クラススコア実装に伴って追加されたミッションの影響で、プレゼントボックスがすごい勢いで埋まってしまった……。
何とか整理しましたけど、流石にフォウくんカード★3とか、行き場がなくなって、もう売却するしかなかったわ……。
だが今回大量配布されたリソースのおかげで、我がカルデアのレベル120の『太歳星君』がほぼ完璧で究極のサーヴァントになった!
残りのリソースは……いずれ実装されるかもしれない勇者王『カマソッソ』のために取っておきます!!
さて、今回で『ルリドラゴン』のクロスは完結となります。
改めて記しておきますが、今作のクロスオーバーはあくまで本作だけのオリジナル展開です。
原作の続きを意識した書き方ですが、原作には原作の正式な続きがある筈です。
ルリドラゴンの本編再開……心からお待ちしております。
「ただいま~、ちょっと遅くなったわ……」
「おかえり、ルリ~」
夜遅く、青木ルリが自宅マンションへと帰宅する。
家ではルリの『母親』が彼女の帰りを一人で待ってくれていた。娘が帰ってくるまではノートパソコンで仕事をしていたようだが、ルリの帰宅の声を聞くや、すぐにでもパソコンを閉じて娘と向き合っていく。
その女性の名は——
パッとした見た目は、どこにでもいる母親といった感じだ。美人ではあるが、特別目を惹くような容姿でもなく、その表情も柔らかいものだった。
話に聞いていた通り、ルリの母親はごくごく普通の『人間』であるようだ。
「先にシャワー浴びといで、その間にご飯の準備しとくから~」
既に部屋着に着替えていた海は、ルリにシャワーを浴びてくるように勧める。
シャワーでさっぱりした後は、親子二人で夕飯だ。ルリが生まれること十五年間。毎日のように母と娘、二人だけで食卓を囲ってきた。
「うん……あっ、メールで伝えてたと思うけど……」
しかし、その日はいつもと少々勝手が違っていた。前もって連絡はしていたようだが、ルリは改めて今日の『客人』を母親へと紹介していく。
「この子が……ゲゲゲの鬼太郎くん。それと……その父親の目玉おやじさん」
「——お邪魔します」
「——失礼……貴女がルリちゃんのお母さんですかのう?」
そう、ゲゲゲの鬼太郎と目玉おやじである。
ルリに体内電気——龍の体質その③である『放電』の指導をしたその帰り道。他の女子高生たちとは別れたものの、鬼太郎たちだけはルリと共に彼女の家へとお邪魔することになった。
半妖であるルリの今後を、保護者である母親と相談するためである。
「あー、はいはい、待ってましたよ! さっ、上がって上がって!!」
あらかじめ知らされていたこともあり、海はほとんど動揺を表に出さなかった。妖怪、それも初対面である鬼太郎と目玉おやじ相手にも気さくに話し掛けていく。
「とりあえず……キミたちもご飯食べてく?」
「……よっと! ほら焼けたよ、ルリ」
「ありがとっ……って、熱っ!?」
「あははっ! 相変わらず猫舌だね~! ほら、鬼太郎くんも! 遠慮せずにドンドン食べなっ!」
「あっ、どうも……い、いただきます……」
「うんうん! 沢山食べて大きくなりなよ……目玉おやじさんも、どうですか?」
「うむ、いただこう!!」
ということで。
青木家のリビングテーブルにルリと海。さらにゲゲゲの鬼太郎と目玉おやじが加わり、青木家の食卓はかつてないほどの賑わいを見せていた。
最初は鬼太郎も『食事までは……』と断ろうとしたのだが、そこをやや強引に推し勧めたのが海だった。彼女は遠慮する鬼太郎の腕を引っ張る勢いで、彼を食事の席へと座らせたのだ。
ちなみに、今日の夕飯は——『お好み焼き』である。
大きめなホットプレートの上に具材を混ぜた生地を次々と並べ、海が手際良く焼いていく。
「よっと! ほっと!!」
「おお~、上手い上手い! 流石は大阪の血!!」
手慣れた様子でヘラを握る母親に、風呂上がりでやや顔を上気させたルリが感心したように呟く。
どうやら海の実家、母方の親族は大阪出身らしい。ルリの祖母もバリバリの関西弁だが、現在は東京都内に住んでいるとのことだ。
祖母も、ルリが半妖で龍の血を引き継いでいることは知っているらしい。何かあれば手を貸してくれるとも、何かあったら龍の体質その①ツノで『刺し殺しぃ』などと物騒なことも口にしていたらしい。
「もぐもぐ……もぐもぐ……ときに海さん」
「ん?」
と、皆で和気藹々と食事を楽しみながらも、目玉おやじが海に対して本題へと踏み込んでいく。
「ルリちゃんの父親……龍のお父さんについて、色々と話を聞きたいんじゃが……」
