそうに声を震わせるに留まってしまう。

 

「ちょっと、ルリちゃん! 恥ずかしがったらダメだって!!」

「そんな弱々しい響きじゃ、成功するものも成功しないよ!?」

 

 その弱々しい震え声に、三倉や宮下が容赦なくダメ出ししていく。

 現に今の瞬間、ルリの身体からは一切の電気が発生しなかった。やるならやるで、しっかりと腹の底から声を出さなければ意味がないのだろう。

 

「いやいや、無理だって!! これ想像以上に恥ずかしいからねっ!?」

「う~ん……体内電気って響きが、しっくりこないんじゃない?」

 

 だが、ルリは技名を叫ぶことが存外に恥ずかしいことだと主張する。

 一方で、ユカなどはそもそも『体内電気』という名前の響きに問題があるのではと、さりげなく幽霊族のネーミングセンスに文句を付けていく。

 

「えっ? じゃあ、英語でカッコよく……サンダー? スパーク?」

「ちょっとシンプル過ぎない? もっとこう……なんか捻った方が……」

「ええっと……じゃあ、なんとかサンダー……みたいな?」

 

 そして何故か体内電気に変わる必殺技の名を、あーでもないこーでもないと皆で話し合っていく。

 

「う~ん……あっ!!」

 

 そうしていると、ここでまたも名案が閃いたとばかりに神代が手を叩く。

 

「十万ボルトは!?」

「ちょっ!? それはヤバいって……!!」

「ルリちゃん!! 十万ボルトよ!!」

「あたしは◯◯モンかっ!? ◯◯チュウか!?」

 

 何気にやばい技名を思い付いた神代が、それを繰り出すようにルリに指示まで出していく。

 もっとも恥ずかしさ以上に、その技を使用してはいけないという、謎のプレッシャーからルリはここでも十万ボルト……もとい、放電を発することが出来なかった。

 

「もう、ルリちゃんってば……鬼太郎くん!」

「は、はい!?」

 

 すると、業を煮やした神代が鬼太郎へと声を掛ける。

 それまですっかり蚊帳の外であったために油断していた鬼太郎が、いきなり話を振られてことでビクッと肩を震わせる。

 

「もう一回、手本を見せてあげて! 恥ずかしがり屋なルリちゃんに、技名をカッコよく叫ぶことの意味を教えてあげるの!!」

「え……ええ、分かりました……」

 

 もう一度、技名を叫ぶ姿を堂々と見せて欲しいというのが神代の頼みだった。

 そのくらいのことは鬼太郎にとっていつものことであり、今更その提案を拒む理由などない。ない筈なのだが——。

 

「ワクワク……」

「ドキドキ……」

「ゴクリ……」

 

 冒頭とは違い、皆の視線が好奇心と期待感で漲っている。鬼太郎が必殺技を繰り出す瞬間を、ルリを含めた女子高生一同が今か今かと待ち侘びているのだ。

 そんな彼女たちの視線に晒されながらも、鬼太郎は技名を力一杯に叫ぼうとした。

 

 

「——た、体内……電気……」

 

 

 しかし何故か鬼太郎までもが、緊張と恥ずかしさから弱々しく声を震わせてしまう。そのせいで電気の方も、僅かに身体から漏電するだけ。最低限の出力でしか放出されなかった。

 

「鬼太郎!? お前まで恥ずかしがってどうする!?」

「いや……ですけど、父さん……」

 

 息子の体内電気失敗に目玉おやじのツッコミが入るが、鬼太郎にも言い分があった。

 

「……わざわざ技名を叫ぶのって……なんか恥ずかしいですね……」

 

 鬼太郎は、ここにきて気付いた。

 いつもは全く気にしない、気にかけている余裕がないのに、いざ「やって!」と言われたことで変に意識してしまい、悟ってしまったのだ。

 

 技名を声高々に叫ぶことが、結構恥ずかしいことだということに。

 

 

 

×

 

 

 

「はい、ルリちゃん! これで喉でも潤しなよ!」

「あ、ありがとう……神代さん」

「ほら、鬼太郎くんも……目玉おやじさんも、どうぞ!」

「あっ、どうも……」

「うむ、いただこうかのう……」

 

 それから特に進展もなく時間だけが流れ、流石に一旦休憩しようとルリや鬼太郎たちも河川敷のブルーシートに腰を下ろしていた。

 自分たちの隣に座る彼らに、神代がおしゃれな魔法瓶からお茶を紙コップへと注いで渡していく。

 

