ゲゲゲの鬼太郎 クロスオーバー集   作:SAMUSAMU

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fgo水着イベント『サバフェス2023』最高に面白かった!!
新規水着サーヴァントも魅力的なキャラばかり!!
もう、どこから何を言っていいの分からないほど……感動した!!

とりあえず100連ほどして鈴鹿御前、バーゲスト、ミコケルは確保!
星5水着も欲しかったけど……流石にすり抜けでモードレッド、アナスタシア、ネモが来て心が挫けました……。

まあ、一番欲しかったミコケルが来てくれたので御の字。
これにはモエルンノス、ウミヌンノス、ヤメルンノスもニッコリ!!


そして、今回のクロスオーバーは細田守監督の作品『おおかみこどもの雨と雪』です。
細田守監督といえば『時をかける少女』『サマーウォーズ』『バケモノの子』『劇場版デジモンアドベンチャー』など数々の代表作が挙げられますが……。

その中でも、自分が一番好きな作品として、今回のクロスを書かせてもらいました。
一応は原作の続きの時間軸となっておりますが、原作未読の方でも楽しんでもらえるようにお話を進めていきたいと思います。





おおかみこどもの雨と雪 其の①

 (かみなり)

 

 昔の人はそれがどのように発生するか、その理屈を知らなかった。故に天から降り注ぐ恐ろしい轟音を、神々の怒りとして畏れ敬ったとされる。

 

 ギリシャ神話に名高き最高神ゼウス。北欧神話最強の戦神トール。インド神話に勇名を轟かせるインドラなど。神話体系が別でありながらも、それらの神々が司る権能こそ『雷』であるとされていた。

 また日本においても、雷という言葉は『神鳴り』と、神様が怒りによって鳴らしているものだとも解釈された。

 古代の人にとって雷とは、決して抗いようのない『天災』そのものだったのだろう。

 

 そんな雷も、そのメカニズムが解明されたことでただの自然現象であることが証明された。

 電気というものが何なのかを解析し、それを生活に役立てるようになった人類。もはや彼らにとって雷は未知なものではない。日常に欠かすことの出来ない、文明を豊かにするエネルギーの一つとなったのだ。

 

 だがそれでも、雷というものへの恐怖そのものが完全に払拭されたわけではない。

 電気という文明に慣れ親しんだ現代人でも空に雷雲が轟けば恐れ慄き、すぐにでも避難しようとする。

 

 

 どれだけ雷への理解を深めようと、本能でそれが危険なものだと理解しているのだ。

 

 

 実際、雷による被害——『落雷』によって命を落とす人も、世界には一定数存在する。

 雷の直撃を受けるなどそれこそ天文学的な確率だろうが、確かに雷は人間の命を奪う『厄災』として、今尚人類の脅威であり続けている。

 

 ちなみに、落雷の直撃を受けた人間の死亡率70%~80%だとか。雷などまともに受ければ大半の人間が死に至るわけだが、それでも残り20%近くは生き残る可能性があるということだ。

 もっとも、奇跡的に生き残ったとしても大火傷を負ったり、その際の衝撃がトラウマとなって後遺症に悩まされたりと。落雷被害者には、自殺者が多いなどというデータもあったりする。

 

 一方で、落雷の影響で『元からあった下半身の麻痺が治った』などという事例も存在する。

 雷の神秘が人体に何かしらの影響を与えた結果なのだろう。時として理屈では説明できない奇跡を起こすのも、雷の力だ。

 

 

 そして、雷の被害に遭うのはなにも人間だけではない。

 落雷が森の木々を焼き、それが大規模な山火事に発展するケースなんてのもザラだ。きっと人間が観測出来ていないだけで、雷によって数多くの動植物が命を落としているだろう。

 

 野生の獣が落雷の直撃など受ければ、きっと手当てもされないままそこで息を引き取るのだろうが——。

 

 そんな、雷の直撃を受けるなどという天文学的な確率に当たり。

 その上で、生き延びるなどという奇跡のような偶然を乗り越えて。

 