元より今日はそのために青木家へと訪れたのだ。うっかり忘れてしまいそうだったが、鬼太郎も目玉おやじも夕食をタダでご馳走してもらいにきたわけでは断じてない。
ルリの今後のためにも、彼女の父親の龍がどんな人物なのか。それを海から聞かなければならなかった。
「え……あいつのこと? う~ん……何から話せばいいのやら……」
目玉おやじの申し出に、海は頭を悩ませる。
話すのを躊躇しているわけではない、どこからどのように話せばいいのかと思案を巡らせているようだ。自分の中で考えをまとめながら、海は自分の『夫』でもある龍について少しづつ語っていく。
青木海曰く、ルリの父親が住んでいるのは山の奥。それも人気がない、寂れた小さな神社を拠点にひっそりと暮らしているとのことだ。
「あいつは、ものぐさの引きこもり体質でね。自分から山を降りてくることがないから……会いにいくためにはこっちから山を登らなきゃいかんのよ……たくっ、たまにはお前から来いっての!」
「お、おおっ……そ、そうだね……」
それまで、どこか終始のんびりとしていた海であったが、龍である夫の愚痴を溢す際には少し苛立ちを露わにした。それはまさに『仕事や遊びで家庭を蔑ろにする夫の素行を怒る奥さん』そのものだ。
海の怒りに触れないようにと、娘であるルリがおっかなびっくりで母親の感情に同意を示す。
「山の中……引きこもり……ふむ……」
「どうかしましたか、父さん?」
海の話に対し、目玉おやじが腕を組みながら何やら考え込んでいる。鬼太郎はあまりピンとこなかったが、目玉おやじは今の話に何かしら心当たりがある様子だった。
「ほんと……あの化け物、人間の事情なんて全く考慮しないから。こんなご時世でも、変わらず自分の生活スタイルを貫いちゃってるし……」
海の愚痴はまだまだ続く。
昨今の情勢、妖怪が当たり前のように出没するようになった現代でも、彼が山から下りてくることはないという。勿論、『龍』などという強大な存在がいきなり人里に下りて来れば、流石に妖怪慣れした人間たちでもパニックにはなるだろう。
そういう意味で、龍である彼が人目に触れないよう山奥に隠れ住んでいるのは懸命な判断とも言えた。
「そんな山奥に引きこもってるようなドラゴンと……お母さんはどうやって出会ったわけ?」
ふと、ここでルリが率直な疑問を口にする。
そんな終始山奥に引きこもっているような父親と、ただの人間である母親。この二人がどのようにして出会うことになったのか、二人の子供としては気になるだろう。
「ん? 別に……そんなたいそうな出会いじゃないわよ?」
ルリの抱いた疑問に海はあっさりと答えていく。
「私が若い頃、ふらっと山登りして……ちょっと道に迷っちゃってね」
青木海は若い頃、気紛れで山を登り、そのまま遭難しかけたことがあったという。
それだけを聞くとヒヤッとするような危ない話に思えるが、本人は全く危機感を抱いていなかったのか、そのときのことを気楽に思い出しながら呑気に語る。
「それで、適当に歩いてればなんとかなるだろうかなって……とりあえず、山の中をドンドン進んでいったのよ」
「おいおい……」
母親の不用心な行動力にルリが呆れている。
山の中で遭難した場合、まずは周囲の状況を確認するためにも一旦足を止めるべきである。
その上で来た道に見覚えがあるのなら引き返すなり、体力の消耗を避けるためにもその場に留まるなど。その都度、最適な行動を取る必要があった。
間違っても、迷った上で『とりあえず先に進もう』など『その内どこかに出るだろう』などと。安易な考えから動き回ってはいけないのだが、若りし日の海はその間違いを平然と冒してしまったのだ。
「それで歩いてたら、なんか古びた神社があってね……」
しかし幸運だったのか。そうやって迷い込んだ先で——海は『龍が神様として祀られている神社』へと辿り着いたのだ。
既に人が訪れなくなって久しかったのだろう、ボロボロの廃墟となっていた社に休憩がてら腰を下ろした。
「そしたら、そこにいたのよ、あいつが……」
それで、ふと横を見れば——そこに『龍』がいたのだ。
人間の娘っ子に自身の領域へと踏み込まれて唖然と呆けている、何とも間の抜けた龍の顔があったとのことだ。
「へぇ……私の両親の出会い、随分とあっさりしてるな……」
遭難した果てでの邂逅とはいえ、意外にもあっさりとした遭遇の仕方にルリは拍子抜けする。彼女としてはもうちょっと劇的な何かを、運命的な出会い方を期待していたのかもしれないが。
