ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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『よふかしのうた』という作品がまだ始まったばかりで、この間一巻が出たばかりです。一応、最新話までチェックして、できるだけ原作の設定に近づけていますが、今後の連載次第で新しい設定なども追加されていくと思います。

その際、今回の話と矛盾する場合があると思いますが、出来れば気にせずにおいてください。あくまで『ゲゲゲの鬼太郎』とクロスした独自設定ということにしていただければ助かります。

一応、最新話までのネタバレを含みます。注意してください。
 


よふかしのうた 其の②

 かつて――人間は『夜』を恐れた。

 

 古き時代。人は『昼』と『夜』とを明確に区別して生活していたという。

 闇夜に対し、電気やランプ、ロウソクの明かりすらなく、空に浮かぶ月明かりの光に頼っていた。

 夜になれば人ならざるモノたちが蔓延り、魑魅魍魎の行列が人里を縦横無尽に闊歩していたと信じられていた時代があった。

 その頃から、人間は日の出とともに目覚め、日没とともに眠るというメカニズムをその遺伝子に刻み込んできた。

 

 だが、人間の科学力はついにその『夜』を克服した。繁華街にはネオンの光が溢れ、今では多くの人々が深夜でも活動している。

 

 仕事帰りに同僚と一杯、そのまま終電を逃して夜明けまで飲み明かす酔っ払いがいる。

 そんな酔っ払い相手に愛想を振りまき、日々身を粉にして働く夜の蝶がいる。

 ナイトクラブで一晩中騒ぎまくり、そのテンションのまま街中を跋扈して通行人に迷惑をかける若者がいる。

 

 それぞれの世代ごとに違いはあれど、老若男女問わず、皆が『よふかし』を楽しむような時代になった。さらに時代は進み、今や街中に繰り出さなくても人々は各々に夜を楽しんでいる。

 

 買ったばかりのゲームに熱中し、徹夜で攻略に勤しむ子供たちがいる。

 深夜放送の番組をリアルタイムで視聴しながら、ネットの掲示板に書き込むネット中毒者がいる。

 夜一人で自宅酒。記憶がなくなるまで飲み明かし、虚しさと共に朝を迎えるアルコール中毒者がいる。

 

 そう、よふかしに決まった形など存在しない。照明の光さえあれば、人は夜中でも活動することができる。

 場所も人種も関係ない。複数人でも一人でも、時間さえあれば誰でも夜を楽しめる時代が訪れた。

 

 そして、ここにも――――。

 

「ギャハハハハハハ、オルァァァァア!! はい、クソザコ~! 鬼太郎よわっ~!」

「うわ~……ナズナちゃん。初心者相手に大人げねぇ……」

 

 ゲームコントローラー片手に大声ではしゃぎ回り、夜を楽しむ人間と吸血鬼の姿があった。

 

「…………なんだこれ」

 

 本来、夜が本領である妖怪の鬼太郎がそのハイテンションに付いて行けず、どこか眠そうに呟いていた。

 

 

 ここは女吸血鬼・七草ナズナの住居。テーブルや椅子などといった必要最低限の生活用品が置かれていない殺風景な部屋で、何故かテレビとゲーム機だけはしっかりと設置されている。

 

 そのゲーム機で、ナズナと鬼太郎が格闘ゲームで対戦することとなっていた。

 

 きっかけは、朝井アキラという少女から手紙を貰い、『妖怪とよふかし』をしている少年・夜守コウのもとへ鬼太郎と目玉おやじが訪れたところからだ。

 当初、ただの相談で終わるかと思っていた依頼だったが、そこに吸血鬼が関与していると聞き、鬼太郎は一気に気を引き締めてた。

 

 吸血鬼――現在、バックベアード復活のために暗躍している西洋妖怪の一員。

 

 実際、七草ナズナはバックベアードに関して何か知っている風を装い、「知りたければ私に勝って見ろ」と、挑発気味に鬼太郎に勝負を仕掛けてきた。

 西洋妖怪の中でも、吸血鬼という種族は取り分け強いものが多い。吸血鬼エリート、吸血鬼ラセーヌ、女吸血鬼カミーラ。今まで戦ってきた吸血鬼は誰もが強敵だった。

 果たして仲間たちのいないこの状況、鬼太郎は自分一人でどこまで戦えるかと心配でもあった。

 

 だが逃げる訳にもいかない。ここで尻尾を巻いて逃げれば、吸血鬼の毒牙は夜守やアキラへと向けられるだろう。それだけは阻止しなければと、単身覚悟を決めていた鬼太郎――であったのだが…………。

 

 

「父さん……ボクは何故こんなことをしているんでしょうか?」

 

 鬼太郎は現状について思わず父親に尋ねる。彼は流されるままゲーム機のコントローラーを握らされ、ナズナと対戦格闘ゲームをやらされているが――その結果は惨敗である。

 鬼太郎はこれまでテレビゲームとは無縁の生活を送ってきた。ゲームほぼ初心者に対し、ナズナはかなりこの手のゲームをやりこんでいるのか、あっさりと鬼太郎を打ち倒す。

 

「おいおい、どうした鬼太郎!? まだまだ夜は長いぜ。アンタが参ったって認めるまでコンティニューしてもいいんだぜ?」

 

 勝者の余裕を見せつけているのか、ナズナがそんなことを口にするも――

 

「いやいや、ナズナちゃん。鬼太郎をサンドバックにしたいだけでしょ。ほんと大人げない……」

 

 初心者相手に調子に乗るナズナに、その隣で夜守が呆れたように呟き――

 

「…………はぁ~」

 

 さらにその隣でアキラが諦めたような表情で溜息を吐いていた。

 

 ――いったい、これは何なんだろう。ボクは……いったい、何をやらされているんだ?