 

 妖怪・雷獣(らいじゅう)は誕生した。

 

 

 

 

 

「——はぁはぁ……こんな山奥に封印なんかされやがって……ぜぇぜぇ……」

 

 とある山中、雲海が見渡せるほどに壮大な山の頂上に何者かが姿を現す。

 かなり過酷な山道を進んで来たのだろう。疲労困憊といった様子で、元から『赤い』その顔をさらに上気させている。

 

 誰であろう——妖怪・朱の盆である。

 

 ぬらりひょんの側近として、常に彼の傍に居続けた妖怪。だが先の戦争でぬらりひょんが自らの責任を取ると自爆して以来、朱の盆はずっと一人でその意思を継ごうと活動を続けていた。

 

 ぬらりひょんの意思、即ち妖怪という種の復権。我が物顔で地上を支配する人間たちから、闇夜を取り戻して妖怪たちの権威を取り戻す。

 それこそがぬらりひょんの望む理想であり、朱の盆自身もその理想のために今尚暗躍を続けていた。

 

「この間も……そしてこの間も!! 鬼太郎の奴に邪魔されちまったからな!!」 

 

 しかし、その理想の成就とやらも。いつもいつも良いところで、ゲゲゲの鬼太郎に邪魔されてきた。

 

 策謀家のぬらりひょんであれば、鬼太郎の行動すら計算に入れることである程度は結果を残すのだろうが、朱の盆ではそうもいかない。

 彼は基本的に頭の良い妖怪でもなく、ぬらりひょんのようにカリスマ性に優れているわけでもない。その志に賛同してくれる同志も少なく、彼一人では出来ることにも限りがあるのだ。

 なかなか思うようにいかない現状に、朱の盆は日々苛立ちを募らせていた。

 

 そんな彼が今日、こんな山奥まで登ってきたのには理由がある。

 

「この岩の中に……雷獣とやらが封じられてるって話だが……」

 

 朱の盆が苦労して辿り着いた先には——悠然と巨大な岩が鎮座していた。

 一見すると何の変哲もない大岩だが、見るものが見ればその岩から妖気が漂ってくるのを感じ取れたことだろう。

 

 

 そう、その岩——『雷岩(かみなりいわ)』と呼ばれているその場所にこそ、妖怪・雷獣が封印されているのだ。

 

 

 雷獣。

 雷と共に現れては、人々に危害を加えたとされた獣の妖怪。雷というものへの恐怖そのものが、そのまま具現化したかのような存在だ。

 

 東日本を中心に様々な伝説を残す妖怪であり、その姿は犬とも、狸とも、イタチとも言われているがその実態は定かではない。

 その昔、その身に宿る雷の力で暴虐の限りを尽くしたとされる、かなり凶悪な妖怪。

 その力は雷岩に封じられて尚、周囲の環境を変えてしまうほど。岩から漏れ出す雷獣の妖力の影響でこの辺り一帯は常に雷雲が絶えず、人間はおろか獣すらも全く近寄らないような危険地帯となっている。

 

 雷獣とは、それほどまでに危険な妖怪ということだろう。

 

「へっへっ! こいつの力を使って……今度こそ鬼太郎をギャフンと言わせてやるぞ!!」

 

 そんな雷獣を復活させ、鬼太郎への対抗馬にしてやろうというのが朱の盆の今回の企みだ。

 

「よーし……それじゃあ、いくぞ~!! ふん!!」

 

 いざ、その封印を解くため——朱の盆の拳が雷岩へと叩き込まれる。

 

 強烈なその一撃に、ビシビシとひび割れていく雷岩。割れ目から眩いばかりの雷光が漏れ出し、その輝きを前に「うっ!?」と、朱の盆が思わず額に手をかざす。

 

 

 刹那——雷鳴轟くような轟音を内部から響かせながら、雷岩が粉々に砕け散っていく。

 

 

『…………』

「おお!? 出てきたな……こいつが、雷獣か!!」

 

 そうして、雷岩の中から姿を現した巨大な獣——雷獣を目の前に朱の盆が喜びの声を上げる。

 