「そんなもんよ、男と女の出会いなんて。別に特別なことなんてありはしないって」
「いやいや! 男と女である前に人と龍じゃん!?」
もっとも、海は極めて現実的な意見を述べる。
男女の出会いに、必ずしも運命的なものなど必要ないと。だが、男と女である前に人と龍だろと。ファンタジーな展開を期待するルリが納得のいかない顔で叫んでいた。
「ふむふむ、なるほど……それで、その後はどうなったんじゃ?」
しかし、それが一度きりの邂逅というわけでもあるまい。最初の出会いの後にも、二人の仲を深める交流があった筈だと、目玉おやじが海に話の続きを促していく。
「その後? う~ん……とりあえず、その神社に一晩泊めてもらって……なんとか自力で下山して……」
神社で身体を休めることができたこともあり、遭難した翌日の早朝、彼女は無事に山を下りることが出来たという。
山で遭難などの憂き目に遭った彼女を周囲の大人たちが叱りつつ、海の無事に皆がほっと胸を撫で下ろしたとのことだ。
だが、海は懲りもせずにその日以降もちょくちょく山を登るようになった。
龍に会うため、頻繁に古びた神社へと通うようになったのだ。
当然ながら、その時点では互いに恋愛感情などあるわけもない。海は『龍』などという物珍しい存在に、単純な好奇心から目を輝かせていただけ。
一方で龍の方も、久方ぶりに『人間』の話し相手が出来て嬉しかったのだろう。人が来ない、忘れ去られた神社に祀られた独りぼっちの神様として、海の来訪を心から歓迎する。
「——まあ、そうしてるうちに色々あって……ルリが生まれた感じ?」
「——ええっ!? 急展開!?」
そして、そういった交流の果てに半人半龍。二人の血を引いた子供——ルリが生まれることになったと、海は衝撃の事実をサラリと語る。
「ちょっと!? いくらなんでも端折りすぎでしょ!? いきなり生まれたって、もっとこう……あるでしょ! 語るべきことが!!」
ここでルリから母親の適当な話にクレームが入る。
二人の馴れ初め。仲の良いだけだった男女が互いに意識し合う瞬間。一冊の本にでもなりそうな種族を越えたラブロマンス的な物語。
本来ならあるべきその過程が、母親の話からは完全に省略されていたのだ。
母親と父親が、とりあえず仲良くなって——なんかルリが生まれていた。
自身の誕生秘話をそんな杜撰に語られれば、本人としてはツッコミたくもなるだろう。
「な~に~? 聞きたいの? 私とあいつの恋バナとか……ルリは本当に聞きたいのかしら~?」
「そ、それは……!? ま、まあ……聞かされても、ちょっと困るけどさ……」
しかし、ルリの指摘に海はニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべた。
実際、母親と父親の『そういった話』聞きたいかと言われると微妙なところだ。ルリ自身が思春期ということもあり、両親のあったかもしれない甘酸っぱい恋物語?を想像し、ちょっぴり恥ずかしそうに顔を赤くする。
「まっ……ルリが生まれてからは、私があんたを女手一つで育ててきたってわけ。あいつ、養育費もまともに出さないからね~、色々と大変だったわ……」
「うわぁ~、父甲斐性なしだわ……」
いずれにせよ、青木ルリという自分たちの娘を、海は大事に育てようと決心した。
きっと色々な苦難があっただろうが、母親が真っ先に口にした苦労話は——父親が碌に働きもせず、お金も家に入れないことである。
これには娘のルリも引き気味だ。実の父親が龍であることは重々承知だが、流石に経済的な支援が何もないのは、男親として情けないというか、何というか。
人間であれば育児放棄と文句を言われても仕方ない、訴えれば勝訴できるような案件ではなかろうか。
「ふむふむ、なるほどの……」
そこまでの話を、目玉おやじは静かに聞き入っていた。
青木海の夫——ルリの父親である龍がどういう妖怪なのか、今の話だけでその性分を推し量るなどは難しいだろう。
「やれやれ、暫く話を聞かんと思ったら……全く何をやっとるのか……」
「父さん?」
しかし目玉おやじはどこか納得し、ひどく呆れたように首を振っていた。
父親の反応に鬼太郎が不思議そうに首を傾げる。少なくとも、彼には目玉おやじがそのようなリアクションを取る、その理由を察することが出来ないでいる。
「海さん……その龍の住んでいる神社とは……もしかして——」
ふいに、目玉おやじは海に龍の住処であるその神社の詳細について尋ねていった。