「相変わらず、何も起きなかったね……」

「不思議だね……何か条件でもあるのかな?」

 

 その間、ルリが放電出来ないでいることに関し、宮下や三倉が話し合っていく。

 友人である彼女たちにとっても、ルリの龍の体質は他人事ではない。今後ともルリとの付き合いを続けていくためにも最低限、彼女が放電するのに必要な条件、仕組みなどをきちんと把握しておく必要があるのだが。

 

「……そういえば、疑問に思ったんですけど……」

 

 すると、ここでユカが鬼太郎たちへ何気なく質問を投げ掛けていた。

 

「目玉おやじさんって……いつも鬼太郎くんの頭のところにいるんですよね?」

「うん? ああ、だいたいはそうじゃが……」

「それって……戦ってるときとかも、そうなんですか?」

 

 ユカが気になったのは、目玉おやじのポジション——立ち位置である。

 こうしている今も、目玉おやじは鬼太郎の頭の上からユカたちと会話をしている。戦闘中など、激しく身体が揺さぶられるときもそうなのかと、何故かそのように質問をしてくる。

 

「勿論そうじゃ! わしはいつだって鬼太郎と一緒じゃ! 親子だからのう!!」

「父さん……ええ、そうですね」

 

 その問いに目玉おやじは自信満々に答え、父親の言葉に鬼太郎も嬉しそうに口元に笑みを浮かべる。

 鬼太郎たち親子にとってはそれが当たり前。特に別行動をする必要がない場合はいつも一緒だと、彼らはその事実を誇らしげに語る。

 

「けど、それだと目玉おやじさんも、体内電気で一緒に痺れちゃいますけど……それは大丈夫なんですか?」

「えっ……?」

 

 しかし、ユカが気になったのは——目玉おやじが鬼太郎と一緒にいることで『体内電気のダメージを受けてしまわないか』ということであった。 

 身体から電気を発し、それで妖怪を攻撃するのだから、当然鬼太郎と一緒にいる目玉おやじにも電撃が伝わっている筈だが。

 

「それは……そうなんですか、父さん?」

 

 これに驚いたのは意外にも鬼太郎だった。

 彼は自分の技が父親を傷付けているかもしれないという可能性に、今更ながらに負い目を感じたように表情を伏せる。

 

「いやいや! そんなことはないぞ、鬼太郎よ!!」

 

 だが息子の不安を払拭するよう、目玉おやじは慌てて首を振った。

 

「お前が体内電気を使用している間は、わしもその電圧と同調するよう、僅かに身体から電気を発するようにしとるからな!!」

 

 目玉おやじ曰く、鬼太郎が体内電気を使用している間は彼自身も僅かに発電し、鬼太郎の放電と共振するようにしているとかなんとか。

 

「それで反動を最小限に済ましておるから……何も心配はせんでいいぞ!」

「あっ、やっぱり……ちょっとは痺れてるんですね……」

 

 しかし、父親がそうやって工夫していることに驚きつつ、あくまで反動を抑えているだけであって全くのノーダメージではないと、鬼太郎の顔色はまだ暗い。

 

「何を言う……! お前だって、体内電気を使う反動がないわけではないじゃろう!?」

 

 だが息子に余計な心配をさせまいと、さらに目玉おやじは続ける。

 そもそも、体内電気という技自体が自爆技に近いものがある。電気を発している間は、鬼太郎にも少なからずダメージが返ってくることを目玉おやじは知っていた。

 

「息子が戦って傷ついておるのに、父親のわしが何も背負わないわけにもいかんじゃろう? お前が気にすることではないぞ……」

「父さん……」

 

 だからこれでいいのだと。息子が傷つくなら父親の自分もその痛みを一緒に受けるべきだと、当然のように胸を張る。

 そんな父親の思いに触れ、鬼太郎も救われる気持ちでその表情を明るくしていく。

 

「仲が良いんだね……鬼太郎くんと目玉おやじさん……」

 

 そんな親子のやりとりを、神代は微笑ましいものを見るように眺める。

 すると二人の親子関係から『あること』を思い出し——皆の意見を聞こうと彼女は徐に口を開いた。

 

 

 

「——そういえば……みんなは『父の日』とかどうしてる?」

 

 

 

「えっ……父の日?」

 

 そのワードに対し、青木ルリは目を丸くする。

 ずっと龍である父親の存在を知らなかった、母親と二人暮らしであったルリにとって、それはあまり馴染みがない行事だろう。

 