 その獣は犬とも、狸とも、イタチとも呼べない、不思議な姿形をしていた。

 体長は5、6メートルほど。紫色の巨大な六足歩行の獣。前足が二本に、後ろ足が四本。その背中には黄色い棘のような突起物がいくつも生えており、額にも大きな角が一本。顔には白い髭をたくわえ、尻尾は二股に分かれている。

 

 さらにその名にある通り、その身体からは絶えず電撃を放っていた。

 まさに雷の獣と恐れられるのに相応しい風貌、威厳を体現したような怪物である。

 

「ぐっふっふっ!! さてと……おい、雷獣!! お前を復活させたのはこの俺……朱の盆様だ!!」

『…………』

「これからは俺様がボスだ!! わかったら返事を……」

 

 まずは雷獣を無事復活させられたことに朱の盆は笑みを浮かべつつ、さっそく上から目線で命令を下そうとする。

 誰が雷獣を復活させたのかを理解させ、恩を着せようというつもりだ。後々になって裏切らないようにと、最初の段階で上下関係をはっきりさせようとする。

 

『——どうして……』

「あん? なんだって……?」

 

 もっとも、雷獣を復活させてしまった時点で——既に朱の盆の目論見はズレ始めていた。

 

『どうして……ボクを目覚めさせた?』

 

 その恐ろしい見た目とは裏腹に、子供のような声音で雷獣は朱の盆に『何故?』と問う。

 

『どうして……どうして……!!』

 

 戸惑いと悲しみを同居させたような声が、徐々に怒りへと変わっていき——。

 

 

『——どうして……ボクを、放っておいてくれなかったんだ!!』

 

 

 次の瞬間、凄まじい雷撃が迸る。

 憤怒に満ちた絶叫を上げながら、雷獣が全身から電撃を全力で解き放ったのだ。

 

「うおおおお!? て、テメェ……なにしやがる!!」

 

 いきなりの雷撃をなんとか避ける朱の盆。雷獣の反抗的な態度に、武闘派の彼はすぐさま反撃しようと握り拳に力を込める。

 

 しかし、雷獣の怒りに呼応するかのように。上空の雷雲が激しく轟音を上げ——落雷が真っ逆さまに朱の盆へと落ちてきた。

 

 

「——あばばばばばば!?」

 

 

 朱の盆もこれには反応が出来ず、稲妻に貫かれた全身がビリビリと感電。

 

「ががが……きゅ~……」

 

 プスプスと煙を上げながら、真っ黒に焦げた身体でバタンキューと倒れる。

 それだけのダメージを負って尚、肉体が消滅しないのは呆れるほどの頑強さだが、これで当分は起き上がってこれないだろう。

 

 

 

 

 

『どうして……ボクを目覚めさせた……』

 

 そんな倒れる朱の盆を尻目に、雷獣は独りごちる。

 自身の自由を束縛していた筈の封印から解かれたことを、何故か雷獣自身が戸惑っている。

 

 怒りに満ちた眼差しに——ほんの少しの寂しさを滲ませながら、どこか遠くを見つめていく。

 

 

『ボクに……どこへ行けと言うんだ……』

 

 

 それから、暫くの間その場に立ち尽くしていたが——。

 

『…………お腹が……空いた……』

 

 込み上げてくる空腹感に耐えることが出来ず、砕け散った雷岩を後にその場から移動を開始

 

 

 生きるために必要な食糧を調達しに、やむを得ず山を下っていくのであった。

 

 

 

×

 

 

 

「すっからかんの素寒貧よ~♪ どっかに美味い儲け話でも転がってないもんかね~……」

 

 自身の懐のひもじさを妙な鼻歌で皮肉りながら、ねずみ男は呑気にゲゲゲの森を歩いていた。

 

 特にやることもなく、これといって景気の良い話もない現在。金になるような話はないものかと、懲りもせずに思案を巡らせる。

 もっとも、いつもいつもそう簡単に儲けに繋がるような話が浮かぶわけもなく、今日も今日とてゲゲゲの森は平穏であった。

 