×
「父さん、この山で……間違いないんでしょうか?」
「うむ、確かにこの辺りの筈じゃ……海さんも、この道で間違いないと言っておった……」
ゲゲゲの鬼太郎や目玉おやじが青木家を訪れたその翌日。二人は人気がない山道を登っていた。
青木海の話によれば、この山の奥にルリの父親である『龍』の祀られている神社があるらしい。ここまでの険しい道のり、本当にここであっているのかという不安からも、鬼太郎の足取りが段々と重くなってくる。
しかし目玉おやじは妙に確信がありそうな態度で、この辺りで間違いないと仕切りに頷いている。
実際、暫く歩いていると、立ち入り禁止の看板と侵入禁止用のロープが張られている場所へと辿り着く。
ロープの先には明らかに人工的な造りの石段——神社へと続く参道が見える。
「どうやら、この先のようですね……」
ようやく、鬼太郎にもここが目的地だと確信が持てた。あともう一息だと一度立ち止まった上で、その先へさらに一歩を踏み出そうとする。
「——っ! 父さん!!」
「——むっ!?」
だがそのときだ、鬼太郎の妖怪アンテナが反応を指し示した。彼の妖気を探知するレーダーが、強大な妖気の接近を察知したのである。
『——ヌゥンンン!!』
次の瞬間、『そいつ』は唸り声を上げながら鬼太郎の前に姿を現す。
大蛇のように長い胴体、四足歩行で地響きを立てながら行進してくる巨大な怪物。ごつごつとした鱗に鋭い牙。青木ルリよりも、さらに大きく立派なツノを生やし、その厳つい顔面には四つの眼が付いており、その視線の全てが鬼太郎へと注がれていく。
『——何者だ?』
「——っ!!」
侵入者である鬼太郎へと放たれた重厚感たっぷりの響き。その威厳ある佇まいを前にすれば、対峙する鬼太郎の身体にも自然と力が入るというもの。
間違いなく、そこにいたのは『龍』と呼ばれるのに相応しい風貌、威厳を纏った怪物であった。
『小僧……貴様、妖怪だな? 誰の赦しを得て、儂の縄張りに土足で上がり込んできた!?』
龍は自身の領域に許可なく踏み込んできた鬼太郎に対し、露骨な怒気を漂わせながら睨みを効かせてくる。
『返答次第では容赦はせんぞ!!』
「……っ!!」
その敵意を前に思わず身構える鬼太郎。彼の方に戦う意思はないが、こちらの話をまともに聞いてもらえるような空気でもなかった。
これは一度は矛を交える必要があるかもしれないと、鬼太郎も覚悟を決めるのだが——。
「——やれやれ……何を偉そうに……」
だが、緊張感漂うその場に目玉おやじのため息混じりの声が溢れる。彼は呆れた様子で、自身より巨大な体躯を持った龍という怪物に向かって声を張り上げていく。
「久しぶりに会いに来てやったというのに……随分と手洗い歓迎じゃのう!!」
『……ん? なんだ、誰かと思えば目玉おやじではないか……』
龍の方も目玉おやじの存在を認識するや、眼光から放たれていた怒気を引っ込める。霧散していく敵意に鬼太郎はほっと胸を撫で下ろしつつ、やはりという確信を込めて呟く。
「やっぱり……知り合いだったんですね、父さん……」
ここまでの言動で何となく察しがついていたが、眼前の龍と目玉おやじは既に面識があるようだ。
父親である目玉おやじの顔の広さを今更驚きはしない鬼太郎だが、流石に龍の知り合いがいることには少々戸惑っていた。
「まあ、龍の知り合いなど……こやつくらいしか思い浮かばんかったがな……」
息子の疑問に肯定を示す目玉おやじだが、人脈の広い彼でも龍の知り合いなどそうはいない。
そう、目玉おやじは青木海から、彼女の夫の話を聞かされていた時点で察しが付いていたのだ。古い神社にひっそりと住み、そこから滅多に出てこない引きこもり体質なドラゴン。
自分の知り合いでもある、この龍こそが——青木ルリの父親その人であると。
『——ということは……その小僧が、お前の息子のゲゲゲの鬼太郎か?』
目玉おやじとの顔合わせを済ませるや、龍はその視線を改めて鬼太郎へと向ける。
『若い頃のお前に似ているな……生意気そうなところが親父譲りだ、フッ……』
「そ、そうなんですか……父さんと、似ている……」
龍は現在の鬼太郎と過去の目玉おやじの姿を比べ、面影が似ているなどと知ったかぶりな態度で笑みを浮かべる。
それは悪口にも聞こえるような言葉遣いであったが、鬼太郎は自分も知らない父親の昔の姿に似ていると言われ、少し嬉しそうである。
「おい、龍よ!!」
しかし、そんな風に言葉でマウントを取ってくる龍に対し、目玉おやじが真っ向から言い返す。