 

 鬼太郎の心中はただただ困惑していた。決死の思いで戦う覚悟を決めていただけに、肩透かしを食らった鬼太郎は悶々とした気分でゲーム機と向かい合う。

 ナズナからバックベアードに関して聞き出さなければならないことがある以上、この格闘ゲームで彼女に勝たなければならないのだが、イマイチやる気が湧いてこない。

 果たしてどうしたもんかと、彼が眠たげに目を擦る。すると――

 

「――鬼太郎、代わりなさい」

「……父さん?」

 

 眠そうな息子に代わり、目玉おやじが重い腰を上げる。

 彼は鬼太郎たちがプレイしているゲームを、先ほどから興味深げにジロジロと見つめていた。鬼太郎と同じくこういった類のものに疎い彼だが、興味はあるらしい。初めてスマホに触れたときのような好奇心で目玉おやじはコントローラーを握る。

 

「ナズナとやら、鬼太郎に代わってワシが相手をしてやろう」

「はっ? おいおい大丈夫かよ、おやじっ! そんなんでまともに操作できんのか!?」

 

 意気揚々と鬼太郎とゲーム操作を替わる目玉おやじに、ナズナはからかうように笑う。実際、目玉おやじの小さな体ではまともにコントローラーを握ることができない。地面に置かれたコントローラーに対し、小さな体を懸命に動かしてなんとか操作できていた。

 

「大丈夫ですか、おやじさん?」

「無理しない方がいいですよ?」

 

 夜守もアキラも、目玉おやじを心配して声を掛ける。

 

「ふふん、手加減はしねぇぞ。この七草ナズナ! 相手が誰であろうと全力でやっつける!!」

 

 しかし、そんな小さな挑戦者相手にナズナは獅子が兎を全力で狩るかの如き勢いでゲームを開始する。

 

 

 

×

 

 

 

 対戦が始まれば案の定、目玉おやじは一方的にやられていた。

 技コマンドや、コンボ攻撃などは勿論、ガードやジャンプといった基本操作すらまともにできない様子で、画面上のキャラがあっちへ行ったりこっちへ行ったり。

 その初心者丸出しの操作に、七草ナズナは心の内側で溜息を吐く。

 

 ――……どうやら、マジでド素人みてぇだな……弱すぎる!

 

 自信満々で鬼太郎と代わったことから、多少は腕に覚えがあるかと思いきや蓋を開けてみればこの始末である。実力は鬼太郎とどっこいどっこい。まともに操作できる分、まだ鬼太郎の方がマシである。

 念のため警戒して様子見をしていたナズナであったが、そんな心配も馬鹿らしくなり、彼女はさっさと決着を着けるべく一気に攻勢に出た。

 

 ――張り合いがねぇな……とっとと、コウ君にでも代わってもらうか……。

 

 対戦で勝てることは嬉しいが、こうも相手が弱すぎると逆に張り合いがなくなってくる。ナズナは冷めた気持ちで鬼太郎と目玉おやじから興味を失くし、まだ多少は歯応えの有る夜守コウに対戦相手になってもらおうと考える。

 あっという間に一ラウンドを制し、目玉おやじとの戦いに王手をかけた。

 

「と、父さん……やっぱり、ボクが……」

 

 自分以上に酷い操作性に鬼太郎がたまらず代わるように申し出るが、もう遅い。

 このゲームは三ラウンド制。あと一勝でナズナの勝利が確定し、二ラウンド目の火蓋も既に切られていた。

 

「ふっ、これで終わりだぜ。この勝負――あたしの勝ちだな!」

 

 必殺の十六連コンボを入力しながら、ナズナは勝ち誇ったように吐き捨てる。

 しかし――勝利を確信したその刹那、彼女は目玉おやじの口から囁かれた言葉を耳にする。

 

「ふむ、よかろう……操作の方はもう大体覚えたしのう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――…………なに……?

 

 

 ――……いま、なんて言ったんだ、こいつ?

 

 

 ――操作の方が……何だと? 大体……覚えたと言ったのか?

 

 

 自分の空耳かと思い、最初は多少の引っ掛かりを覚えた程度だ。

 だが、その懸念はやがて現実のものとして画面上に顕現する。

 

「――な、なにぃいいいいい!?」

 

 ナズナの放った十六連コンボ――その全てを目玉おやじの操作キャラが見事に防いで見せた。まだガードの操作すら満足に理解できていなかった、超初心者の目玉おやじがだ。

 これには、一人の観客として対戦を見守っていた夜守コウですら興奮して叫び声を上げる。

 

「な、ナズナちゃんの十六連コンボを全て捌いた!! 対戦環境でも忌み嫌われている、あの反則近い鬼畜コンボを、全てっ!!」

 

 さらに防いだだけでは留まらず、目玉おやじはそこから反撃――先ほどのお礼とばかりにカウンターを起点としたコンボ攻撃で畳みかける。

 

「くっ……やらせるかっ!」

 

 虚を突かれた形で態勢を崩されたナズナは、慌てて防御に徹する。だが――

 