「————!!」

「————!!」

 

「……あん? なんだ……やけに騒がしいな?」

 

 ところが、その平穏に水を差すような騒がしい声がどこからともなく響いてくる。

 ねずみ男は暇だったこともあり、喧騒の聞こえてきた方角へとふらり足を伸ばす。

 

 

 

「……おいおい、なんだってんだこの有り様は……まるで野戦病院だな?」

「うっさいわね! 手伝う気がないなら、あっち行ってなさいよ!」

 

 そうして、ねずみ男が顔を出したの——ゲゲゲの森・鬼太郎の家の前の広場であった。

 そこに広がっていた『惨状』を前にねずみ男は他人事のように呟き、猫娘が彼を邪険に扱っていく。手伝う気がないなら邪魔をするなと、彼女自身はとても忙しそうにあっちこっちを行ったり来たりと。

 

「うぅうう……痛いよ……」

「だ、誰か……み、水をくれ……」

 

 その広場に転がっている——『ズタボロになった妖怪たち』に手当てを施していた。

 その妖怪たちは皆、身体の至るところに怪我を負っていた。火傷に擦り傷、体力や妖気の消耗で指一本と動かせないものまで、その症状は妖怪によって様々だ。

 

「ほら、染みるぞ……少し我慢するんじゃ」

「いででで!!」

 

 そういった妖怪たちに、砂かけババアも自作の塗り薬などで傷の治療を施す。

 手当てを終えたものからその場に寝かされ、その様子がねずみ男の言った通り、まさに野戦病院のようであった。

 

「どいつもこいつも見ない顔だな……どこから来た連中だ?」

 

 寝かされている面々に目を向けるねずみ男は、そこにいるものたちがゲゲゲの森の住人でないことに気付く。他所から来たのだろう、普段は見る機会のない連中が大半を占めている。

 

「狸に……猫に……イタチ。それにありゃ……山童か?」

 

 ねずみ男の知識ではなんとも詳しいことは言えないが、パッと見た感じは獣の妖怪。特に山に住まうようなものたちが多い気がする。

 狸や猫といった動物が変化したような妖怪に加え、山に移り住むことになった河童——山童(やまわろ)など。

 

 いったい彼らがどこから、どのような経緯でこのゲゲゲの森へとやって来たのか。

 

「……へっ! 俺には関係ねぇか……」

 

 特に儲け話に発展しそうにもなかったので、興味を失ったねずみ男はそそくさとその場から立ち去っていく。

 

 

 

 

 

「それで……いったいどうしたと言うんじゃ?」

「…………」

 

 怪我人の治療があらかた片付いたところで、目玉おやじが代表者の話を聞くことになった。

 とりあえず、落ち着いて話ができる場所として鬼太郎の家の中で。鬼太郎も静かに相手方の話に耳を傾けていく。

 

「どうしたもこうしたもねぇよ! 目玉おやじさん!!」

「それもこれも、全部あの化け物のせぇなんですわ!!」

 

 すると目玉おやじの問い掛けに、比較的傷の浅かった代表者たちが堰を切ったように語り始めた。話の場には豆狸(まめだぬき)猫又(ねこまた)、山童など。やはり山を生息地にしている妖怪が多かった。

 

 彼らは中部地方、富山県辺りの山中を棲み処にする妖怪たちだ。

 ここ最近の情勢に左右されることなく、人間たちと適切な距離を取りながら自然の中、動物たちと共存しながら平穏に暮らし続けて来た。

 ところがその平穏が——とある妖怪のせいで崩れ始めているという。

 

「あいつだよ! 雷獣の奴が復活しちまったせいで、もうとんでもねぇことになってんのさ!!」

 

 山童が身振り手振りを交え、その脅威を伝えようと声を荒げる。少し大袈裟な誇張表現かもしれないが、豆狸や猫又たちも「うんうん!!」と山童の言葉に同意するように全力で頷いていく。

 