「お前さん、人間との間に子供を授かったというではないか!!」
『おまっ!? ど、どうしてそれを……!?』
目玉おやじの指摘に——それまで纏っていた龍の威厳が木っ端微塵に粉砕される。
「海さんから聞いたぞ!? ルリちゃんにも会ってきた……お前さんに似ない、可愛い子じゃったな!」
『うぐっ!! 海に……ルリにも会ったのか……そ、そうか……』
奥さんや娘さんの名前を出され、龍は厳つい顔面から気まずそうにダラダラと汗を流し始める。一瞬にして情けない姿を曝け出していく龍に、目玉おやじは容赦のない批判を口にしていく。
「全く! あんなに可愛い娘さんがいながら……未だにこんな山奥に引きこもりおって……」
『いや、だが儂のようなものが……下界に降りれば騒ぎになるだろう?』
「それでも! 会おうと思えば、やりようはあったじゃろう!? それにルリちゃんの世話を……子育ての一切合切を海さん一人に丸投げしておるらしいではないか!? 龍などと偉そうに祀られておる存在が、情けないと思わんのか!?」
『そ、それは……その……』
同じ父親という立場からの意見。
図星を刺されてか、自分よりも遥かに小さい目玉おやじ相手に龍は何も言い返せないでいる。
『ま、待ってくれ! 儂だって……最初は色々と援助しようと……贈り物なんかもしてたんだぞ!?』
だが、ここらで反論とばかりに龍が口を挟む。少しでも父としての威厳を取り戻そうと、なんか必死である。
『生活の足しになると思って、賽銭箱に蓄えられてた金を出したりもしたんだ。だが、この神社もすっかり参拝客が訪れなくなって……貯めてきた貯金も、すぐに空になってしまってな……』
一応は経済的支援はしていたらしい。だがそれも、すぐに底を尽きるような微々たるものに過ぎない。
『あとはルリの誕生日とか……お祝いの日に、その辺で狩った鹿やら猪やら……ときには熊なんかを贈ったんだ……』
ならばと、今度は記念日などに龍自身で狩ってきた獲物の肉を差し入れするようになったという。
自分で獲った獲物を贈れること、雄として実に誇らしげであったが——。
『——いや……丸々一頭とか、食い切れないから……』
『——下処理されてないジビエとか……獣臭いわ!』
龍が一方的に贈り付けてくるそれらを、青木海は冷静な観点からダメ出ししたのだ。
これに『ガーン!』とショックを受けた龍。それ以降、目立った贈り物をしなくなってしまったという。
「そんなの当たり前じゃろう! 相手は人間なんじゃ! お前さんのスケールで物事を考えるな!!」
これに目玉おやじも痛烈にダメ出ししていく。頑張ろうという意志は伝わってくるが、頑張る方向性が間違っている気がする。
「わしも、鬼太郎に苦労を掛けている身じゃが……それでもあえて言わせてもらうぞ? お前……親としてダメダメじゃな!!」
『うぐわっ……!!』
自分自身、息子である鬼太郎に迷惑を掛けているという負い目を感じつつ、それでも同じ父親として、目玉おやじは龍のダメ親っぷりに説教をせずにはいられなかった。
そうして、目玉おやじの言葉に多大なる精神的ダメージを食らい、遂には龍が悶絶。
その巨体を大地へと沈め、暫くはその場から動くことが出来ないでいた。
「……あの、そろそろいいでしょうか?」
『なんだ……まだ貶し足りないのか? 親として情けな~い儂を、これ以上どう辱めようというのだ?』
それから、数十分後。ゲゲゲの鬼太郎は、拗ねたように突っ伏している龍へと声を掛ける。
龍は未だに精神的ショックから立ち直れておらず、鬼太郎の呼びかけに投げやり気味に答える。若干だが、目に涙を浮かべている姿がなんとも哀愁を感じさせる。
「いえ……今日は貴方にお渡ししたいものが……娘さんの、ルリさんからの贈り物です」
『な、なにっ!? ルリからだと……?』
だが、鬼太郎が今日ここまで来たのは、彼に物申すためではない。青木ルリが『父の日』に贈りたいと選んだ『プレゼント』を、彼女の代わりに届ける役目を負って来たのだ。
鬼太郎がその旨を伝えるや、龍はすぐにでもその身体を起こして瞳を輝かせる。
『ルリが儂に……!? いったい……いったい何をくれると!?』
たとえ龍であろうと、実の娘からのプレゼントが嬉しくないわけがない。
つい先ほどまで、親としての情けなさに項垂れていただけあって、娘からの贈り物をそわそわとした気持ちで受け取ろうとする。
「どうぞ……ルリさんと、海さん。二人が貴方のために選んだ……父の日のプレゼントですよ」