「なっ、なにぃいいいい!! コンボの隙間に投げ技を組み込み――ナズナちゃんのディフェンスを打ち砕いた!?」

 

 ガード状態で膠着するナズナに、目玉おやじのガード不能の投げ技が炸裂。見る見るうちにナズナの操作キャラの体力は減っていき――――そのまま、試合終了のゴングは鳴る。

 

「か、勝った……。目玉おやじさんが……勝っちゃった!?」

「うむ、中々面白いゲームじゃ」

 

 回避不能かと思われていた十六連コンボからの脱出、そこからの奇跡の逆転劇。

 目玉おやじは何事もなかったかのように平然としているが、コウが信じれらないという顔で固まる。現実を受け入れることができないのはナズナも同じらしく、彼女はたまらず目玉おやじに詰め寄る。

 

「おい、目玉の! アンタ、さっきなんていった? 覚えた? 操作は大体覚えたと言ったのか!?」

 

 つい先ほどまで、目玉おやじは確かに初心者の筈であった。柔道の達人が相手の柔道着の着方を見ただけで実力を見分けるよう、ナズナにはそれが手応えでわかっていた。

 完全に素人だった彼が、あの僅か一ラウンドでこのゲームの操作方法を覚えてしまったというのか。その異常なほどの呑み込みの速さに七草ナズナは戦慄する。

 

「二度言う必要はなかろう」

 

 ナズナの問いにわざわざ答える必要はないと、目玉おやじは最終ラウンドに向けて準備を進める。このまま一気に勝負をつけようというのか、彼の半端ない威圧感をナズナは肌で感じ取る。

 

「――くっ、くっくっくっくくくく……面白い!」

 

 そのプレッシャーを前に、ナズナの身体全体に武者震いのようなものが駆け上がる。

 

「いいぜ、久々に歯応えのある相手だ。私の相手はそうでなくっちゃならねぇ!!」

 

 今日にいたるまで、ナズナはずっと目玉おやじのような強敵を待ち続けてきた。

 吸血鬼であるが故に社会に縛られず、仕事も禄にせず、毎日のように昼間からビールをかっくらい、七草ナズナはこの手のゲームをやり込んできた。

 夜守と一緒によふかしをするようになってからは、彼がずっと対戦相手を務めてきたが、夜守では実力不足で内心物足りない思いを感じていた。

 もっと本気で戦いたい。自身の全力を叩き込める、本物の強者と相まみえたいと。

 そんな燻った彼女の思いを受け止められる相手が――今、目の前に立っていることにナズナは歓喜する。

 

「いくぜ、目玉おやじっ! 貴様を倒し、鬼太郎の血を搾り取ってやるぅぅぅぅ!!」

「やっつけてやるぞい、ナズナ!」

「や、やかましぃいいいいい!!」

「ふっ!」

 

 目玉おやじもそんな彼女の思いに応えるべく、全力で立ち塞がる。

 

「すごい!! これはかつてないほどの名勝負になりそうな予感だっ!!」

 

 次元の違う戦いを前に、夜守は目を輝かせる。

 自分では逆立ちしても辿り着けない境地に立つ二人の強者。決して踏み込むことのできない世界に、少年は憧憬の念を抱きながら、この戦いを胸に刻むと静かに誓う。

 

 勝敗はどうであれ、たとえ歴史に刻まれない戦いであろうと。

 自分だけはこの戦いを忘れないと、その瞳に今という瞬間を全て余さず焼き付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………なに、これ?」

「さあ…………」

 

 約二名ほど。その世界観に付いて行けず置いてけぼりをくらっていた。

 

 

 

×

 

 

 

「――ふぅ……今日はここまでだな。へっ、中々楽しかったぜ、おやじ!!」

「――わしもじゃ。久々にいい汗をかかせてもらったわい!」

 

 その後、白熱する目玉おやじとナズナの対戦は数時間と続いた。

 互いの勝率は一進一退で五分五分のまま。どちらかが勝利すれば、負けた方が即座にコンティニューをして、すぐさまスコアの勝敗を塗り替える。

 そんなことを延々と繰り返し、ようやくある程度気が済んだのか。二人は自然とコントローラーから手を放す。

 

「またやろうぜ。今度はあたしが圧勝してやるけどな!」

「ふっ、いつでも受けて立ってやるわい!」

 

 既に最初に提案した『賭け』のことなどなく頭になく、二人は互いの健闘を称え熱い握手を交わしていた。

 

「……ふぁ~……あれ? もう四時ですよ。父さん、どうしましょう?」

 

 ようやくゲーム画面から目を離した父親に、大あくびをしながら鬼太郎が現時刻を告げる。

 

 午前四時。朝早い人ならば既に行動を開始していてもおかしくない、明朝とも呼べる時刻になっていた。妖怪の鬼太郎でも当然眠くなってしまい、ゲームに熱中していた目玉おやじの眼球も真っ赤に染まっている。

 毎日よふかしをしている夜守たちでも、流石にもう解散する流れだろう。

 

「そうじゃな。とりあえず……今日はお暇するとしようか……いいかの、朝井くん?」 

「あっ、はい。わたしはそれでも大丈夫です」

 

 目玉おやじは依頼主である朝井アキラに声を掛け、彼女と共にこのアパートを後にしようとした。

 