「雷獣……雷の獣……」

「聞いたことはあるのう……落雷と共に落ちてくる妖怪とかなんとか……」

 

 話の場に同席していた、猫娘や砂かけババアが要領を得ないように首を傾げる。名前を聞いたことくらいはあり、その名前からどのような妖怪かなんとなくイメージも湧いてくる。

 だが、詳しい脅威度は実際にあれと遭遇したものにしか分からず、山童たちは雷獣がもたらす具体的な被害について話をしていく。

 

 

 雷獣。その妖怪はある日突然、山童たちの住まう山に雷と共の下りて来たという。

 本来は雷岩というところに封印されていたらしいが、何者かがその封印を解いてしまい、この現代で活動を始めてしまったらしい。

 

「あいつは、そこにいるだけで周りに被害をもたらすんだ!! 奴が通った後はぺんぺん草も生えやしねぇ!!」

 

 山童曰く、雷獣から襲ってくることはないらしい。

 その恐ろしい見た目とは裏腹に、こちらから危害を加えようとしない限り、雷獣の方から攻撃してくるということはないのだ。

 

 ならば、何も問題ないのではと——そう考えるのは大間違い。

 

 雷獣はその特性上——その身に『常に電撃を纏っている』。

 全身から電気を垂れ流している状態であり、そのせいで雷獣が道を通るだけでも木々が薙ぎ倒され、そこに棲まう妖怪や動物たちが次々と被害に遭っているというのだ。

 

 その有り様は、まさに歩く災害そのもの。

 山を棲み処にする妖怪たちにとって、これ以上傍迷惑な存在はないという。

 

「あいつ、昼間は人里に下りて……人間たちの、何だか良く分からない建物を襲ってるみたいだけど……」

「人里に? その建物っていうのは……?」

 

 雷獣は夜は山の中に潜んでいるが、昼になると人里に向かって移動を始めるという。

 どうやら人間の作った何らかの『施設』に用があるらしいが、山に棲まう妖怪たちではその建物がどのようなものなのか、上手く言語化出来ないでいる。

 

「ちょっと待って! ……それって、もしかしてこれのことじゃない?」

 

 すると、ここで猫娘がスマホを開く。

 何か思い当たる節があるのか、ネットの中から該当しそうなニュースを検索。その記事を鬼太郎に見せていく。

 

「これは……発電所か!?」

 

 そこに書かれていたネット記事の内容に鬼太郎が目を見開く。それはここ数日間、何者かによって発電所関連の施設が襲撃されているというニュースだった。

 

『——謎の怪物!! 立て続けに発電所を襲う!?』

『——県内各地で続く停電被害!! 対応に追われる電力会社!!』

『——今こそ妖対法を!! 怪物の駆除に動くか自衛隊!?』

 

 その記事には不安を煽るような文言と共に、雷獣らしき生物の写真まで添付されている。

 既に人間たちの間でも、それなりの騒ぎになっているらしい。今のところ死者などは出ていないようだが、このまま放置すればより大きな被害になることは間違いない。

 

「なるほど……雷獣というだけあって、電気を主食にしているというわけか……」

 

 その記事の内容から目玉おやじは冷静に、雷獣の目的を理解する。発電所で電気を喰らい、腹を満たすや直ぐに山の中へと戻っていく。つまりはその繰り返しというわけだ。

 

「山や人里を行ったり来たり……その度に被害が拡大していくんだ!!」

「頼むよ、鬼太郎!! このままじゃ、俺たちの棲み処がなくなっちまう!!」

「あいつを退治して、山の平和を取り戻してくれ!!」

 

 どこか一ヶ所に留まってくれるならまだしも、そうやってあちこちを行ったり来たりしているせいで被害は増えていく一方だと。

 妖怪たちは山からの避難を余儀なくされ、逃げて来た彼らの一部がゲゲゲの森へやって来たのだ。

 

 そして、彼らは噂に名高いゲゲゲの鬼太郎が雷獣を『退治』してくれることを期待し、彼に頭を下げていた。

 