鬼太郎は持参していた紙袋の中身を取り出し、その品物を龍の眼前へと差し出す。
『——ほう! これは握り飯に……酒か!?』
ルリからの贈り物は——『握り飯』と『日本酒』であった。
握り飯はルリが握った手作り。日本酒は『龍』の文字こそ入っているが、割とどこにでもある普通の銘柄だ。
龍という生き物だからといって、特別変わったものではなく。人間の父親に贈ってもおかしくなさそうな無難なプレゼントである。
『おお!! わ、悪いがそいつを……社の方に供えてはくれないか!?』
しかし、そんな普通の品でも嬉しさを隠しきれず、龍は興奮を抑えきれずに声を弾ませる。
その品々を自分の神社に供えるように頼み、鬼太郎が言われた通り、もはや廃墟といっても差し支えない神社に握り飯と日本酒を奉納する。
『ふっふっ、久しぶりだな……こうして貢物を頂くのは……』
神としての性質からか、龍は娘からの贈り物を捧げ物と認識し、満足げに笑みを溢す。
忘れ去られた神社の神——きっと奉納品など、久しく貰ってもいなかったのだろう。
「良かったのう、龍よ……」
これには何だかんだ言っていた目玉おやじも、彼の気持ちに共感するよう深々と頷いていく。
『ルリは……その……元気そうだったか?』
そうして、暫くの間プレゼントの喜びに浸っていた龍だったが、ふいにルリの現状を鬼太郎たちに尋ねてきた。
海の方から一応の話は聞かされているだろうが、それ以外の人からも娘の様子を聞かせて欲しいのだろう。
「うむ、龍の体質のことで色々と相談を受けたが……そこまで深刻ではなかったな……」
相手の質問に目玉おやじが率直に答える。
現在進行形で龍の体質に悩まされているルリだが、だからといって悲観的な様子はない。
「幸いなことに、あの子は友達に恵まれておる。あの様子であれば……きっと乗り越えていけるじゃろう……」
「ええ……ボクもそう思います、父さん……」
人間と龍の血を引いた『半妖』という彼女の立場。今の人間と妖怪との距離感を考えると——ルリは、過酷な目に遭ってもおかしくない境遇かもしれない。
だが少なくとも、ルリの友人たちは彼女が半妖だからといって差別するようなことも、敵視するようなこともなかった。
一人の友人として、当たり前のように彼女と仲良くしてくれている。
ああいった友人たちが出来るような子であれば、きっとこの先の人生も乗り越えていけるだろうと。
何の保証もないが、青木ルリという娘の今後を鬼太郎たちはそこまで不安視していなかった。
『そうか……立派にやれているのか……』
目玉おやじの話に耳を傾けながら、龍は感じ入るように瞼を閉じる。たとえ顔を合わせてなくとも、離れて暮らす娘を想う父としての心情が、その表情から伝わってくるようだ。
『…………一つだけ、あの子に伝えておいてくれないか?』
やがて閉じていた瞼を開くや、龍は鬼太郎たちに娘への言伝を頼んでいく。
×
「——ああ、もう!! また不発だぁあ!! 全然出来る気がしないよ!!」
「…………」
龍へ無事、父の日のプレゼントを届けた鬼太郎たちは、その足で昨日も来ていた河川敷を訪れていた。
そこでは昨日のように放電体質をコントロールしようと、必死に訓練しているルリの姿があった。だがやはりというべきか、あまり上手くはいっていないようだ。
「あっ、鬼太郎くん! ルリちゃん、鬼太郎くんが来てくれたよ!!」
「鬼太郎くん……ルリのこと、ちょっと見てやってくれない?」
するとルリの訓練を見守っていた神代とユカが鬼太郎に声を掛けてくる。
昨日はいた筈の、三倉や宮下といった面々の姿が見えない。彼女たちにもそれぞれ用事があり、毎日付き合えるというわけではないようだ。
「ルリさん」
「はぁはぁ……は、はい?」
鬼太郎は力が入り過ぎて空回りしているルリに、落ち着いた声音で語り掛ける。
彼女には色々と報告しなければならないことがあるのだが、まずは——その放電体質を『解決する』方法を実行に移すことにする。
「今からやる方法で放電をコントロールしてみてください……とりあえず、こちらへ」
「お、おっす……!!」
まずはルリを自分の側へと呼び、そのまま両者は向かい合う姿勢で立った。
「ボクの手を握ってください」
「えっ? あっ、は、はい!」
そして鬼太郎は自分の手を差し出し、それを掴むようにルリへと指示する。男の子の手を握るという行為にルリは恥ずかしさを感じたようだが、ここは大人しく鬼太郎の言う通りにしていく。