 鬼太郎たちが七草ナズナと会ってみた印象。それは決して悪いものではなかった。

 初めの頃は警戒こそしたが、実際にやっていたよふかしも一晩中ゲームをするだけだったと、思ったよりも健全なもの(夜遊び自体が健全ではないのだが)。

 人間の子供を巻き込むのは感心しないが、力尽くで止めるようなものでもない。

 

 バックベアードに関して気になることを仄めかしてはいたものの、あくまでそれは鬼太郎たちの都合。

 今回の依頼には関係がなく、また後日、ナズナを直接訪ねればいいと。そのように結論を出しかけていた。

 

 だが――鬼太郎たちが立ち去ろうとしたところをナズナが呼び止め、再び話はおかしな方へと転がりこんでいく。

 

「あれ、もう帰んの? 泊ってけよ。一緒に寝ようぜ」

「「――――――はっ?」」

  

 一瞬、何を言われたか分からず硬直する鬼太郎と目玉おやじ。

 

「コウ君、布団敷くからゲーム機、片づけてよ」

「はい。わかりました」

 

 そんな彼らの眼前で、ごくごく自然な流れでテキパキと就寝の準備を進めていくナズナと夜守。

 そうして、部屋の中央には一枚の布団が敷かれ、そこに――四つの枕が並べられた。

 

「う~ん……流石に四人は狭いけど……………まっ、いっか!」

 

 その布団の端にゴロンと横になるナズナ。

 

「いやいや……どう考えても無理があるでしょ」

 

 夜守も、布団の面積の狭さにブツブツと文句を言いつつ、ナズナの隣で横になる。

 

「ん? ほらそんなとこでぼーっとしてないで。朝井ちゃんも、鬼太郎も――」

 

 ナズナは毛布をめくりながら、残り二つの枕を頭に置くべき該当者――アキラと鬼太郎に向かって妖艶な仕草で手招きしている。

 

「ほう、こっちへおいで……」

「……言っときますけど、今日はわたしここで寝るつもりはないですからね」

 

 付き合っているわけでもない若い男女。一緒に同じ布団で寝ようという、ナズナのふしだらな提案に朝井アキラは平然と言い返す。

 

 以前、ここに来たときも彼女はナズナに誘われ、夜守と三人、川の字で寝ることになってしまった。あの時は外で雨が降っており、傘も持っていなかったため、雨宿りをするために仕方なく布団で横になってしまった。

 寝るつもりなどなかったのだが、よふかしで遊び疲れてしまったのか。アキラは学校の登校時間ギリギリまで熟睡することになり、危うく遅刻しかけてしまった。

 そのときの教訓から、アキラはナズナの誘いをきっちりと断る。

 

「ええー!? なんで、いいじゃんか! 朝井ちゃんも、あたしらと一緒にいい夢見ようぜ……」

 

 そんなつれないアキラに尚もしつこく声を掛けるナズナ。彼女はニヤリと悪戯っぽく笑う。

 

「今日は鬼太郎もいるから、4Pだぜ! みんなで一緒に気持ちよくなろう!!」

「ナズナちゃん。その言い方はちょっと……べ、別に何かするわけじゃないからね。ただ寝るだけだから!」

 

 ナズナのギリギリな発言に夜守が慌てた様子で訂正を入れる。実際、夜守たちは眠くなったから寝るだけだ。今のところ――『大人の階段を登る』予定は夜守にもナズナにもなかった。

 しかし、それだけでも十分。『付き合ってもいない若い男女が一緒の布団で寝る』という行為そのものに絶句している者がいる。

 

「お、おおおおおおおお……おぬしら。い、いいいいいいいったい何をしておるんじゃ!!」

「と、とうさん! 落ち着いてください!」

 

 鬼太郎の頭の上でプルプルと震えている目玉おやじ。彼はナズナの「一緒に寝よう」という発言の時点で体を震わせ、4Pというヤバめな単語から、堪忍袋の尾を切らせていた。

 鬼太郎が必死に宥めるも効果はなく、ナズナに向かって保護者としての怒りを爆発させる。

 

「ばっかもーん!!」

「ひぃっ!?」

 

 小さな体から放たれたとは思えないほどの大音量での叱責。目玉おやじの渾身の怒声に鬼太郎はおろか、夜守やアキラでさえビクッと体を硬直させる。

 

「結婚もまだの若い男女が同じ布団で寝るなど、そんなふしだらな行い! ワシは絶対に許さんぞ!!」

 

 目玉おやじの持つ倫理観、貞操観念がそれは許されん行為だと彼を激怒させていたのだ。

 だがナズナは平然とした様子で、何故か得意げに言う。

 

「ふふふ……甘いぜ、おやじ。結婚もしなきゃ一緒の布団にもね、眠れないなんて。そんな考えは時代遅れさ。今時の若い奴らは誰とでも気軽にまぐわうし、体だけの関係なんて珍しくもねぇ。セフレっていうんだぜ。知らなかったか?」

「まぐわっ――!? せ、せ、せ……!?」

 

 ナズナの口から飛び出た破廉恥な発言に唖然となる目玉おやじ。

 

「? 父さん。まぐわう? ……セフレとはいったい、どういう意味でしょうか?」

 

 鈍感で朴念仁な鬼太郎はその言葉の意味自体を理解できないのか実の父親に尋ねる。

 

「き、鬼太郎! お前はそんなこと知らんでもいい!! と、とにかくじゃ!」

 