「…………」

「ふむ……とりあえず、雷獣のところへ行こう。奴をどうするかは……本人から話を聞いてからでも遅くはあるまい」

 

 真っ先に雷獣を『排除する』という山童たちの発想に、人知れず苦悩する鬼太郎。息子の心情を察してか、目玉おやじは現時点で雷獣を倒すかどうかは考えないでいいと言う。

 まずは雷獣に大人しく出来ないかを交渉してみようと、話し合いで解決できる道も模索するべきと言ってくれる。

 

「ありがとうございます、父さん……」

 

 父の気遣いに鬼太郎は礼を述べる。

 鬼太郎とて、妖怪を倒したくて倒しているわけではないのだ。話し合いで済むと言うのであれば、本当はそれが一番なのだろう。

 

 

 

「ありがてぇ!! それでこそ鬼太郎だ!!」

「おまえさんが来てくれれば、怖いもんなしだぜ!!」

 

 もっとも、そんな鬼太郎の気持ちなど山の妖怪たちはお構いなしだ。彼らはすっかり鬼太郎が雷獣を倒してくれると、気を大きく持ち始める。

 

「鬼太郎が雷獣をやっつけてくれるなら、きっと野狐の旦那も浮かばれるだろうぜ!!」

「……野狐?」

 

 これで安心出来ると——ふと、とある妖怪の名前を出してくる。初めて話題に出て来たその名前に、鬼太郎は疑問符を浮かべた。

 

「ああ……俺たちの暮らす山を取り仕切ってた野狐の旦那だ!」

「旦那は最後まで山を守ろうとして……雷獣のヤツにやられちまったんだ!!」

 

 それは、彼ら山の住人たちをまとめていた妖怪とのことだ。

 雷獣との戦いに敗れてその肉体は消滅してしまったと、妖怪たちは心底から悔しそうにしている。

 

「野狐とな? 狐の妖怪じゃが……特別何かがある妖怪ではなかったと思うが……?」

 

 妖怪に詳しい目玉おやじなどは、意外なものが縄張りのトップを務めていたことにちょっぴり驚いていた。

 

 

 野狐(やこ)とは、その名前の通り『野生の狐』のことである。

 一応は妖怪と区分されているが、その実態はほとんどただの狐に近い。長い年月を生きながらも変化の術といった妖術も未熟、神格などをほとんど持たずに年を経てしまった狐。

 他の力ある妖狐などと比べても、その格はもっとも低いとされ、『人間に悪さをする狡賢い狐』として描かれることが多い、色々と不憫な妖怪である。

 

 

「確かに……野狐の旦那はそこまで力が強いわけじゃねぇ……」

「でも、その豊富な知識と経験で俺らみたいな妖怪や、山の動物たちの間を取り持ってくれてたんだよ!」

 

 しかし、そんな不憫なイメージとは裏腹に、山に住まう妖怪たちは野狐のことを慕っていた。

 熊や猪といった明らかに狐などより凶暴そうな動物たちですら、野狐には逆らわずにその意向に従っていたという。

 

「そういえば……野狐の旦那が後継者を指名してたっけ? あの小僧はどうなったんだ?」

「ああ、あのオオカミの……さて、かなり若い奴だったからな……雷獣に恐れをなして逃げたんじゃないか?」

 

 ふいに、彼らはその野狐の後継者——弟子についての話題を口にし始める。

 

「オオカミ……? 日本に……?」

 

 猫娘などは、オオカミという言葉に不思議そうに首を傾げた。

 

 本来、この国に野生のオオカミなど存在しない。日本に元々生息していた『ニホンオオカミ』は随分と昔、人間の手によって絶滅させられてしまったのだ。

 日本妖怪としてのオオカミもいるにはいるが、そこまで個体数は多くない筈だ。そんな、存在が確認出来るだけでも稀なオオカミという種が、狐妖怪である野狐の弟子だというのだ。

 

「いったい、どんな子か……無事だといいが……」

 

 そのオオカミが若者であるという話しも含めて、目玉おやじがその安否を気に掛ける。

 