そうして、向かい合いながら手を繋ぐという構図に思わずドギマギしてしまうルリだったが——。
「このままの状態で……ボクが体内電気を発動します」
「!!」
そんな浮ついた気持ちが、鬼太郎の思いがけない一言で吹き飛んでいく。
「ボクの体内電気に合わして……ルリさん自身、体内から電気を放出するイメージをしてみてください」
「うむ、わしがいつもやっているのと同じような要領じゃな!!」
目玉おやじもひょっこりと顔を出し、鬼太郎の話を補足説明してくれる
この間、言っていたこと——『鬼太郎が体内電気を発動している間、彼と一緒にいる目玉おやじがどうやって感電せずに済んでいるのか』。
それは目玉おやじ自身も、体内から僅かに電気を発して鬼太郎の電圧と同調しているからなのだ。
それと同じことを、ルリにもやって欲しいという。
鬼太郎の体内電気と『共振』することが出来れば、ルリが放電体質を発動するきっかけになるかもしれないと。
「ちょっ! 鬼太郎くん……それは流石に!?」
「ルリが黒焦げになっちゃうよ!?」
しかし、そのような無茶振りに神代やユカが声を上げた。
それで上手くいく保証などない。下手をすれば感電してしまうと、友達としてルリの身を心配しているからこそ、必死に止めようとする。
「大丈夫です、出力は最少まで下げますから……少し痺れるかもしれませんが、怪我をすることはありません」
そういった反応は予想していたのか。鬼太郎は彼女たちを安堵させるよう、穏やかな口調で危険がないことは告げる。
「勿論、ルリさんが嫌というのであればやめますが……どうしますか?」
だが、痛みがないわけではない。苦痛を感じるのが嫌ならばやめるのも手だと。あくまでルリの意思を尊重し、彼女にどうするか選択肢を与える。
「…………分かった」
だが、ルリは考えた末に鬼太郎の提案を受け入れることにした。
自分のためにも、友達に迷惑を掛けないためにも。この放電体質を早いうちに克服した方がいいと判断したのだ。
「お願い、鬼太郎くん!」
覚悟を決めたルリが、鬼太郎の手をさらに力強く握っていく。
「分かりました。すぅ~……はぁ~……」
ルリの覚悟に応える形で鬼太郎も頷く。
深呼吸でコンディションを整え、静かだが明確な意思を込めて——その技名を呟いた。
「——体内電気」
「——っ!!」
刹那、鬼太郎の身体から迸る電流が、繋いだ手のひらからルリの身体へと流れ込んでくる。身体中がビリビリと痺れる感覚に、思わず鬼太郎の手を離そうとしてしまうが——。
「大丈夫じゃ!! そのまま……受け入れるように!」
目玉おやじがルリにアドバイスを送る。
抵抗するのではなく、流れてくる電撃を受け入れるように。そうすることで、ルリ自身の身体に『放電』の感覚を身に付けさせるのだと。
——し、痺れる……!?
——けど、この感覚……一番最初に放電したときのアレに近いかも!!
ルリは電撃に苦痛を感じながらも、身体が痺れるその感覚が一番初め、放電が発現したときのものに近いと全身で理解する。
ならばこのまま、その感覚に身を任せようと——深いところまで意識を集中させる。
そして——。
「……っ! 手を離します……」
鬼太郎が繋いでいた手を離した。互いの身体が離れたことで、鬼太郎の体内電気がルリの身体に影響を及ぼすことはなくなった筈である。
「…………あれ、私……なんか光ってない?」
ところが、ルリはその身体に——眩しいほどの電撃を纏っていた。
鬼太郎の体内電気ではない。正真正銘——ルリ自身の放電体質から繰り出される、彼女自身の『体内電気』である。
「出てる……! ちゃんと放電出来てるよ、ルリちゃん!!」
「凄いじゃん、ルリ!!」
その結果を前に、心配そうに見つめていた神代やユカが飛び跳ねて喜びを露わにする。あれだけ出来ないと嘆いていた放電を、今のルリは確かに使用出来るようになっていたのだ。
「ん……んんん……はっ!!」
さらに、ルリはその放電を自らの意思で押さえ込んでいくことまでやってのける。
徐々に勢いが弱まっていき、やがては完全にピタリと止まる電撃。発動から停止までのプロセスを、ルリは怪我一つ負うことなく、見事に最後までやり遂げたのだ。
「どうやら、成功したようですね……」
無事、放電をコントロール出来たことに鬼太郎も肩の荷が降りた気持ちでひとまずホッとする。
「次からは、今の感覚を自力で手繰り寄せるように意識してみて下さい。きっと……上手く出来るようになりますから」
「は、はい!! ありがとう、鬼太郎くん!!」