 目玉おやじは鬼太郎の問いを慌てて誤魔化し、改めてナズナたちに向かって目玉を真っ赤に怒鳴り声を上げる。

 

「このワシの目が黒いうちは絶対にそんなふしだらな関係など許さん! 今すぐ、夜守くんを家に返すんじゃ!!」

「ええ~……いいじゃんか、ちょっとくらい……」

 

 

「ぜったいにぃいい、許さん――!!」

 

 

 食い下がろうとするナズナだが、目玉おやじは問答無用で彼女の言い分を切って捨てる。怒り狂う彼の姿に説得は無理と判断したのか、大きなため息を吐きながらナズナは仕方なさそうに夜守に声を掛ける。

 

「ちぇっ、頭のかてぇ年寄りだな~。しゃーねぇな。今夜は解散するとしよう。いいかい、コウくん?」

「え、ええ。俺は別に構いませんけど……」

 

 思ったよりもあっさりと引き下がる、夜守とナズナ。どうやら彼らも毎日一緒に寝ているわけではないらしい。必要以上に落胆する様子もなく、夜守はサッサと帰り支度を整えていた。

 

 

 

×

 

 

 

 このとき、今度こそよふかしも終わりかと、鬼太郎たちは安堵しかけていた。

 感情が昂っている父親を落ち着かせてから、またナズナに話を聞きに来ようかと、そんな悠長なことを鬼太郎は考えていた。

 

 だが、次の瞬間――鬼太郎は思い知ることになる。

 夜守とナズナ。人間と吸血鬼である彼らが『よふかし』行う、その本当の意味を――。

 

 

 

 

「そうだ。帰る前に血吸わせてよ」

「あっ、はい。いいですよ」

 

 

 

 

 それは――自然な流れの動作であった。

 自然な調子で七草ナズナが帰ろうとする夜守コウの側に歩み寄り、夜守が少し恥ずかしそうにしながらも上着を脱いで首元を露出させる。

 ガッチリと彼の体を固定し、ナズナは彼の首筋に唇を近づけ――。

 

 そのまま、夜守の首元に牙を突き立てる。

 

「――なっ!?」

 

 毎日そうしているのか、お互いに一切の迷いも躊躇いもない動作だった。人間が米やパンを口に運ぶように、息を吸って吐くかの如き自然な動作。あまりにも自然だったため、鬼太郎はナズナの『吸血行為』を止めることが出来ず、息を呑む。

 言葉を失う鬼太郎たちを尻目に、ナズナはぢゅるり、ぢゅるるると、生々しい音をたてて夜守から血を吸い上げていく。

 

「うっ……」

 

 痛みを感じているのか夜守は僅かに顔を顰めるも、抵抗する素振りもなく黙ってナズナの吸血を受け入れる。

 

 そして――

 

「ぷはぁー、美味い! この一杯の為に生きてるって感じだ!!」

 

 まるでビールを一気に飲み干した中年のように、口元を拭うナズナ。

 

「…………はぁ~……今日も駄目か…………」

 

 噛まれた傷口の血を拭いながら、何かを残念がって落胆する夜守。

 

「……よそでやれよ」

 

 その吸血行為からそっぽ向いて、顔を背けるアキラでさえ、そこまで動揺した様子はない。

 きっと――彼らにとってそれらの行為もよふかしの一環、いつものことなのだろう。

 

 しかし――

 

「……で? そんなに殺気立ってどうした? 鬼太郎ちゃんよ?」

「…………!」

 

 ナズナの挑発的な笑みに対し、一気に剣呑な空気を取り戻した鬼太郎。

 彼は指先をナズナへと突きつけ、いつでも指鉄砲を放てるよう妖気を指先に充填していた。

 

「どういうつもりだ。七草ナズナ」

「…………」

「夜守くんを――吸血鬼にでもするつもりか!!」

 

 吸血鬼に血を吸われた人間は吸血鬼になる。

 西洋妖怪に関してあまりよくわからない鬼太郎たちでも知っている有名な逸話だ。

 そうやって長い時の中、吸血鬼は自らの仲間――『眷属』を増やしてきた。

 

 ――くっ、油断した!

 

 格闘ゲームやら、一緒に寝ようなどといった珍行動で鬼太郎もすっかり失念していた。

 

 七草ナズナが吸血鬼であるという事実を――。

 彼女にとって人間はたんなる食糧、糧に過ぎないという現実を――。

 

 先ほどまでの友好的なムードはすっかり消え去り、室内をピリピリとした空気が支配する。

 何かのきっかけで、いつ闘争が始まってもおかしくない。そんな緊張感が漂う中――。

 

「――ま、待ってください!!」

 

 血を吸われた当人――夜守コウがナズナと鬼太郎の間に割って入る。

 

「だ、大丈夫ですから! おれ、まだ吸血鬼になってないです! ほら、人間のままですし!」

 

 彼は自分が生身の人間のままだと、先ほどの吸血行為によって発生した害は皆無であると必死に鬼太郎にむかってアピールして見せる。

 

「うむ、確かにそのようじゃが……」

 

 夜守が吸血鬼になっていないことを、目玉おやじが雰囲気で悟るも渋い顔をする。それは、たまたまそうならなかっただけという話で、こんなことを続けていれば、いずれ彼も夜の住人になってしまう。

 しかし、そのように懸念する鬼太郎たちに、夜守はとんでもないことを口走る。

 