「そっ! もうすぐ父の日じゃない? みんなは……どんなものを贈ってるんだろうと思ってね?」

 

 しかし、父親がいる家庭というものが少なくないわけがなく。毎年のように訪れる六月の第三日曜日。その日にどのような贈り物をするか、頭を悩ませている子供たちが世界には一定数存在している。

 神代を含めて皆が女子高生という複雑な年頃の少女だが、年に一回くらいはしっかりと父親に感謝を伝えるべきなのかもしれない。

 

「うちは無難にネクタイかな? 毎年、違うデザインのものを選ぶのが大変だけど……あげないとお父さん、落ち込んじゃうから……」

 

 ユカは普通にネクタイ。まさに父の日と聞き、真っ先に思い付くアイテムだ。

 しかし、昨今はクールビズの影響でネクタイ自体の売り上げも落ちているという。これからドンドン暑くなる時期ということもあり、あまり適切な贈り物とは言えなくなってしまっているかもしれない。

 それでも、ユカの父親は娘からの贈り物を毎年のように楽しみにしているとのことだ。

 

「私はお酒! 今度、お母さんと一緒に銘柄を選ぶんだ!」

 

 三倉はお酒とのこと。

 未成年であるが故、一人では買えないものを母親と一緒に買いに出かける。父親への贈り物を身近な人と一緒に悩んで選ぶ、その行為自体を楽しんでいるといった感じだ。

 

「わたしの家、お父さんは単身赴任だから。一応、毎年お母さんが何か贈ってるみたいだけど……よく分からん」

 

 宮下は父親が単身赴任で、家を留守にしていることがほとんど。

 そのため宮下自身は何もしていないというが、母親である妻は離れて暮らす夫に毎年のようにギフト品を贈っているとのこと。その話を聞くに夫婦仲は至って良好のようだ。

 

「ち、父の日ですか…………父さんは、何か欲しいものがあったりします?」

 

 女子高生たちの会話に聞き耳を立て、鬼太郎が慌てたように目玉おやじの様子を伺う。

 人間たちの行事に振り回されるような彼ではないが、流石に『父親に感謝を伝える日』と聞いては黙ってもいられない。

 自分に出来る恩返しとして何か良い贈り物はないかと、彼なりに必死に思案を巡らせているようだ。

 

「ふっふ……そう畏まることはないぞ、鬼太郎。子供が元気に育ってくれるなら、それに勝る贈り物はないんじゃからな!」

 

 しかし、改めて何かを贈る必要はないと。目玉おやじは鬼太郎の気持ちだけをありがたく受け取っていく。父の日に特別何かしてもらわなくとも、いつも鬼太郎には良くしてもらっているのだ。

 

 確かな絆を育んでいる鬼太郎親子にとって。わざわざ特別なことをする必要はないということだろう。

 

 

 

「…………」

 

 そうやって、皆が和気藹々と話す中、ルリ一人だけがその輪に入ることが出来ないでいた。

 

「ルリちゃんは? 今年はどうするの?」

 

 勿論、そんなルリ一人を仲間外れにするなんてことはない。神代は寧ろそれが聞きたかったとばかりに、ルリに『今年』の父の日をどうするのかと尋ねる。

 

「ルリちゃんの父親が龍……ドラゴンだってことは分かってるよ? けど、ドラゴンでもお父さんはお父さんなんだから……何か、プレゼントを贈ってもいいんじゃないかな?」

「そういえば……ルリって、まだお父さんには会ってないんだっけ?」

「この機会に会いに行ってあげたら!? きっとそれが一番の贈り物になるよ!!」

 

 青木ルリは、自分の父親である『龍』とは未だに顔を合わせていないという。

 どうして会いに行かないのか。疑問に思ったクラスメイトもいたが、本人としても複雑な心境があるのだろうと、ルリの気持ちを考えて深くは突っ込まないでいた。

 

 しかしこの機会、父の日だからこそ。お父さんであるドラゴンに会いに行ってあげたらどうかと、神代やユカたちが一歩踏み込んだところまで話をしていく。

 そんな友人たちの言葉に、ルリは真摯に耳を傾けつつも——。

 

 

「まだいいよ……どんな人……いや、どんな龍かも分からないし……」

 

 

 キッパリと断る。

 現時点では、父親と顔を合わせる気がないことをはっきりと明言していく。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「そっか……」

 