今のでとりあえず感覚を掴むことが出来た。一度でもきっかけさえあれば、きっと龍の体質その2『火を吐ける』ときのよう、いずれは自分の意思で調整が出来るようになるだろう。
そう遠くないうちに、放電に関しても上手い具合に折り合いを付けれるようになる筈だと。ルリも安堵し、手伝ってくれた鬼太郎に笑顔で礼を述べていく。
「やったね、ルリちゃん!!」
「良かったね、ルリ!!」
そうして、放電の訓練に一応の区切りを付けたルリに、神代とユカの二人がすぐ側まで駆け寄ってくる。
未だに身体に電撃の影響があるかもしれないというのに、神代などルリの身体に勢いよく抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと! 危ないって……ひっつくな!!」
神代の過剰なスキンシップにウザがる様子を見せながらも、ルリも口元は満更でもなさそうに緩んでいる。
「……ルリさん」
「な、何かな! 鬼太郎くん?」
そんな彼女たちの微笑ましいやり取りを眺めつつ、鬼太郎は例の件についても報告を入れるべく口を開いていた。
「貴方のお父さんに……龍に会って、父の日のプレゼントを渡して来ましたよ」
「!!」
そう、ルリの父親のこと。
他でもないルリが、鬼太郎にプレゼントを渡してくれと頼んでいたのだ。実の父親に今はまだ直接会う気がないとはいえ、鬼太郎の話にはルリもハッと目を見開く。
「貴方からの贈り物を、彼はとても喜んでいました」
「……」
「……」
父親の話題ということもあり、はしゃいでいた神代やユカも静かになった。
ここから先は自分たちが口を挟むべきではないと、無粋な横槍を入れることなく口を閉じる。
「それから……貴方のお父さんから言伝を預かって来ました」
「お、お父さんから……?」
鬼太郎はルリからのプレゼントを貰って喜ぶ龍のことを、さらには龍が娘に『伝えてくれ』と頼んだ伝言。
その言葉を、一字一句違えることなく伝えていく。
『——もしも機会があれば……いつか、顔を見せに来てくれ……』
『——儂はここで……いつまでもお前を待ち続けている』
やはりというか、龍は自分から山を降りてくるつもりはないらしい。
「ルリちゃん。キミが怖がるのも分かるが……いずれはキミの方から、奴に会いに行ってやってはくれんか?」
引きこもり気質の龍の友人の言葉に、目玉おやじが呆れながらもルリに願い出る。
今すぐでなくてもいい。けど、いつかはルリの方から父親の元まで顔を出しに行ってやって欲しいと。
「きっと彼も……喜んでくれる筈ですから」
鬼太郎からも、頭を下げてお願いしていく。
「わ、分かった……一応は、考えておく……」
二人の説得に、とりあえずルリは前向きに返事をする。
龍の父親なんて、今はまだちょっと怖いという感情の方が強いかもしれない。
それでも、いつかは複雑な自身の感情にも折り合いを付け、会いに行ける勇気が湧いてくるかもしれない。
そのときになって、親子二人でどんな話をするのか。
それはきっと、彼ら家族だけが知っていればいいことなのだろう。
人物紹介
ルリの母親・青木海
青木ルリの母親、正真正銘ただの人間。
龍との間に子供をもうけ、その子をシングルマザーで育てる何気に凄い人。
連載版だと名前が出てませんが、読切版では『海』という名前が出ました。
読切だと割とドライな感じですが、連載版になって母親としての愛情が確かに伝わってくる描写が多くなってます。
ルリの祖母
青木ルリの祖母、チラッとだけ登場。
大阪の血筋、普通に関西弁で喋っていますが一応は都内に住んでるっぽい。
ルリの父親・龍
青木ルリの父親、見た目からして完全な龍そのもの。
連載版はまだ未登場ですが、読切版ではガッツリ登場してます。
強面な見た目とは裏腹に結構動揺しやすく、割と人間臭い部分が垣間見える。
今作では話の流れ上、目玉おやじの知り合いとさせてもらいました。
ルリの子育てに関与することなく、ずっと山奥で単身赴任……父親として、それでいいのだろうか?
次回予告
「古びた古城に、夜な夜な集まる怪しげな集団。
失われた技術によって産み出される怪物たち。
父さん、本来ならあり得る筈のないその技術を前に、あの老人はいったい何を思うのでしょうか?
次回――ゲゲゲの鬼太郎『鋼の錬金術師 シャンバラへの帰還』見えない世界の扉が開く」
次回は作者の青春時代ド真ん中の名作!
サブタイトルから察してもらえるよう、2003年版の一期が話のメインになるかと思いますので、よろしくお願いします!