「それに……これは俺から頼んだことなんです」

「……頼んだ? 何を?」

 

 眉を顰める鬼太郎に、夜守コウは決意を込めた瞳で――。

 

 

「俺を……吸血鬼にして欲しいって――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜守コウはずっと悩んでいた。

 このまま不登校を続けていていい筈がないと。こんな夜遊び、いつか終わりにしなければ。

 いつかは学校へ行かなければならない。『こんなこと』――長く続けることはできないと。

 

 しかし、そうやって悩める少年に初めて出会った日に七草ナズナは言った。

 

『――なあ、少年。初めての夜はどんな気分だ?』

 

 初めて体感した深夜の空気。日常からはみ出した空間で何を思ったか。

 

『――ここはお前の思うめんどうやわずらわしさ。そんなものから最も遠い場所だ』

 

 ここでは学校のような堅苦しい人間関係などない。

 クラスメイト相手に笑顔を取り繕う必要もないし、女子から告白を断ったと責められることもない。

 嫌な人と顔を突き合わせる必要もない、ありのままの自分でいられる。

 

 それでも、それでも。人間としてせめて正しい価値観のもとで生きねばと思い悩む夜守に、ナズナは堂々と吐き捨てる。

 

『――別にいいじゃん。学校なんか、つまんねーだろ』

『――今日に満足できるまで夜ふかししてみろよ』

 

 

 

 

『――そういう生き方も悪くないぜ?』

 

 

 

 

『――――――――』

 

 そう言われた瞬間、夜守コウは今まで感じたことのない胸の高鳴りを覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの時から……俺は吸血鬼になりたいと思ったんです」

「…………」

 

 夜守の話を聞いて鬼太郎たちは黙り込む。少年の真剣な眼差しを見ればわかる。それが嘘でも冗談でもない、本気であると。本気で――彼は人間を捨て、吸血鬼になる道を選ぼうとしていることを。

 さらに続けて、夜守は熱く語る。

 

「だから――吸血鬼になるためにも、俺はナズナちゃんに『恋』をしなければいけないんです!」

「こ、恋?」

 

 いきなり話が変わって目を丸くする鬼太郎に、夜守は説明する。

 

 ナズナ曰く、彼女に吸血されて吸血鬼になるためには、彼女に『恋』をしなければならないとのこと。何とも思っていない状態でナズナに血を吸われてところで、夜守は人間のまま変わらない。

 

 ナズナのことを心の底から好きになって――人間の少年は初めて吸血鬼になることができる。

 

「わー! わー!! や、やめて恥ずかしい――!!」

 

 あれだけ卑猥な話をしていたナズナが、途端に恥ずかしそうに頬を染めていく。

 まぐわううんねんの俗っぽい話をニヤニヤと語っていたのに、恋うんねんのくだりは恥ずかしいらしく、彼女はガチに照れて誤魔化すように声を上げている。

 

「…………」

 

 そんなナズナを呆れた視線で見つめる朝井アキラ。その一方で、彼女は夜守の話に黙って耳を傾けていく。

 

「…………吸血鬼になりたい。君はそれが……どういうことを意味しているのか。本当にわかって言っているのか?」

 

 ややあって。鬼太郎は腹の底から絞り出すように声を上げる。その声音は怒っているようにも感じられる。

 

「君が思っているほど簡単じゃないだろ。『人間を捨てる』なんてこと……」

 

 人が人を捨てて、何か別の存在に生まれ変わる。

 妖怪の世界にもよくある話だ。人の身から、異形のものに変わり果てる怪談の類は――。

 だがその多くが自身の軽率な行動に後悔を覚え、遠く懐かしい人間だった頃に思いを馳せながら苦しみの生を歩んでいる。

 

「鬼太郎の言うとおりじゃ。よく考えもしないうちに人間を捨てたいなどと、軽々しく口にすることではないぞ!!」

 

 目玉おやじも鬼太郎に同意し、説教臭く夜守を説得する。

 

「吸血鬼になれば、きっと君は二度と人間には戻れん。そんな一時の感情や、やけっぱちで軽々しく人であることを諦めてはいかん。学校に行って、もっと多くのことを学んで、友達や家族ともっとよく話して――」

 

 だが、そんな目玉おやじの説教を――。

 

 

 

「――そんなことはわかってます!!」

 

 

 

 夜守コウは怒声で遮る。 

 

「確かに一時の気の迷いなのかもしれない。まだ中学生の、人生なんて禄に分かってない甘えたガキの戯言なのかもしれない。そんなことは、言われなくても分かってます!!」

 

 客観的な目線から見ても、自分が馬鹿なことを考えているという自覚は夜守にもある。

 だがそれでも――。

 

「それでも……俺は『夜』を知ってしまったんです。将来の夢も、やりたいこともなかった俺が……初めてなりたいと思えたものが『吸血鬼』なんだ!!」

 

 彼は心から叫んでいた。

 やりたいことも、なりたいものもなかったつまらない自分が、唯一胸に抱いたこの思い。

 

「俺は――この気持ちを失くしたくない!!」

 

 それが嘘なんかではないと証明するためにも――夜守コウは七草ナズナに恋をしなければならないのだった。

 

 

 

×

 

 

 

 結局その後、気まずい空気の中で夜守たちは解散することとなった。明朝四時半。ナズナのアパートから退出し、それぞれの目的地へと黙って歩いていく夜守とアキラ。

 