 ルリの断言するような言葉に、神代たちもそれ以上は何も言わなかった。

 彼女がそのように決めたのなら、部外者である自分たちがそれ以上首を突っ込むべきではないと、引き際は弁えているようだ。

 

「けど、プレゼントくらいは贈ったほうがいいかもね!!」

 

 しかし、せっかくの機会であることに変わりはない。贈り物くらいはするべきではと、今度は『龍のお父さんへのプレゼント』という方向性で話が盛り上がっていく女子高生たち。

 

「龍のお父さんに贈り物か……どんなもので喜ぶんだろう?」

「ネクタイ……は付けないか。お酒? ドラゴンって、お酒飲めるの?」

「う~ん、お酒よりは食べ物の方がいいかも……豚の丸焼きとか?」

 

 もっとも素朴な疑問として、龍という怪物相手に何を上げればいいのかと首を傾げる一同。

 人間の間で流行っている定番アイテムなどはダメだろう。もっと即物的な食べ物、飲み物とかの方が喜ばれるのではと、割と真面目に考えていく。

 

 そんな中、驚きのアイディアが飛び出す。

 

「……生贄とか?」

「物騒!!」

 

 無論、冗談混じりではあるが、そのような提案にルリが汗だくに叫ぶ。しかし、相手が『龍』ともなればそのくらいは普通にありそうだ。

 

 龍という存在は昔から、神様の一種して崇められてきた。

 そして古来では、神であるものに供物として人間を捧げる——『人身御供』などといった風習が確かに存在していた。

 今では悪習とされるそれらを、昔は当たり前のように行い、それが神へ感謝を示す『最上級の奉仕』だと理解されていたのだ。

 

「生贄か……やっぱり、若い女の子とかが喜ばれるのかな?」

「そりゃ、おじさんとか捧げるよりは……若くて綺麗な子とかの方がいいんじゃない?」

 

 そして誠に勝手ながら、その生贄となる人物像が神代たちの間では『若くて麗しい娘』というイメージで固定される。

 まるで脳裏に浮かぶようだ、巨大なドラゴンが若い娘を捧げられて喜ぶ様が——。

 

『——ぐへへっ! 美味そうな若い娘だぁあ……』

『——きゃああ!!』

 

 などと、嫌がる娘に涎を垂らしながら言い寄る、恐ろしいドラゴンの姿が——。

 

「とんでもない邪竜だな!! 私の父親!?」

 

 それは女子高生たちの勝手な妄想なのだが、実の父親のあったかもしれない姿にルリがドン引きする。

 

「ダメ!! 生贄はNG!! あげるにしても……もっとちゃんとしたものじゃないと……」

 

 そういうわけで、当然のことながら生贄を捧げるという案は却下された。

 父の日に『何か』をあげるという考えこそ否定する理由はないが、流石に生贄はダメだろうと人としての倫理観が激しく訴えかける。

 

「あとは……ルリちゃんのお母さんにでも、聞いてみるしかないかもね」

 

 龍へのプレゼント。女子高生たちの想像力ではそれを考えるのにも限界があると、ここで神代が大人の知恵——ルリの母親の意見を聞くべきじゃないかと溢す。

 

 一応は奥さんなのだから、彼女に聞くのが一番手っ取り早い。

 離れて暮らす、それも龍である夫の好みを果たしてどこまで把握しているかは別問題だが。

 

 

 

 

 

「母親……そうか! ルリちゃんは今……人間のお母さんと暮らしておるんじゃったな……」

 

 ふと、その会話で目玉おやじが今更ながらに——ルリにも母親がいるという事実を思い出す。

 母親——龍の父と出会い、ルリを授かった人間の女性だ。果たしてそれがいかなる人物なのか。

 

「ルリちゃん……もしよかったら、わしらをキミのお母さんに合わせてくれんか? 色々と聞きたいこと……話しておかなければならないこともあるからのう……」

 

 興味本位でもあるが、ルリの今後を話し合う意味でも会っておいて損はないと。

 

 

 目玉おやじが青木ルリに、母親との面会を希望していた。

 

 

 




お話を読んでいただけたのであれば分かると思いますが、今回のテーマは『父親』です。
人間ではない父相手にどのように接していこうかという、ルリの思いを原作の雰囲気を考えながら書いてみようと思います。

次回で完結予定。
次のクロスオーバーは……西洋系を主軸にしようと思っています。ドイツの古城で鬼太郎たちを待ち受けるものが……。
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