 妖怪であれ、動物であれ。若い者が無為に命を散らせる必要はないと。

 そのオオカミの無事を今は祈るしかなかった。

 

 

 

×

 

 

 

「はぁはぁ……!!」

『……いい加減しつこい奴だな。もうこれ以上、ボクの行動に干渉してくるなよ……』

 

 山の中、一匹の『二ホンオオカミ』が巨大な妖怪・雷獣と睨み合っている。

 

 もっとも、敵意を含んで睨んでいるのはオオカミの方だけであり、雷獣はさして興味もないのか、向かってくるオオカミを適当にあしらっていた。

 身体中から自然と流れ出る電撃、それが自動的にオオカミを迎撃していたのだ。雷獣は特に意識などせずとも、近づく外敵を排除することが出来るようだ。

 

 そんな雷獣の電撃を何度も浴びているせいか、オオカミは全身が傷だらけ。それはもはや戦いとも呼べない。

 一方的な状況に、雷獣の方がオオカミに『しつこい……』とうんざり吐き捨てる。

 

 

「——そうはいくか!!」

 

 

 だがそれでも負けじと、オオカミは力強く叫ぶ。

 

「ボクは先生に託されたんだ! この山を……山で暮らすみんなを守れと!!」

 

 そう、この若いオオカミこそ——今は亡き、野狐からこの山のことを託された後継者だ。

 

「お前は……この山の秩序を乱す!! その狼藉を……断じて許すわけにはいかないんだ!!」

 

 野狐に後を託された身として、オオカミは雷獣を許すわけにはいかなかった。勝手気まま、自由気ままに行動しては、その度に山の環境を荒らしまわる脅威の存在。

 このまま、その暴虐を許してしまっては山の秩序などあっという間に崩壊してしまう。今すぐにでも、雷獣の行動を改めさせなければならないのだが——。

 

『……そんなこと、ボクの知ったことじゃない。傷つくのが嫌なら、痛い目に遭いたくなければボクに近づかなければいいだけのことじゃないか……』

 

 雷獣は、そんなオオカミの言葉を無関心に突っぱねる。

 そんなに自分の電撃が怖いのなら、そっちが避ければいいだけだと。まるで自分こそが世界の中心と言わんばかりの傲慢な態度である。

 

「お前こそ……どうして山の秩序を乱そうとするんだ!! お前のその雷で、みんながどれだけ迷惑してるか分からないのか!?」

 

 雷獣の身勝手な言い分に、オオカミが興奮したように言い返す。

 

 

 自然界において『弱肉強食』は当然のルールだが、それにも限度というものがある。

 どんな肉食動物も、決して得物を狩り尽くしたりしてはいけない。どれだけ飢えていても、山の実りを独り占めになどしてはならない。

 

 その日生きるための糧さえあればそれで十分。

 山で暮らすものであれば、それこそが自然の摂理だと当然のように理解して生きている筈だ。

 

 だが雷獣の存在は、それら全てをご破算にしてしまう。

 その身に宿る雷が近づくもの全てを破壊するのであれば、跡に残るのは何もない荒野だけ。

 

 それで本当にいいのかと。今一度、雷獣自身にその在り方をオオカミは問う。

 

 

『しょうがないだろ……止めようと思って、止められるものじゃないんだ……』

 

 すると、オオカミの問い掛けに雷獣は拗ねたようにそっぽを向く。

 

『このビリビリは……ボク自身の意思でどうにか出来るものじゃないんだから……』

「お前……」

 

 その言葉にオオカミが呆気に取られてしまう。

 

 雷獣にとって、身体から電気を垂れ流す行為は『呼吸』にも等しい。

 能力ではなく生態。自分の意思で、その電流を止めることは出来ないというのだ。

 

「そんなんで、今までどうやって生きてきたんだ? お前にも親兄弟……家族がいる筈だろ?」

 

 そんな雷獣の生態に、オオカミは率直に疑問を抱く。

 身体から勝手に電気を流す。それが雷獣だというのなら、彼らは仲間同士でどのようにコミュニケーションを取るというのだろう。

 