「…………」

「…………」

 

 そんな少年少女の背中を雑居ビルの屋上から、七草ナズナと鬼太郎が見送る。ビルの屋上に吹きすさぶ冷たい風に当たりながら、互いに何を言うこともなく静かにその場に立ち尽くす。

 

「……………悪いが、バックベアードに関してはあたしは何も知らされてねぇ」

「えっ?」 

 

 ややあって、ナズナがその沈黙を破り、そんなことを口にする。

 

「確かにあたしら吸血鬼はカミーラの命令で人間の生き血を集めてくるよう言われてる。けど、あたしみたいな、『一般庶民』にあいつらだって大した期待はしてねぇ。詳細なんか何も教えちゃくんねぇさ」

 

 ナズナ曰く、吸血鬼は貴族社会。たとえ高い能力を持っていようと、由緒ある血筋でないものに高貴な吸血鬼たちは決して恩赦を与えない。

 命令を与えるだけ与え、後はノータッチ。ナズナのようにどこの血筋かもわからないような相手に、わざわざ労いの言葉を掛けにくることもないそうだ。

 

「向こうはあたしの名前だって知らねぇんじゃねぇの? まっ、そのおかげで、あたしは毎日自由に好き勝手できるわけだが……」

 

 だからナズナも、バックベアードの為に生き血を集めるなんて面倒なことはしない。たまに病院から献血用の輸血パックを拝借し、それを月に数回バックベアード城に送りつけるくらいだ。

 鬼太郎たちが知りたがるようなことは何も知らないと、ナズナは言う。

 

「……君は、何故彼から血を吸い続けているんだ?」

 

 鬼太郎は彼女の言葉をとりあえず信用し、一旦バックベアードの話から離れる。

 彼は朝井アキラの依頼に応えるべく、ナズナが夜守コウに付きまとう理由を尋ねていた。

 

「そりゃ、あいつの血は美味いからな! あれほどの美味には、そうそう出会えねーよ!」

 

 生き生きと語るナズナ。どうやら吸血鬼からすると夜守の血は極上の美味らしい。血の味など分からぬ鬼太郎からすればさっぱりな理由だが、やはり食料としてしか夜守のことを見ていないのかと。鬼太郎は厳しい視線でナズナを睨みつける。

 

 だが――ナズナはやや照れくさそうにしながら続く言葉を口にする。

 

「まっ……別に血を吸うことだけが目的じゃないさ。アイツと出会うまでは……あたしも適当な相手を見つけて血を拝借してたんだけどよお……」

 

 夜守コウに出会うまで、彼女はずっと吸血鬼であることを隠しながら生きてきた。自身の正体を偽り、適当に深夜に徘徊する人間の生き血を少しづつ分けてもらいながら生活してきた。

 しかし、あの夜。彼女は夜守コウに自分が吸血鬼であることがバレてしまった。それでも、彼の血の美味さに感激し、また吸わせてもらうように願い出ようとしたナズナの言葉を制し、夜守の方から頼み込んできた。

 

 自分を――吸血鬼にしてくれと。

 

「正直、最初はいいカモとか思ってたよ。これで苦労せず、美味い血にありつける……てさ」

 

 ナズナにとって初めの頃は夜守などただの食料だった。適当に相手をしてやれば、血を分けてくれる簡単な人間のガキだと思っていた。

 

「けどさ……なんだか、あいつと過ごすうちに……夜の訪れが待ち遠しくなっちまって……」

 

 けれど、夜守と一緒にいくつもの夜を過ごしていくうち、彼女は彼との逢瀬を純粋に楽しんでいる自分自身を自覚していく。

 それまで適当に人間をとっかえひっかえしてきたからこそ、知ることのできなかった『誰かと過ごすよふかし』。その魅力に彼女自身もすっかり魅了されるようになっていた。

 

「吸血鬼だって…………一人の夜は寂しいもんさ」

 

 仕事にも学校にも行く必要のない吸血鬼という存在にも、そういった苦悩がある。

 その苦悩を癒してくれる、『友達』とのよふかし。

 それを、七草ナズナも居心地の良いものとして受け入れていた。

 

「…………」

「まっ……そう心配すんなって、鬼太郎!」

 

 ナズナの心中の吐露に鬼太郎が黙り込んでいると、その気まずい空気を嫌って彼女が明るく声を張り上げる。

 

「あいつは恋と性欲の区別もついてないような、ケツの青いガキだ!! あたしに……こ、こ、こ、恋心を抱くなんて……十年早ぇよ!」

 

 恋という部分を緊張気味に喋りながら、ナズナは心配無用と鬼太郎に親指を立てる。

 

「あたしもアイツに吸血鬼になられちゃ、血も吸えなくなるし……暫くはこのまま、ダラダラと過ごさせてもらうさ」

 

 ナズナの方は夜守を自身の眷属にするつもりは微塵もない。それどころか、吸血鬼になられては血も吸えなくなると、夜守には人間のままでいてもらいたいと告白する。

 

「まっ……いずれは諦めてこんな夜遊びも止めるだろう。そんときまでは……好きにやらせてくれ」

 

 長くてもあと数年でこんな関係も終わるだろうと。ナズナはどこか達観した様子で、鬼太郎にこれ以上余計な首を突っ込む必要がないことを忠告する。

 

「…………」

 