 妖怪といえども、雷獣が獣として成立している以上、産みの親だっている筈だ。

 雷獣同士なら感電しないとでもいうのか。それとも通常の生物では想像も出来ない、彼らだけのコミュニケーション手段があるとでもいうのか。

 

 だが——オオカミの疑問に、雷獣から思いがけない答えが返って来る。

 

 

『……みんな死んだよ。ボクがこうなった瞬間に。親も兄弟も……みんな、黒焦げになって動かなくなった……』

「————!!」

 

 

 雷獣は、なにも生まれたときから雷獣だったわけではない。

 天より降り注いだ落雷の直撃を受けた獣が——その神秘の力で変貌を遂げた妖怪。

 

 天文学的な確立に、奇跡のような偶然を乗り越えることで誕生した、一代限りの突然変異種。

 それこそが——『雷獣』と呼ばれる獣の正体。

 

 

『ああ!! お腹が……お腹が空いたよ!!』

 

 そして、元々がただの獣であったこともあり、どうあっても空腹という飢えを我慢することは出来ない。

 雷獣は子供のように駄々をこねながら、唯一の食糧である電気を求め——それが豊富に満ちている人里へと向かっていく。

 

「——!! い、行かせるか!!」

 

 雷獣の話に思うところがありつつも、その行動を止めようとオオカミが飛び掛かっていく。

 だが無策な突撃は、雷獣が纏う電撃によってあっけなく弾かれてしまう。

 

「ぎゃん!?」

『…………ふん』

 

 雷撃によって吹き飛ばされるオオカミ。雷獣はその安否など特に興味を抱くこともなく。

 

 自らの飢えを満たすため——再び人間の社会秩序を乱していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……止めないと……奴を止めないと……」

 

 雷獣の電撃に吹き飛ばされて尚、オオカミは未だにその意識を保っていた。

 だが幾度となく電気を浴びせられ、すでにその身体は限界寸前だ。もはやいつ意識を失ってもおかしくない微睡の中——。

 

「逃げてくれ……逃げて……」

 

 オオカミは雷獣が向かって行った先。人里に住まうものたちに逃げてくれと、うわ言のように口にしていた。

 

 彼がただのオオカミであれば、人間のことなど気にも留めなかっただろう。

 自然界で暮らす動物たちにとって、人間社会などそれこそ他人事だ。

 

 雷獣のせいで人間たちがどのような被害を受けようと、本来であれば気に掛ける必要などなかった。

 

「……逃げて……」

 

 だがオオカミには、そのような願いを口にする理由があった。

 それこそ、山の秩序を守らなければならないという使命感と同じくらいに、人里で暮らす人間を——大切な『肉親』を想う心が。

 

 

 

「…………母さん」

 

 

 

 オオカミである彼は——『人間の母親』の無事を祈りながら。

 

 

 その意識を、暗い闇の中へと落としていく。

 

 

 




人物紹介

 雷獣
  今回のゲスト妖怪。外見は鬼太郎5期の雷獣を参考にしています。
  コンセプトは『人間社会からも、自然界からも疎まれる存在』。
  本来、妖怪とは自然よりの存在となりがちですが。
  この雷獣は人間からも妖怪からも受け入れ難い存在として描いていきます。
  果たして、この雷獣に安息の地はあるのだろうか?

 豆狸、猫又、山童
  雷獣の被害者たち。
  一般モブ妖怪として、とりあえず山関係の妖怪で名前を出したかった。  
 
 野狐
  一応は狐妖怪。
  原作の方に登場した『先生』を本作なりにアレンジした設定で登場。
  既に故人。原作だと普通に足を悪くして亡くなったとされましたが。
  今作では雷獣に向かっていき……そのまま帰らぬ人となりました。

 二ホンオオカミ
  ニホンオオカミの若者。先生から後を託された後継者。
  まだ名前の方が本編に登場していないので、現時点では伏せておきます。
  彼が何者なのか……原作知っている人は分かると思います。

 
  
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