 彼女の言葉に、鬼太郎も目玉おやじは何も言い返さない。

 ナズナが嘘をついていないことは、今日一日彼女の人柄を触れてみてわかった。

 彼女に害意がない以上、後は当人たちの問題と鬼太郎は割り切って考える。

 

 しかし去り際、彼はナズナに向かって『もしもの将来』について問いを投げかける。

 

 

 

「七草ナズナ。もしも夜守くんが君に恋心を抱いて……彼が吸血鬼になったら――」

 

 

 

「その後――君はどうするつもりだ?」

 

 

 

 その問い掛けに――――。

 

 

「………………………………」

 

 

 吸血鬼は何も答えることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、じゃあ……また明日」

「うん……また明日」

 

 小森団地に戻って来た夜守とアキラの二人。先ほどのこともあってか、ややぎこちない様子で手を振り、両者は別れの挨拶を口にする。

 夜守は自宅へ。アキラは学校へと。それぞれの行くべき場所へ足を進めていく。

 

「――済まない……ボクじゃ、これ以上は力になれそうにない」

 

 アキラの元へ、ナズナのところから戻って来た鬼太郎が声を掛ける。彼は依頼主であるアキラに最終的な報告をし、自分ではこれ以上首を突っ込むことができないと、申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「いえ、鬼太郎さん。今日は来てくれて、ありがとうございました」

 

 だが落胆した様子を見せることなく、アキラは笑顔で鬼太郎に礼を言う。

 

「……朝井さん。君は……夜守くんが吸血鬼になりたいと言っても驚かないんだね」

 

 平然とした様子の彼女に、鬼太郎は不思議そうに首を傾げる。

 友達から吸血鬼になりたいなどと聞かされれば、普通ならもっと動揺するものだろう。だが――

 

「……知ってましたから。夜守が吸血鬼になりたいってことは……」

 

 どうやら彼女は既に知っていたらしい。夜守の夢を――。

 彼が人間を捨て、夜の暮らしを望んでいることを――。

 

 それを理解した上で、彼女は微笑む。

 

「たとえ吸血鬼になっても、夜守は友達ですから……わたし、人間とか吸血鬼とかあまり気にしませんから」

「…………君は強い子じゃのう」

 

 アキラの言葉に、目玉おやじは感心したように呟く。

 ナズナとも普通に接していたし、彼女ならたとえ夜守が吸血鬼になっても、うまくコミュニケーションを取れるかもしれない。けれど――。

 

「けど、学校へはこれからも誘い続けますよ。吸血鬼になるにも、人間のままでいるにも……きっと必要なことだと思いますから」

 

 最終的に吸血鬼の道に進もうと、一緒に学校へ行こうと誘い続けることを止めない、朝井アキラ。それが夜守に必要なことだと信じ、彼女は今後も彼に声を掛け続けるだろう。

 

「本当に……君は強いな」

 

 そんなアキラの姿を少し眩しそうに見つめる鬼太郎。

 

「何かあったらまた手紙をくれ。ボクに出来ることなら……手を貸すよ」

 

 彼は再びトラブルが起きれば自分に手紙を出すよう言い、アキラに夜の終わりと共にさよならを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしその後――アキラから鬼太郎の元へと手紙が送られることはなかった。

 

 

 ナズナと夜守との関係がどうなったか?

 

 

 人間の少年が吸血鬼への恋を実らせ、同じ吸血鬼となって夜を歩むこととなったのか?

 

 

 それとも、人としての正道を取り戻し、友達と共に日の当たる世界へと引き返せたのか? 

 

 

 事の顛末を、鬼太郎は想像することしかできない。

 

 

 願わくば、悔いの残らないような選択を――。

 

 

 人間であろうと、吸血鬼であろうとも自分に満足できる人生を歩んでいることを――。

 

 

 

 鬼太郎は時より彼らのことを思い出し、そう願っていた――。

 

 

 

 




次回予告

「嘘を嫌って見抜く妖怪と、ねずみ男が商売を始めたそうです。
 父さん……、どう考えても嫌な予感しかしないのですが……。

 次回――ゲゲゲの鬼太郎『道成寺の清姫』 見えない世界の扉が開く」

 次回のクロスオーバーは『FGO グランドオーダー』から清姫参戦(予定)!
 カルデア、サーヴァントという設定は出てきません。
 あくまで『清姫という妖怪』がいたらという『キャラだけ』出演にするつもりです。
 
 12月は忙しいため、当分更新が出来そうにありません。
 年明けから徐々に投稿していきたいと思いますので、よろしくお願いします。


 ついでに――今後のクロス予定について。
 ここ数日、皆さんから様々な意見を頂戴させていただき、自分も知らなかった作品に触れられてとても嬉しく思います。
 ただ、一応最初の方は作者の組んだ予定で進ませていただきます。 
 理由としては――『鬼太郎ファミリーを含んだ主要キャラを一度は登場させてみたい』というもの。いつものファミリーは勿論、まなちゃんや、石動零、アニエスにも出番が欲しい。彼らを満遍なく登場させるため、以下の作品でクロスを書いていく予定です。

『デュラララ!!』
『犬夜叉』
『魔女と百騎兵』

 あくまで予定ですので、ふ~んといった気持ちでお待ちください。

次回の鬼太郎とのクロス、どの作品が見たいですか?

  • 犬夜叉
  • 魔女と百騎兵
  • テニスの王子様
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